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2022/08/23

🇮🇲成人T細胞白血病(ATL)

ウイルスに感染して発症する白血病

成人T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia:ATL)とは、レトロウイルス、腫瘍(しゅよう)ウイルスであるヒトTリンパ球向性ウイルス1型(Human T Lymphotropic Virus type 1:HTLVー1)の感染により発症する腫瘍性疾患。

悪性リンパ腫の一種ですが、大部分が白血病化するために、成人T細胞白血病と呼ばれたり、成人T細胞白血病リンパ腫(Adult T-cell Leukemia Lymphoma:ATLL)と呼ばれたりします。1976年に、京都大学の高月医師、内山医師らによって初めて報告、命名された疾患です。

この成人T細胞白血病(ATL)の発症は、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLVー1)を体の中に持っているキャリアの分布と一致することが知られています。キャリアは、日本では120万人、世界では1000~2000万人いると推定されています。

日本では、従来から九州、沖縄など西南日本に多くみられますが、近年は関東、中部、近畿で増え、全国的にキャリアと発症者が存在しています。世界的には、カリブ海沿岸諸国、南アメリカ、アフリカ、南インド、イラン内陸部などにキャリアと発症者の集積が確認されています。それらの地域からの移民を介して、ヨーロッパ諸国、アメリカ合衆国などでも、キャリアと発症者の存在が報告されています。

ヒトTリンパ球向性ウイルス1型の感染経路としては、母乳を介する母子間垂直感染と、輸血、性交渉による水平感染が知られていて、出産時や母胎内での感染もあります。輸血では、感染リンパ球を含んだ輸血により感染し、血漿(けっしょう)成分輸血、血液製剤では感染しません。なお、日本では現在、献血に際して抗体スクリーニングが行われており、輸血後の発症はなくなりました。性交渉による感染に対しても、成人T細胞白血病を発症することは極めてまれであるため、今のところ特別な対策は立てられていません。

ほとんどが母乳感染により、乳幼児の感染者が40~60年の潜伏期を経て、成人T細胞白血病を発症します。日本で発症するのはヒトTリンパ球向性ウイルス1型のキャリア1万人について年間6〜7人あまり、発症の割合は3〜5パーセントほど。40歳以上の人がほとんどで、60~70歳に最も多く発症します。

リンパ球はリンパ系組織、血液、骨髄の中にあり、細菌やウイルスなどの感染と戦っていますが、機能の違いからT細胞、B細胞、ナチュラルキラ-細胞(NK細胞)に分けられます。成人T細胞白血病では、T細胞が悪性化して、リンパ節や血液の中で異常に増加し、骨髄や肝臓、脾臓、消化管、肺など全身の臓器に広がっていきます。末梢(まっしょう)血液中に出現する場合、特徴的な花びらのような形状をした核を有し、花細胞と呼ばれています。

症状としては、首、わきの下、足の付け根など全身のリンパ節がはれたり、肝臓や脾臓の腫大、皮膚紅斑(こうはん)や皮下腫瘤(しゅりゅう)などの皮膚病変、下痢や腹痛などの消化器症状がしばしばみられます。病勢の悪化によって、血液中のカルシウム値が上昇して高カルシウム血症になると、全身倦怠(けんたい)感、便秘、意識障害などを起こします。

>悪性化したリンパ球が骨髄に広がった場合には、正常な赤血球や血小板が作られなくなります。このために動悸(どうき)、息切れなどの貧血の症状や、鼻血、歯肉出血などの出血症状がみられることがありますが、他の白血病と違ってあまり多くありません。悪性化したリンパ球が中枢神経と呼ばれる脊髄(せきずい)や脳に広がると、頭痛や吐き気が認められることもあります。

また、免疫担当細胞として重要なT細胞ががん化して、強い免疫不全を示すため、感染症にかかりやすくなり、真菌、原虫、寄生虫、ウイルスなどによる日和見感染症を高頻度に合併します。

成人T細胞白血病の検査と診断と治療

成人T細胞白血病は、ウイルス感染症、カビによる感染症、カリニ原虫による肺炎、糞線虫(ふんせんちゅう)症といった寄生虫感染症など、健康な人にはほとんどみられない日和見感染症が起こりやすいことで知られています。疲れやすい、熱が続く、リンパ節がはれる、皮疹(ひしん)が塗り薬でよくならないなどの症状が続く場合は、血液内科の専門医のいる病院を受診して検査を受けるようにします。

