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2022/08/18

🇭🇺肺塞栓、肺梗塞

血栓などによって肺の動脈が詰まったり、肺組織が壊死する疾患

肺塞栓(そくせん)とは、血液によって運ばれた血栓などによって、心臓から肺へ血液を運ぶ肺動脈が詰まった状態。肺梗塞(こうそく)とは、塞栓ができたために血液の流れが遮断され、その先の肺組織が壊死(えし)に陥った状態。

塞栓の多くは、何らかの原因で固まった血液によるものですが、脂肪やがん細胞が詰まることもあります。最も多いのは、下肢の静脈内でできた血栓が原因となるものです。近年問題になっている深部静脈血栓症、いわゆるエコノミークラス症候群もこの一つです。

海外旅行などで長時間飛行機に乗ると、座ったままで長時間同じ姿勢を保つため、下肢の深部静脈で血液が固まり血栓ができます。飛行機から降りようと立ち上がった時に、血栓が血液の流れに乗って移動し、肺動脈を閉塞するというものです。狭いエコノミークラスの座席のみでなく、ファーストクラスでも起こり得ますし、長時間の自動車や電車の旅でも起こっています。

疾患や手術のため長い間寝たきりの人なども、同じように下肢静脈での血液の流れが悪くなり、血栓を作りやすい傾向にあります。

症状としては、肺塞栓では通常、呼吸困難、胸痛、頻呼吸などがありますが、塞栓が小さい時には自覚症状を伴いません。また、塞栓が大きな場合には、肺梗塞を引き起こして胸痛のほかに、血たんや発熱、発汗が現れます。ショック状態に陥り、突然死することもあります。

肺塞栓、肺梗塞の頻度は合わせて10万人に約2.7人で、女性にやや多く、中年以降に多くみられます。

肺塞栓、肺梗塞の検査と診断と治療

肺塞栓のうちでも、深部静脈血栓症は急性期の死亡率が約10パーセントと高く、救急の疾患であり、早く診断し、早く血栓を取り除くことが大切です。従って、突然の呼吸困難や胸痛が起こったら、できるだけ早く循環器内科や呼吸器内科を受診します。

医師による診断では、まず心電図と胸部X線検査、血液検査が行われます。これらの検査だけでは肺塞栓の確定診断はできませんが、同じような症状を示す心筋梗塞や解離性大動脈瘤(りゅう)、気胸などとは、ある程度鑑別ができます。

次に、血液ガス分析で低酸素、心臓超音波検査で右心不全を認めれば肺塞栓が疑われ、造影CT、肺換気・血流シンチグラム、肺動脈造影、造影MRIのいずれかで肺動脈内の血栓を確認できれば診断は確定します。

肺塞栓の治療では、基本的に血液が固まらないようにする抗凝固剤を点滴静注で使います。重症の場合には、血栓を溶かす血栓溶解剤を投与したり、酸素吸入、利尿剤の投与、輸液などが行われます。肺梗塞を引き起こしてショック状態にある場合には、血圧を上昇させる薬を使います。大きな血管の塞栓は、外科手術やカテーテルにより、摘出することもあります。

治療によって病状が安定した後も、肺塞栓、肺梗塞は再発が多く、発症すると命にかかわることがあるため、予防的治療として抗凝固剤の内服を少なくとも3カ月、危険因子を持つ人は一生涯服用します。下大静脈にフィルターを留置して、肺動脈に血栓が流れ込むのを予防する方法もあります。

肺塞栓、肺梗塞では、血液が固まらないように、日常生活で予防することも大切です。特に手術直後の人や長い間床に就いている人は、静脈に血液の塊ができやすいので、時々、下肢や体全体を動かすこと、脱水にならないように水分を十分に取ることが必要です。

海外旅行などで長時間飛行機に乗る際には、十分な水分を取り、適度に足の運動をし、衣服を緩めるなどして、深部静脈血栓症を予防することが大切になります。飛行開始から到着まで一度も席を離れず、トイレも我慢すると危険。

🇭🇺肺動脈狭窄症

右心室から肺動脈への通路が狭い先天性心臓病

肺動脈狭窄(きょうさく)症とは、右心室から肺動脈へと通じる通路が狭い状態の疾患。比較的多く、先天性心臓病の約10パーセント近くを占めています。

この疾患には、弁性狭窄と漏斗(円錐〔えんすい〕)部狭窄の2種類があります。弁性狭窄は、正常では3つに分かれている肺動脈弁が互いに癒着して、メガホン状に狭くなり十分に開かないもの。漏斗部狭窄は、肺動脈弁の下部の心筋が分厚くなり、右心室の流出路が狭くなっているもの。時には、この2つが合併することもあります。

いずれの場合も、右心室の出口が狭いために、正常よりも高い血圧で血液を送り出さなければならぬ右心室に負担がかかり、右心室は肥大し、肺へと流れる血液量が減少します。軽症の場合には心雑音がある程度でほかの症状がみられませんが、疾患が進行すると右心房圧や静脈圧も上昇し、運動時の息切れ、動悸(どうき)や、むくみが出現します。

乳児の場合には、息切れがして、呼吸数と心拍数が減り、授乳力が低下します。呼吸のたびに首を前後に動かす動作をし、呼吸困難のため泣き声も弱く途切れがちになります。顔色は青白く、よく汗をかき、おなかの上部が膨れて見えることもあります。

狭窄が中等度から高度の場合には、ある年齢になると急に症状が進み、右心室不全を起こしてきます。心房中隔欠損を合併していると、右心房から左心房へ向けて静脈血が流れ込み、チアノーゼが現れます。心臓病で起こるチアノーゼは、血液の酸素不足によるもので、唇や手足の指先、全身の皮膚が紫色になります。重症の場合には、すぐに手術をしないと生命が危険になるため、特に注意が必要です。

肺動脈狭窄症の検査と診断と治療

肺動脈狭窄症の検査としては、心音、心電図、胸部X線、心エコー(心臓超音波)などの検査を行い、診断します。必要があれば、心臓カテーテル検査を行い、内腔(ないくう)の圧測定、心血管造影などで重症度を調べます。

軽度の場合は、治療を必要とせず、経過観察のみでよいこともあります。狭窄が中等度から重度の場合には、狭窄を広げる治療が必要となります。まず、バルーン(風船)つき心臓カテーテルによる弁拡張術が選択されます。右心房、右心室から肺動脈へカテーテルを通して、肺動脈弁の狭い部分でバルーンを広げ、狭い部分を広げるという治療です。

これで十分に弁機能が改善しない時、あるいは狭窄の場所や形態によっては、手術でしか治療できない場合もあります。手術の方法は肺動脈の狭い部分によって異なりますが、人工心肺を使って、肺動脈弁の狭窄部を取り除いて流出路を広くする手術、肺動脈弁の下部の心筋を切除して流出路を広くする手術、人工弁置換術などが行われます。

カテーテルによる治療の場合も、手術による治療の場合も、狭窄が少し残ることがあります。狭窄を完全に解除しようとすると肺動脈弁の逆流が起こってしまうこともあるため、狭窄の軽減と肺動脈弁の逆流の2つを天秤(てんびん)にかけて、治療が行われるためです。

年齢が進むにつれて右心室の負担が増加し、右心室の肥大が強くなって手術の危険性も高くなるので、手術は早い時期に行うことが必要です。生後3カ月未満での手術では生命の危険を伴うことがありますが、生後3カ月を過ぎれば比較的安全です。

肺動脈狭窄症の手術後の予後は、一般的に良好です。多くの場合、ほかの子供たちと同様に生活、活動していけると考えられています。ただし、残存する肺動脈の狭窄の程度によっては、多少の運動制限が必要となる場合もあります。また、乳児期に手術をしても再発することがあるので、小学校入学前に再検査を受ける必要があります。理想は1~2年置きの外来通院を行い、変化がないかどうかを外来で経過観察すること。

🇭🇺肺動脈性肺高血圧症

心臓から肺に血液を送る肺動脈の血圧が異常に上昇する疾患

肺動脈性肺高血圧症とは、心臓から肺に血液を送る血管である肺動脈の血圧が異常に上昇する疾患。いろいろな原因によって肺動脈の血圧が高くなる肺高血圧症の一種です。

酸素の少ない血液が右側の心臓の右心房に戻ってきて、右心室を通って肺に送られ、肺で酸素をもらって血液は左側の心臓の左心房に進み、左心室を通って全身に送られます。これが人間の血液循環の仕組みです。左側の心臓から全身に血液を送る動脈の血圧が上昇するのがいわゆる一般的な高血圧であり、右側の心臓から肺に血液を送る肺動脈の高血圧が肺高血圧症です。

 平均肺動脈圧が安静時25mmHg(ミリエイチジー)、運動時30mmHg以上となるものを肺高血圧症と呼びます。

肺高血圧症の一種である肺動脈性肺高血圧症で肺動脈の血圧が高くなるのは、右側の心臓から肺に血液を送る肺動脈の末梢(まっしょう)の1mm以下の細い小動脈の内腔(ないくう)が何カ所か狭くなって、血液が通りにくくなるためです。

何らかの原因で肺動脈の血管の内腔が狭くなると、肺を通過する血液の循環が不十分になります。この時、心臓が血液を十分に送ろうとするため、肺動脈の圧力が高くなります。肺動脈に血液を送る右心室は、より大きな力が必要なために心臓の筋肉を太くして対応しようとします。

しかし、もともと右心室は高い圧力に耐えられるようにできていないため、この状態が続くと右心室の壁は厚くなって拡張し、右心室の機能が低下して肺性心(はいせいしん)という状態になります。さらに病状が進行すると、右心不全という通常の生活を送るのに必要な血液を送り出せない状態に陥ります。

肺動脈性肺高血圧症は、さらに細かく特発性肺動脈性肺高血圧症、遺伝性肺動脈性肺高血圧症、薬物・毒物に起因する肺動脈性肺高血圧症、他疾患(全身性エリテマトーデス、強皮症、混合性結合組織病、門脈圧高進症、先天性心疾患、 HIV感染、慢性溶血性貧血住血吸虫症、サラセミア、遺伝性球状赤血球症など)に関連する肺動脈性肺高血圧症に分けられます。いずれの場合も、その原因はまだ十分に解明されておらず、1998年から国より特定疾患治療研究事業対象疾患、いわゆる難病に指定されています。

肺動脈性肺高血圧症の中では、特発性肺動脈性肺高血圧症は最も頻度が高く、以前は原発性肺高血圧症と呼ばれていた疾患とほぼ同義であり、原因不明の慢性かつ進行性の難病です。

特発性肺動脈性肺高血圧症の一部は骨形成蛋白(たんぱく)質(BMP)システム異常が関与していますが、それだけでは疾患は起こらず、遺伝的素因に何らかの後天性要因が関与して発症すると考えられています。肺血管壁を構成している血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、細胞外基質などが異常に増殖した結果、血管が硬くなって小動脈の内腔が狭くなり、結果として血流の流れが悪くなり、右心室に負担がかかることになります。

従来の治療では、特発性肺動脈性肺高血圧症の5年間の生存率が30パーセントといわれていました。長い間の研究で、さまざまな治療薬が試みられていましたが、最近、肺血管を拡張させる薬が開発され、治療効果も上がってきています。

肺動脈性肺高血圧症の初期は通常、無症状です。しかし、肺動脈の血圧が上昇し疾患が進行してくると、体を動かした時に息切れを感じるようになります。また、胸痛、全身倦怠(けんたい)感、呼吸困難、立ちくらみ、めまい、失神などを認めることもあります。肺性心となり右心不全を合併すると、顔や足のむくみや食欲低下などの症状も出現します。

肺動脈性肺高血圧症と類似している肺高血圧症が、左心不全、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患、特発性間質性肺炎、睡眠時無呼吸症候群、高地生活、急性肺血栓塞栓症、慢性肺血栓塞栓症などで起こることがあり、それらの疾患が合併することもあります。

肺動脈性肺高血圧症の早期発見は、非常に重要です。早期発見と早期治療によって、生存率が上昇するからです。

肺動脈性肺高血圧症の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、呼吸器科などの医師による診断では、血液検査、心電図、胸部X線検査などで、少しでも肺動脈性肺高血圧症が疑われる場合には、心臓超音波(エコー)検査を行います。心臓超音波検査は胸に検査器具を接触させて心臓の大きさ、形、動きをリアルタイムに画像で観察できる検査です。最近の心臓超音波検査機器には、肺動脈圧を推定する機能が付いているものが多く、肺動脈性肺高血圧症の診断に重要な装置になっています。

このような検査で肺動脈性肺高血圧症の疑いが高い時には、診断を確定させるために右心カテーテル検査を行います。この検査は、肺動脈性肺高血圧症の診断および治療がどの程度有効かを見極める上で最も大切な検査です。肺動脈の圧力が実際にいくつなのか、また肺動脈の血管がどの程度流れにくくなっているのかを正確に判定することができる唯一の検査方法です。

首もしくは脚の付け根からカテーテルという細い管を挿入し、静脈を通して肺動脈まで血流に乗って通過させ、肺動脈の圧力を直接測定します。肺高血圧症の原因によっては、肺動脈造影検査を行ったり、カテーテルを通して心臓や血管のさまざまな部位から採血を行うことを追加の検査として行います。

