2022/08/10

🇧🇫脳動静脈奇形

一種の血管の奇形で、くも膜下出血や脳内出血、てんかんを起こす疾患

脳動静脈奇形とは、脳血管が形成される妊娠初期の胎児期の異常により、毛細血管が作られずに動脈と静脈が直接つながった先天性の疾患。一種の血管の奇形で、遺伝する疾患ではありません。

脳を栄養する血液は、動脈、毛細血管、静脈の順番で流れます。毛細血管は細かく枝分かれしており、脳へ栄養分や酸素を送り、老廃物や二酸化炭素を回収しています。ところが、脳動静脈奇形では毛細血管がないので、本来は血管が細かく広がって分散される動脈血液が、高い圧力のまま直接静脈に流れ込み、非常に速い血流がナイダスと呼ばれる異常な血管の塊を少しずつ大きくすることがあります。

ナイダスは体のどこにでもできますが、脳の内部、脳の表面、硬膜など脳にできたものが脳動静脈奇形です。脳動静脈奇形の血管は、正常な血管に比べて壁が弱く破れやすいため、脳出血、くも膜下出血を起こして死亡、または重い後遺症を生じることもあります。

また、毛細血管を通過しない血液は、脳との間で栄養分や酸素、老廃物や二酸化炭素の交換ができないため、脳が正常に働けなくなります。このため脳動静脈奇形の発生場所や大きさによっては、てんかん発作や認知症状で見付かることがあります。

約40~80パーセントは、脳動静脈奇形が破裂して、くも膜下出血あるいは脳出血の症状を起こします。脳動静脈奇形の出血は、動脈からではなく、静脈性出血である場合が多く、脳動脈瘤(りゅう)の破裂に比べると程度は軽いと考えられますが、出血量が多い場合は、より重症で死亡する例もあります。小さい脳動静脈奇形のほうが出血しやすいと見なされています。

脳動静脈奇形が破裂する頻度は毎年人口10万人当たり1人と、脳動脈瘤破裂の約10分の1ですが、好発年齢は20~40歳と20年近く若く、男性が2倍近く多いなどの特徴があります。

約20~40パーセントは、けいれん発作で発症します。体の一部にけいれんが見られ、次第に範囲が広がっていくジャクソン型けいれんが多いのですが、突然意識を失い、全身のけいれんが起こり、数十秒程度続く大発作も少なくありません。けいれんは、出血とは逆に、大きい脳動静脈奇形でよく見られます。

脳動静脈奇形のために毛細血管を通らない血液があっても、若いころは動脈硬化が強くないので、周りの正常血管が脳に血液を送り、脳の働きは正常であるのに対し、加齢に伴って動脈硬化が進行すると、脳が血流不足になりやすいため、精神症状、認知機能低下、手足のまひ、頭痛などを起こすことがあります。

発症者の脳動静脈奇形がいつ破裂するかの予測は、現在の医学水準では不可能です。しかし、10年、20年という単位で考えると、脳動静脈奇形が出血して重い後遺症をもたらす可能性は高いと考えられるので、早期に神経内科、ないし脳神経外科の専門医の診察を受けることが勧められます。

脳動静脈奇形の検査と診断と治療

神経内科、脳神経外科の医師による診断では、造影剤を使った頭部CT、あるいは頭部MRIで確定できます。手術をするには、脳血管撮影で流入動脈、流出静脈を詳しく調べる必要があります。てんかん発作がある人には、脳波検査を行います。

医師による治療の原則は、外科手術による動静脈奇形の全摘出です。実際には年齢、性別、脳動静脈奇形の部位、大きさ、合併症などによって手術をするかどうか決められます。手術を行う場合は、全身麻酔で頭の皮膚を切って頭蓋(ずがい)骨を開き、手術顕微鏡を使って脳動静脈奇形に到達し、異常血管と正常血管の境界部分を金属製のクリップなどで止血して、脳動静脈奇形を摘出します。

手術が困難であるような発症者には、血管内治療による塞栓(そくせん)術や、ガンマナイフによる放射線治療も行われています。血管内治療による塞栓術では、局所麻酔で細いカテーテルを異常血管の入り口まで誘導し、異常血管を一本一本詰め、少しずつ疾患を小さくします。この方法だけで治療できる脳動静脈奇形は非常に限られるために、外科手術と放射線治療を補う第3の治療として行われています。

