妊娠や授乳期以外に乳汁分泌と無月経が起こる状態
乳汁分泌性無月経とは、妊娠や授乳期以外の時期に、乳頭からの乳汁分泌と無月経がみられる状態。無月経・ 乳汁分泌症候群とも呼ばれます。
主に20~30歳代の性成熟期の女性において、大脳の下部にある小さな分泌腺(せん)である下垂体(脳下垂体)から分泌されるプロラクチンというホルモンが増加して、血液中のプロラクチン値が上昇した状態である高プロラクチン血症が生じると、通常、乳汁分泌と無月経が起こります。
下垂体はプロラクチンや副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、成長ホルモン、黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモンの6つのホルモンを分泌し、プロラクチンは乳腺の発育促進、乳汁産生・分泌促進、排卵や卵胞の成熟抑制にかかわるホルモンです。
下垂体から分泌されるプロラクチンが増加すると、黄体化ホルモンと卵胞刺激ホルモンの分泌が低下するので、プロゲステロン(黄体ホルモン)やエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌が低下し、無排卵、無月経などの月経異常の原因になります。
乳汁分泌性無月経を招く高プロラクチン血症は、種々の原因によって起こります。妊娠女性では、妊娠の進行とともにプロラクチン値が高くなります。
高プロラクチン血症の原因としては、下垂体におけるプロラクチン産生腫瘍(しゅよう、プロラクチノーマ)が最も多くみられます。
ほかには、大脳の下部にある視床下部・下垂体系の腫瘍や炎症のため、プロラクチンの産生を抑制する脳内物質であるドーパミンの下垂体への作用が阻害されると、下垂体からのプロラクチン分泌への抑制という調節がなくなり、血液中のプロラクチン値が増加します。
また、頭蓋咽頭(ずがいいんとう)腫、 胚芽(はいが)腫などの脳腫瘍や、結核を始めとする感染症によく似た病巣を全身のいろいろな臓器に作る疾患であるサルコイドーシスなどでも、高プロラクチン血症が高頻度に出現します。
プロラクチン分泌を促進する甲状腺刺激ホルモンの分泌が過剰になる原発性甲状腺機能低下症や、腎(じん)不全でも、高プロラクチン血症が出現することがあります。胸壁の外傷、手術や帯状疱疹(たいじょうほうしん)などの胸壁疾患でも、プロラクチンの分泌が促進されることがあります。
さらに、薬剤の副作用によることがあります。ある種の抗うつ剤や胃薬は、ドーパミンの作用を阻害することによりプロラクチンを増加させます。降圧薬の一種もプロラクチンを増加させます。低用量ピルなどの経口避妊薬も、視床下部のドーパミン活性を抑制するとともに下垂体に直接作用して、乳汁を産生するプロラクチンの産生や分泌を刺激させます。
高プロラクチン血症であっても、必ずしも症状を伴うものではありません。性成熟期の女性では、乳汁分泌と無月経が主要な兆候となります。下垂体のプロラクチン産生腫瘍が大きい場合には、腫瘍による視神経圧迫のため視野狭窄(きょうさく)、視力低下、頭痛を伴うことがあります。
乳汁分泌性無月経に気付いたら、婦人科 、内科、乳腺科を受診することが勧められます。
乳汁分泌性無月経の検査と診断と治療
婦人科 、内科、乳腺科の医師による診断では、血中プロラクチン値を測定するとともに、出産経験や内服薬の確認を行います。
血中プロラクチンが高値の時は、下垂体のプロラクチン産生腫瘍の可能性が高いため、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査やCT(コンピュータ断層撮影法)検査を行い、下垂体病変を調べます。血中プロラクチン値が軽度から中等度の時には、薬剤服用の有無を重視し、下垂体のプロラクチン産生腫瘍以外の原因について検査を行います。
婦人科 、内科、乳腺科の医師による治療では、乳汁分泌性無月経の原因がはっきりとしたら、その原因に応じた治療を行います。
内服している薬剤が原因と考えられる場合は、その薬剤を中止します。乳汁分泌がみられるだけで、ほかに特別な異常や兆候がなければ、経過観察も可能です。不快ならば、プロラクチンの産生を抑制する脳内物質であるドーパミンの分泌を促すドーパミンアゴニスト製剤(ドーパミン受容体刺激薬)により、プロラクチンの分泌を抑えると症状は消えます。
無月経を伴う場合には、排卵や月経を誘発する処置を行います。
下垂体のプロラクチン産生腫瘍が原因と考えられる場合は、現在、薬物療法が第一選択となります。ドーパミンアゴニスト製剤の内服により、血中プロラクチン値は低下し、腫瘍も縮小します。一方、腫瘍が直径1センチ以上と大きく、視野障害や頭痛などがあり、腫瘍サイズの縮小が急がれる場合は、手術が選択されることもあります。
原発性甲状腺機能低下症が原因と考えられる場合、甲状腺ホルモンの補充により血中プロラクチン値は正常化し、卵巣機能は回復します。
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