2022/08/04

🇬🇫すじ爪

爪の甲の表面に縦方向、または横方向の線や溝が入っている状態

すじ爪(つめ)とは、爪の甲の表面に縦方向、または横方向の線や溝が入っている状態。

縦方向の線や溝が入っている状態は、爪甲縦条(そうこうじゅうじょう)ともいいます。横方向の線や溝が入っている状態は、爪甲横溝(そうこうおうこう)ともいいます。

手指や足指の爪の甲の表面に縦方向の線や溝が入る爪甲縦条は、誰にでも認められるもので、10歳代、20歳代ではほとんど目立ちません。老化現象の一つとして、加齢とともに滑らかだった爪の甲の表面に線や溝が目立つようになり、40歳以上ではすべての爪の甲に100パーセント現れ、50歳代くらいからは増加します。年齢によって、縦方向の線や溝の数も隆起の程度も異なります。

加齢とともに縦方向の線や溝が増える原因は、胃腸の働きが衰え始めるとともに、爪に十分に栄養素がゆき届かなくなるためです。特に亜鉛不足の場合は、線や溝が現れやすくなります。

>若い人でも、食事での栄養バランスの偏りやダイエットなどで、爪に必要な蛋白(たんぱく)質、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、ビタミンBなどの栄養素不足になった場合は、爪に線や溝が現れます。妊娠を切っ掛けに、線や溝が現れることもあります。

また、冬の季節に空気が乾燥すると、爪も肌と同じように乾燥し、線や溝が現れやすくなります。また、季節を問わず乾燥肌の人は、爪にも線や溝が現れやすくなります。

さらに、若い人でも、血液循環が悪い場合は、爪に線や溝が現れやすくなります。

高熱が出た時に爪に線や溝が現れることもあり、精神的ストレス、不規則な生活習慣が原因で、爪に線や溝が現れることもあります。

すじ爪になって、爪の甲の表面に縦方向の線や溝が入っている爪甲縦条になっても、老化現象の一つであったり、疾患のサインではなく健康上の問題はない場合がほとんどですので、心配することはありません。

一方、手指や足指の爪の甲の表面に横方向の線や溝が入る爪甲横溝は、爪甲縦条と違って、何らかの体の異常のサインであり健康上に問題がある場合もあるので、注意が必要です。

爪の甲に横に走る水平の線や溝、波打った線や溝ができるのは、爪の発育を抑えるような障害が爪を作り出す爪母に作用するためで、その障害の強さや期間によって深さや幅が変わってきます。非常に障害が強く加わると深くなり、期間が長くなると幅が広くなります。

初めに、爪半月(つめはんげつ)の外側の辺りに横方向の線や溝が現れ、爪の発育とともに先端に移動してゆきます。この線や溝は爪母に障害が加わってできるものですから、現れるのは障害が加わってから数週間後です。現在できている横溝の位置から、いつごろ障害が起こったのか推測することは簡単です。

爪は1カ月で3~4ミリのスピードで伸びていくため、爪の根元から3ミリくらいのところに線や溝が入っているとしたら、1カ月ほど前に何らかの体調の変化が現れたということになります。また、1本の爪に線や溝が2~3本同時に見られる場合は、正常な期間をおいて繰り返し障害が加わったと考えらます。

もしも、爪の線や溝ができる原因が全身性疾患によるのものであるなら、すべての爪の同じ場所に変化が見られます。一部の爪の変化の時は、爪母近くの皮膚の病変の影響が考えられます。 また、爪の根元にけがをしたり、マニキュアや薬剤によって爪母を傷付けた時に変化が見られることもあり、この時は爪の甲が凸凹になる場合もあります。

爪の線や溝が生じる原因となる全身性疾患としては、急性熱性疾患のほか、尿毒症、糖尿病、ビタミンA欠乏症、低カルシウム血症、亜鉛欠乏症などの慢性疾患が挙げられます。皮膚の疾患としては、湿疹(しっしん)、皮膚炎、円形脱毛症、乾癬(かんせん)などが挙げられます。

さまざま原因がある中で、最も多いのは高熱で発病して、1~2週間で治るチフス、猩紅(しょうこう)熱などの感染症や、中毒の場合です。慢性疾患では代謝異常による疾患が多く、疾患が一時的に悪化した後に現れ、線や溝は浅く幅が広いのを特徴とします。