ガンマナイフによる放射線治療は、非常に狭い範囲に、高い線量の放射線を集中的に当てることで、正常な脳組織に及ぼす悪影響を最小限に抑え、病変を小さくする治療法です。必要とされる入院期間は二泊三日が標準で短く、発症者の負担も外科手術よりも少なくなります。ただし、病変のサイズが直径3センチ以下のものでなければ行えません。ガンマナイフ照射後、病変が消失するまでに平均して2~3年かかると考えられており、外科手術に比べて時間がかかるのが難点です。

てんかん発作を起こした人に対しては、抗てんかん剤を投与します。

🇧🇫脳動脈瘤破裂

脳にできた血管のこぶが破裂して、激しい頭痛が起こる疾患

脳動脈瘤(りゅう)破裂とは、脳を覆う軟膜にできた動脈瘤が高血圧などのために破裂して、出血する疾患。くも膜下出血とも呼ばれます。

脳は外側から順に硬膜、くも膜、軟膜という3層の膜で覆われており、くも膜とその下の軟膜との間を、くも膜下腔(くう)といい、ここには脳脊髄(せきずい)液が満たされています。血管のこぶである動脈瘤が破裂すると、血液がくも膜下腔に一気nterに流出するため、頭蓋(ずがい)内圧(頭蓋骨の内部の圧力)が上がって、激しい頭痛が起こります。

バットか金づちで殴られたような、今までに経験したことのないひどい痛みに襲われ、その頭全体に感じる痛みがしばらく続きます。頭蓋内圧が急激に上がって脳全体が圧迫されると、意識障害が起こったり、吐いたりします。重症の場合、意識障害から、昏睡(こんすい)状態に進んだまま死亡することもあります。

病院に急行しなくては命にかかわる頭痛の代表が、この脳動脈瘤破裂による頭痛です。発症後、数時間以内に手術など適切な処置を行い、再出血を防ぐことが、非常に大切です。出血は、いったん止まりますが、再び破裂することが多く、再出血を起こすと死亡率が非常に高くなるからです。

今まで経験したことのない突然の頭痛が起きたら、すぐにCT設備のある脳神経外科を受診することです。40〜50歳代で、家族や親類に脳動脈瘤破裂を起こした人がいる人は、特に注意が必要です。

少量の出血を繰り返すタイプの脳動脈瘤破裂では、あまり激しくない痛みが反復するために、片頭痛と紛らわしい場合があります。軽い頭痛であっても、念のために受診することです。脳ドックなどの検査で、脳動脈瘤が破裂する前に見付かることもあります。

脳動脈瘤破裂の検査と診断と治療

脳神経外科の医師による診断では、脳動脈瘤破裂(くも膜下出血)の状況は頭部CT(コンピューター断層撮影法)検査によって判明します。出血量が少ない時は、頭部CTでははっきりしないこともあり、症状からみて、脳動脈瘤破裂が疑われる場合は、脳脊髄液を採取して検査します。

出血が確認された時は、破裂した動脈瘤を血管撮影によって探し出し、頭蓋骨を切開し、こぶの根元を金属のクリップで挟むクリッピング法という手術が行われます。近年では、血管内手術といって血管の中へ細いカテーテルを挿入し、プラチナの細いコイルを入れて動脈瘤の内側に詰める塞栓(そくせん)術を行うこともあります。

どちらの方法をとるかは、発症者の年齢、動脈瘤の部位、大きさ、形、合併症などによって決まります。病状があまりにも重症の場合は、手術ができないこともあります。

出血によって脳脊髄液の流れが妨げられた急性水頭症の場合は、脳脊髄液を外に排出する手術を行うこともあります。また、発作後4日ほど経つと、脳の血管が細くなり、脳梗塞(こうそく)を起こすこともあるので、それを予防する血漿(けっしょう)製剤と血管拡張剤が用いられます。

