塩野義製薬が注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害のある子供を対象に、アバター(分身)技術を使って、言葉の遅れなど子供が直面する困り事に対応する支援サービスに取り組むことが29日、わかりました。2025年度中にもサービスを開始します。対面ではなくアバターを介することで、心理的障壁を取り除くことができるといいます。
発達障害の子供は他人とのコミュニケーションが苦手な場合が多く、成長するに従って社会生活に困難を感じるため、周囲の理解と支援が必要になります。
塩野義製薬は、大阪大大学院の石黒浩教授(ロボット工学)が設立し、同社も出資するベンチャー企業「AVITA(アビータ)」(東京都品川区)と協業。塩野義製薬が独自のソフトウエアを作成し、アバターの技術開発はアビータが手掛けます。
言語の療育を行う言語聴覚士がアバターを通じて子供に接する「言語聴覚療法」を提供するサービスを2025年度中に、個人の特性に合わせて対人関係を学ぶ「ソーシャルスキルトレーニング」サービスを2026年度中にそれぞれ始めることを目指しています。
塩野義製薬の調査では、言語聴覚士がアバターを使ってASDの子供らに接したところ、人と直接対面するよりも会話に集中する傾向があったといいます。
アバターは自由に選ぶことができ、人間だけでなく動物やアニメ風のキャラクターなど子供の特性に合わせて設定します。声も変えることができ、子供の関心を引きやすいアバターをつくり出すことが可能。興味を引き付けながら言葉や会話の練習ができます。
言葉の問題はその後の学習の遅れや人間関係の構築などに影響を与えることから、専門的な支援が必要とされる一方、子供の言語療育を担う言語聴覚士の数には限りがあります。アバターのサービスは同時に複数の配信も可能なため、よりきめ細かい対応が期待できます。
3歳児健診で言葉の遅れがみられた幼児や、小学校で対人コミュニケーションに悩む児童らをサポートし、各家庭のほか、学校の支援学級、児童発達支援事業所などでの導入を想定します。
塩野義製薬は今年2月に、小児のADHD患者を対象とした、ゲームで症状緩和が期待できるデジタル治療用アプリの製造販売承認を申請しています。治療だけでなく、困り事に応じた福祉環境の必要性から今回の事業に乗り出すことを決めました。
担当者は、「発達障害は切れ目のない支援が必要。今後サービスの対象幅や内容を広げていきたい」と話しています。
2024年9月30日(月)