皮膚の疾患で最も多いのは、手の湿疹。手の湿疹の大部分は水仕事の多い主婦によくみられて、治りにくい慢性的な湿疹であり、爪の周辺の病変が急激に悪化して爪母にまで広がった場合に、線や溝が生じます。これと同様な症状で、化膿(かのう)性爪囲炎(ひょうそう)やカンジタ菌による爪囲炎の時にも生じ、いずれも爪周辺の疾患が治れば自然に消えて行きます。円形脱毛症や乾癬の時には、点状のへこみと同時に線や溝も現れることがあります。

また、レイノー症状に伴って、線や溝が現れることもあります。手が冷たい水や風に触れた時に、指が白くなる現象がレイノー症状であり、若い女性に多くみられて、指の小さな動脈が一時的に狭くなって血液が流れにくくなるために起こります。指先に血液がゆかなくなると、爪の発育の障害になり、それが強く起こると線や溝が現れます。何度も繰り返してレイノー症状が起こると、一枚の爪に何本もの線や溝ができることもあります。

爪の甲の表面に横方向の線や溝が入る爪甲横溝は、体に異常が出ているシグナルかもしれません。すべての爪の同じ場所に変化が見られたり、1本の爪に線や溝が2~3本同時に見られる場合は、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診することが勧められます。

すじ爪の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、爪甲横溝を起こし得る外的物質や薬剤、あるいは皮膚疾患や全身疾患を検査します。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療は、原因に応じて行います。一般的には、爪の角質に浸透しやすい保湿剤やステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)をこまめに塗ったり、ビタミンEの飲み薬を使用する場合があります。

爪を作り出している爪母の損傷が原因で爪甲横溝を来している場合は、現在の医療では手当できないとされています。

栄養素不足が原因の場合は、まずは蛋白質、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、ビタミンB、さらにコラーゲン、野菜や海藻類に多く含まれるミネラル類など、爪に必要な栄養をしっかり摂取します。

マニキュア、薬剤、あるいは水仕事などが原因であれば、極力それらの使用を中止したり、使う機会を減らします。爪への負担が減るため、多くのケースでは自然に治ります。仕事などでどうしても薬剤、水、洗剤などを使わなくてはいけない場合は、手を保護するものを着用したり、使った後にハンドクリームなど油分の高いもので保湿ケアを行います。

爪の末梢循環不全が原因であれば、ステロイド剤を配合した塗り薬をこまめに塗ったり、末梢血管の収縮を防ぐビタミンEの飲み薬を内服します。医師による治療と並行して、血液循環をよくするために日ごろから、手足のマッサージ、爪もみを心掛けます。

一部の爪に爪甲横溝がみられる皮膚疾患があれば、その治療を行います。すべての爪に爪甲横溝がみられる全身性疾患があれば、その治療を行います。

🇬🇫すそ腋臭

陰毛部分から腋臭と同じような特有の臭いが発生する状態

すそ腋臭(わきが)とは、腋(わき)の下から発生する腋臭と同じような不快な臭(にお)いが、陰部から発生する状態を指す症状。陰部臭汗症、外陰部臭症、下(しも)腋臭、トベラと呼ばれることもあります。

腋の下、陰部、臍(へそ)の周囲、乳輪などには、アポクリン汗腺(かんせん)がたくさん分布しています。また、瞼(まぶた)、鼻、外耳道、肛門(こうもん)周囲などにも、分布しています。

このアポクリン汗腺は、性ホルモンの影響を受けているため、思春期ごろから発汗が盛んになります。アポクリン汗腺から分泌された直後の汗には臭いはありませんが、汗をかいたままほうっておくと、汗に含まれる脂肪や尿素、アンモニアなどの成分が皮脂腺から分泌される脂肪酸と混じり合い、皮膚の表面についている細菌によって分解されることにより、刺激のある特有な臭いを発するようになります。

ちなみに、人が一生を通じて出す汗のほとんどは、アポクリン汗腺以外のもう一つの汗腺であるエクリン汗腺から出る水分を主成分とする分泌物で、アポクリン汗腺からの分泌物とは異なります。このエクリン汗腺からの分泌物そのものには、ほとんど臭いはありません。しかし、エクリン汗腺も、アポクリン汗腺の臭いの発散にかかわっています。

部位に限らず、腋臭は疾患ではなく優性遺伝で起こることが多い体質的なものです。両親ともに腋臭だと、子供が腋臭になる確率は75パーセント以上、片方の親が腋臭でも50パーセント以上の確率で遺伝するといわれています。それは、臭いの原因となるアポクリン汗腺の数も遺伝するためです。