🇹🇬脳膿瘍

脳に化膿菌が入って炎症を起こし、うみがたまった状態

脳膿瘍(のうよう)とは、脳に化膿菌が入って炎症を起こし、組織が壊されて、うみの塊ができる疾患。

膿瘍の形成過程は、まず、うみがたまっていない巣(そう)状の急性炎症が、脳のある部分に生じます。次に、明らかな化膿性の炎症が起こり、うみがみられるようになります。さらに、膿瘍周囲に被膜が形成され、限局性に膿瘍が完成します。膿瘍周囲の浮腫(ふしゅ)は、頭蓋(ずがい)内圧を高進させることがあります。

脳膿瘍の原因としては、ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎双球菌、インフルエンザ菌、大腸菌などが血液の流れに乗って、あるいは、周囲の炎症、例えば中耳炎、蓄膿症などから直接侵入して起こってきます。そのほか、頭部の外傷、脳の手術に際して化膿菌が直接侵入することもあります。

症状としては、化膿に伴う発熱のほかに、化膿巣の生じた脳の部分の機能障害が現れます。けいれんや手足のまひなどの刺激症状、意識の障害、半盲、失語症、運動まひなど、脳の機能の脱落症状が起こってきます。

化膿巣が大きくなると、脳腫瘍と同じように脳圧の高進が著しくなり、頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)、視神経のうっ血、項部(こうぶ)強直などが現れてきます。

脳膿瘍の検査と診断と治療

抗生剤治療と外科的アプローチの進歩によって治癒し得るケースが増えていますが、診断の遅れによって予後が不良になることもあります。頭痛や発熱が持続する時には、すぐに脳神経外科や神経内科などの専門医の診察を受けます。

医師の側は、炎症症状と脳や脊髄(せきずい)の症状から、ある程度推定はできますが、脳脊髄膜に炎症が及ばないと確かめられないこともあります。ことに慢性の場合には、初期に気付かずに、多少性格が変わったといった程度で見過ごされてしまうことがあります。

検査法としては、脳脊髄液検査や脳の血管撮影などがありますが、頭部CT検査が診断に有力です。膿瘍の大きさや部位を正確に判定できますし、造影剤によって被膜はリング状に増強されるのが特徴です。また、中耳や副鼻腔(びくう)などの病変の有無をも、同時に観察することができます。

化学療法として、いろいろな抗生剤が用いられます。脳膿瘍はこれらの化学療法に比較的よく反応するので、診断が付き、原因となった菌さえ確かめることができれば、十分な治療ができ、完全に治癒することが多いものです。発病初期には原因となった菌が不明なことが多いので、広い範囲の細菌に有効な抗生剤が投与されますが、菌が確定した際には最もよく効く抗生剤に変更されます。

通常の感染症よりも抗生剤の投与量は多く、投与期間も長くなります。脳浮腫に対して脳圧降下剤、けいれんに対して抗けいれん剤なども用いられます。

外科的治療は、穿刺(せんし)吸引および排膿、ドレナージが一般的です。最近では、CTまたはMRIガイド下に、比較的安全に穿刺および排膿できるようになりました。

予防法としては、中耳炎や蓄膿症、気管支炎、骨髄炎などにかかったら、完全に治しておくことが大切です。ことに幼小児では、この点の注意が重要です。また、先天性の心臓病を持っている子供は、感染症にかかると脳膿瘍にかかりやすいため、注意が必要です。

🇹🇬脳貧血

長時間立っていることなどが原因で、気分が悪くなって倒れたりする症状

脳貧血とは、小中学校の朝礼などで子供が長時間立ち続けていることなどが原因で、気分が悪くなって倒れたりする症状。脳貧血とはあくまで俗称で、一般には起立性低血圧症、あるいは起立性調節障害といわれています。

脳貧血は、本当の貧血とは違います。貧血は血液中の赤血球(ヘマトクリット)の数が減少したり、赤血球の中に含まれているヘモグロビン(血色素)の量が減少した状態をいいますが、脳貧血の場合は血液を調べても正常で、問題はありません。だから、あくまでも一時的なもので、貧血のように治療を行わなければ治らないというものではありません。