循環器内科の医師による治療では、肺動脈性肺高血圧症の場合は従来、血管内で血栓が生じるのを予防する抗凝固薬、循環血漿(けっしょう)量を減少させて心臓の負担を減らす利尿薬、血管を縮める作用のあるカルシウムを抑制することで血管を広げるカルシウム拮抗(きっこう)薬、通常の空気より高い濃度の酸素を吸うことで心臓の機能が低下して全身への酸素供給能力が低下しているのを補う酸素吸入によって治療されていましたが、予後改善効果は大きくありませんでした。

近年では、肺の血管を拡げて血流の流れを改善させる肺血管拡張療法が効果を上げています。肺血管を拡げるプロスタサイクリン製剤のフローランのポンプを用いた持続静注や、プロスタサイクリン製剤の誘導体であるベラプロスト製剤の内服、肺血管を収縮させるエンドセリンが血管平滑筋に結合することを防ぐエンドセリン受容体拮抗薬のトラクリアやヴォリブリスの内服、血管平滑筋の収縮を緩めるサイクリックGMPという物質を増加させるホスホジエステラーゼ5(PDE5)の作用を阻害するPDE5阻害薬のレバチオやアドシルカの内服などにより、次第に予後が改善されてきています。

一方、原因の明らかな他疾患に関連する肺動脈性肺高血圧症では、原疾患の治療により肺高血圧の改善が期待できます。

現在使用可能な治療法を継続しても右心不全が進行する場合、外科的治療の心房中隔開口術や、肺移植を行うこともあります。

🇵🇱排尿困難

円滑な尿排出が障害され、排尿開始まで時間がかかったり、排尿終了に時間がかかったりする状態

排尿困難とは、円滑な尿の排出が障害され、尿が出にくい状態。尿意があるのにトイレにいってもなかなか尿が出ず、排尿開始まで時間がかかり、あるいは尿の出が悪くて排尿終了まで時間がかかるといった状態です。

力まないと尿が出なかったり、排尿が終わるのに50秒以上かかったり、排尿が途中で止まったり、排尿しても膀胱(ぼうこう)が完全に空にならず、尿がいつも残っている残尿感を覚えることもあります。

この排尿困難は、前立腺(せん)肥大症、尿道狭窄(きょうさく)、神経因性膀胱、前立腺炎、前立腺がん、膀胱結石、尿道結石、加齢による膀胱の収縮性機能の低下、膀胱平滑筋の筋肉量の減少、疾患やけがなどによる脳や脊髄(せきずい)神経の損傷、糖尿病性の神経障害、自律神経の機能低下、排尿括約筋協調不全、薬剤の副作用など、さまざまな原因で起こります。

高齢の男性では、前立腺肥大症や、膀胱を支配している神経に異常がある神経因性膀胱で、排尿困難が起こりやすくなります。何らかの原因で尿道が狭くなっている尿道狭窄、あるいは膀胱や尿道に結石が存在することでも、排尿困難が起こります。

高齢の女性では、過去に子宮がん、直腸がんなどでの骨盤内の手術などを受け、膀胱を支配する神経が損傷されたために起こる神経因性膀胱で、排尿困難が起こりやすくなります。膀胱が弛緩(しかん)し、排尿筋の収縮が不十分になるため尿の排出が悪くなり、排尿後でも膀胱内に残尿が多く、しばしば膀胱炎を繰り返す状態になります。まれに、子宮筋腫(きんしゅ)による膀胱の出口の圧迫、尿道狭窄、膀胱結石が原因になって、排尿困難が起こることもあります。

とりわけ男性の場合は、中年以降に前立腺肥大症や前立腺がんが原因となって、排尿困難を起こしていることが多いので注意が必要です。前立腺は精液の一部を作る器官のことですが、この前立腺は年齢により少しずつ肥大していきます。30歳代から肥大が始まり、40歳代で4割、50歳代で5割、60歳代で6割、70歳代で10割の割合で増えるといわれています。

前立腺が肥大することで膀胱を圧迫し、排尿困難などの障害を引き起こし、尿を出すまでに時間がかかる、排尿に時間がかかる、尿の勢いが悪い、尿が途切れる、残尿感がある、何回もトイレにゆくなどの症状が現れます。

排尿困難が進行すると、尿閉といって、膀胱に尿がたまっているにもかかわらず一滴も尿が出なくなる場合もあります。激しい尿意とともに膀胱が張ってくると、非常な苦しみが生じます。前立腺肥大症を持つ人は、飲酒中に突然尿閉になることもあります。

尿閉になると、膀胱にたまった尿の中で細菌が増殖して膀胱炎になったり、腎臓(じんぞう)に尿がたまって水腎症や腎不全を合併する恐れがあります。

薬剤の服用で排尿困難を引き起こす場合もありますので、特に前立腺肥大症のある人は服用には注意が必要です。排尿困難を引き起こす薬剤には、総合感冒薬、抗ヒスタミン剤、鎮痙(ちんけい)剤、精神安定剤、抗不整脈剤などがあります。

尿が多少出にくい程度であれば、水分を多めに取るよう心掛ければ症状は改善しますが、疲れやすくなった、むくみがある、血尿が出るなどの症状がある時は、早めに泌尿器科の医師の診察を受けて下さい。

排尿困難の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、問診、直腸診、尿検査、超音波検査、血液検査、尿流動態(ウロダイナミクス)検査(膀胱内圧、腹圧、排尿筋圧、外尿道括約筋活動、尿流量測定)、尿路造影検査、内視鏡検査などを行って、排尿困難の原因を探ります。

泌尿器科の医師による治療は、排尿困難の原因になる疾患の種類によって異なり、基礎疾患があればその治療が第一です。

前立腺肥大症が排尿困難の原因の場合は、症状が軽い場合は薬物療法から始め、症状がひどい場合や合併症を引き起こしている場合は手術療法が行われます。

前立腺肥大症の薬物療法は、近年では薬の開発もかなり進んでおり、効果があることが確認されています。治療に使用される薬には、α1受容遮断薬(α1ブロッカー)、抗男性ホルモン薬(抗アンドロゲン剤)、生薬・漢方薬の3種類があります。

α1受容遮断薬は、交感神経の指令を届けにくくし、筋肉の収縮を抑えて尿道を開き排尿をしやすくする薬で、ミニプレスが代表です。副作用としては、起立性低血圧、めまい、下痢、脱力感、鼻詰まりなどの症状が伴います。

抗男性ホルモン薬は、男性ホルモンの働きを抑制する薬で、プロスタール、パーセリンなどが一般的です。その効果は服用してから3カ月程かかり、前立腺を20~30パーセントぐらい縮小させることができます。副作用としては、性欲が減退することがあります。

生薬・漢方薬は、植物の有効成分のエキスを抽出したもので、むくみを取ったり、抗炎症作用などの効果があります。副作用はほとんどありませんが、まれに食欲不振、胃腸障害が伴う場合があります。

前立腺肥大症の手術療法には、経尿道的前立腺切除術(TURP)、レーザー治療、温熱療法などがあります。

経尿道的前立腺切除術は、先端に電気メスを装着した内視鏡を尿道から挿入し、患部をみながら肥大した前立腺を尿道内から削り取ります。手術で前立腺の傷口を洗い流す灌流(かんりゅう)液が体内に入って、電解質のバランスを崩し、吐き気や血圧の低下などを起こすTURP反応と呼ばれる副作用が起こることがあります。

レーザー治療は、尿道に内視鏡を挿入し、内視鏡からレーザー光線を照射します。そして、肥大結節を焼いて壊死を起こさせ、縮小させます。組織を焼いてしまうため、がんの有無を調べられません。また、組織が壊死し脱落が起こるまで、症状の改善はみられません。

温熱療法は、尿道や直腸からカテーテルを入れ、RF波やマイクロ波を前立腺に当てて加熱し、肥大を小さくして尿道を開かせます。根治的な治療ではないため、半年から1年で症状はもとに戻ってしまいます。

神経因性膀胱が排尿困難の原因の場合は、基礎疾患に対する治療が可能ならばまずそれを行いますが、神経の疾患はなかなか治療の難しいことが多く、薬物療法、排尿誘発、自己導尿法などで排尿効率を高めることになります。

薬物療法は、膀胱の収縮力を高める目的で、副交感神経刺激用薬のウブレチド、ベサコリンのいずれかまたは両方を処方します。尿道括約部を緩める目的で、α1受容遮断薬(α1ブロッカー)のエブランチルを処方することもあります。

排尿誘発は、手や腹圧による膀胱訓練で、恥骨上部を押したり、下腹部の最も適当な部位をたたいたりすると膀胱の収縮反射を誘発できることがあります。

自己導尿法は、尿が出にくく残尿が多い場合に、1日に1〜2回、清潔なカテーテルを自分で膀胱内に挿入し、尿を排出させるものです。

このような治療だけでは不十分な場合、神経ブロックや手術などの方法もあります。

🇵🇱排尿痛

尿路の炎症や結石、腫瘍が原因となって、排尿の際に痛みを感じる状態

排尿痛とは、排尿の際に痛みを感じる状態。腎臓(じんぞう)、膀胱(ぼうこう)、尿道などの尿路の細菌感染による炎症、結石、腫瘍(しゅよう)が主な原因となります。

排尿の際のどの段階で痛みを感じるかによって、初期排尿痛、終末時排尿痛、全排尿痛に分けられます。

初期排尿痛は、尿の出始めに痛みを感じるもので、尿道炎の際に多く認められます。前立腺(ぜんりつせん)炎、淋菌(りんきん)感染症、性器クラミジア感染症などの疾患も疑われます。

終末時排尿痛は、排尿が終わる間際から終了後にかけて痛みを感じるもので、急性膀胱炎や前立腺炎、腎盂腎炎(じんうじんえん)、尿道結石などの疾患が考えられます。

全排尿痛は、尿の出始めから終わりまで持続する痛みを感じるもので、尿道狭窄(きょうさく)や尿道結石などのために排尿が障害され、尿道内圧が上昇することに起因することが多い症状です。膀胱炎が再発して慢性化していたり、腎盂腎炎などの疾患の際にもみられます。

痛みの性質により、焼け付くような痛みや、刺すような痛み、鈍く重苦しい鈍痛、ずきずき痛む疼痛(とうつう)などに分けられますが、痛みの感じ方は個人差がかなり大きく、男女の性差、年齢、基礎疾患の有無などによっても大きく異なります。また、痛みがごく軽い場合には、排尿時または排尿後の不快感として感じる場合もあります。

排尿痛を引き起こす尿道炎は、約20センチと長い尿道を持つ男性に多くみられる疾患です。原因のほとんどは、性行為による淋菌やクラミジア菌などの感染で、尿道に急性の炎症を起こします。淋菌の感染では、尿の出始めに焼け付くような強い痛みとともに、黄色いうみが混じります。クラミジア菌の感染では、尿の出始めの軽い痛みや染みる感じとともに、淡黄色や白色のうみが少量排出され、尿が濁ります。尿道炎を放置しておくと、全く排尿できなくなる尿道狭窄の原因にもなります。

前立腺炎は、20〜30歳代の若年層の男性に多い疾患です。主な原因は、尿道から侵入した大腸菌やブドウ球菌の感染で、男性の尿道後部を囲む前立腺に炎症を起こします。初期には尿の出始めに軽い痛みを感じ、それとともに頻尿や残尿感などが現れます。進行して炎症が強くなると排尿時の痛みが増し、前立腺肥大症に移行することもあります。

淋菌感染症は、淋菌による性感染症です。男性の場合、尿道が感染することで尿の出始めに焼け付くような強い痛みとともに、うみが尿に混じります。女性は顕著な症状が現れることが少なく、感染から数日後に外陰部のかゆみや下り物の増加が起こる程度なので、感染に気付かず慢性化することがあります。見過ごすと炎症が尿道や膀胱に広がり、排尿時に痛みを感じるようになります。また、妊婦が感染すると、新生児の結膜炎を招き、最悪は失明の危険もあります。

性器クラミジア感染症は、クラミジア菌による性感染症です。男性が感染すると、尿の出始めの軽い痛みや染みる感じとともに、淡黄色や白色のうみが少量尿に混じります。女性の場合、下り物が多少増える程度の軽い症状のため、感染に気が付かない場合も多くあります。進行すると不妊の原因となったり、妊婦の場合は胎児が産道の通過で感染し、重篤な肺炎や結膜炎を起こすこともあるので、注意が必要です。

急性膀胱炎は、膀胱内に細菌が侵入して急性の炎症を起こす疾患です。膀胱炎になるとトイレが近くなり、排尿が終わるころに痛みを感じたり、尿の濁りや血尿などの症状が現れます。圧倒的に尿道が約4センチと短い女性に多く、再発しやすくて慢性化すると尿がたまるだけで痛みが生じたり、排尿の間中ずっと痛みを感じるようになります。性交渉による感染が原因になることもあります。

