マダニが媒介する感染症の患者が増加しています。かまれて感染する「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の2023年の報告は8月下旬までに100人を超え、過去最多だった2022年の同時期を上回りました。ウイルスを持つマダニの分布が北日本に拡大しているとの研究もあります。専門家は山や草むらで肌を露出しないよう注意を呼び掛けています。
SFTSの潜伏期間は6〜14日間ほどで、発熱や全身のだるさ、下痢といった症状が出ます。重症化すると意識障害や出血症状が起き、死亡することもあります。現時点で有効な薬やワクチンはなく、治療は対症療法が中心。
国立感染症研究所によると、8月20日までに108人の感染が報告されました。2022年の同じ期間と比べて約3割多く、通年(116人)に迫る水準となっています。感染したネコやイヌを診療した時などに獣医師らがうつったとみられる事例もあります。
福岡県では8月に、マダニにかまれた80歳代女性が死亡しました。久留米市保健所によると、1日に農作業中に足をかまれて受診。発熱や下痢が続き、転院先で13日に亡くなりました。県の研究機関による検査で、SFTSへの感染が確認されました。
SFTSは2013年に、海外渡航歴のない人の感染が国内で初めて報告されました。感染症研究所によると、同年から2023年7月末までに確認された患者900人のうち、少なくとも101人が死亡しました。患者数は2022年まで2年連続で、過去最多を更新しました。
背景について、札幌市医務・健康衛生担当局長を務める西條政幸・感染症研究所名誉所員は、「認知が進み、診断につながるケースが増えたことが大きい」と分析します。マダニが吸血するシカやイノシシといった野生動物が人の生活圏で確認される頻度が高まっていることも一因とみています。
マダニの分布は拡大しているとみられます。山形大学と森林研究・整備機構は8月下旬、東北地方の離島で複数の南方系マダニ類の生息を確認したと発表しました。この離島には哺乳類がほぼ生息しておらず、渡り鳥に付いて離島を経由するなどして北方に生息を広げている可能性があります。
見付かった南方系マダニ類の中にはSFTSを媒介する種もいました。研究を率いた山形大の小峰浩隆助教は、「気候変動に伴い、南方系マダニ類の生息に適した環境が北に広がりつつあることが考えられる」と説明しています。
マダニが媒介する感染症はSFTSのほかに、日本紅斑熱などがあります。分布の拡大で、こうした感染症の発生地域の北方への拡大も懸念されます。
マダニから身を守るには、肌の露出を減らすことが重要。感染症研究所は長袖、長ズボンの着用に加え、タオルを巻いて首を覆う、ズボンの裾を靴下の中に入れるといった対策を挙げています。
かまれた場合に無理に取り除こうとすると、マダニの口が皮膚に残って化膿(かのう)する恐れがあります。皮膚科など医療機関で処置を受け、数週間は発熱など体調の変化に注意する必要があります。
2023年9月5日(火)