気分が悪くなって倒れてしまうのは、立ち続けていると重力によって血液が足のほうへ下がってしまい、脳までうまく血液が循環せずに脳が酸素不足を起こすためです。

私達が立っている時に、血液が一番たまるのは足の静脈です。もともと静脈には血液を送り出す力はほとんどなく、血管周辺の筋肉の収縮を利用するなどして静脈血を上に循環させています。しかし、成長過程にある小中学生では、そのような筋肉がしっかりできていなかったり、血管の弾力性に乏しかったります。

そのような子供が長時間立ち続けていると、足にたまった静脈血を脳まで押し上げてやることができなくなるのです。筋肉がしっかりと形成された大人では、子供の時のような脳貧血は起こりにくくなります。

脳貧血の症状は、めまい、顔色や皮膚が青白くなる、冷や汗をかく、手足が急に冷たくなる、寒気がする、脈が遅く、弱くなるなどです。このような症状が出たら、すぐに横になるようにしましょう。仰向けに寝て、深呼吸をするようにします。

脳貧血は、長時間立ち続けているほか、急に立ち上がった時などに起こります。突然意識を失って倒れてしまいますので、頭を打つ可能性もあり、大変危険です。

脳貧血で意識を失って倒れてしまったら、足を高くして横にさせます。安静にして、吐きそうな様子を見せたら顔を横に向けて、気道を確保しておきましょう。倒れてしまっても、5~6分で治まりますが、回復するまで時間がかかるようであれば、病院で診察を受けたほうがいいでしょう。

一方、高齢者の脳貧血の場合、脳血管部分の動脈硬化が原因で引き起こしていることがありますので、かなりの注意が必要です。

大人では、献血する際に注意が必要です。善意の気持ちで献血にゆき、そのまま脳貧血を起こして倒れてしまう人が意外と多いもの。たくさんの血液を一度に抜くので、急に起き上がったりすると脳貧血を起こすのです。献血の後、クラクラするようであれば、遠慮せずに周囲の係員に告げて対処してもらわなければいけません。体調が優れない時の献血を避けるばかりではなく、寝不足や運動の後の献血も避けたほうがいいでしょう。自分の意思とは裏腹に、突然意識を失ってしまうのが脳貧血ですので、自分だけはならないという過信は持たないようにしましょう。

脳貧血を予防するには、下半身の筋力をつけて、静脈の血液が心臓へと戻る力を強くすることが大切です。軽い全身運動やウオーキングなどで、筋力をつけましょう。朝食を抜いて学校へ行ったり、会社へ行ったりするのはやめ、水分補給にも気を使いましょう。自覚症状がないまま症状が出てくるものなので、日ごろからの予防が大切です。

🇬🇭入眠障害

眠ろうとしてもなかなか眠れないため、苦痛を感じるタイプの不眠症

入眠障害とは、床に就いて眠ろうとしてもなかなか眠れないという、寝付きの悪さを特徴とするタイプの不眠症。不眠症と判断される目安となるのは、就床後30分から1時間以上眠れないという症状が週に2回以上、かつ1カ月以上続いており、本人が苦痛を感じている場合です。

例えば、明日重要な試験や会議があるために緊張して眠れないというような状態は、単なる一過性の不眠です。試験や会議が終われば、きちんと眠れるようになるからです。ところが、不眠症の場合は夜中に何度も目が覚めたり、よく眠ったという気がしないなど頻繁に睡眠に関する問題が起きており、入眠障害では眠りに入る時に問題が起きています。

入眠障害の原因は、2つあるとされています。まず1つの原因は、精神生理性不眠(神経症性不眠)と呼ばれるもので、精神的ストレスが問題を引き起こします。明日のことが不安で眠れない、今日あったことを思い出してしまって眠れないなど、人によって眠れない理由はさまざまですが、その背後には精神的ストレスが隠れています。最初は一過性の不眠なのですが、眠れるだろうかと不安になってくると不眠症の症状となってきます。

精神的ストレスが原因となっている場合には、イライラや緊張を鎮めてリラックスできるように就寝30分〜1時間前から照明を落としたり、音楽を流したりと工夫をするのがお勧めです。眠りやすい環境を作ることを心掛け、騒音や温度調整をするのもよいでしょう。