アポクリン汗腺は全身の至る部位に分布しているため、腋の下なら腋の下、陰部なら陰部と、どれか一部位で腋臭の臭いが強くなることもありますが、合併して起こることも多い傾向にあります。そのため、腋の下から発生する腋臭(腋臭〔えきしゅう〕症)で悩んでいる人は、陰部から発生するすそ腋臭も併発していることが多い傾向にあります。

性別の特徴としては、男性よりも女性に多くすそ腋臭がみられる傾向にあります。女性の場合、特に生理中にすそ腋臭が強くなることがあります。

また、性行為の際にも強くなることがあります。性的な興奮によって、アポクリン汗腺が刺激されるためで、特に性行為の後、すそ腋臭の臭いがきつくなることが多いようです。

世界的に腋臭体質者の割合を見ると、日本人では10人に1人、中国人では30人に1人、白人では10人に8人、黒人では10人すべてとされています。

このように日本人では腋臭体質者が少数派という事情と、日本人が清潔好きという理由があいまって、自分の腋臭の症状が気になって仕事や勉強に集中できない、恋人がつくれない、人に近付くのが怖いなどの悩みを持つ女性も、少なからずいるとされています。

すそ腋臭に気付いたら、陰部を清潔に保つことが大切です。汗をかいた後はシャワーや入浴で汗をよく洗い流し、清潔な下着にこまめに取り替えます。衣服や下着の上から使えるパウダースプレーや全身に使えるローションなどのデオドラント製品の外用も、ある程度効果があります。また、陰毛があると汗が付着して細菌が繁殖しやすくなるので、陰毛を切ったり脱毛すると、臭いを減らす効果があります。

ニンニクや唐辛子などの香辛料やアルコールなども、発汗を促すことで臭いの原因になります。肉類や卵、乳製品といった動物性蛋白(たんぱく)質と同様、摂取を控えることで臭いの軽減につながります。

セルフケアを行っても、すそ腋臭の臭いが改善されない場合は、皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科、美容外科を受診して相談することを考えてみてもよいのではないかと思われます。

すそ腋臭の治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科、美容外科の医師による治療としては、ビューホット治療、電気凝固法、ボトックス治療、手術療法などがあります。

ビューホット治療は、局所麻酔や無痛麻酔を行った後、陰部に細い針から出る高周波を当てて、アポクリン汗腺、エクリン汗腺を破壊することで、すそ腋臭の臭いを抑えるものです。通常の範囲であれば、20~30分程度で終わります。範囲が広い場合は、60分くらいかかることもあります。手術後は皮膚が少し赤くなる程度で、手術部の固定をする必要がないため、日常生活に制限がありません。1回ですそ腋臭が治るというメリットがあり、手術の翌日からシャワーを浴びることもできます。

電気凝固法は、局所麻酔の後、陰毛の毛根に沿って、針を挿入し、針に電気を流すことで、毛根周囲のアポクリン汗腺を破壊するものです。治療時間は20~30分程度で、通常3カ月おきに2回程度受けることで、効果が現れます。手術と比べ痛みはほとんどなく、治療後の日常生活にも支障はほとんどありません。ただし、治療によって陰毛は薄くなります。メリットは、効果が半永久的な点です。

ボトックス治療は、ボトックスという薬剤を注射して、神経伝達物質のアセチルコリンをブロックします。これにより、陰部の汗を抑えることが可能になります。1回の治療ですぐに効果が現れますが、5~6カ月ほどで効き目はなくなるため、すそ腋臭が完全に治るわけではありません。また、比較的軽度のすそ腋臭には効果が出やすいですが、かなり臭いがきつい場合は抑えられないこともあります。

臭いを抑える効果を強力にするため、ボトックス治療と一緒に、陰部のV(ビキニ)ライン、I(陰部の両側)ラインの脱毛を行うこともあります。陰毛の根元に細菌が増殖して臭いが発生するので、陰毛を少なくして細菌が増殖する環境をなくすことで、臭いのもとを絶つものです。

手術療法には、皮下組織削除法と超音波吸引法があります。

皮下組織削除法は、皮膚を切開して、臭いの根本であるアポクリン汗腺を切除する方法です。皮膚を数センチ切開した後、専用のローラーを皮膚表面に転がして、皮膚の裏側に粒状に並んでいるアポクリン汗腺をカミソリのような器具で切除します。手術後は、1週間ほど患部を固定します。効果が高いだけでなく、傷口が小さくすむのもメリットとされていますが、抜糸が終わるまでの数週間ほど入浴はできません。

