2023/09/29

🟧赤ちゃんポスト、東京都内の病院が導入準備 内密出産も実施へ

 親が育てられない乳幼児を匿名で預かる、いわゆる「赤ちゃんポスト」について東京都墨田区の病院が来年度の設置に向けて準備を進めていることがわかりました。今後、東京都や墨田区と具体的な協議を進めていくとしています。

 東京都墨田区の社会福祉法人「賛育会」は、産科などがある区内の「賛育会病院」にいわゆる「赤ちゃんポスト」を設置する方針を明らかにしました。

 運用の開始は来年度中を目指していて、妊婦が医療機関だけに名前や連絡先などを明かして出産する「内密出産」などの事業も実施したいとしています。

 貧困や虐待などを背景に予期しない妊娠や孤立出産の悩みを抱える女性が増え、赤ちゃんを遺棄する事件が相次いでいることなどを受け、数年前から検討を重ねてきたとして、今後、東京都や墨田区と具体的な協議を進めていくとしています。

 賛育会によりますと、設置が実現すれば医療機関としては熊本市の慈恵病院に続き、全国で2例目になるということです。

 賛育会は、「全国で痛ましい事件が相次いでおり、母親と赤ちゃんを守るセーフティーネットにならなければいけないと決断しました。このプロジェクトは行政の援助がなければできません。来年度中の開始に向けて今後も粛々と準備を継続してまいります」としています。

 東京都によりますと、今年5月に墨田区の賛育会病院側から区を通して連絡があり、これまでに数回、都や区、それに病院の担当者が参加して打ち合わせが行われたということです。

 この打ち合わせに際しては、病院側から来年度中に「赤ちゃんポスト」や「内密出産」などの事業を実施したいという考えや、行政との連携について相談したいという意向が示されたということです。

 都は、子供の戸籍の作成や、生活場所の確保などが課題になると病院側に伝えたということです。

 都の担当者は、「都は人口が集中しているため利用規模も大きくなる可能性があり慎重な検討が必要」とした上で、「病院側から具体的な事業計画が提出されれば、対応を考えていく」としています。

 いわゆる「赤ちゃんポスト」は、親が育てられない子供を匿名で受け入れるもので、日本では、16年前の2007年に、熊本市の「慈恵病院」に、「こうのとりのゆりかご」という名前で設置されました。

 医療機関が設置するものとしては現在も国内では唯一の「赤ちゃんポスト」となっていて、昨年度までの16年間で合わせて170人が預けられたとされています。

 一方、北海道では当別町の女性が昨年5月に「赤ちゃんポスト」の設置を公表していますが、道は医療提供体制が不十分だとして運用をやめるよう要請しています。

 都内でも、江東区の医療法人社団「モルゲンロート」は来年秋を目指し、区内に産婦人科を新たに開設した上で、施設にいわゆる「赤ちゃんポスト」を設置したいとしています。

 医療法人は現在、用地の取得を目指していて、江東区によりますと、今年5月、区長にあてて区内での用地取得に向けた支援を求める要望書が届いたものの、区は「一民間事業者の事業に直接的な支援を行うことは困難だ」と回答したということです。

 その後、「赤ちゃんポスト」の設置に向けた具体的な協議には至っていないということです。

 東京都の小池百合子知事は記者会見で、「子供の命が失われるということはなくさなければならない。東京は人が集まるところで困っているいろいろな人が東京を目指すことも想定して準備もしなければならないのではないか」と述べました。

 その上で、「墨田区とも連携して、預かる赤ちゃんを守っていく体制をしっかり整えないといけなくなるのではないか。現在、賛育会病院に詳細な説明を求めているところだ」と述べました。

 一方、小池知事は「『赤ちゃんポスト』という名称も少し考えたほうがいいのではないか。何かちょっと安易だが、『子殺し』につながるよりはいいと思う。どれがいいか悪いかも超えて、命を守るという点で重みも必要なのではないか」と述べました。

 東京と墨田区の「賛育会」は、東京都や長野県、それに静岡県で病院や特別養護老人ホーム、それに保育園などを運営する社会福祉法人です。

 墨田区にある「賛育会病院」は病床数199で、産科や婦人科、小児科などがあり、東京都の地域周産期母子医療センターにも指定されています。

 賛育会は、数年前から勉強会を開くなど検討を進め、昨年11月に正式に方針を決め、プロジェクトチームをつくり、準備を本格化させてきました。

 プロジェクトはいわゆる「赤ちゃんポスト」のほか、「内密出産」や妊娠SOS相談といった3つの事業が計画されていて、いずれも来年度中の運用開始を目指しているということです。

 東京都で事業を行う意義について賛育会は、現在「赤ちゃんポスト」を設置している、熊本市の「慈恵病院」には関東地方から訪れる人も多いため必要性は高いとしています。

 一方で、実施に向けた課題もあります。預けられた子供の養育を将来どうするかや戸籍の作成、さらに出産前後の母親の支援体制をどうするかなど、行政側との連携が不可欠です。

また、子供自身の「出自を知る権利」も課題とされています。

 熊本市の「慈恵病院」ではいわゆる「赤ちゃんポスト」に加え、2019年に「内密出産」を独自に導入していますが、預けられたり「内密出産」で生まれたりした子供の出自情報の開示をどのようにしていくか、熊本市と共同で検討を進めています。

 2023年9月29日(金)

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