腎盂腎炎は、腎臓からの尿が集まる腎盂や、腎臓そのもの(腎実質)が細菌に感染して起こる疾患です。排尿が終わるころや、排尿の間ずっと痛みを感じるようになり、尿中の白血球が増えるために尿の濁りが生じます。また、悪寒を伴う高熱、血尿、背中から腰にかけての響くような痛みや吐き気、嘔吐などが現れます。主な原因は下半身の冷えによるもので、この悩みを抱える女性に多くみられる疾患です。

尿道結石は、腎臓や膀胱でシュウ酸や尿酸などの塩類が石のように固まって作られた結石が、尿の最終的な通路である尿道の途中にとどまる疾患です。尿の流れに乗って移動した結石が尿の通り道を傷付けるために、尿が出終わるころに刺すような強い痛みを感じます。時には、突然の激痛や冷や汗、吐き気、嘔吐(おうと)を伴うこともあります。排尿に時間がかかるとともに残尿感があり、トイレに行く回数も増え尿が濁ることもあります。

尿道狭窄は、尿道の内側が狭くなるために尿が出にくくなる疾患です。かつては淋病や結核菌による慢性的な炎症が原因になるケースが多くみられましたが、近年は手術や検査などで尿道にカテーテルや内視鏡を挿入することで、尿道を傷付けてしまうために起こるケースも多くみられます。排尿の間、ずっと痛みを感じるようになり、尿が細くなります。さらに進行すると、全く排尿できなくなることもあります。

なお、生理痛と関連して周期的に排尿痛、排尿違和感を感じる女性の場合、子宮内膜症などの婦人科疾患が関係していることもあります。また、更年期症状の一部として、頻尿や尿漏れなどの排尿症状の中に排尿痛を感じることもあります。

排尿時の痛みが強い時や長期間続く時には、泌尿器科で診察を受けましょう。性感染症の疑いがある時は、泌尿器科または婦人科を受診しましょう。万が一性的パートナーが感染していた時は、自覚症状がなくても感染している可能性がありますので、必ず自分も診察を受けましょう。

排尿痛の検査と診断と治療

泌尿器科、ないし婦人科の医師による診断では、症状および各種検査を総合し、排尿痛の原因を確定します。一般的には問診、尿検査、超音波検査、血液検査、尿流動態(ウロダイナミクス)検査(膀胱内圧、腹圧、排尿筋圧、外尿道括約筋活動、尿流量測定)、尿路造影検査、内視鏡検査などを行って、排尿痛の原因を探ります。

泌尿器科の医師による治療は、排尿痛の原因になる疾患の種類によって異なり、基礎疾患があればその治療が第一です。

細菌性の尿道炎の治療では、抗生物質が有効ですが、短期間で治らず、しばしば慢性化します。慢性化しても、それほど強い症状は続きません。強い症状はなくても、ぐずぐずして治りにくいのが、慢性尿道炎の特徴です。

強い痛みや不快症状がある急性(細菌性)前立腺炎は、入院して鎮痛剤で痛みや不快症状を抑え、同時に感染菌に効く強力な抗生物質による治療を行います。前立腺は薬物移行が悪いため、治療効果が得られるまでに時間がかかることも多く、敗血症に移行することもあるので注意が必要です。また、再発を繰り返すと慢性化してしまうので、医師の指示通り、服薬や治療を継続しなければなりません。

 逆に、慢性前立腺炎は大事に至ることはありません。慢性(細菌性)前立腺炎では、抗菌剤を4~12週間程度服用します。また、前立腺のマッサージで、分泌腺内にたまっている膿性分泌物を排出させます。

慢性(非細菌性)前立腺炎でも、細菌感染の可能性もある場合には、抗菌剤を4〜8週間程度服用します。細菌の可能性がない場合や、前立腺痛では、筋弛緩(しかん)剤、温座浴などの温熱治療、漢方薬が用いられます。さらに、精神科医との連携も必要な場合があります。

淋菌感染症の治療では、抗生物質(抗生剤)のスペクチノマイシンの筋肉注射、セフォジジムの静脈注射、セフトリアキソンの静脈注射などを症状に応じて実施します。1日から7日間の抗生物質の注射を行い、3日以上たってから淋菌がいないか再検査を行います。

性器クラミジア感染症の治療では、キノロン系、テトラサイクリン系の抗生物質が非常に有効です。通常は、7~14日間服用します。また、性的パートナーへの治療も大切です。

急性膀胱炎の治療では、原因菌に有効な抗生物質、抗菌剤が投与されます。一般に女性では、合併症が起こっていなければ、2~3日で症状は軽快します。感染が長引く際には、抗生物質を7~10日間服用します。男性では投与期間が短いと再発を繰り返すため、一般に抗生物質を10~14日間服用します。

男女とも、水分の摂取を多くして尿量を増やし、細菌を洗い流すほか、尿の刺激性を低下させて症状を和らげます。症状の強い際は、十分な休息、睡眠を確保するようにします。

慢性膀胱炎の場合には、症状は比較的軽く、ほとんど自覚しないこともあります。尿検査で偶然に発見されることが、普通です。膀胱に腫瘍、結石があったり、結核、前立腺、腎臓の病気などが膀胱炎の陰に隠れている際に、慢性化しやすいものです。

慢性膀胱炎の治療では、抗生物質や抗菌剤が2~4週間、使用されます。原因疾患がある際には、そちらを治療しない限り、完治しません。特に原因疾患もなく、症状のほとんどない際は、経過観察となることもあります。

腎盂腎炎の治療では、感染している細菌に有効な抗生物質、抗菌剤を投与します。若い女性によくみられる急性の腎盂腎炎では、治療薬の進歩により、特殊なケースを除いては速やかに改善します。慢性の腎盂腎炎は、10〜20年といった長い期間をかけて、腎臓機能が悪くなる場合もあり、完全に治癒させるためには長期間、抗生物質やサルファ剤を投与します。生活上の注意として、症状が著しい急性期には、水分を多量にとって、尿量を多くすることが大切になります。

尿道狭窄の治療では、内視鏡を用いて、狭いところを切開する場合が多いのですが、切開手術を要することもあります。いずれにしても、処置後も比較的長期間、ある程度の拡張処置を外来で続ける必要があります。

尿道結石の治療では、痛みや繰り返す膀胱炎、腎盂腎炎などの症状がなければ、尿とともに自然に出てくるまで経過観察で様子をみることもあります。症状がある場合や大きな結石の場合は、結石に超音波などの物理的エネルギーを加え、そのエネルギーで結石を粉砕し、体外に出す破砕療法や、手術によって除去します。

🇵🇱肺嚢胞(のうほう)症

肺の中に空気や液体を含む空間が発生

肺嚢胞(のうほう)症とは、肺の中に、空気や液体を含む空間である嚢胞ができる疾患。嚢胞の数は、1つから複数の場合まであります。

先天性と後天性があり、多くは後天性です。

先天性肺嚢胞症は、肺嚢胞が生まれ付きできている場合です。最も代表的なものは、ブラ(気腫〔きしゅ〕性嚢胞)やブレーブ(自然気胸)。ブラは、肺胞がほかの肺胞とくっついて膨張した状態で、ちょうど風船のように肺の表面に飛び出します。これが破裂し、たまっていた空気が胸腔(きょうくう)内に出て、肺を圧迫するとブレーブと呼ばれます。

このブレーブは、左肺よりも右肺に多くみられ、しばしば気管支とつながっています。このような場合、嚢胞は細菌に感染しやすく、発熱、せき、膿(のう)性のたんが出て、肺膿瘍(のうよう)と似た症状が現れます。

しかし、嚢胞壁が感染を中に閉じ込めるので、胸部X線写真で見ても、嚢胞の外に炎症反応はみられません。時に喀血(かっけつ)を伴うこともあり、肺結核と間違われることもあります。

後天性肺嚢胞症でよく知られているのは、条虫エキノコックスによって起こる包虫嚢胞です。ピーナッツなどの異物で気管支がふさがれて起こることもあります。

肺嚢胞症の検査と診断と治療

先天性肺嚢胞症の場合は、自覚できる症状はほとんどありません。胸部X線検査を行った時に、偶然発見されることがあります。後天性肺嚢胞症の症状は、胸痛や呼吸困難、せき、胸部圧迫感、チアノーゼなどです。

治療は、嚢胞が小さければ、経過を見守るにとどまります。ブレーブ(自然気胸)で細菌に感染した場合は、抗生物質で治療を行います。また、嚢胞が大きく、全身への影響のみられる場合には、手術によって切除します。

🇮🇸肺膿瘍

細菌が感染することで肺の組織が壊れ、うみがたまる疾患

肺膿瘍(のうよう)とは、細菌が感染することで肺の一部が化膿して、組織が壊れて、うみがたまる疾患。普通は、片方の肺のみに発症します。

肺炎にかかった人のうち、抵抗力が弱い人に起こったり、肺炎の原因となった病原菌の種類によっても起こることがあります。組織が壊れた部分は空洞になってしまったり、治っても瘢痕(はんこん)が残ります。

ほとんどの化膿菌によって肺膿瘍が引き起こされますが、最もよくみられる原因菌は、空気のあるところでは増殖しにくいバクテロイデスなどの嫌気性菌。肺炎球菌や黄色ブドウ球菌、緑膿菌などの好気菌も、原因菌になる場合もあります。いくつかの菌が複数合わさって、引き起こすこともあります。

誘因としては、肺内への異物の吸引、上気道の慢性感染、結核やがんによる気道狭窄(きょうさく)、嘔吐(おうと)を繰り返すような消化器の疾患などがあります。

初期症状は寒け、発熱、胸痛、せきなど、肺炎に似ています。1週間ほどたつと、膿性のたんが多量に出るようになり、悪臭を放ったり、時には血が混じることもあります。血を吐くこともあり、大量に吐く場合などは極めて危険です。

これらの症状の現れ方によって、肺膿瘍は急性型と慢性型に分けられています。通常、慢性型は発熱も低く、すべての症状が急性型よりも軽くなります。

肺膿瘍の検査と診断と治療

肺膿瘍の症状に気付いたら、呼吸器疾患専門医のいる病院を受診します。

医師による診断は、胸部X線検査、胸部CT検査、たんの性質検査、血液検査などに基づいて行われます。肺炎の場合と同じように、肺膿瘍では胸部X線やCT検査の写真に明らかな影が認められます。肺炎の多くは熱が下がると影が消えるのに対して、肺膿瘍では解熱しても陰影が残ります。

肺から採取したたんの検査では、化膿菌のほかに膿球や壊死(えし)物質が認められます。血液検査では、白血球の増加と、軽、中度の貧血がみられます。

治療は、化学療法が主体となります。原因菌がペニシリンに耐性のないものであれば、まずペニシリンが用いられます。その後は経過をみながら、必要に応じて、抗生物質が投与されます。

ほとんどの場合、初期は静脈注射による投与を行い、症状が改善して体温が平熱に戻ると、経口投与になります。抗生物質の投与は、症状が消え、胸部X線検査で膿瘍の消失が確認されるまで続けます。体位ドレナージも、膿瘍の排出を促すために行います。

適当な治療が行われれば、肺膿瘍の大部分は改善します。急性の場合の治療期間の目安は、2〜3カ月。慢性の場合は、もう少し長期の治療期間が必要となります。

化学療法の治療効果が思わしくない場合は、抗生物質以外の治療も必要になります。時に、胸壁を通して膿瘍の内部へチューブを挿入し、肺膿瘍を排出させることもあります。肺の一部切除といった外科療法が行われることもあります。

💅ハイパートロフィー

爪の甲の表面の中央部分が肥大化し、極端に盛り上がる状態

ハイパートロフィーとは、爪(つめ)の甲の表面の中央部分が肥大化し、極端に盛り上がる状態。巨爪(きょそう)症、爪肥厚症、オニキクシスとも呼ばれます。

爪の甲は先端に向かって押し進むように長く伸びますが、何らかの原因で圧迫されて伸びが妨害されると、成長する部分が厚くなったりします。厚くなった部分は、後から伸びてくる爪の甲の成長を阻害し、さらに盛り上がってくるという悪循環になります。

ハイパートロフィーの原因は、遺伝、物理的圧迫、けが、糖尿病、内臓の疾患、細菌感染、血行不良、栄養不足などさまざまです。

中でも、長期間にわたって爪に何らかの物理的圧迫が加わって、ハイパートロフィーになることが多く、手の爪よりも足の爪でしばしばみられます。原因となる物理的圧迫としては、足の形に合っていない靴が挙げられます。特に、先端が細くなったハイヒールを履き続けた時、足の指先に体重がかかりやすく、足先に持続的に圧力がかかることになり、爪の甲がはがれてしまうことがあります。これを何回も繰り返した場合に、ハイパートロフィーが起こることがあります。

同様の理由で、足の形に合っていないシューズで長距離ランニングした場合に、ハイパートロフィーや、爪の両端が指の肉に食い込む陥入爪が起こることがあります。陥入爪、深爪が原因で、正常な爪の成長が妨げられ、ハイパートロフィーが起こることもあります。

ハイパートロフィーがあると、爪が割れやすくなったり、はがれやすくなったりします。そのため、割れた爪が衣服や布団に引っ掛かり、はがれた部分から細菌が入って化膿(かのう)などのトラブルを起こすことがあります。