入眠障害のもう一つの原因は、床に就くのが早すぎることにあります。高齢者になって時間にゆとりができると、早く床に就いてしまいがちになりますが、人間の体内時計による自然な眠りの準備が整っていない状態なので、なかなか眠れなくなってしまいます。人間の体内時計のタイマーは、朝起きて太陽の光を浴びたところから14~16時間後に眠くなるようにセットされているのです。

この原因の場合は、眠気を感じていないのに布団に入って、なかなか眠れないと焦ってしまうより、眠気を感じるまで布団に入らないという改善方法があります。ただし、眠気を感じるまでの間、テレビを見たり、パソコンやゲームに時間を費やしてしまうと、脳が興奮してしまうので避けましょう。

そのほか、入眠障害の原因には、夜間の睡眠時などに下肢を中心に不快な感覚が起こり、むずむずする不穏な運動を生じて、慢性的に寝付けない病状を示す、むずむず脚症候群などの疾患が隠れている場合もあるので、注意が必要です。

生活面での工夫をしても入眠障害が続くようであれば、不眠症専門の外来や、神経科、心療内科を受診することが勧められます。

医師による入眠障害などの不眠症治療では、精神的な療法を行ったり、薬による治療を行うことになります。一般的には睡眠薬による治療ですが、人それぞれ原因も違ってきますから、睡眠薬の服用については医師に相談しながら治療を進めていくことが大切です。

最近の睡眠薬は、安全性が高くなりました。以前はバルビツール酸系の薬が主に用いられていましたが、依存しやすいという問題などから最近は比較的安全なベンゾジアゼピン系が多く使われています。ただし、疾患を併せ持つ人が他の薬と併用する場合は副作用などの恐れもあるため、使用には医師の診断が必要で、症状に合った薬を処方によって服用します。

すべての薬にあるように、睡眠薬にも副作用はあります。最大の特徴は、薬が効いている間に布団から起きてしまうと、効果がすべて眠気、ふらつき、頭重感などの副作用に変わってしまうこと。従って、服用したらすぐ布団に入ること、増強作用のあるアルコールと一緒に服用しないこと、用量用法は医師の指示を守ること、突然、服用を中止すると症状が悪化する場合もあるので、医師と相談しながら漸減することなどが必要となります。

🇳🇪乳輪炎

乳輪の皮膚が過敏になって炎症を起こし、湿疹、ただれ、かゆみが生じる状態

乳輪炎とは、女性の乳輪に湿疹(しっしん)や、ただれが生じ、かゆみを伴っている状態。乳暈(にゅううん)炎とも呼ばれます。

乳首、すなわち乳頭の周囲を取り囲む輪状の部位で、4センチから5センチが標準的な大きさである乳輪には、多くの皮脂腺(せん)があり、皮脂腺から分泌される皮脂によっていつも保護されているのですが、皮脂の分泌の減少などによって皮膚が乾燥して過敏になると、炎症が起こることがあります。ここに主に黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、時には大腸菌、緑膿(りょくのう)菌などの細菌が入り、感染すると化膿が起こることがあります。

また、母乳をつくる乳腺が発達する思春期の女性では、ホルモンのバランスが不安定になって、乳頭から分泌液が出現し、乳輪炎や乳頭炎になることもあります。

乳輪炎になると、湿疹や、ただれが生じ、かゆみを伴います。はれが認められることもあります。

大体は、両側に症状が現れます。かゆみを伴うため、無意識のうちにかいてしまって悪化したり、治ってもまた再発し、繰り返すこともあります。下着のサイズや形が合っていないために、乳首や乳輪が下着と擦れ合い、炎症を繰り返すこともあります。また、化膿している状態であれば、下着にくっ付き、かさぶたのようになることもあります。

乾燥肌、アトピー性皮膚炎、陥没乳頭の女性が、乳輪炎、乳頭炎になりやすいとされています。

乳輪炎になった場合には、まず化学繊維でできた下着をやめ、木綿やシルクなどの自然素材でできた下着に替えて、症状が治まるかどうか確かめます。また、患部を軟こうで覆い、下着と擦れ合わないようにガーゼ付きのばんそうこうなどで保護して、経過を観察すればよいでしょう。

