政府は2024年度から、日本に中長期の滞在を予定し、アジア6カ国から訪れる外国人を対象に、結核を発病していないかを入国前に調べる検査を義務付ける方針を明らかにしました。海外から結核患者の流入を防ぐ狙いで、発病していないことを証明する書類がなければ入国を認めません。当初は東京オリンピック・パラリンピックの開催に合わせ、2020年7月に導入予定でしたが、コロナ禍で延期されていました。
対象国はフィリピン、ベトナム、インドネシア、ネパール、中国、ミャンマーの6カ国で、日本滞在中に診断された外国人の結核患者の約8割を占めます。感染拡大のリスクが高い3カ月超の滞在予定者に限定し、日本政府が指定する現地の医療機関で胸部エックス線などの検査を受け、発病していないことを示す証明書の交付を受けてもらいます。提出しないと、ビザ(査証)は発給しません。
日本は2022年の新規患者数が1万235人で、人口10万人当たり8・2人まで減少し、世界保健機関(WHO)が「低蔓延(まんえん) 国」の基準とする10人を2年連続で下回りました。長年、蔓延国と位置付けられてきたものの、近年は保健師らによる服薬指導などの対策強化やコロナ禍の影響で患者が減少し、ようやく欧米並みとなりました。一方で、新規患者の約1割を外国人が占めていることから水際対策を強化します。
人口10万人当たりの患者数は、フィリピンが638人、ミャンマー475人、インドネシア385人など、対象国は現在も結核患者が多くみられます。留学生や技能実習生など中長期の滞在予定者は、コロナ禍で新規入国が激減しましたが、2022年3月から入国が可能になり、今後も増加が見込まれています。
日本滞在中に診断される外国人の結核患者は若者が多く、厚生労働省の担当者は「多数に感染させる可能性が高く、日本で発病して感染を広げないようにする必要がある」としています。アメリカやイギリス、カナダ、オーストラリア、韓国などでは同様の入国前の検査を実施しています。
政府は具体的な導入時期について関係各国と調整を進めており、「2024年度中のできるだけ早期に導入し、感染を抑え込むため警戒を強めたい」としています。
政府が結核の水際対策を強化する背景には、患者増への警戒感があります。
厚労省などによると、結核は1950年には日本人の死因のトップだったものの、抗結核薬の開発などが進展。国内の新規患者数は2000年に4万人を下回り、減少傾向をたどってきました。
一方、近年でも新規患者は年間1万人を超え、死者も年間1500人以上に上る状況です。今年の新規患者は11月13日時点で1万2053人と、2023年(1万96人)、2022年(1万235人)、2021年(1万1519人)を上回る勢いで推移しています。都道府県別では、東京都1671人、大阪府1099人、神奈川783人と続きます。
結核は空気感染するため、患者から容易に広がる恐れがあり、各地で集団感染の報告も相次いでいます。
東京都足立区は今年9月、区立中学校などで関係者ら11人が集団感染したと発表。青森県八戸市は結核と診断された20歳代男性と接触歴のあった20〜40歳代の22人の感染を公表しました。10月には、福島県郡山市の高齢者施設の関係者ら34人の感染が明らかとなっています。
結核予防会結核研究所の加藤誠也所長によると、結核は感染しても健康であれば免疫の働きで結核菌を押さえ込めるため、発病するのは感染者の約1〜2割とされます。だが別の病気や加齢などで免疫力が低下すると、発病しやすくなります。
初期症状は風邪と似ており、せき、たん、微熱、だるさが2週間以上続く場合、早期受診が求められます。体重減や食欲減などが発病のサインとなっていることもあります。国内では過去に感染していたり、新たに感染したりした高齢者が発病に至るケースが多いといいます。
近年は国内の新規患者のうち外国出身者が占める割合が増加傾向にあり、昨年は16・0%(前年は11・9%)に上りました。活動範囲が広く、感染を広げる可能性が高まる10~30歳代の若年患者が目立つのが特徴です。
加藤氏は、「結核は過去の病気ではない。感染の拡大を防ぐには、発病者の早期発見、治療が重要になる」と説明。「健康的な生活、定期健診などを通じて体調変化に気を配り、気になる症状がみられれば速やかに医療機関を受診してほしい」と呼び掛けています。
2024年10月28日(火)
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