超音波吸引法は、陰毛が生えている一番上の左右に、5ミリほど切り込みを入れ、そこから超音波メスを挿入して動かしていきます。超音波により発生した熱でアポクリン汗腺を破壊し、吸引します。

せっかく手術をしてもアポクリン汗腺が取り切れなかったり、皮膚にダメージを与えてしまうことがあることから、手術を勧めなかったり、行わない医師も多いようです。

🇬🇾スタルガルト病

20歳以前に発症し、視力障害を起こしたり、失明したりする遺伝性の疾患

スタルガルト病とは、眼球内部の網膜にある黄斑(おうはん)が変性を起こして、視力障害を起こしたり、失明したりする遺伝性の疾患。スターガルト病、シュタルガルト病、黄色斑眼底、斑状網膜症候群などとも呼ばれます。

ドイツの眼科医、カール・スタルガルトが1901年に初めて報告したことから、この疾患名が付けられました。しかし、現時点でも治療法は見付かっていません。

若年性の黄斑変性では最も多いか最も一般的な疾患であり、通常、常染色体劣性の遺伝形式で受け継がれ、20歳以前に発症します。学童期から10歳代に矯正視力の低下を切っ掛けに発見されることが多く、眼鏡でもコンタクトレンズでも補正できない視野の中央の暗点は最も早い症状です。症状が進むにつれて、黄斑が変性、委縮して、さらに視力が低下します。

その黄斑とは、光を感じる神経の膜である網膜の中央に位置し、物を見るために最も敏感な部分であるとともに、色を識別する細胞のほとんどが集まっている部分。網膜の中でひときわ黄色く観察されるため、昔から黄斑と呼ばれてきました。この黄斑に異常が発生すると、視力が低下し、また、黄斑の中心部にある中心窩(か)という部分に異常が発生すると、視力の低下が深刻になります。

スタルガルト病では、黄斑部の網膜色素上皮または網膜深層に、円形または類円形のリポフスチンといわれる黄白色の不規則な斑点が蓄積される結果として、黄斑が変性し、さらに委縮性の病変となります。

両方の目の視野の中央に進行性の欠損が起きて暗点ができますが、周辺視野にはほとんど影響が出ません。夜間や暗い場所での視力が著しく衰え、色を感知する機能が衰えることもあります。

進行性の疾患ですが、個人によって進行速度は異なり、視力が著しく低下して失明に至るケースがある一方で、30歳代になっても良好な視力を維持しているケースもあります。

スタルガルト病の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、両眼対称性であること、進行性であること、家族にかかった人がいること、薬物や感染症など外因がないことなどが重要な手掛かりになります。フルオレセイン蛍光眼底検査、網膜電図などの電気生理学的検査も、診断を確実にするには必須です。黄斑部の網膜色素上皮に異常を起こすABCR遺伝子が突き止められているので、この遺伝子の検索も決め手になります。

スタルガルト病には有効な治療法は見いだされていませんので、視力の大幅な低下を避けることはできません。発症者の網膜に漏出点があればレーザー光凝固の処置が行われますが、それは欠けた視野を戻すのではなく、さらなる悪化を避けるだけです。

症状に応じて、遮光眼鏡、弱視眼鏡、拡大読書器、望遠鏡などの補助具を使用することが有用で、周辺視野と残った中心視を活用できます。その他のリハビリテーションも重要です。

いつの日か、先端的医療の進歩が根本的な治療法を可能にすることが期待されていますが、弱視学級や盲学校での勉学、職業訓練など、将来を見通して現実的に対応することが有益でしょう。

🇬🇾心臓神経症

心臓の異常が見付からない心の病

心臓神経症とは、心臓病によくみられる胸痛、動悸(どうき)、息切れ、呼吸困難、めまいなどの循環器症状を示しているにもかかわらず、心臓を検査しても器質的、機能的な異常が何も見付からないものをいいます。

その際、胸痛などの症状のほかに、手足のしびれ、疲れやすい、頭痛、不眠、不安など、多彩な症状を伴うのが普通です。心臓病というよりはむしろ、心の病気というほうが正しいといえます。別名は、神経循環無力症。