この場合、盛り上がった部分に触ると、激しい痛みがあり、ほかの爪にも移ります。靴を履くのが困難になるのはもちろんのこと、布団がこすれても痛みを感じます。また、ハイパートロフィーの症状として、爪の変色も挙げられます。

このハイパートロフィーはたまに、爪白癬(そうはくせん、つめはくせん)と間違えられることががあります。白癬菌と呼ばれる一群の真菌(カビ)が感染して起こる爪白癬は、いわゆる水虫、足白癬や手白癬が爪に発生したもので、爪が白く濁り、爪の下が厚く、硬くなります。症状が似ていても違う疾患ですので、水虫用の治療を独自で行うと、ハイパートロフィーが完治するまでに時間がかかるなど、さらに厄介なことになる可能性があります。

ハイパートロフィーの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、ハイパートロフィーの原因がかなり多岐にわたっているため、その原因を見極めることがポイントになります。

症状が似ている爪白癬と鑑別するためには、皮膚真菌検査を行うのが一般的。ピンセットやメスで採取した爪を水酸化カリウムで溶かし、溶けずに残る白癬菌を顕微鏡で観察します。時には、培養を行って、原因菌の同定を行うこともあります。爪では皮膚と違って菌を見付けにくく、菌の形態が不整形で判定しにくいことが多いので、注意が必要です。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、ハイパートロフィーの症状が軽い場合、保湿してマッサージすることで少しずつ改善します。また、爪やすりで厚い部分を滑らかに磨いたり、磨き粉で仕上げ磨きしたりして、爪の成長を阻害する盛り上がっている部分を平らにすれば、正常な爪の甲が再生してきます。

原因となる菌が同定されれば、その増殖を止めたり、死滅させる抗生物質(抗生剤)を用います。

栄養不足が原因でハイパートロフィーを生じている場合、栄養バランスのとれた1日3食の食生活を心掛け、爪の健康に必要な栄養素である蛋白質、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、ビタミンB、さらにコラーゲン、野菜や海藻類に多く含まれるミネラル類などをしっかり摂取してもらいます。

内臓などの疾患が原因でハイパートロフィーを生じている場合、その原因となる疾患を治療することが先決です。

自分でできる対処法としては、むやみにハイパートロフィーになった患部を触らないようにします。刺激を与えないことはもちろん、ほかの隣接する指と接しないように気を付けます。

ハイパートロフィーにならないためには、いつも清潔を心掛け、正しい爪の切り方をしていることが大切で、自分の足に適した履きやすい靴を選ぶことも予防となります。どうしてもハイヒールを履く必要がある時は、なるべく長く歩かないようにします。

🇮🇸排便障害

何らかの原因により排便が困難になったり、意図しない排便が起こる障害

排便障害とは、何らかの原因により排便が困難になったり、意図しない排便が起こる障害。便秘と便失禁に大きく分けられます。

便秘は通常、排便回数が少なく、3日に1回未満、週2回未満しか、便の出ない状態。便が硬くなって出にくかったり、息まないと便が出なかったり、残便感があったり、便意を感じなかったり、便が少なかったりなど多様な症状も含みます。便の水分が異常に少なかったり、うさぎの糞(ふん)のように固い塊状なら便秘です。

便秘の症状の現れる時期は、さまざまです。一般には、加齢とともに増加する傾向にありますが、女性のほうが男性より多いと見なされ、若い女性の便秘は思春期のころに始まることも少なくありません。

この便秘は、大きく分けると機能性便秘と器質性便秘に分類され、機能性便秘はさらに弛緩(しかん)性便秘、痙攣(けいれん)性便秘、直腸性便秘、食事性便秘の4種類に分類されます。

機能性便秘というのは、大腸の働きの異常が原因で便秘が起こるもので、ほとんどの便秘が機能性便秘に相当します。

機能性便秘のうちの弛緩性便秘は、一定のリズムと緊張を持って運動して便を送り出している腸管の蠕動(ぜんどう)運動の低下により、腸の中の内容物の通過が遅れ、水分の吸収が増加するために便秘が起こるものです。排便時に腹圧をかけるのに必要な、腹筋などの筋力が弱まることも原因になります。弛緩性便秘では、排便回数や便の量が少ないタイプの便秘になります。

痙攣性便秘は、ストレスや感情の高まりに伴う自律神経のアンバランス、特に副交感神経が緊張しすぎることによって便秘が起こるものです。下行結腸に痙攣を起こした部位が生じ、その部位が狭くなって、便の正常な通過が妨げられます。痙攣を起こした部位の上部は腸の圧力が高くなるため、腹が張った感じがして、不快感や痛みを感じます。排便があっても、便の量が少なく、うさぎの糞のように固い塊状となります。

排便後には少しは気持ちがよくなりますが、十分に出切った感じがなく、すっきりしないなど、残便感を生じる人が多いようです。便秘の後に、腸の狭くなった部位より上のほうで水分の量が増えるため、水様の下痢を伴うこともあり、便秘と下痢を交互に繰り返す場合もあります。大腸の緊張や痙攣により、便が滞りやすいために起こる便秘もあります。

直腸性便秘は、習慣性便秘とも呼ばれ、排便を我慢する習慣が便意を感じにくくさせるために便秘が起こるものです。便が直腸の中に進入すると、直腸の壁が伸びる刺激で便意は起きますが、この便意をこらえて、排便を怠たったり、排便を我慢することが度重なると、刺激に対する直腸の感受性が低下して、直腸内に便が入っても便意が起こらなくなってしまい便秘となります。

食事性便秘は、食物繊維の少ない食物を偏って食べていることが原因で、腸壁に適当な刺激がなくなって便秘が起こるものです。また、食事の量が極端に少ない場合も便秘になります。

一方、器質性便秘というのは、腸や肛門(こうもん)の腫瘍(しゅよう)や炎症、閉塞(へいそく)などの疾患、あるいは巨大結腸症のような腸の長さや大きさの先天的異常などが原因で便秘が起こるものです。器質的便秘の原因となる疾患としては、大腸がん、大腸ポリープ、クローン病、腸閉塞(イレウス)、虫垂炎など腹の手術の後の腸の癒着、潰瘍(かいよう)性大腸炎、後腹膜腫瘍、子宮筋腫、直腸がん、直腸ポリープ、直腸脱、直腸重積(じゅうせき)、直腸瘤(りゅう)などがあります。

また、便秘には、旅行や生活の変化に伴う数日間だけの一過性の便秘と、症状が1〜3カ月以上続く慢性便秘があります。便秘が続くと、腸内細菌のバランスが崩れ、腐敗便がたまると、肌のトラブルや大腸がん発生の引き金になります。

それまで規則的であった排便が便秘に変化した場合や、便に血が混じる場合、腹痛を伴うような場合は、器質的便秘が疑われるので、早めに肛門科、あるいは消化器科、婦人科を受診し検査を受ける必要があります。

便失禁は、排便や排ガスを十分にコントロールできない状態

便失禁とは、排便や排ガスを十分にコントロールできない状態。

便意を催してからトイレに行くまで我慢できずに失禁するタイプの切迫性便失禁と、便意を感じないままに無意識のうちに便が漏れるタイプの漏出性便失禁があり、両方を併せ持つタイプもみられます。

便失禁の原因には、いろいろなものがあります。原因のうち最も多いものとして、出産時の肛門周辺の筋肉の損傷があります。排便には内肛門括約筋、外肛門括約筋、肛門挙筋、恥骨直腸筋という4種類の筋肉が関与していますが、出産の際に肛門括約筋などが傷付き、その伸縮自在の筋肉の強さが低下することで便失禁、ガス失禁、下着が汚れる、肛門がただれてかゆくなる、便の偏位などの症状が起きます。また、出産の際に肛門括約筋を支配する神経が傷付くこともあります。

この障害は出産後すぐに気付くこともありますが、年を取るまで明らかにならないこともあり、この場合には出産と便失禁との因果関係がはっきりしないことがあります。

肛門や肛門周囲の組織の手術を受けたり、しりもちをつくなどのけがをすることで、内外肛門括約筋を傷付けた場合も、便失禁が起こります。肛門周囲の組織に感染症が起こった場合にも、肛門括約筋が傷付くことがあり、便失禁が起こることがあります。高齢になるにつれ肛門括約筋が弱くなったり、脊髄(せきずい)から肛門周辺の筋肉に入っている神経線維が委縮してくる結果、便失禁が起こることもあります。

腸の炎症や、直腸腫瘍、直腸が肛門から飛び出す直腸脱といった疾患により、便失禁が起こることもあります。多発性硬化症や糖尿病といった疾患により、肛門括約筋を支配する神経が障害されるために、便失禁を来すこともあります。脳卒中、脊髄損傷、脳神経疾患、痴呆(ちほう)により、神経の刺激が肛門へ届かなくなるために、便失禁を来すこともあります。

さらに、下剤の乱用が、便失禁の原因となることもあります。直腸に固まった便が詰まっている時に下剤を飲むと、固まった便の回りを下痢便が伝って失禁することがあります。

我慢できずに失禁するタイプの切迫性便失禁は、意識的に力を入れた時の肛門の締まりが弱くなっており、出産時に肛門周辺の筋肉を損傷した人、肛門や肛門周囲の組織の手術を受けた人に多くみられます。無意識のうちに便が漏れるタイプの漏出性便失禁は、無意識での肛門の締まりが弱くなっており、高齢者や直腸脱の発症者などに多くみられます。

便失禁は起こる頻度の高いもので、特に加齢とともに起こる頻度が高くなってきますが、羞恥(しゅうち)心のために、どんなに不快な症状があっても医療機関へ行かず、自己療法で我慢している人が少なくありません。医師に気軽に相談することが重要です。

排便障害の検査と診断と治療

肛門科、あるいは消化器科、婦人科の医師による便秘の診断では、器質的便秘が疑われる場合は、まず大腸の検査を行います。これには注腸X線検査と大腸内視鏡検査があり、ポリープやがん、炎症性腸疾患などを診断します。

機能的な慢性便秘を詳しく調べる検査として、X線マーカーを服用して大腸の通過時間を調べる検査や、バリウムによる模擬便を用いて、排便時の直腸の形や動きを調べる排便造影検査があります。

肛門科、あるいは消化器科、婦人科の医師による便秘の治療では、食事指導、生活指導、運動、緩下剤といった保存的治療法が主体となり、これらをうまく取り入れて便通をコントロールするようにします。日常の食生活で不足しがちな食物繊維を補うためには、市販の食物繊維サプリメントであるオオバコ、小麦ふすまなどを活用するのもよい方法です。

緩下剤は、腸への刺激がなく、水分を保持して便を軟らかくする酸化マグネシウムなどの塩類下剤を主体として使用します。センナ系、漢方などの速効性の刺激性下剤は、できるだけ常用しないように心掛けます。刺激性下剤を常用すると、次第に腸が下剤の刺激に慣れて効果が鈍くなり、ますます便秘が悪化することがあるためです。

直腸瘤が便秘の原因となっている場合は、その症状と大きさから判断して手術で治療することもあります。

肛門科、あるいは消化器科、婦人科の医師による便失禁の診断では、まず問診により、便失禁の程度とそれが生活に及ぼす影響について明らかにします。便失禁の原因の多くは、詳しく病歴を聴取することにより明らかになります。

例えば、女性の場合、過去の出産歴は重要です。出産の回数が多かったり、新生児の体重が大きかったり、鉗子分娩(かんしぶんべん)の既往があったり、会陰(えいん)切開の既往があったりすると。肛門括約筋が損傷されていることがあります。時には、全身疾患や薬剤が原因となって便失禁を来すこともあります。

次いで、肛門部の診察を行います。これにより肛門括約筋の損傷が容易に明らかになることがあります。肛門領域をもっと詳しく調べるために、他の検査が必要となることがあります。例えば、肛門内圧検査では、小さなカテーテルを肛門内に挿入し、肛門括約筋を緩めた時と締めた時の圧力を測定します。この検査によって、肛門内圧がどの程度弱いか、または強いかが明らかになります。

肛門括約筋を支配する神経が正常に機能しているかどうかを調べるために、他の検査が必要になる場合もあります。さらに、肛門領域に対して超音波検査を行い、肛門括約筋が損傷している領域を明らかにすることもあります。

肛門科、消化器科、婦人科の医師による治療では、症状が軽度ならば、食事習慣の改善指導および整腸剤での処置を行います。時には、現在処方されている薬剤を変更することで、症状が改善することもあります。

大腸炎など直腸領域の炎症性疾患が便失禁の原因になっている場合には、原因疾患を治療することによって、症状が改善することもあります。

肛門括約筋を強くするために、簡単な体操(ケーゲル体操)が勧められることもあります。バイオフィードバックという治療法があり、特殊な機械を用いて正しく肛門括約筋を締めるコツを体得することによって、排便時の肛門領域の知覚を改善し、肛門括約筋を強くすることもできます。

肛門括約筋が損傷している場合には、手術を行うこともあります。手術には、肛門の皮下に紐(ひも)を入れて、肛門を小さくするチールシュ法、肛門括約筋縫合術、代替筋利用手術法などがあります。

