地球温暖化の抑制に向けた現行政策に変更がなければ、2100年までに地表温度は産業革命前に比べ2・7度上昇すると予測する論文が22日、科学誌「ネイチャー・サステナビリティー」に掲載されました。その場合、世界の予想人口95億人の2割強に当たる20億人以上が、生命に危険が及ぶほどの酷暑環境に置かれる恐れがあるとしています。
イギリスのエクセター大学のグローバルシステム研究所の所長で、論文の筆頭著者ティム・レントン氏は、「地表の居住環境が一変し、居住可能地域に大きな変動が起きる可能性がある」と予想しました。
このシナリオでは、生命を脅かす酷暑にさらされる人口が最も多い国は、インド(6億人)、ナイジェリア(3億人)、インドネシア(1億人)、フィリピンとパキスタン(ともに8000万人)など。
ただし、世界の気温上昇を産業革命前と比べて1・5度に抑える「パリ協定」の目標を達成した場合は、酷暑環境下の人口は世界全体の約5%に当たる5億人以下にとどまる見通し。
レントン氏は「地球温暖化による損失は経済面から語られることが多いが、私たちの研究では、気候変動危機に取り組まなかった場合の人的損失が驚くほど大きいことが浮き彫りになった」と強調。「気温が現在に比べ0・1度上昇するごとに、約1億4000万人が危険な暑さにさらされることになる」と説明しました。
研究では、年平均気温が29度を上回る場合を「危険な暑さ」と定義。人類史上、居住地域は年平均気温が温帯で13度、熱帯では規模は小さいものの27度の地域周辺に分布しています。
すでに29度に近付いている地域では、酷暑環境下に移行するリスクが高くなります。29度またはそれ以上の高温が続けば、死亡率の上昇、労働生産性や農作物収量の低下、紛争や感染症の増加につながることが研究で明らかになっています。
こうしたリスクが高まっているのは、人口が急増している赤道周辺地域です。熱帯では、気温がそれほど高くなくても湿度が高いため、発汗による気化熱で体温を下げることができず、死に至る恐れがあります。
結局、酷暑の影響を最も受けるのは、1人当たりの温室効果ガス排出量が最も少ない貧困国だと、研究チームは指摘しています。
2023年5月23日(火)