なお、心臓に何らかの病変がある場合は、器質的心臓病といいます。相当するのは、心筋梗塞(こうそく)や弁膜症、先天性心臓病など。また、器質的な病変はないが、心臓の働きに異常があって症状が出る場合は、機能的心臓病といいます。相当するのは、多くの不整脈や貧血に由来するものなど。

症状の現れ方の特徴

心臓神経症の症状として、ほとんどの人が胸痛を訴えます。胸の痛みは一見、狭心症や急性心筋梗塞の症状と似ていますが、よく調べると、多くの点で性質に違いがあることがわかります。

心臓神経症で感じる胸痛は、「ズキズキ」とか「チクチク」と表現されるようなもので、左胸の狭い範囲に痛む部分が限られていて、手で圧迫すると痛みが強くなるという点が特徴です。この痛みは、運動したり、興奮したりしている時ではなく、一人で静かにしている時におおかた現れます。持続時間が長いのも特徴の一つで、長い時は1日中続くこともあります。狭心症で使う硝酸薬も効きません。

心臓神経症で感じる息切れも、心不全の場合と違って、「息が詰まる」、「息が十分に吸えない」、「ため息が出る」などの症状が、運動時よりもむしろ安静時に生じます。

心臓神経症の呼吸症状の中で、過換気症候群を伴う場合もあります。若い女性に多く、浅くて速い過呼吸のために、急性呼吸性アルカローシスを起こして、血液中の炭酸ガス(二酸化炭素)が少なくなるために、しびれやめまい、失神を生じるものです。

感じる動悸は、心臓のリズムが増加する洞性頻脈がほとんどで、不安や心配などの精神的緊張によって起こります。頻脈を強く意識し、心配すると、余計に脈は速くなるという悪循環に陥ります。多少の不整脈(期外収縮)、まれに発作性上室性頻拍を伴った時も、同じことです。

下地にある心臓病に対する不安

この心臓神経症は、神経症的な素因や体質を持っている人、とりわけ無力性体質の人に、起こりやすいと見なされています。人間の体は神経系の働きによって、うまく平衡が保たれ、恒常性を維持するとともに、運動、発熱などにうまく対応していますが、無力性体質の人は神経系の働きが十分でなく、わずかな体の変化や周囲の変化についてゆけず、易疲労感や動悸、息切れなどの症状が現れます。

また、子供から手が離れ、暇な時間ができたために自分の体の状態が気になるようになった女性、親しい人を心臓病で亡くして、心臓病や突然死に対して恐れや不安を抱いている人などにも、よく起こります。

発症の原因としては、心臓病に対する極度の不安感、心身の過労、ストレス、精神的葛藤(かっとう)などが考えられます。不安感、過労などは心臓の働きを活発にする交感神経を刺激しますので、心拍数が増え、動悸を強く感じたりします。一度こうした症状を感じると、その不安が徐々に大きくなるにつれて、胸痛、呼吸困難、めまいなど、より大きな症状を感じるようになってしまうのです。

心電図検査で、ささいで意味のない変化や、心配する必要のない不整脈を指摘されたことがきっかけとなる場合も、少なくありません。

原因を調べる医師による検査と治療

内科、神経内科などの医師による治療においては、まず一般的な心臓病の検査を行い、心臓の病気の有無を判断します。さらに、胸膜の病気や食道けいれんなど胸痛の原因となる病気の有無について調べ、それらが除外されて初めて心臓神経症と診断されます。

胸痛発作を強く訴える人で、狭心症との区別が難しい場合には、ニトログリセリン舌下錠を処方して、胸痛発作が起きた時に服用してもらい、その時の薬の効き具合をみることで診断する場合もあります。

心臓神経症の原因は心の問題なので、症状が起こる仕組みをよく説明して納得してもらうと同時に、症状を引き起こしている原因が何であるのかを調べ、それに対するアドバイスをします。

症状が強い場合には、心臓の働きを抑えるβ(ベータ)遮断薬や精神安定薬が処方されることもあります。

これらの治療を行っても症状が続く場合には、心療内科や精神神経科の医師の診察が必要になります。

🇬🇾心臓ぜんそく

夜間に起こる発作性の呼吸困難

心臓ぜんそくとは、心臓病による急性心不全によって起こる発作性の呼吸困難です。心臓性ぜんそくとも呼ばれます。他の心疾患により発症するもので、心臓ぜんそくのみを発症することはありません。