それでも症状が改善しない場合には、皮膚科、ないし婦人科、乳腺科を受診することが勧められます。

乳輪炎、乳頭炎とよく似た症状が、乳房パジェット病よって引き起こされることがまれにあります。乳房パジェット病は、乳がんの特殊なタイプであり、乳輪炎、乳頭炎と同じように湿疹、ただれ、かゆみを伴います。そして、乳がん全体の1~2パーセントを占めるという非常にまれな疾患のため、見落とされがちです。発症年齢は乳がんよりやや高く、50歳代の女性に最も多くみられます。

症状としては、ヒリヒリとした痛みを伴う場合もあり、乳頭からの分泌物や出血もみられる場合もあります。通常の乳がんのようにしこりを触れることはないので、急性湿疹やたむしなどの皮膚病と間違えられやすく、乳がんの一種とは思われないこともあり注意が必要です。

進行すると、表皮が破れてただれ、円状に乳頭や乳輪を超えて拡大したり、乳頭が消失してしまうこともあります。

しかし、長期に放置したとしても進行する速度が遅いので、乳腺内のがん細胞が表皮内に浸潤することはまれであるとされています。早期に治療すれば予後は良好ながんで、転移が確認されなければ心配はないといわれています。

乳輪炎の検査と診断と治療

皮膚科、婦人科、乳腺科の医師による診断では、視診、触診で判断し、マンモグラフィー(乳房X線撮影)、超音波(エコー)などで検査することもあります。

乳房パジェット病との鑑別が必要な場合は、顕微鏡で乳頭分泌物やかさぶたなどの細胞を見る細胞診で、パジェット細胞という特徴的な泡沫(ほうまつ)状の細胞が認められるかどうか調べます。

皮膚科、婦人科、乳腺科の医師による治療では、乳輪、乳頭を清潔に保ち、塗り薬を使用します。

細菌の感染があれば、抗生物質入りの軟こうを塗り、感染がなければ、ステロイド剤などの軟こうを塗り、落ち着いたら保湿剤を塗ります。

乳房パジェット病の場合は、早期の乳がんと同じ治療法を適応し、病変部だけを切除して乳房を温存するケースと、乳房全体を切除するケースとがあります。検査の段階で病変が乳腺レベルにとどまっている場合は、美容的な観点を考慮して、放射線治療を併用しての乳房温存療法が選択される可能性が高くなりますが、進行程度や広がり具合によっては、乳房全体を切除するケースや乳頭を切除しなければならないケースもあります。

🇳🇪乳輪下膿瘍

乳輪の下の部分に膿がたまる疾患

乳輪下膿瘍(のうよう)とは、乳頭の乳管開口部から化膿(かのう)菌が侵入することにより、乳輪の下の部分の乳管に膿(うみ)がたまり、乳輪周囲の皮膚にまで広がる疾患。

授乳やホルモン分泌とは関係なく、若い女性によくみられる疾患です。乳輪の下に痛みのある硬いしこりができては破れて、膿が出ることを何回も繰り返します。陥没乳頭の人に多くみられますが、乳首が陥没していない人でもみられます。

乳管の膨大部に、乳管の細胞の老廃物、ケラチン破片などがたまり、刺激して、主に無菌性の炎症を起こします。膿瘍ができるころには、混合感染もみられます。

乳輪下膿瘍の検査と診断と治療

乳腺科、乳腺外科、外科、産婦人科の医師による治療では、問診、触診、血液検査、超音波検査などを行います。

乳腺科、乳腺外科、外科、産婦人科の医師による治療では、抗生物質を投与して炎症を鎮静させるとともに、たまった膿を出します。

たまった膿を出す方法としては、患部に針を刺してたまった膿を出す場合と、切開して膿を出す方法とがあります。

慢性の炎症を繰り返す乳輪下膿瘍の場合は、膿を出しても再発することが多いので、膿を出して炎症が治まったら外科手術を行い、疾患の元となるものをすべて取り除きます。

外科手術では、膿瘍部や瘻孔部から色素を注入して、原因となる乳管を含む膿瘍や膿の通る瘻孔などをすべて切除します。

一般的に手術は局所麻酔で行われ、乳頭などはそのまま残すことができますから、乳房が変形することはありません。

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...