流行性耳下腺炎の原因となるムンプスウイルスが髄膜に感染し、炎症が起こる疾患
ムンプス髄膜炎とは、脳を取り巻き、内側から軟膜、くも膜、硬膜の三層からなる髄膜に、流行性耳下腺(じかせん)炎の原因となるムンプスウイルスが感染し、炎症が起こる疾患。流行性耳下腺炎の合併症の一種です。
流行性耳下腺炎のほうは、耳の前から下にかけてのはれを特徴とし、しっかりはれると、おたふくのお面のように下膨れするので、おたふく風邪、あるいはムンプスとも呼ばれます。
流行性耳下腺炎は、感染者の唾液(だえき)から飛沫(ひまつ)感染します。流行に周期性はなく、季節性も明確ではありませんが、春先から夏にかけて比較的多く発生します。かかりやすい年齢は1~9歳、とりわけ3~4歳。感染しても発症しない不顕性感染が、30~40パーセントの乳幼児、学童にみられます。子供の時に感染しなかった場合は、成人になってからでも発症します。
耳の下の唾液腺の一種である耳下腺がはれることで知られますが、ムンプスウイルスは、体中を回って、ほかのいくつかの臓器にも症状を起こします。
突然、37~38℃の発熱が1~2日続いた後に、耳の下に痛みを覚え、片側の耳下腺がはれてきます。子供は口を開けたり、触ったりすると痛がります。発熱せず、最初から耳下腺がはれてくるケースもあります。
一般的に、1~3日して、もう片方の耳下腺がはれてきますが、4人に1人は片方の耳下腺しかはれません。はれは3日目ぐらいが最もひどく、その後、徐々にひいて、5~7日で消えていきます。
この流行性耳下腺炎の合併症には、ムンプス髄膜炎のほか、ムンプス難聴、ムンプス睾丸(こうがん)炎が知られています。
ムンプスウイルスは中枢神経系に親和性があるため、流行性耳下腺炎の合併症として最も頻度の高いものがムンプス髄膜炎で、約3〜10パーセントに合併するといわれています。
そのほか、流行性耳下腺炎の中枢神経合併症としては、髄膜脳炎、脳炎があります。感染した単核球(リンパ球)を介して、中枢神経系に侵入するといわれています。
通常、耳下腺のはれから5日くらいたってから、ムンプス髄膜炎を発症することが多いといわれていますが、耳下腺のはれより前に発症したり、耳下腺のはれを認めずに発症する場合もあります。
症状は、年齢によって多少違いがあります。年長児や成人では、頭痛、嘔吐(おうと)、首が強く突っ張る項部強直などが多く認められます。年少児では、これらの症状がはっきりしない場合が多いといわれています。
さらに、炎症が脳そのものまでに及ぶと髄膜脳炎、脳炎を合併し、意識障害や手足のけいれんを起こすこともあります。
流行性耳下腺炎の経過中に髄膜炎を疑わせる症状がある場合は、早めに小児科あるいは内科を受診する必要があります。
ムンプス髄膜炎の検査と診断と治療
小児科、内科の医師による診断では、流行性耳下腺炎の発症時に発熱、嘔吐、頭痛、項部硬直などの症状を認めた場合は、通常、脊髄(せきずい)液を腰椎(ようつい)から穿刺(せんし)する髄液検査を行います。
髄液の検査所見では、単核球(リンパ球)を主とする細胞の増加が認められます。髄膜炎を疑わせる症状がなくても、髄液検査を行うと髄液中の細胞が増えていることもあります。
髄液からのウイルス分離で、ムンプスウイルスを証明します。あるいは、RT‐PCR法(逆転写酵素ーポリメラーゼ連鎖反応法)を用いて、ウイルス遺伝子(RNA)を検出します。最近の分子生物学的手法により、ウイルスがワクチン株(ワクチン由来)か野生株かの判定が可能になりました。
髄膜炎や脳炎の程度を見るために、CT(コンピューター断層撮影)検査やMRI(核磁気共鳴画像)検査も行います。
小児科、内科の医師による治療では、流行性耳下腺炎にムンプス髄膜炎を合併した場合は、通常、入院治療が必要になりますが、ウイルスに特異的な治療法がないため、発熱や痛みに対する対症療法が行われます。
髄液検査において穿刺(せんし)をすると、頭痛や嘔吐がある程度改善します。一般的に予後は良好で、後遺症を残すことはほとんどありません。髄膜脳炎を合併した場合でも、ほかの原因による髄膜脳炎に比べると予後は良好といわれています。
ムンプス髄膜炎の予防は、流行性耳下腺炎ワクチンを接種することにより流行性耳下腺炎の発症そのものを防ぐ以外、方法はありません。
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