子宮頸(けい)がんなどの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するワクチンについて、4月から9種類のHPVを対象とする「9価ワクチン」が全額公費の定期接種で使えるようになります。対応できるウイルスの型が増え、子宮頸がんにかかわるHPVの約9割をカバーします。専門医は「より幅広く予防できる。接種を悩む人は医療機関に相談して決めてほしい」と呼び掛けています。
4月から小学6年〜高校1年相当の女性を対象に、HPVワクチンの定期接種として従来の2価と4価に9価も加わります。価とは、対応できるHPVの遺伝子型数を示し、大きいほど幅広いHPVに効果があります。
従来、9価は計3回の接種が必要でした。ただ2月末に厚生労働省の専門部会で、9〜14歳の女性は2回でも可能とする薬事申請を認めることが了承されました。9価の定期接種についても、同年齢は2回接種にする方向で検討される見込み。
子宮頸がんは子宮の出口に近い粘膜にできるがんで、95%以上でHPV感染が原因とされています。主な感染ルートは性交渉で、一生涯で約8割の女性がHPVに一度は感染すると推定されるものの、ほとんどは自分の免疫力で自然と消えます。ただ一部の人でHPVが排除されずに感染状態が続くと、数年から十数年かけてがん化します。
HPVワクチンは、原因ウイルスに似せたたんぱく質を体内に打つことでウイルスに対する免疫を作り、感染させないことでがん予防につながります。
実はHPVの型は200種類以上あり、このうち少なくとも15種類のウイルスが子宮頸がんの原因となります。4月から定期接種に加わる9価ワクチンは、子宮頸がんの原因となるウイルスの88%に対応するとされます。
HPVワクチンを巡っては、2013年4月に定期接種を開始した直後から体の痛みや慢性疲労などを訴える人の報告が相次ぎました。厚労省は接種を促す「積極的勧奨」を中止したため、定期接種の対象ではあったものの接種率は極端に低迷しました。その後、専門家会議で「接種の有効性が副反応のリスクを上回る」と認められ、2022年から接種の推奨を再開しました。
約9年間の接種低迷期の影響を指摘する多くの声があります。高齢者の発症が多いほかの多くのがんと違い、子宮頸がんは、若い40歳代の罹患(りかん)率が最も高いためです。国のがん統計によると、2019年には年間約1万1000人の女性が子宮頸がんと診断され、2020年に約2900人が亡くなりました。
働き盛りや妊娠適齢期と重なる20歳代後半から30歳代で増加傾向にあり、家族や仕事にも影響が出やすいため、「ワクチン接種で予防できるメリットは大きい」と指摘する専門家は少なくありません。
さらに、川崎医科大学の中野貴司教授は「感染予防の観点からも性交渉を経験する前の接種が望ましい」と指摘。免疫のつきやすさからも16歳までに接種することが推奨されて います。
副反応についての知識も必要。国内外の治験では9価ワクチンの接種後5日間で注射部位に痛みやはれ、赤みなどがみられた人は、90・7%と4価ワクチンより5・8ポイント高くなりました。主に接種後15日間で頭痛などの症状があった人は、9価も4価も約3割とほぼ同等。これまでの経緯もあるため、中野教授は「できれば普段から健康状態を診ているかかりつけ医に接種してもらうとよい」と話しています。
万が一、接種後に気になる症状が出たらまず接種した医療機関に相談するとよいとされます。厚労省は「協力医療機関」を各都道府県に設置しており、さらに詳しい診察を希望する場合などは接種した医師やかかりつけ医に相談した上で受診できます。
日本ではようやく定期接種になる9価ワクチンは、海外ではすでに主流です。世界の80以上の国・地域で承認され、50以上で定期接種となっています。
HPVワクチンの効果もわかり始めました。接種率が8割を超えるスウェーデンでは、2006〜2017年に10〜30歳だった約167万人の女性を対象にした調査を実施。17歳までに4価を接種した人は未接種者に比べて子宮頸がんになるリスクが88%減ったといいます。
ただし、子宮頸がんはHPVワクチンで完全に防げるわけではありません。20歳以降の女性はワクチン接種の有無にかかわらず、2年に1回の定期検診が勧められています。早期発見でより負担の少ない治療につながります。
HPVワクチンは男性のがんの予防にも効果があります。HPVは男性も発症する肛門がんや尖圭コンジローマの原因にもなります。このため世界では、60以上の国・地域で男性を対象にHPVワクチンが定期接種となっています。
日本では男性は定期接種の対象ではありません。9歳以上の男性は4価ワクチンを打てるものの、自費のため3回接種で約5万円かかります。9価は中咽頭がんや舌がん予防にも効果が期待されているため、現在日本でも男性に適応を広げるための臨床試験(治験)が進んでいます。
厚労省の小委員会は2022年に、男性も定期接種の対象にするか議論を始めました。川崎医科大の中野教授は、「男性も接種することでHPV感染に対する集団免疫が期待でき、子宮頸がん予防にもつながる」と指摘しています。
2023年3月5日(日)