肛門括約筋縫合術は、外肛門括約筋を折り畳むように縫い縮めることで肛門に力を入れやすくし、同時に肛門後方で恥骨直腸筋を縫縮することにより、直腸を前方に折り曲げて、直腸肛門角を強くすることで便が直腸から肛門に下りてきにくくするものです。しかし、手術直後から完全に便の漏れがなくなるわけではありません。手術で筋肉の緩みを取って、筋肉が効率よく働けるようにすることはできても、筋力が強化されるわけではありません。その後に、筋力増強のためのリハビリテーションが必要となります。

肛門の手術や出産時の外傷による肛門括約筋の損傷が原因のものは、手術的に肛門括約筋を修復することで、元通りに治すことができます。加齢による便失禁には、完全に治す治療法はありませんが、近年行われている低周波電気刺激治療器の使用は特に筋肉の老化によるものに対して効果があります。

脳卒中、脊髄損傷、脳神経疾患による便失禁は、治すことができません。近年、末梢(まっしょう)神経の障害が原因と思われるものに対しては、神経の移植や人工肛門括約筋なども試みられていますが、まだはっきりした結論は出ていません。

予防対策は、まず便失禁が減るように排便をコントロールすることです。特定の食べ物や飲料で下痢や水様便、軟便になりがちな人は、それらを控えるように注意します。水様便や軟便はどうしても漏れやすいですし、硬い便は肛門に無理がかかります。肛門に負担のかからない質のよい便が直腸に下りてくるように、運動や食事、場合によっては薬を使用して、根気強く便秘や下痢をコントロールすることも必要です。

また、便秘で刺激性下剤を服用している場合は、塩類下剤(酸化マグネシウムなど)に変更して下痢や軟便にならないようにコントロールします。普段から下痢や軟便が多い人は、便を固める作用のある止痢薬で有形便にコントロールすることも有効です。

排便後しばらくして失禁する場合は、排便のたびに座薬や浣腸(かんちょう)を使用し、直腸内の残便をなくすように試みることが有効な場合もあります。突然の便失禁に対しては、一時的に便の排出を抑える肛門用タンポン(アナルプラグ)を使用するのも一つの方法です。

🇸🇨肺MAC症

結核菌以外の抗酸菌であるMAC菌によって引き起こされ、肺などに病変ができる疾患

肺MAC(まっく)症とは、結核菌の仲間の抗酸菌の一つであるMAC菌によって引き起こされ、肺などに病変ができる呼吸器感染症。非結核性抗酸菌症と呼ばれる呼吸器感染症の一種です。

非結核性抗酸菌症は、結核菌と、らい菌以外の抗酸菌によって引き起こされ、肺などに病変ができる呼吸器感染症で、非定型抗酸菌症とも呼ばれます。

抗酸菌とは、結核の原因である結核菌の仲間を指し、水中や土壌など自然環境に広く存在して、酸に対して強い抵抗力を示す菌です。結核菌よりもかなり病原性が低く、健康な人では気道を介して侵入しても通常は速やかに排除されて、ほとんど発症しません。

結核と症状が似ているために間違えられることもありますが、結核と非結核性抗酸菌症の大きな違いは、人から人へ感染しないこと、疾患の進行が緩やかであること、抗結核剤があまり有効でないことなどがあります。

非結核性抗酸菌症の原因は通常、非結核性抗酸菌(マイコバクテリウム)と呼ばれる抗酸菌で、約150種類が知られており、人に病原性があるとされているものだけでも10種類以上あります。

日本で最も多いのはマイコバクテリウム・アビウム・イントラセルラーレ、略してMAC菌で、約80パーセントを占めます。次いで、マイコバクテリウム・カンサシーが約10パーセントを占め、その他が約10パーセントを占めています。

肺MAC症に代表される非結核性抗酸菌症はリンパ節、皮膚、骨、関節など全身どこにでも病変を作る可能性があるものの、結核と同様、最も病変ができやすいのは肺です。発症様式には2通りあり、1つは体の弱った人あるいは肺に古い病変のある人に発症する場合、もう1つは健康と思われていた人に発症する場合です。

感染系路として、MAC菌など非結核性抗酸菌の吸入による呼吸器系からの感染と、非結核性抗酸菌を含む水や食物を介する消化器系からの感染があると見なされています。

自覚症状が全くなく、胸部検診や結核の経過観察中などに偶然、見付かる場合があります。症状として最も多いのは咳(せき)で、次いで、痰(たん)、血痰、喀血(かっけつ)、全身倦怠(けんたい)感など。進行した場合は、発熱、呼吸困難、食欲不振、やせなどが現れます。一般的に症状の進行は緩やかで、ゆっくりと、しかし確実に進行します。

結核の減少とは逆に、肺MAC症など非結核性抗酸菌症の発症者は増えてきており、確実に有効な薬がないため、患者数は蓄積され、重症者も多くなってきています。特に、気管支を中心に病変を作る肺MAC症は中年以降の女性に増えていますが、近年は若年者にも見付かっています。新規の発症者は年間、8000人から1万人に上るとみられています。

肺MAC症は、浴室が主な感染源になっている可能性が高いことが明らかになっています。お湯を循環させる追いだき口、浴槽にためた水、浴室の排水口、シャワーヘッドの表面や内側でもMAC菌が見付かっています。

症状に気付いたら、呼吸器科の医師、あるいは内科、呼吸器内科、感染症内科の医師を受診するのがよいでしょう。

肺MAC症の検査と診断と治療

呼吸器科などの医師による診断は、胸部X線やCTなどの画像診断を糸口とします。非結核性抗酸菌症で最も頻度の高い肺MAC症は、特徴的な画像所見を示します。異常陰影があり、喀痰(かくたん)などの検体からMAC菌を見付けることにより、診断が確定されます。

ただし、MAC菌などの非結核性抗酸菌は水中や土壌など自然環境に広く存在しており、たまたま喀痰から排出されることもあるので、ある程度以上の菌数と回数が認められることと、臨床所見と一致することが必要です。

2008年に肺MAC症の診断基準が緩やかになり、特徴的画像所見、他の呼吸器疾患の否定、2回以上の菌陽性で診断できることになっています。菌の同定は、PCR法やDDH法などの遺伝子診断法により簡単、迅速に行われます。

肺MAC症などの非結核性抗酸菌症と最も鑑別すべき疾患は、結核です。そのほか、肺の真菌症、肺炎、肺がんなども重要です。

呼吸器科などの医師による治療は、結核に準じて行われます。非結核性抗酸菌の多くは抗結核剤に対し耐性を示しますが、治療に際しては、菌によって効果があるので、まずは抗結核剤をいくつか併用します。

最も一般的なのはクラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトール、ストレプトマイシンの4剤を併用する方法です。この方法による症状、X線像、排菌の改善率は、よくても50パーセント以下にすぎません。治療後、再び排菌する例などもあり、全体的な有効例は約3分の1、副作用の出現率も3分の1程度あります。

薬剤は結核の時よりはるかに長期間服用する必要があり、確実に有効な治療法がないので患者数は増え、進行例が増えてきているのが現状です。完全に治すことは難しく経過観察が必要ですので、肺MAC症などの非結核性抗酸菌症と診断された場合には、通院不要と判断されることはありません。自覚症状がないまま悪化する場合もあるので、症状がなくても通院を中断せず、最低数カ月から半年に1度は受診することが大切です。

症状が特に強く、肺病変が著しい場合には、肺切除などの外科療法が行われます。

生活は普通通りにできますし、人から人へ感染しないので、自宅で家族と一緒に生活してもかまいません。糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病がなければ、特に食事の制限もありません。

水中や土壌など自然環境に存在している非結核性抗酸菌が感染するということは、体が弱っている、すなわち免疫が落ちていることが考えられますので、過労を避けつつ適度な運動を心掛けて、体力を増強させるような生活が望まれます。

自宅内ではMAC菌などの住み着きやすい風呂場、シャワーヘッドなどを清潔に保つように留意します。地震に備え、水を浴槽にためる人が増えましたが、少なくとも肺MAC症の人はしないほうがよく、浴室を掃除する時はマスクをしたほうがよいでしょう。MAC菌などは乾燥に弱いため、浴室を乾燥させるのもお勧めです。

🇸🇨廃用症候群(生活不活発病)

体を動かさない状態が続くことが原因で、全身の機能が低下する障害

廃用症候群とは、長期の安静で体を動かさないことによって二次的に起こる、全身の機能低下の総称。廃用とは使わないという意味で、廃用症候群は生活不活発病とも呼ばれます。

高齢者や、持病のために安静が必要な人に起こりやすく、寝たきり状態や入院などが切っ掛けとなることが多くみられますが、災害時の避難生活でも多発することから、東日本大震災発生後、厚生労働省などは注意を呼び掛けています。

症状としては、歩行、食事、入浴、洗面、トイレなど身の回りの動作が不自由になり、家事や仕事、趣味やスポーツ、人との付き合い、電話やメールで連絡をとるなどの日常活動も低下します。

健常な人でも体を動かさないでいると、意外に早く筋力が落ちたり、関節が固まるなど運動器官の機能低下がみられます。安静による筋力低下は1週目で20パーセント、2週目で40パーセント、3週目で60パーセントにも及び、1週間の安静によって生じた筋力低下を回復するには1カ月かかるともいわれています。特に高齢者では、その範囲が大きく、進行が早くなります。

体を動かさなくなり、頭も使わなくなったために起こる機能の低下は、筋肉や関節だけではなく、全身のいろいろの臓器に生じてきます。抑うつ状態、仮性痴呆(ちほう)、偽痴呆などの精神や知能の障害、床擦れ、廃用性骨委縮(骨粗鬆〔こつそしょう〕症)、起立性低血圧、静脈血栓症、沈下性肺炎、尿路結石、尿閉、尿失禁、便秘などが、主な障害として挙げられます。

「年のせい」と思いがちな、いろいろな動作の不自由や体力の衰えが、実はこの廃用症候群によるということも多いのです。また、「病気のため」と思っていることに、実はこの廃用症候群が加わっていることも多いのです。

廃用症候群はいったん起こると悪循環に陥りやすく、機能の回復には相当の時間を要するため、治療よりも予防のほうが大切です。すなわち、動かして起こるリスクより安静にして起こるリスクのほうが高いことを認識し、動くことで心身の機能低下を予防しなければなりません。家族や周囲が早期に気付けば、積極的に体を動かさせることで機能の改善、回復も見込めます。

体を動かす用事や機会を増やしながら、自然に体や脳を活性化させたり、腰や脚など下半身の筋肉を保ったりすることが大切。外出する意欲を持てるよう仲間を作るのもよいでしょう。

より進行した高齢者に対しては、トイレまで歩きやすいよう手すりを設置したり、シルバーカーを利用したり、介助者が手を引くなどの方法もあります。ひざの痛みがあるとかがみにくいので、トイレを和式でなく洋式にすると使いやすくなります。

高齢者の介護では、特に寝たきりでいることによって起こる廃用症候群を防ぐことが大切であるといわれています。それぞれの症状や環境に応じて、安全に配慮しながら工夫を心掛けることです。

🇸🇨パイロニー病

陰茎の皮膚の下に硬いしこりができる疾患

パイロニー病とは、陰茎の皮膚の下に硬いしこりができる疾患。陰茎形成性硬結症、陰茎硬化症、ペロニー病、ペイロニー病とも呼ばれます。

30~50歳代の男性に多く、陰茎海綿体を包む白膜(はくまく)という結合組織に、線維性のしこり(硬結)ができます。しこりは陰茎の陰嚢(いんのう)と反対側の面にできることが多く、すじ状のものから板状で骨のようなものまで、さまざまな形があります。

勃起(ぼっき)すると陰茎がしこりのある方向に曲がり、疼痛(とうつう)が起こることもあります。曲がり具合にもよりますが、十分な勃起が得られず、パートナーとの性交に支障を来すこともあります。

平常時は痛くもかゆくもなく、しこりそのものは無害と考えられ、自然によくなることもあります。

詳細な原因は、まだよくわかっていません。慢性陰茎海綿体炎、糖尿病、痛風、外傷などとの関連が疑われています。

また、手のひらや指の腱膜(けんまく)の肥厚と収縮によって、主として小指や薬指が次第に曲がって変形するデュプイトラン拘縮という疾患が、パイロニー病に合併して起こることがあります。デュプイトラン拘縮は北欧系の白人に多く、日本人には比較的少ないものの、中年すぎの50~60歳での発症が時々みられ、5対1の割合で男性に多く、半数以上は両手に起こります。

パイロニー病らしいと思い当たり、性生活に支障を来すようであったり、ほかの疾患、例えば陰茎がんなどとの見極めが困難な場合は、泌尿器科などの医師に相談することが勧められます。

パイロニー病の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、特徴的なしこり(硬結)の症状の視診、触診で確定できます。以前に外傷や炎症などがあったかどうかが、参考になります。パイロニー病ががんになることはありませんが、がんによるしこりと区別するために、しこりの一部を切除して組織検査を行うこともあります

