夢の内容に反応して、異常行動が出現する睡眠障害
レム睡眠行動障害(RBD:Rapid Eye Movement Sleep Behavior Disorder)とは、睡眠中、夢体験と同じ行動をとってしまう疾患。発症者は多くの場合、夢の内容を覚えています。
健康な人であれば、浅い眠りの状態であるレム睡眠中には、骨格筋が脱力して動きません。しかし、レム睡眠行動障害では、夢の内容に反応して筋肉が動かないようにしている抑制機構が障害されるため、夢の中での行動がそのまま現実の行動となって現れてしまいます。
大声で寝言をいったり、腕を上げて何かを探す仕草をしたりします。症状が強い場合では、起き上がって歩き回る、壁を殴る、立ち上がった際に家具にぶつかって頭にけがを負う、窓から飛び出して骨折する、あるいは、ベッドパートナーに殴る、けるなどの暴力を振るってけがを負わせるなど、危険を伴うこともあります。
多くの場合、恐怖感を伴う悪夢に合わせて声を上げて暴れたり、何かと闘っているつもりで、暴力的な行為をしてしまいます。
人間は眠っている際、レム睡眠とノンレム睡眠という2つのタイプの睡眠を繰り返しています。レム睡眠は、体が深く眠っているにもかかわらず、脳が起きているような状態です。そのため、よく夢を見たり、眼球がキョロキョロ動いたりします。一方、ノンレム睡眠は、脳が眠っている状態です。夢はほとんど見ず、もし見たとしても覚えていないことが多いでしょう。
一般的には、入眠してから60~120分で、最初のレム睡眠が出現。その後、深い眠りのノンレム睡眠と浅い眠りのレム睡眠が、交互に現れて、1セット約90分で繰り返されます。
レム睡眠行動障害の発症は、50歳代以降の中高年の男性に集中しています。60歳代半ばごろが多く、80歳代でも発症します。
原因のわからない原発性のほか、頭部外傷、脳炎、髄膜炎など頭部の炎症性疾患、アルコールの摂取、睡眠の不足、抗うつ薬の服用など二次的要因によるものがあります。最近では、パーキンソン病、レビー小体病(レビー小体型認知症)、他系統委縮症などの神経疾患との関連が指摘され、これらの神経疾患の発症に先立ってレム睡眠行動障害がみられることもあるとされています。
手足を軽く動かす程度の軽症であればあまり問題にはなりませんが、自傷行為や暴力的な行為の症状がひどいようであれば、早めに睡眠科や精神科、神経内科などを受診することが勧められます。現状では専門医が少ないのも課題になっていますが、検査ができる認定施設は日本睡眠学会のホームページに記載されています。
医師による診断は、病歴の聴取により夢の内容と行動が一致するかどうかを調べることで可能です。レム睡眠行動障害では、寝言や睡眠時の異常行動が本人の見ていた夢と一致します。また、異常行動中に覚醒(かくせい)させることも容易であるため、周囲の人が本人に夢の内容を確認しておくことが参考になります。ビデオ記録も参考になります。
一方、睡眠時の異常行動としてよく知られている夢遊症(夢遊病、睡眠時遊行症)は覚醒させることが困難な上、行動中の記憶はほとんどありません。夢遊症は通常、深い眠りのノンレム睡眠の時に起こり、夢とは関係なく起こります。これが両者の違いであり、重要な診断基準となります。
終夜睡眠ポリグラフ検査により、レム睡眠中の筋活動高進も確認します。
医師による治療には、誘発因子の除去と薬物療法があります。誘発因子の除去においては、ストレスやアルコールが症状を悪化させるため、深酒などを控えます。薬物療法においては、抗てんかん薬のクロナゼパムを就寝時に服用するのが有効です。完全に治ることは少ないものの、服用を開始後1週間ほどで約8割の人は異常行動がなくなったり、頻度が減少したりします。
ただし、クロナゼパムは睡眠時無呼吸を増悪させるので、いびき、睡眠時の無呼吸がある場合は、クロナゼパムによる治療の前に睡眠時無呼吸症候群の評価が必要です。
クロナゼパムで症状が十分に改善されなかったり、副作用が問題とされる場合には、不眠治療に用いられることがあるホルモン剤のメラトニンや、ドーパミン神経の促進薬などを組み合わせて服用します。
薬は飲み続ける必要があり、よくなったからといってやめると、再び悪くなります。なお、レム睡眠行動障害では、周囲の環境を安全にしておくことが重要になります。
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