心臓のポンプ機能のうち、左心室の肺から血液を吸い上げる力が低下することで、肺の静脈内が充血する、うっ血が起こり、酸素交換が悪くなることから呼吸困難になります。

最も多い原因は、急性心筋梗塞(こうそく)などの虚血性心疾患です。ほかの原因としては、拡張型心筋症、心臓弁膜症、高血圧性心疾患、重症な先天性心疾患などがあります。

急性心筋梗塞では突然に発症することが多いのですが、その他の心疾患では慢性に続いている心不全が急速に悪化して急性心不全になることがあり、慢性心不全の急性増悪と呼ばれます。このような場合は、心不全を悪化させる誘因が働きます。

誘因として多いのは、風邪などの感染症、ストレス。不整脈、暴飲暴食、薬の飲み忘れ、不適切な薬の投与、甲状せん機能高進症、貧血、妊娠などが誘因になることも、しばしばあります。

発症したら救急病院への入院を

発症は就寝して1~2時間後の夜間に多く、突然、呼吸困難の発作が起こったり、気管支ぜんそくや慢性気管支炎と似たヒューヒュー、ゼーゼーと咳き込む、息苦しい状態の発作が起こります。主に左心の不全によるもので、肺うっ血のために気管支が圧迫されることが原因です。

さらに悪化した場合や、急性左心不全の時は、もっと激しい症状が出ます。突然、呼吸困難になり、横になって寝ることができず、上半身を起こした姿勢で楽になります。

同時に、咳(せき)と痰(たん)が出ます。泡のような痰で、肺水腫(すいしゅ)を合併した時にはピンク色になります。唇が紫色になり、手足は冷たく、全身に冷や汗をかきます。脈が速くなり、動悸を訴えることがあります。

心臓ぜんそくを発症したら、一刻も早く、専門医のいる救急病院に入院することです。呼吸の状態が悪い場合は、救急車による搬送を依頼し、緊急の場合には仰向けになると症状が悪化するため、上半身を起こした姿勢で救急車を待ちましょう。

同時に行われる診断と治療

心臓ぜんそくの症状は呼吸困難ですが、原因は心臓の疾患にあるため、治療は心臓に対するものが主体です。

治療は一刻を争うため、診断と治療は同時に行われます。まず行われる検査は、胸部X線検査、心電図、心エコー(超音波)検査、血液検査です。

まず、酸素吸入を始め、うっ血をとる利尿薬、心室の負担を減らす血管拡張薬、心室の筋肉の収縮を強める強心薬を投与します。呼吸の状態が非常に悪い場合は、補助循環器や気管内挿管を利用して人工呼吸を行います。利尿とともに呼吸は楽になります。同時に、原因となる急性心筋梗塞や不整脈に対する治療が行われます。

退院後は、医師の指示に従って安静の程度を守り、内服治療を継続します。再発予防のためには、食塩と水分の過剰摂取や飲酒は避け、過食に気を付け、休養と睡眠を十分に取ります。

また、医師と相談して、可能な範囲で応急処置の準備をしておくとよいでしょう。

🇫🇰心臓突然死

心臓疾患による予期しない突然の病死

心臓突然死とは、心臓疾患による予期しない突然の病死のことであり、症状が出現してから死亡するまでの時間が24時間以内のものを指します。

突然死は、予期しない突然の病死全体のことであり、症状が出現してから死亡するまでの時間が24時間以内の内因死を指します。けがや交通事故などの外因死は除きます。日本では年間約10万人の突然死があり、就寝中が最も多く、次いで入浴中、休養・休憩中、排便中に多く起こっています。

年間約10万人の突然死があるうち、約6万人が心臓の異常が原因となる心臓突然死です。この心臓疾患による突然死は頻度が最も高く、症状出現から死亡までの時間が1時間以内となることもあり、ほかの突然死と区別して心臓突然死と呼びます。心臓疾患に次いで脳血管系疾患、呼吸器疾患、消化器疾患などが、突然死の原因として続きます。

心臓突然死を引き起こし得る代表的な疾患としては、心筋梗塞(こうそく)、拡張型心筋症、肥大型心筋症、QT延長症候群、ブルガダ症候群が挙げられます。

心筋梗塞は、心臓突然死の中で最も多い原因となる疾患です。心臓に栄養を送る冠動脈と呼ばれる血管の通り道が狭くなったり、閉塞(へいそく)したりすることで、その血管が栄養を送る領域の心筋が壊死(えし)してしまいます。