パイロニー病に特に有効な根本的な治療法は、現在のところありません。勃起障害の原因となったり、痛みが起こる場合には、超音波治療、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の局所注射ないし内服、コラーゲン分解酵素の局所注射、ビタミンEの内服、ヘパリン類似物質や非ステロイド系消炎鎮痛薬の軟こうの塗布などが試みられますが、あまり有効ではないようです。痛みが起こる場合には、放射線照射が有効とされています。

性交渉に障害が出るような場合、本人が希望すれば手術を行うこともあります。陰茎海綿体を包む硬化した白膜を切除し、欠損部には皮膚の移植をします。ただし、手術後の瘢痕(はんこん)組織が硬化して、手術前より悪化することがあります。

🇲🇺歯ぎしり

睡眠中に歯をこすり合わせたりする習癖

歯ぎしりとは、睡眠中に上あごと下あごの歯をこすり合わせたりする習癖。歯には、咬耗(こうもう)と呼ばれる歯が擦り減った跡が見られます。

歯ぎしりの仕方には、歯をこすり合わせるほか、歯をカチカチ合わせる、歯をくいしばるという3タイプがあります。

上下の歯をこすり合わせるのが一般的で、下のあごが左右に素早く動いた状態を繰り返し、ギリギリ、ガリガリという音が出ます。この動きは、起きていて意識がある時に再現するのは難しく、無意識に早く、大きく動かしている人が多くみられます。

歯をカチカチ合わせるのは、下のあごが上下に素早く動く状態を繰り返し、上下の歯をぶつけ合うので、カチカチ、カンカンといった音が出ます。軽くカチカチ当てる人から、強く当てる人までさまざまです。

歯をくいしばるのは、あごに力を入れて上下の歯をギュッと強くかみ締めた状態で睡眠していて、音はほとんどしません。自分の体重ほどの力で、無意識にかむ人もいます。起床時にあごの疲れを感じたら、このタイプの歯ぎしりが疑われます。

3タイプの歯ぎしりを全部する人もいますし、人によってさまざま。いずれにせよ、歯ぎしりは歯や体の健康にとってあまりいいものではありません。

周囲の人にとっても、夜中に隣で寝ている人にギリギリ、ガリガリ、カチカチ、カンカンと大きな音を立てられると、たまったものではありません。目が覚めたら最後、不快な音が気になってなかなか寝付けなくなってしまうでしょう。ところが、歯ぎしりをしている当の本人は、音をさせながらもスヤスヤと夢の中にいます。

自分自身が立てている音に気付かないのは、だれもが睡眠中は感覚器の伝達経路が遮断されているためです。起きている時は、音は筋肉から脊髄(せきずい)を通り脳へと伝えられますが、睡眠中はこの回路が全く働かなくなるため、脳はすぐそばのあごで起こっている歯ぎしりの音を感知できなくなるのです。

つまり、周囲にいるほかの人から注意されない限り、自分自身の歯ぎしりに気付くことはほとんどないでしょう。ほとんど音を発することなく、ギュッと歯をかみ締めるタイプの歯ぎしりは、他の人に気付かれることも少ない一方、あごの痛みで目を覚ます人も中にはいます。

日中に上下の歯が接触している時間は、食事の時間がほとんどで、累積は約15分といわれています。睡眠中の夜間の歯ぎしりにおいては、最長90分程度接触しているといわれています。日中の数倍の時間というだけでなく、夜間の歯ぎしりによって歯にかかる力は日中の数倍、または数十倍ともいわれています。

歯ぎしりの原因として、精神的ストレス、肉体的ストレスとの関連が指摘されているほか、歯のかみ合わせが悪い人にもよくみられます。継続的に起こるケースが危険なので、特に歯のかみ合わせが問題視されます。

歯のかみ合わせが悪い原因としては、あごの筋肉の緊張がアンバランスとなっていることが挙げられます。例えば、虫歯があって歯が痛い時や虫歯治療の金属冠の高さが不適合な時、歯を抜いた後ほったらかしにしたりすることでかみ合わせがおかしくなっている時は、あごの筋肉の緊張がアンバランスになっているといえます。

精神的ストレス、肉体的ストレスから起こっている場合は、寝ている間に歯ぎしりすることによって、日常の不安や憂うつを発散させているのです。かみ合わせに問題がない場合は、今ストレスを抱えていないか、よく考え、なるべくストレスを回避することが大切です。

大人だけでなく、子供も同じようにストレスが要因で 歯ぎしりをすることもあるようです。自分の子供が歯ぎしりをしたら、かみ合わせだけでなく、何かストレスに感じていることはないか考えてみましょう。

激しい歯ぎしりが続くと、単に眠りの妨げになるばかりでなく、 歯が擦り減る、歯周組織が損傷する、知覚過敏症になる、外骨腫(がいこつしゅ)が起こるなどのダメ−ジを受ける恐れもあります。知覚過敏症とは、歯の根元が擦り減ったようにえぐれて、水などがしみる疾患です。外骨腫とは、歯の回りの骨が異常に突出する疾患です。

また、肩凝り、あごの痛み、あごのだるさ、目の奥の痛み、偏頭痛や顎(がく)関節症を引き起こすこともありますし、耳鳴りがする、熟睡できないなど自律神経失調症による体の異変が現れることもあります。

最も気を付けたいのは、睡眠時無呼吸症候群と関連が深い点です。この睡眠時無呼吸症は、歯ぎしりの直後に頻発することが確認されており、眠っている間に呼吸が停止する結果、脳が酸欠状態となり、突然死を引き起こすこともあります。

歯ぎしりが気になったら、なるべく歯科医と相談し、それぞれに合った治療法を探すことが大切です。

歯科医による治療法としては、歯のかみ合わせの調整、マウスピースの装着、精神的ストレスの緩和、自己暗示療法などが挙げられます。薬局などで手軽に購入できるマウスピースも、種類が豊富にあります。

🇲🇺白衣高血圧

白衣高血圧とは、病院や診療所で医師が測る外来血圧のほうがふだんの血圧より高くなって、軽い高血圧と診断されるレベルまで上昇してしまうことです。

白衣高血圧の人は、病院という非日常的な環境に緊張してしまうようです。緊張すれば、血管が収縮して、血圧が一時的に上がります。とりわけ、医師や看護士の白衣がきっかけになると考えられるので、白衣高血圧と呼ばれるのです。

病気ではなく一種の現象ですから、積極的に治療しなくても、脳卒中や心筋梗塞といった高血圧性臓器障害にはつながらないとされていますが、将来、本当の高血圧になりやすいとの報告もあります。減塩など生活習慣の見直しは、心掛けたほうがよいでしょう。

🇲🇺白色便性下痢症

冬季に乳幼児の間で流行し、白っぽい水様便が続く腸炎

白色便性下痢症とは、冬季に乳幼児の間で流行し、白っぽい水様便が続く腸炎。ロタウイルス腸炎、ロタウイルス下痢症、乳児嘔吐(おうと)下痢症、仮性小児コレラなどとも呼ばれます。

オーストラリアのビショップが1975年に発見したロタウイルスの感染が原因となって、11〜3月ごろまでの乾燥して気温が5℃以下になる寒い時期に、乳幼児が発症します。生後6カ月から2歳までが好発年齢であり、発症すると重症化しやすくなります。

発展途上国では乳児死亡の主な原因の一つに挙げられていて、医療が発達した先進国でも1歳未満の乳児には恐ろしい疾患です。保育所、幼稚園、学校などで集団発生することもありますが、多くは感染経路が明らかではありません。

3カ月未満では母親からの免疫で守られ、3歳以上の年齢層では発病しても一般には軽症です。

症状としては、1日に数回から十数回の下痢が5~7日続き、酸っぱい臭いの、白っぽい水様便が出ることが特徴です。便が白っぽくなるのは、ロタウイルスが感染して胆汁が十分に分泌されなくなるためです。時には、白くならずに黄色っぽい便のままのこともあります。

発病初期には吐き気、嘔吐を伴うのが普通ですが、通常、半日から1日で落ち着きます。軽い発熱と、せきを認めることもあります。

下痢の回数が多いと、脱水症状が現れます。その兆候としては、ぐったりしている、機嫌が悪い、顔色が悪く目がくぼんでいる、皮膚の張りがない、唇が乾燥しているなどが挙げられます。まれですが、けいれん、脳症、上方の腸管が下方の腸管の中に入り込む腸重積(じゅうせき)、腎(じん)不全を伴うことがあります。

脱水症状の兆候が認められたり、けいれんなどほかの症状が認められたら、できるだけ速やかに小児科、ないし内科の医師を受診することが、体力のない乳幼児にとって大切なことです。

白色便性下痢症の検査と診断と治療

小児科、ないし内科の医師の診断は、症状と便中のロタウイルスの検出により確定します。イムノクロマト法を利用した迅速診断検査薬で、10分以内にロタウイルスを検出できます。

人に感染するロタウイルスにはA、B、C群があり、A群以外は頻度は少ないものの、一般の検査試薬では検出できません。しかし、B群は以前に中国で流行したものの日本ではみられませんし、C群による腸炎は主に3歳以上の年長児や成人にみられ、A群のような大規模な流行はほとんどなく、流行散発例あるだけです。C群は、最も感度が高い電子顕微鏡検査で検出します。

脱水の状態は、排尿があれば尿中のアセトン体の有無および量で推定します。血液中の電解質を調べることもあります。

白色便性下痢症には、特効薬はありません。小児科、ないし内科の医師による治療では、嘔吐を伴う時期には絶食、絶飲が行われます。嘔吐に対しては、鎮吐(ちんと)剤を使用することもあります。

嘔吐、吐き気が治まると、下痢による脱水症状を改善するための対症療法が行われます。まず、経口補水液をこまめに与えます。すぐに嘔吐するようであれば、入院して点滴をしなければなりません。また、外来で点滴だけを受けることもできます。

嘔吐がなければ、経口補水液の量を増やしていきます。動物性蛋白(たんぱく)質、脂肪に富むミルクや牛乳をこの時期に与えると、ウイルスの攻撃を受けて弱っている腸に負担がかかって吐きやすい上、下痢が長引く恐れがありますので控えます。母乳の蛋白質、脂肪はミルクや牛乳のそれよりも吸収されやすいため、少しずつなら与えても差し支えありません。

さらに野菜スープを与えることへと進め、経口摂食が可能であれば、少量で回数を多くした食事を与えます。腸にかかる負担が最も少ないのは、重湯、おかゆ、うどん、パンなどのでんぷん類です。年齢的にミルクが主たる栄養源で、離乳が進んでいなくて下痢が著しい時には、ミルクを薄めたり、大豆から作ったミルクや牛乳の蛋白質を加水分解したミルクを勧めることもあります。

止痢(しり)剤は原則として使わず、ラックBやビオフェルミンなどの生菌製剤を用います。ロタウイルスの再感染は多く、免疫は生涯できませんが、多くは重症にならずに済みます。

乳幼児の世話をする人は、便とオムツの取り扱いに注意が必要です。ロタウイルスは感染力が強く、下痢便中に大量に排出されるウイルスなので、便に触った手から口に感染することがほとんどのため、せっけんを使って十分に手洗いをし、漂白剤や70パーセントアルコールの消毒液で、オムツ交換の場所や周辺をふきましょう。オムツ交換の場所に、おねしょパッドやバスタオルを敷いておくと、布団までを汚さずに済みます。

予防のためには、予防接種が最も良い対抗手段となります。日本でも2011年11月よりロタウイルスワクチンが認可されましたので、乳児には接種を受けることが勧められます。予防ワクチンには、ロタリックス、ロタテックの2種類があり、生後6週から接種できますが、ヒブや小児用肺炎球菌など他のワクチンとの同時接種を考えて、生後2カ月からが最適です。

🇰🇲白癬(はくせん)

白癬菌と呼ばれる一群の真菌が皮膚に感染

白癬(はくせん)とは、皮膚糸状菌が皮膚に感染して起こる疾患。皮膚糸状菌の多くは、白癬菌と呼ばれる一群の真菌(カビ)です。

白癬菌は高温多湿を好み、ケラチンという皮膚の蛋白(たんぱく)を栄養源とするため、足の裏、足指の間などが最も住みやすい場所になります。白癬は発症部位によって、頭部白癬、顔面白癬、須毛(しゅもう)部白癬、体部白癬、股部(こぶ)白癬、陰嚢(いんのう)白癬、手白癬、足白癬、爪(そう)白癬などに分けます。

●頭部白癬(しらくも)、ケルスス禿瘡(とくそう)

頭部に生じる白癬。しらくもでは、頭皮がカサカサして毛が抜けてきます。頭の毛の中に深く菌が入るとケルスス(ケルズス)禿瘡という深在性白癬になり、うみ、しこりを伴うようになって、放置すると瘢痕(はんこん)、難治性の脱毛を生じます。ケルスス禿瘡は、子供が犬や猫と遊んで移ったイヌ小胞子菌により生じることがしばしばあります。

●体部白癬(ゼニたむし)

生毛部にでき、表皮に限局する浅在性白癬で、被髪頭部、手のひら、足の裏、陰嚢、陰股部を除く部位の白癬をいいます。ステロイド薬を外用している人に多く、原因菌は猩紅色(しょうこうしょく)菌であることが多いのですが、近年、犬猫に寄生しているイヌ小胞子菌による発症者が増えています。

