処女膜が厚くて膣口が狭いため、性交に困難を来す状態
処女膜強靭(きょうじん)症とは、女性の腟口(ちつこう)部を取り囲むヒダ状の器官である処女膜が厚くなり、リング状に硬くなっている状態。原因は、先天的な形態異常と見なされます。
処女膜は本来、厚さが1ミリ程度の軟らかい粘膜で破れやすいものですが、処女膜強靭症の女性では生まれ付き肥厚して、膣口部が狭くかつ伸びにくいために、性交の際には男性の陰茎の挿入によって痛みを伴い、初めて異常に気付くことが多いようです。膣が完全にはふさがれていないため月経障害もなく、日常においては自覚症状はありません。
性交の際の無理な挿入で大出血して救急車で搬送されるといったケースや、大出血はしなくても性交のたびに痛みを感じたり、少量の出血を繰り返したりして、性交恐怖症になるケースもあります。
処女膜が裂傷を起こして出血する場合はすぐに止血することがほとんどなのに対して、膣壁が男性の陰茎などによって機械的に刺激を受けて裂傷を招いた場合には、生々しい血が流れ出し、出血の量も多くなる傾向があります。
ただし、処女膜強靭症ではなく腟けいれんが原因となって、性交の際の痛みが現れることもあります。腟けいれんとは、腟口部や腟周囲の筋肉が不随意にけいれん、収縮を起こし、性交時に痛みを感じたり性交ができなくなったりする状態で、単に腟けいとも呼ばれます。
性交経験のない人に起こる腟けいれんでは、初交の際に男性が陰茎を膣に挿入しようとすると痛みを覚えるため、不随意反射的に膣口の括約筋である球海綿体筋や外肛門(こうもん)括約筋を強く締めてしまい、挿入が困難か、あるいは挿入に強い痛みを伴います。挿入後に起こった場合は、陰茎を抜去するのが困難になることもあります。
腟けいれんの多くは、幼少期の性的障害や、性への消極的思考の教育、宗教的な罪悪感、望まない結婚などが関係すると見なさます。無意識の心理的葛藤が身体的症状として現れる、いわゆる心身症としてとらえることもできます。
腟けいれんの痛みのため、性交に耐えられない女性もいますが、こうした女性でもペニスの挿入を伴わない性行為であれば楽しめることがあります。逆に、月経の際の生理用タンポンの挿入にさえ耐えられないような場合もあり、こうした人では医師による検査の際に麻酔が必要となります。
性交の際に毎回痛みがあり、毎回挿入困難な場合には、処女膜強靭症によるのか、性交恐怖症が背景にある腟けいれんによるのかを知るためにも、婦人科、産婦人科を受診することが勧められます。
処女膜強靭症の検査と診断と治療
婦人科、産婦人科の医師による診断は、発症者による症状の説明によって処女膜強靭症を疑いますが、確定診断は腟の検査を行うことになります。出血がある場合には、腟鏡を用いた視診によって裂傷の部位、裂傷の程度を確認します。
婦人科、産婦人科の医師による治療は、処女膜に一部切れ目を入れたり、処女膜を輪状に切除して辺縁を縫合するといった手術を行います。身体的負担が少なく局所麻酔でできるので、日帰り手術が可能です。
腟からの出血が断続的に起こり止まらない場合は、縫合、止血処置を行います。局所麻酔でも可能ですが、裂傷が広範な場合は全身麻酔にて、吸収糸という抜糸しなくても自然に吸収される糸で、裂傷の部位を縫い合わせます。処置後は、抗菌剤の投与を数日間行います。
ほとんどのケースでは、処女膜の手術で性交の際の痛みから開放されます。しかし、性交恐怖症が背景にある腟けいれんが原因となっているケースでは、処女膜を手術しても現状改善の可能性が低いので、性交や性器に対する不安の除去を図る精神医学的療法を行います。同時に、パートナーとの関係の見直しや、家庭環境の改善も必要になってきます。
物理的な治療として、器具の挿入による腟の段階的拡張を行うほか、局所への麻酔薬入りゼリーの塗布、向精神薬の内服などの方法があります。
腟の段階的拡張は、潤滑剤を塗ったプラスチック製の棒(拡張器)を自分で腟に挿入し、腟を徐々に広げていくという方法です。初めは細い拡張器を使用し、楽に挿入できるようになったら徐々に太いものに変えていきます。十分な太さの拡張器を入れていても不快感を感じないようになったら、改めてパートナーとの性交を試みます。
この拡張器を挿入した状態で、骨盤部の筋肉を強化するケーゲル体操を行うと効果的な場合があります。ケーゲル体操は、排尿を途中で止める時のように、腟、尿道、直腸の周りの筋肉に力を入れて約10秒間引き締め、次に力を抜いて約10秒間緩めます。この動作を10〜20回繰り返すのを1セットとして、1日に3セット以上行います。
この体操により、不随意に収縮していた筋肉をコントロールする感覚を身に着けることができ、尿失禁や便失禁の予防や軽減にもつながります。
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