心筋梗塞によって壊死した心筋が運悪く破裂すると、心破裂と呼ばれる状態になり、ほとんどの場合、救命できません。

心筋梗塞で突然死してしまう最大の原因は、心室細動と呼ばれる不整脈です。これは、血管の梗塞部位や範囲にかかわらず、心筋梗塞発症から数時間以内に起こり得ます。心臓で血液を送り出している心室が小刻みに不規則に震える細動を伴って、全身に血液を送ることができなくなってしまうため、突然死してしまうのです。

拡張型心筋症は、多くの場合、原因は不明なのですが、心臓の内腔(ないくう)が大きく拡張し、心筋の収縮能力が著しく低下して、全身に十分な血液を送れなくなる心不全に陥ってしまう疾患です。30~40歳代と中年男性に多くみられ、家族性と認められる場合が20%ほどあります。

症状としては、動悸(どうき)、息切れ、呼吸困難などがあります。突然死の原因としては、心筋梗塞と同様、心室細動が主です。家族や親族の中に、若年で突然死や心不全を起こした人がいる場合、この疾患の可能性があるので、注意が必要です。

肥大型心筋症は、心筋が肥大して心臓の内腔が狭くなり、心臓を十分拡張させることができず、全身に十分血液を送れなくなる疾患です。この疾患の約50%は、家族性です。症状は、軽いものから重いものまでさまざまです。

突然死は、軽症を含むどの段階からも発生します。「失神を繰り返す」、「家族の中に突然死した人がいる」、「30歳未満で肥大型心筋症を発症した」場合は、激しい運動をすると危険な不整脈が出現して突然死につながってしまうこともあるため、注意が必要です。

QT延長症候群は、心電図上QTと呼ばれる部分が正常よりも延長しているために、心筋細胞の電気的な回復が延長することにより起こる疾患です。原因としては、遺伝子異常や、抗不整脈薬などの薬剤、血液中のミネラル異常などが挙げられます。疾患といってもそれ自体では症状はありませんが、多形性心室頻拍という特殊な不整脈を生じることがあり、この不整脈が心室細動に移行し、突然死の原因となります。

多形性心室頻拍を起こす誘因として、水泳や目覚まし時計のアラーム、安静・睡眠などが代表的です。この疾患は基本的に無症状なので、多くは健康診断で見付かります。

ブルガダ症候群は、若年から中年の男性に多く、また日本や東南アジアに多くみられます。原因は遺伝子異常が多く、20~30%で突然死の家族歴が認められます。普段は軽度の心電図異常しかみられず、心臓超音波検査でも心臓に異常は見当たりませんし、狭心症や心筋梗塞の兆候もありません。

夜間の睡眠中や食後の安静時などのリラックスした状態の時に突然、心臓けいれんともいえる心室細動が出現して、何の兆候もなく失神を起こします。立っていたり、座っていると、その場に転倒します。心室細動のほかに、発作性心房細動が出現することもあり、突然死に至る場合があります。

🇫🇰心臓弁膜症

心臓に4つある弁の開閉障害

心臓弁膜症とは、何らかの原因により心臓弁膜に障害が起こって、開閉運動に支障を来し、血液を送り出す心臓のポンプとしての機能が十分でなくなった状態をいいます。

障害の種類として、弁が癒着して完全に開かなくなり、弁口が狭くなったために血流障害の起こるものを狭窄(きょうさく)といい、弁が完全に閉じないために、いったん押し出した血液の一部が逆流するものを閉鎖不全といいます。

心臓には左心房、右心房、左心室、右心室の4つの腔(くう)がありますが、それぞれの出口に逆流を防ぐために付いているのが僧帽(そうぼう)弁、三尖(さんせん)弁、大動脈弁、肺動脈弁という4つの弁膜ですので、合計で8種類の弁膜症が存在することになります。

僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁狭窄症、三尖弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、肺動脈弁狭窄症、肺動脈弁閉鎖不全症です。なお、2つ以上の弁に障害が起こっている場合を連合弁膜症といいます。

心臓弁膜症の原因には、先天性と後天性があります。先天性の場合は、弁の枚数や形態の異常によるものが大部分。後天性の原因として多いのはリウマチ熱による心内膜炎ですが、最近ではリウマチ熱は減り、これによる心臓弁膜症はかなり減少しています。ほかには、細菌性の心内膜炎、梅毒性の心内膜炎、動脈硬化症、僧帽弁逸脱症などがあります。