生毛部に比較的強いかゆみを伴う輪状に配列する発疹(はっしん)で、小水疱(すいほう)、紅色小丘疹からなります。中心にはフケ状のものが付着し、疾患が治ったようにみえるので、これを中心治癒傾向があると表現します。

股部白癬ほど皮膚が硬くも厚くもならず、色素沈着も強くありません。イヌ小胞子菌の場合は感染力が強く、露出部に小型の輪状疹が多発します。

●股部白癬(いんきんたむし)

頑癬(がんせん)ともいい、太ももの内側(陰股部)にできる浅在性白癬です。夏季に、男性に多くみられ、時に集団発生することもあります。原因菌は、大部分が猩紅色菌ですが、まれに有毛表皮糸状菌によることもあります。

中心治癒傾向がある境界鮮明な輪状の湿疹様の形で、激しいかゆみがあります。中心部の皮膚は厚く硬くなり、色素沈着がみられ、辺縁は紅色丘疹が輪状に配列、融合して、堤防状の隆起を形成します。陰股部のほか、臀部(でんぶ)に生じやすく、まれに下腹部にまで及ぶこともあります。

●足白癬(水虫)

足にできる浅在性白癬で、最も頻度の高い真菌症です。主に、足の裏に小水疱ができる小水疱型汗疱型、足の指の間にできる趾間(しかん)型、足底全体に角化のみられる角質増殖型に分類されます。小水疱型は、足底や足縁に小水疱や紅色丘疹ができるか、または皮がむけ、強いかゆみがあります。趾間型は、足の指の間の皮がむけ、白くふやけたようになります。第4指と第5指の間によく発症します。角質増殖型は、足底全体の角質が厚くなり、皮がむけ、あかぎれも生じます。

●爪白癬(爪の水虫)

足白癬を放置していると、白癬菌が爪(つめ)を侵し、爪白癬になります。爪にできることはまれと従来いわれていましたが、最近の統計によると足白癬を持つ人の半分が爪白癬も持っていることがわかりました。高齢者に多くみられます。

爪の甲の肥厚と白濁を主な特徴とし、自覚症状はありません。まれに、爪の甲の点状ないし斑(まだら)状の白濁のみのこともあります。陥入爪(かんにゅうそう)の原因の一つにもなりますが、一般にカンジダ症と異なり、爪の爪囲炎の合併はまれです。

白癬の検査と診断と治療

医師による白癬の検査では、ふけや水疱部の皮膚、爪、毛を水酸化カリウムで溶かし、溶けずに残る白癬菌を顕微鏡で観察する方法が一般的で、皮膚真菌検査と呼ばれます。 時には、培養を行って、原因菌の同定を行うこともあります。手足に水ぶくれがみられ、原因が明確になっていない汗疱との区別が、白癬の検査では必要とされます。

治療法としては、白癬菌を殺す働きのある抗真菌薬の外用が一般的です。手足では4週間、そのほかは2週間で症状が改善しますが、皮膚が入れ替わる数カ月間の外用が必要です。広範囲のもの、抗真菌薬でかぶれるもの、爪白癬、ケルスス禿瘡では、内服療法を行います。

爪白癬の場合、少なくても3〜6カ月間の内服が必要です。肝臓に負担がかかることもあるため、肝臓の弱い人は内服できません。内服中は1カ月に1回、肝機能検査を行います。ケルスス禿瘡の場合、頭のしらくもをかぶれと間違って副腎皮質ステロイド薬を塗っているうちに、症状が進展して生じる場合も多いといえます。ステロイド薬を早急に中止することが必要です。

生活上で白癬に対処する注意点を挙げると、真菌(カビ)は高温多湿を好むので、その逆の状態にすることが必要です。すなわち、蒸さない、乾かす、よく洗うといったことです。足白癬(水虫)の場合、ふだんから足の清潔を心掛けることは予防のためにも大事です。家族で他に水虫の人がいたら、一緒に治療することが必要です。白癬菌は共用の足ふきから移ることが最も多いため、足ふきは別々にします。

🇰🇲剥脱性口唇炎

唇の皮が繰り返して、はがれ続ける疾患

 剥脱(はくだつ)性口唇炎とは、唇が乾燥して皮がめくれたり、はがれたり、赤くなったり、ひび割れたり、かさぶたがみられたりする疾患。難治性で、症状が繰り返し出現し、治るまでに時間がかかることも少なくありません。

 原因ははっきりしませんが、自分の舌で唇を繰り返しなめる、もしくは自分の手指で唇の皮をむしるなどの物理的な刺激による炎症と考えられています。大人より子供のほうが舌で唇をなめる機会が多く、子供がかかりやすい口唇炎であることから、別名で「舌なめずり口唇炎」あるいは「落屑(らくせつ)性口唇炎」と呼ばれることもあります。

 唇が乾燥している状態であり、舌で唇をなめると唾液(だえき)で一時的に潤ったように感じられますが、舌なめずりのような刺激が繰り返し加わることで、唇の油分が減り、唾液に含まれる消化酵素が乾燥を助長し、唇の皮膚の表層にある角質層がはがれやすくなります。その結果、皮膚のターンオーバー(新陳代謝)が早まり、角質層が正常に形成されないため、外部からの刺激や異物の侵入から守ったり、内側に蓄えている水分が逃げないようにしたりする皮膚のバリア機能が失われた状態となります。

 唇は極度に乾燥し、それによってさらに舌なめずりを繰り返すことで、症状が悪化するという悪循環を生じます。唇の皮がめくれたり、はがれたり、赤くなったり、ひび割れたり、かさぶたがみられたりするほか、出血などの症状がみられるようになります。また、口角に亀裂(きれつ)が入ったり、唇の内側の皮がむけたりするなど周囲の皮膚にまで炎症が波及することもあります。唾液や飲み物などの刺激によって、ヒリヒリ感、痛み、かゆみを生じることもあります。

 特に冬季などの空気が乾燥した時期に、剥脱性口唇炎は起こりやすくなります。

 剥脱性口唇炎は時に大人にもみられ、栄養不足、ビタミンの欠乏、精神的な背景なども原因になることもあります。

 感染症による口唇炎を伴うケースもあり、唇に水疱(すいほう)ができるものはヘルペスなどのウイルス感染、白い苔(こけ)のようなものが唇に付着するものはカンジダなどによる真菌感染、ただれが強いものは細菌感染が考えられ、強い痛みやはれ、発熱などが現れることもあります。

剥脱性口唇炎の検査と診断と治療

 皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、剥脱性口唇炎と確定するためには、アレルギー性の接触性口唇炎、いわゆる、かぶれを除外することが必要です。かぶれの原因として、食べ物や口紅、リップクリーム、歯磨き粉、治療で使用している外用薬などが考えられるので、これらに対しパッチテストを行い、かぶれかどうかを判断します。

 また、口の中にいる一般的なカビであるカンジダや細菌、ウイルスなどの感染を伴うこともあり、それぞれ治療法が異なるので、検査を行います。
剥脱性口唇炎と同じような症状を示す特殊な疾患として粘膜苔癬(たいせん) があるので、この疾患を除外するために、唇の組織を一部切り取って顕微鏡で調べる生検を行うこともあります。

 皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、ワセリンなどの保湿剤を使用し、炎症が強い時はステロイド剤(副腎〈ふくじん〉皮質ホルモン剤)や非ステロイド剤の外用薬を使います。また、栄養バランスに気を付け、ビタミン、特にビタミンB2、B6を補うことも治療の一つとなります。

 感染症による口唇炎を伴っている場合には、抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬など、それぞれの病原体に適した塗り薬や内服薬を使用します。

 精神的な原因が背景にある場合には、抗うつ剤の内服薬の使用で改善するケースもありますが、無意識のうちに舌で唇をなめたり、皮をむしったりしてしまうことがあって、治りにくくなるので、ストレスをためないなど日常生活を工夫することも大切です。

🇰🇲剥脱性皮膚炎

全身の皮膚が赤くなり、皮膚表面の角質がはがれる状態

剥脱(はくだつ)性皮膚炎とは、全身の皮膚が赤くなり、皮膚表面の角質が細かい糠(ぬか)状に、あるいは、うろこ状にはがれる鱗屑(りんせつ)を伴う状態を指します。疾患名というよりも一種の症候名であり、紅皮症とも呼ばれます。

通常、かゆみがあります。全身症状として、発熱、悪寒や震えなどの体温調節障害、リンパ節のはれ、全身の倦怠(けんたい)感、体重減少などを伴います。

この剥脱性皮膚炎は、それぞれ原因の異なる皮膚病に続いて発症します。アトピー性皮膚炎、乾癬(かんせん)が悪化して起こることがあるほか、天疱瘡(てんぽうそう)、扁平苔癬(へんぺいたいせん)、毛孔性紅色粃糠疹(ひこうしん)などが全身に広がって起こります。菌状息肉症、セザリー症候群などの皮膚の悪性リンパ腫(しゅ)や、慢性リンパ性白血病でも生じます。

また、薬疹などの中毒性紅皮症もあり、乾燥した皮膚が不適切な治療により、次第に全身の皮膚に変化を起こしていく老人性紅皮症のようなものもあります。

症状や経過は、さまざまです。中毒性紅皮症や老人性紅皮症では、治療によっては比較的短期間に、軽快する場合もあります。悪性リンパ腫などによって起こる場合は、予後が悪くなります。特に、再発を繰り返す場合は、次第に衰弱して合併症を起こし、死亡することもあります。

剥脱性皮膚炎の検査と診断と治療

皮膚科専門医を受診して原因をよく調べ、それに合った治療を受けることが必要です。

皮膚科では、どの疾患がもとにあって剥脱性皮膚炎を発症したのかを調べます。病変部の皮膚を数ミリ切り取って調べる病理組織検査である皮膚生検は、もとの疾患が何かを知る上で有用です。

剥脱性皮膚炎に共通する血液検査所見として、白血球数、好酸球数、LDH(乳酸脱水素酵素)がいずれも増加します。また、剥脱性皮膚炎では有棘(ゆうきょく)細胞がんの腫瘍(しゅよう)マーカーであるSCCが血液中に増加しますが、がんの心配はありません。

剥脱性皮膚炎では全身の皮膚が侵され、症例によっては予後不良になる場合もあるため全身管理が重要であり、原則入院治療が行われます。その上で、湿疹や皮膚炎に続発する剥脱性皮膚炎には、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の外用と、抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤の内服が有効です。脱水予防のための輸液なども行われます。

乾癬に続発する剥脱性皮膚炎には、エトレチナート(チガソン)の内服、PUVA療法(紫外線照射)、高濃度ビタミンD3含有軟こう(ボンアルファハイ軟こうなど)の外用が行われます。

薬疹による中毒性紅皮症では、原因薬剤を中止し、副腎皮質ステロイド薬の外用、時に内服が行われます。悪性リンパ腫による剥脱性皮膚炎では、PUVA療法や電子線照射が行われます。

🇷🇪白内障

眼球の中の水晶体の混濁による視力障害

「白そこひ」と通称される白内障は、眼球の中の水晶体の濁りによって、視力障害を起こしている状態です。

 水晶体というのは、凸レンズ形の透明体で、よく人間の目に例えられるカメラでいえば、レンズに相当する部分です。位置しているのは、眼球中の黒い部分である瞳(ひとみ)の後ろ。直径9mm、厚さ4mm。中身は、蛋白質と水分から構成され、周辺部の「皮質」と中心部の「核」に分かれています。そして、この水晶体は膜に包まれていて、膜の前面が「前嚢(ぜんのう)」、後面が「後嚢(こうのう)」と呼ばれています。 

 正常な水晶体は透明で、光をよく通します。しかし、さまざまな原因で水晶体を構成する蛋白質が変性して、白く濁ってくるのが、白内障です。

 水晶体が濁ると、光がうまく通過できなくなったり、光が乱反射して、眼球の中にあって視神経の分布している網膜に鮮明な像が結べなくなり、視力が低下します。 

 さまざまな原因で起こる白内障の中で、最も多いのは加齢によるものであり、これを「老人性(加齢性)白内障」と呼んでいます。個人差はあっても、誰でも年をとるにつれ、水晶体は濁ってきます。老人性白内障は一種の老化現象ですから、高年齢の人ほど多く発症します。

 最近では、アトピー性皮膚炎や糖尿病などの合併症として、若い人の発症が増えています。そのほか、母親の胎内で風疹(ふうしん)に感染するなどが原因で、生まれつき白内障になっているケースや、目のけがや薬剤の副作用から白内障を起こすケースもあります。

 目の中の水晶体の濁り方は一人ひとり違うため、白内障の症状はさまざまです。

 「目がかすむ」のが主症状ですが、次のような

1、「かすんで見える」

2、「まぶしくなる」、「明るいところで見えにくい」

3、「一時的に近くが見えやすくなる」、「眼鏡が合わなくなる」

4、「二重、三重に見える」

 といった症状があれば、白内障の疑いがあります。

 白内障だけでは、痛みや充血はありません。また、水晶体の濁り方は一人ひとり異なりますが、水晶体の周辺部の皮質から濁りが始まるケースが多く、中心部の核が透明であれば、視力は低下しません。また、白内障の初期には、視野の中心は正常に見えるために、気が付かないこともあります。

