塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」が一般流通を開始して約1カ月が経過しました。4月上旬までに4万人以上が服用したと推定され、処方する医療機関からは症状の改善に手応えも聞かれます。5月8日に新型コロナの感染症法上の位置づけが「5類」に移行すると、発熱外来を中心に対応していた外来診療は一般の医療機関に順次拡大します。ゾコーバなどの新型コロナの飲み薬の処方も、コロナ対策のカギとなりそうです。
ゾコーバを今年1月から処方している「五常会 浅野クリニック」(大阪市西成区)の浅野隆司院長は、「感染してから早い段階で服用すれば、よく効くという実感を持っている」と語ります。これまで軽症・中等症の陽性患者約20人に処方。「数が増えないと有効性の評価は難しい」としながらも、処方した患者の再受診が少ないことから「早く治りたい人に十分使える」と話しています。
ゾコーバは昨年11月22日に緊急承認されました。これまで厚生労働省が200万人分を買い上げ、特定の医療機関や薬局に配分してきたものの、今年3月31日に一般流通が開始され、幅広く取り扱えるようになりました。同月に保険適用となり、薬価は治療1回当たり約5万1850円となりました。5類移行後も9月末までは公費負担となり、患者の窓口負担はありません。窓口で3割負担の場合は、1万5000円超の自己負担となる見通し。
ゾコーバは発症3日以内に飲めば、ウイルスの増殖を妨げる作用があるとされます。対象は12歳以上の軽症や中等症患者で、重症化リスクの有無は問いません。12歳未満の小児、妊婦や妊娠の可能性がある女性は使えません。
国内では現在、ゾコーバのほかに、メルクの「ラゲブリオ」、ファイザーの「パキロビッド」が飲み薬として承認され一般流通しているものの、処方が広がっているとはいえない状態。ゾコーバの服用に関して、塩野義製薬によると、4月9日までは推定約4万人超にとどまっています。
飲み薬は3種類とも、一般流通前は、医療機関や調剤薬局は施設登録をした上で処方しなければならず、患者が服用に際して安全性や有効性を確認する同意書が必要でした。ゾコーバとパキロビッドに関しては、5月8日以降も同意書を必要とします。こういった煩雑な手続きなどが、処方されにくい状況につながっているとみられています。背景には同期間に投与できない併用禁忌薬の多さがあり、ゾコーバとパキロビッドは高血圧や高脂血症などの治療薬と併用できません。医師や薬剤師が持病の有無や服薬履歴の確認を徹底する必要があり、使いにくさから導入をためらう動きが多いとみられます。
ただ、新型コロナの新規感染者数は4月上旬に下げ止まり、全国的に緩やかな増加に転じています。厚労省は5類移行後、外来に対応する医療機関の拡大を目指しており、「第9波」が懸念される中、受診する患者が増える可能性もあります。
浅野院長は「飲み薬の処方や調剤の備えが必要になる」と強調。塩野義製薬の手代木(てしろぎ)功社長も「早く症状を治して職場や学校に戻りたい患者の役に立てる」とし、年間1000万人分の生産体制を整備します。
感染症に詳しい愛知医科大の森島恒雄客員教授は、5類への移行で感染対策も個人や企業の判断に任せられるため、「高齢者や重症化リスクのある人たちにウイルスを持ち込ませないためには、飲み薬での治療が有効。高齢者施設での集団感染も続いており、飲み薬で早めの治療ができるような仕組みを構築することも重要だ」と指摘しています。
2023年5月1日(月)
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