症状は、弁膜の障害の程度や、障害を起こしている弁の種類によって、それぞれ異なります。

全般的に、初期では自覚症状はありませんが、病気が進むと呼吸困難、息切れが現れます。さらに、下肢のむくみ、夜間頻尿、腹部膨満感が起こります。

弁の種類によって異なる症状

僧帽弁狭窄症では、僧帽弁が十分に開かないため、左心房から左心室へ送られる血流が障害されます。その結果、左心房の血液がたまり、左心房に血の固まりである血栓が形成されやすくなります。また、肺にも水がたまり、心不全につながります。重症の場合、半身不随になったり、腰痛と血尿が現われ、足部の壊疽(えそ)が起こったりします。

僧帽弁閉鎖不全症では、僧帽弁が完全に閉じないため、左心室から大動脈へ送られる血液の一部が左心房へ逆流します。適切な量を大動脈へ送り出そうとする左心室に負担がかかり、心肥大を来します。進行すると、心不全につながります。

大動脈弁狭窄症では、大動脈弁が十分開かないため、左心室から大動脈へ送られる血流が障害され、左心室への負担が大きくなります。そのため、送り出される血液の量も少なくなり、心筋も酸素不足となります。

大動脈弁閉鎖不全症では、大動脈弁が完全に閉じないため、大動脈へ押し出した血液が再び、左心室へ逆流します。そのため、左心室への負担が大きくなり、心肥大が起こります。進行すると、心不全につながります。

その他、三尖弁、肺動脈弁の障害では、右心不全の状態になり、むくみが出現し、ひどくなると肝臓のはれ、腹水がたまるという状態になります。

内科的治療と外科的治療

軽症のうちの心臓弁膜症は自覚症状がほとんどないために、風邪や健康診断の際の聴診で、心雑音を指摘されて発見されることが少なくありません。

医師による診断は、心雑音の聴診のほか、心電図、心音図、胸部X線検査、心エコー(超音波)検査で行われます。

最近は心エコー検査が非常に進歩し、ほとんどの弁膜症を生体を傷付けることなく診断したり、重症度を判定したりすることができます。この心エコー検査には、胸の上から行う通常の方法と、胃の内視鏡のように食道から行う方法があります。

また、心手術の前には、心臓カテーテル検査が必要になることもあります。

医師による治療は、薬物による内科的治療と外科手術とに大きく分けられます。

軽症のものは、特別な治療の必要はありません。過労や精神的ストレス、暴飲暴食を避けるなど、日常生活が過激にならないようにする程度で大丈夫です。

心不全の症状が現れたら、安静にして食塩の制限をするとともに、心筋の肥大や拡張、線維化などを防ぐ薬が使われます。弁膜症では弁の故障のため、左心房など心臓の4つの腔に負担がかかり、負担のかかった状態が長く続くと、その腔の壁である心筋に肥大、拡張などが起こってくるからです。

症状が重くなるにつれ、心臓の負担をとるために、血管を広げて心臓に戻ってくる血液の量を減らす血管拡張薬や、体内の余分な水分を尿として体の外に出してしまう利尿薬などが使われます。心臓の収縮を強めるために、ジギタリスなどの強心薬が使われることもあります。

安静時にも症状があったり、胸水やむくみがひどい時には、入院して利尿薬の静脈注射やカテコラミン製剤の点滴などを行います。

手術による治療では、弁の変形の程度によって方法が選択されます。弁の変形が軽い場合には、壊れた部分だけを修復する弁形成術が行われます。この弁形成術の一つとして、弁の狭窄では弁が十分に開くようにする交連切開術が行われることがありますが、これを手術ではなく心臓カテーテルの技術を応用して行うのが、バルーンによる弁形成術です。

この治療法は、バルーン付きカテーテルを弁の位置まで進めて、バルーンを膨らませることによって、弁の狭窄を取り除こうとするもの。胸を開く手術に比べ簡単にすみますが、弁の変形の仕方や程度によっては不可能なこともあり、また弁逆流を生じさせてしまうことがあるなどの問題点もあります。

狭窄でも閉鎖不全でも、弁の変形の程度が強い場合には、壊れた弁を人工の弁に取り替える弁置換術が行われます。この人工弁には、人工的素材だけの機械弁と、生体構造物で作る生体弁があり、種々の形状のものがあります。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...