 濁りが中心部に広がると、「まぶしく感じる」、「目がかすむ」、「霧の中にいるようにぼやける」ようになります。中心部の核から濁り始めると、「一時的に近くが見えやすくなる」ことがあり、その後「目がかすむ」ようになります。

白内障の種類と原因

◆先天性白内障

 生まれつき水晶体に濁りのある人は、少なくありません。けれども、その濁りがひどくて、視力に影響の出るような白内障の人は、2000~3000人に1人くらいと見なされています。

 先天性白内障の原因としては、妊娠初期における母親の風疹への感染のほか、遺伝などが考えられます。親側の予防策としては、家族に先天性白内障のある人同士の結婚は避けること、妊娠初期の健康に注意することなどが大切です。

 普通、症状は進行しませんが、まれに進行する場合もあります。医師による治療法としては、手術で混濁した水晶体を取り出すか、混濁が一部である場合には、瞳の周りにある虹彩(こうさい)を切り、透明な部分まで瞳を広げるなどの処置が施されます。

 手術をしても、片側の目だけの先天性白内障では、視力はあまりよくなりません。ほかの合併症のない両眼性のケースでは、正常な視力を得ることも珍しくありません。

◆老人性(加齢性)白内障

 老人性白内障というのは、中年以後に起こる白内障で、原因のはっきりしないものを指します。50歳以上の人の視力障害では、原因の大半を占めています。視力障害は、水晶体の濁りが広がって瞳にかかるようになると、起こってきます。

 60代では60パーセント、80代ではほとんどの人が、発症しています。また、70歳以上の人では、その数パーセントが手術を必要とする程度の白内障になっている、と見なされています。特定の予防策はありませんが、全身状態を健康に保つことが大切です。

◆併発白内障

 併発白内障とは、全身的疾患、あるいは目にほかの病気があることが原因となって、生じる白内障を指します。

 原因となる病気には、ぶどう膜炎、緑内障手術後、網膜色素変性症などの目の病気、アトピー性皮膚炎、糖尿病、手足の筋肉が強直するテタニー症などの全身疾患があり、放射線の影響や、ある種の薬物投与などによる副作用として起きてくる場合もあります。治療法は、老人性白内障と同じです。

◆外傷性白内障 

 外傷性白内障とは、外傷によって直接、水晶体を傷つけたり、打撲などで間接的に水晶体に障害を受けて、生じる白内障を指します。治療法は、手術以外にはありません。 

白内障の治療と手術

◆手術前の検査 

 日常生活に支障がない程度であれば、点眼薬や内服薬により、白内障の進行を遅らせます。これらの薬剤は、水晶体が濁るスピードを遅くするもので、症状を改善したり、視力を回復させることはできません。薬物療法にははっきりした効果が認められていないのが、現状なのです。

 点眼薬を使用する際の注意点は、「点眼回数と量を守ること」、「容器の先が、まぶたやまつげに触れないようすること」の二点です。

 白内障が進行して、日常生活に不自由を感じるようであれば、手術を受けることを考えましょう。「視力が低下して、仕事に支障がある」、「外ではまぶしくて、極端に見えづらい」、「視力が0.7以下になって、運転免許の更新ができない」といった時に相当しますが、手術の時期は自身が不便を感じて、「手術して治したい」と思った時です。医学的には、いつでもよいのです。

 ただし、目の手術を受ける場合は、全身状態が手術の結果に影響をおよぼします。事前に全身の検査をして、高血圧や糖尿病などがある際は、十分に全身管理を行って、調子のよい時に手術を受けます。

 白内障以外の病気がある場合は、医師が手術方法を工夫したり、全身状態をみて手術の時期を決めます。手術を考える時は、医師とよく相談しましょう。

 白内障の手術を受ける前には、手術が問題なく行えるかを調べ、目に合う眼内レンズを選ぶために、さまざまな検査が行われます。眼内レンズは一カ所にピントが固定されているので、手術前に医師と相談して、自分のライフスタイルに合った度数を選んでもらうことが大切です。

 主な検査は、

1、視力、眼圧、屈折検査

2、眼底検査……網膜の状態を調べる

3、細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査……水晶体の濁りの状態を調べる

4、角膜内皮細胞検査……眼球の全面を覆う透明な膜である、角膜の内皮細胞が減っていないかを調べる

5、眼軸長検査……眼内レンズの度数を決める

6、問診、血液検査

 などで、水晶体の濁りが進行している場合は、網膜の電気的検査、超音波検査なども行われます。

◆手術

 一般的には、手術後の管理も含めて3~4日間ほど入院します。最近では、患者側の全身状態や手術後の通院に問題がなければ、日帰り手術を実施している施設もあります。

 日帰り手術には、手術する医師側、手術を受ける患者側に、いくつかの条件が必要となります。手術を行う医師は、手術後の容体に対して夜間でも敏速な対応ができ、適切なアドバイスが可能でなくてはなりません。

 日帰り手術を受ける患者は、「通院できる人」、「重篤な合併症がない人」、「家族の協力が得られる人」などが条件となります。日帰り手術を希望される場合は、担当する医師とよく相談してください。

 現在、白内障の手術は主に、超音波水晶体乳化吸引術によって、濁った水晶体を超音波で砕いて取り出し、人工の眼内レンズを入れるという方法で、九割以上が行われています。白内障が進行して、核が固くなっている場合は、水晶体嚢外摘出術によって、水晶体の核を丸ごと取り出すこともあります。

 超音波水晶体乳化吸引術においては、

1、眼球を3mm切開し、水晶体の前嚢を切り取る 

2、水晶体の核と皮質を超音波で砕き、吸引して取り出す。後嚢と、水晶体の位置を固定している水晶体小帯(チン小帯)は残す

3、残した後嚢の中に、眼内レンズを挿入する

 といった処置がとられます。

 挿入する眼内レンズは、直径6mmほどで、後嚢に固定するためにループがついています。眼内レンズをいったん挿入すれば、取り替える必要はありません。

 手術は、局所麻酔で行われます。手術時間は目の状態にもより異なりますので、担当医師にお尋ねください。手術を受ける時は、医師を信頼し、不安にならずに精神的安定を心掛けましょう。目の手術というと怖いイメージがありますが、白内障の手術は進歩し、材質のよい眼内レンズも開発されているので、安心して手術を受けてください。

◆手術後の注意点 

 白内障の手術直後は、「目が充血する」ことがあります。また、「目がゴロゴロする」、「涙が出る」、「目がかすむ」などの症状が出ることもあります。これらの症状は、数日から1~2週間で治まります。

 手術後1~3カ月は、手術で起きた炎症を抑え、感染を防ぐために、医師の指示どおりに点眼薬を使用します。

 手術の翌日からでも、疲れない程度に目を使ってもかまいません。ただし、挿入した眼内レンズには、ピントを合わせる調節力がないので、眼鏡が必要になります。手術後2週間~2カ月頃には、視力が回復し安定してくるので、この時期に自分の視力に合った眼鏡を作ります。

 術後の見え方で、色調の違和感やまぶしさを感じることがあります。色調の違和感は次第に慣れていきますが、まぶしさが続くようであれば、症状を緩和させるために色付きの眼鏡の使用をお勧めします。

 仕事への復帰は早い時期にできますが、本人の全身状態や仕事の種類などによって違ってくるので、医師に相談してください。手術後の注意点としては、「入浴や洗顔は1週間くらい避ける」、「 目を押したり、こすったりしない」、「 転ばない、ぶつけない」がポイントです。 

 白内障の手術後、数カ月~数年して、また「まぶしくなる」、「目がかすむ」ことがあります。「後発白内障」といわれるもので、手術の際に残しておいた水晶体の後嚢が濁ってくるために起こります。

 後発白内障は手術の必要がなく、レーザーを使って簡単に濁りを取ることができます。視力はすぐに回復し、入院の必要もありません。

🇷🇪白斑

母乳による育児中の女性の乳頭にできる、白いニキビのような出来物

白斑(はくはん)とは、授乳中の女性の乳頭(乳首)にできる、白色でニキビのような出来物。

女性の乳頭にある乳管開口部である乳口(にゅうこう)に炎症が起きた乳口炎の初期症状として、白斑は母乳による育児中の女性の乳頭にできます。

白斑をもたらす乳口炎が起こる一番の原因は、乳頭が傷付くことです。乳児が効率よく母乳を飲むためには乳頭周辺を深くくわえる必要があるのですが、体勢がしっくりこない状態や添い寝で授乳をすると、乳児が乳頭周辺を浅くくわえてしまい、乳頭に余計な負担がかかって乳頭の先を傷付けることがあります。乳頭が傷付いて、そこから細菌が感染すると炎症が起き、乳口炎を引き起こします。

また、授乳中の女性が脂質や糖質の多い食事を続けていたり、過度なストレスがかかったりすると、母乳が詰まりやすくなり、乳口炎を引き起こすといわれています。

乳頭に水疱(すいほう)ができて、次第に1〜2ミリくらいの白いニキビのような白斑と呼ばれる出来物ができて、母乳の出口をふさぐのが、乳口炎の始まりです。初期は、乳頭が赤くなったり黄色くなったりすることがあります。

ただ、片方の乳頭に15~25個ある乳口のうち一部だけが詰まって、ほかの乳口は開通している状態なので、母乳の出具合にはあまり変化がなく、最初のうちは詰まっていることを自覚しにくい傾向があります。

その後、症状が進行すると授乳中に痛みを覚え、その時に初めて炎症が起きていることを自覚する場合がほとんどです。中には、血胞と呼ばれる血が混じったものが乳頭にできることもあります。

乳口炎は、原因を解消しない限り繰り返し発症することが多く、一度なってしまうと授乳中ずっと悩まされるという人も多いようです。

白斑の自己対処法

母乳の詰まりを解消しようと、水疱を針で刺してつぶそうとしたり、白斑を無理に取ろうとしたりする人がいますが、雑菌が入って炎症を悪化させる可能性があるため、やめておきましょう。

また、乳口炎になったために授乳をやめてしまう人がいますが、母乳がいっそう詰まって逆効果で、場合によっては乳管が炎症を起こす乳管炎や、乳腺(にゅうせん)が詰まって炎症を起こす乳腺炎を引き起こす危険性があります。

乳口炎の特効薬はありませんが、傷付いた乳口のケアと、母乳が詰まらないようにする適切な対処を行い、授乳を続けましょう。

傷付いた乳口の炎症を抑えるには、乳児の口に入っても大丈夫な口内炎治療薬のデスパコーワなどや、保湿剤のラノリン、スクワランやホホバや馬油(マーユ)などのオイルを毎回の授乳後、乳口に塗ってラップで押さえるのが、お勧めです。

母乳の詰まりを解消するには、乳児に乳頭をきちんと吸ってもらうための工夫を行いましょう。

まず、乳児が乳頭の根元からしっかりくわえられるような抱き方を探しましょう。また、いつも同じ抱き方はせずに、フットボール抱き、横抱き、斜め抱き、縦抱きなどいくつかの抱き方をローテーションで行うと、詰まっている乳口を吸ってもらえるようになります。

また、授乳間隔を空けないようにしましょう。間隔を空けすぎると母乳がたまって、乳房が張ってしまい、授乳時に乳口への負担が大きくなります。最低でも3時間に1回は授乳をして、乳児の昼寝などで間隔が長く空いてしまいそうなら、力をかけすぎないように搾乳(さくにゅう)をしておきましょう。

食生活を見直すのも効果的。母乳が詰まる原因につながる脂質や糖質の多い食事、乳製品は控え、できるだけ薄味の和食に慣れるのがお勧めです。ジュースやスポーツドリンクにも多くの糖分が含まれており、大量に飲むと、母乳の詰まる原因となります。水分量が減るのも母乳が詰まる原因につながるので、授乳期にはカフェインが少なめの麦茶や番茶などをたくさん飲むのがお勧めです。

乳房を温めるのも効果的。乳房が冷えて硬くなると、分泌される母乳や筋肉が冷えて出具合が悪くなります。ゆっくり風呂に入り、マッサージをして乳房を少し温めてから授乳すると、母乳の詰まりが解消されやすくなります。

ストレス解消も効果的。ストレスや疲れがたまると、体を緊張状態にさせ、乳口を収縮させて母乳の流れを滞らせます。夜の授乳で満足に睡眠が確保できない場合は、日中に乳児と一緒に昼寝をしたり、天気のよい日は散歩に出て気分転換したりするとストレス解消ができます。

乳口炎は、上手に授乳をすることができれば1週間程度で自然治癒するケースが多いのですが、痛いから、触るのが怖いからと放置しておくと、1カ月以上もつらい症状が長引くこともありますので、注意が必要です。

自分で改善できない場合は、乳房マッサージをしてくれる母乳外来や助産院に相談してください。

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 警察庁は、自宅で亡くなる1人暮らしの高齢者が今年は推計でおよそ6万8000人に上る可能性があることを明らかにしました。  1人暮らしの高齢者が増加する中、政府は、みとられることなく病気などで死亡する「孤独死」や「孤立死」も増えることが懸念されるとしています。  13日の衆議院...