衝撃を受けて脊椎の椎体が圧迫され、押しつぶされるように変形する疾患
脊椎(せきつい)圧迫骨折とは、衝撃を受けることによって脊椎の椎体が圧迫され、押しつぶされるように変形する疾患。骨粗鬆(こつそしょう)症がある高齢者によくみられ、多くは胸椎から胸椎と腰椎の移行部にかけて起こります。
骨が正常である成人男子にはまれな疾患で、高い所から墜落するなど、大きな力が脊椎の軸方向に加わった場合にしか起こりません。こうした事故の場合、脊椎の圧迫骨折だけでなく、骨盤骨折や下肢骨骨折、臓器の損傷を伴うこともまれではありません。
しかし、骨粗鬆症がある高齢者では骨がもろくなっている状態のため、比較的軽い衝撃が加わっただけで、あるいは、ほとんど衝撃が加わらなくても、自然に椎体の圧迫骨折が起こることがあります。多くが転倒によって生じますが、しりもち、せき、くしゃみなどでも起こります。高齢の女性の背中が丸くなっていく老人性円背(えんぱい)の原因は、胸椎に自然に起こった多発性の脊椎圧迫骨折です。
そのほか、くる病や骨軟化症、腎(じん)性骨異栄養症などのような代謝性の骨の疾患によって、骨の強度が低下している場合に、脊椎圧迫骨折が起こることもあります。
症状としては、圧迫骨折が起こった部分に、痛みを覚えます。急性期には、寝返りや前かがみさえもできないほどの強い痛みを覚えます。圧迫骨折を起こした脊椎のある部位の背中に、棘(きょく)突起が飛び出したようになり、そこを軽くたたくと痛みが増強します。
本来、折れた骨はくっついて固まるので痛くなくなりますが、骨粗鬆症が進んでいると、折れた部分が固まらない場合があります。この場合は痛みが残ったりして、安静にしている時には痛みは和らいでも、動こうとすると強く痛み、特に起床時などには痛みが激しく歩行が困難になり、次第に起き上がることすらも難しくなります。
また、症状が一度消失しても、骨折後数カ月が経過してから、足のしびれ、痛み、動きにくさなどの症状が出てくることがあります。
脊椎圧迫骨折の検査と診断と治療
整形外科の医師による診断では、単純X線撮影を行い、その側面像を見ると、脊椎の椎体前方(腹側)がつぶれたくさび型に見えます。ただし、がんなどの悪性腫瘍(しゅよう)が転移したために起こる圧迫骨折もありますので、正確な診断が必要です。診断を確定するために、必要に応じて血液検査、CTやMRIなどの特殊な検査を行います。
下肢の痛みやしびれなどの神経症状を伴わない骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折は、2~3週間、簡単な腰椎固定バンドなどで固定し、安静にしているだけで、痛みは次第に軽くなっていきます。痛みが軽くなったら、固定バンドを腰に巻いたまま、1日も早く起きて、歩く練習を始めます。高齢者が長期間ベッドで安静にしていると、呼吸器や尿路系の感染を起こしたり、認知症を発症したり、急速に下肢の筋力が低下し、起立、歩行できるようになるまで、さらに長期間を要するのを防ぐためです。
痛みが強く現れている場合には、鎮痛薬を用いた薬物療法が行われます。骨折の程度や年齢によっては、入院した上で背骨の配列を正す整復治療と牽引(けんいん)を行って、骨の癒合を待つ方法がとられます。ただし、脊髄の圧迫症状や脊髄の損傷がみられる場合には、まひが生じることもあるために早急に手術が行われます。
近年では、脊椎圧迫骨折の急性期や、時間が経っても骨折部分が十分に治らず強い痛みが続く場合などに、骨セメントを椎体内に注入することにより骨折部を安定させて、手早く痛みを取る経皮的後湾矯正術(バルーン・カイフォプラスティ)が行われるようになっています。
X線で確認しながら、背骨の骨折部で風船(バルーン)を膨らませ、つぶれた骨をできる限り復元した後、風船によって作られた空洞に骨セメントを詰めます。極めて負担は軽く、かつ速やかに痛みが取れるため、1990年代にアメリカで開発されて以来、欧米では広く行われてきた手術方法で、日本でも2011年1月から保険診療として特定の施設で行うことが認められました。治療後の長期安静は不要で、早ければ手術の翌日に退院できます。
脊椎圧迫骨折を防ぐために最も大切なことは、転倒したりしないことです。そのためには、日ごろからできるだけ散歩などの運動をすること、外に出てさまざまな刺激を受け、はつらつとした気分を保つことです。室内に閉じこもってばかりいると、年を取るにつれて、運動能力や反射神経が減退するばかりでなく、骨粗鬆症も進行します。
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