新型コロナウイルスのオミクロン型の新たな派生型の拡大が、海外で鮮明となってきました。アメリカやヨーロッパでは直近の主流だった「BA・5」に変異が加わった「BQ・1」や「BQ・1・1」が計26~27%に増加。シンガポールやインドでは「BA・2」由来の変異型2種の遺伝子が混ざった組み換えウイルスである「XBB」が広がっています。地域によって派生型の流行が異なる複雑な状況になり、感染再拡大などの先行きは見通せません。
イギリス保健安全局は10月20日時点のイングランド地方で「BQ・1・1」が12%、「BQ・1・1」を除く「BQ・1」系統が14%などと推定しています。「BA・5」から置き換わりが進んでおり、「BQ・1」や「BQ・1・1」は1週間の増加スピードが「BA・5」の1・5~1・6倍程度と分析しています。
アメリカでも疾病対策センター(CDC)は10月23~29日の新規感染のうち、「BQ・1」が14%、「BQ・1・1」が13%などと推定しています。「BA・5」は50%まで低下しました。
「BQ・1・1」は「BQ・1」にさらに変異が加わった派生型で、「BQ・1」系統はフランス、デンマークなどヨーロッパでも増加しており、ヨーロッパ疾病予防管理センター(ECDC)は11月中旬~12月上旬にはヨーロッパの新規感染の50%以上、2023年初めには80%以上を占めると予測しています。
一方、シンガポールやインド、バングラデシュなどでは組み換えウイルスである「XBB」が拡大しています。「XBB」はシンガポールで最初に見付かり、「BA・2」に変異が加わった2種類の派生型の遺伝子配列の一部が置き換わったウイルス。2種類の派生型に同時に感染した人の体内で生まれたと考えられます。
現在広がっている派生型に共通するのは、新たに獲得した変異によって免疫をすり抜ける「免疫逃避」の性質が一段と強いとみられること。中国の北京大学やアメリカのオハイオ州立大学などの研究報告によると、さまざまな種類が見付かっている派生型の中でも「BQ・1」系統や「XBB」は特に免疫逃避が強いため、ワクチンや感染でできた抗体が効きにくく、再感染やワクチン接種後のブレークスルー感染が起こりやすい可能性があります。
もともとオミクロン型はデルタ型よりも免疫をすり抜けやすく、その性質によって世界で爆発的に拡大しました。世界でオミクロン型の流行が続く中、免疫をすり抜ける変異を獲得した派生型が各地で誕生し、勢力拡大を競っているような状況です。
「BQ・1」や「BQ・1・1」、「XBB」は東京都や宮城県、神奈川県など国内でも見付かっています。第8波は「BA・5」から新たな派生型へと置き換わりが進む形で起こる可能性もあります。
変異の多さから「BQ・1・1」はギリシャ神話に登場する冥界の番犬「ケルベロス」、「XBB」は上半身がワシで下半身がライオンという伝説上の生き物「グリフォン」の俗称で呼ばれることもあるものの、いずれもオミクロン型から派生したウイルスであることに変わりはありません。
現時点で重症化リスクは大きく変わらないとみられており、アメリカのファイザーやアメリカのモデルナが開発したオミクロン型対応ワクチンの追加接種にも一定の効果が期待されます。
2022年11月4日(金)