ガラスを始めとする素材メーカーのAGCは、薬の受託生産も手掛けて世界中の製薬会社から注文を受けており、新型コロナウイルスワクチンで用いる「メッセンジャーRNA(mRNA)」と呼ぶ原料を国内で生産する体制を整えます。日本では第一三共などが国産ワクチンの開発に動いており、医薬品メーカーに提供します。ワクチンは経済安全保障の観点から自国内で開発・製造する動きが進んでおり、主要原料の量産で国内での一貫生産体制が前進します。
AGCは横浜市の拠点に新たな製造設備を設け、2025年にも年間で数百万回から数千万回の接種回数分に相当するワクチン原料のmRNAを量産できる体制を整えます。投資額は他の医薬原料を含む数百億円を検討しています。
mRNA技術は足元の新型コロナワクチン向けにとどまらず、幅広い応用が期待されています。AGCはmRNAなど幅広いワクチン原料を国内製造できる体制とし、未知の世界的流行(パンデミック)に備えることを想定しています。
新型コロナでは、日本はこれまでワクチンを海外調達に頼っており、感染拡大初期に接種で遅れた経緯があります。国も国産ワクチンの供給体制構築を後押ししており、原料安定供給の体制を整えれば、今後新たな感染症対策などで迅速に対応しやすくなります。
mRNAは細胞の中でタンパク質を組み立てるための遺伝物質で、mRNA技術を使ったワクチンは人の細胞に働き掛け、ウイルスのタンパク質をつくらせることで免疫を得る仕組みです。新型コロナ向けとしてアメリカのファイザーやアメリカのモデルナが世界で初めて実用化しました。
新型コロナ向けのmRNAワクチンを巡っては、国内勢では第一三共などが開発を進めているものの、現状は新型コロナワクチンの国産開発はできていません。
経済産業省はmRNAワクチン製造を支援し、対象として9月末にAGCやタカラバイオのほか、富士フイルムや第一三共など計5社を採択しました。タカラバイオは1月、滋賀県草津市の工場で新薬開発のスタートアップ企業などからmRNAワクチン原料の受託製造を始めました。現状は最大1200万回分をつくれる能力があり、今年度内に2~3倍に増やします。
アメリカの調査会社のBCCリサーチによると、ワクチンなどmRNAを使った医薬品の2026年の市場規模は2021年比2倍強の1000億ドル(約14兆5000億円)になる見通しです。ワクチンだけでなくがん治療薬などにも応用され、世界的に需要が高まるとみられています。
2022年10月4日(火)
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