血液の悪性腫瘍が疑われた場合、まず血液細胞の数や内容を調べる血液検査が行われます。成人T細胞白血病では、花びらのような形をした核を持つ異常なリンパ球の出現が特徴的です。また、血液検査では、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型に感染して抗体があるかどうかも調べます。リンパ節がはれている場合には、リンパ節生検が行われ、局所麻酔による小切開でリンパ節を取り出し、顕微鏡で悪性細胞の有無を調べます。最終的に成人T細胞白血病の診断を確定するためには、血液やリンパ節の悪性細胞の中に入り込んだウイルス遺伝子の検査が行われる場合もあります。

成人T細胞白血病と診断された後、疾患の広がりを調べるために全身の検査が行われます。目に見えない腹部や骨盤部のリンパ節がはれてないか、肝臓や脾臓に広がっていないかを調べるために、腹部CTや腹部超音波検査が行われます。胃や十二指腸に広がっていないかどうかを調べるためには、胃内視鏡検査やX線検査が必要です。肺に広がっていないかどうかを調べるためには、胸部X線検査や胸部CTが行われます。

骨髄に広がっていないかどうか調べるためには、骨髄穿刺(さくし)も行われます。骨髄穿刺は、局所麻酔後、胸骨または腰の骨に細い針を刺して骨髄液を吸引し、顕微鏡で観察します。その他、中枢神経である脳や脊髄への広がりを調べるために、局所麻酔後に腰の部分の背骨の間から針を刺して少量の脳脊髄液を採取する場合もあります。

成人T細胞白血病は多彩な症状、臨床経過をとることで知られていますが、一般には急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型、急性転化型の5つの病型に分類されています。

急性型は、血液中に花びらの形をした核を持つ異常リンパ球が出現し、急速に増えていくものです。リンパ節のはれや、皮疹、肝臓や脾臓の腫大を伴うことも多くみられ、消化管や肺に異常なリンパ球が広がる場合もあります。感染症や血液中のカルシウム値の上昇がみられることもあり、抗がん剤による早急な治療を必要とします。

リンパ腫型は、悪性化したリンパ球が主にリンパ節で増殖し、血液中に異常細胞が認められない型です。急性型と同様に急速に症状が出現するために、早急に抗がん剤による治療を開始する必要があります。

慢性型は、血液中の白血球数が増加し、多数の異常リンパ球が出現しますが、その増殖は速くなく、症状をほとんど伴いません。無治療で経過を観察することが、一般的に行われています。

くすぶり型は、白血球数は正常でありながら、血液中に異常リンパ球が存在する型で、皮疹を伴うことがあります。多くの場合、無治療で長期間変わらず経過することが多いため、数カ月に1回程度の外来受診で経過観察が行われます。

急性転化型は、慢性型やくすぶり型から、急性型やリンパ腫型へ病状が進む場合をいいます。この場合には、急性型やリンパ腫型と同様に、早急に治療を開始する必要があります。

成人T細胞白血病の治療として一般に行われているのは、抗がん剤を用いた化学療法です。抗がん剤は静脈注射や飲み薬などいろいろな種類があり、血管の流れによって全身に運ばれて悪性化したリンパ球を殺すため、全身療法といわれています。また、髄腔内注射といって、腰の正中部より細い針で抗がん剤を髄液内に入れます。

成人T細胞白血病に対する抗がん剤は、通常、非ホジキンリンパ腫に有効な抗がん剤が用いられます。これらの抗がん剤の併用療法によって、30~70パーセントの場合で悪性細胞がかなり減少して、検査値異常が改善した状態が得られますが、最終的な治癒が期待できるのは残念ながらごく一部にとどまっています。

成人T細胞白血病の細胞には、抗がん剤が最初から効きにくかったり、途中から効きにくくなったりする性質があり、化学療法にしばしば抵抗性を示すからです。また、見掛け上症状がよくなったとしても、再発率は非常に高いことが知られています。

このように治療が難しい疾患ですが、よりよい治療法を開発するために臨床試験が行われています。研究段階の治療法の中で、現在最も期待されているのは同種造血幹細胞移植。化学療法により疾患がある程度コントロールされている、感染症を合併していない、全身状態がよい、50歳以下である、白血球の型が合っているドナーがいるなどの条件を満たす場合は、検討する価値のある治療法です。

また、ミニ移植といって、造血幹細胞移植の前の処置を軽くすることにより、50歳以上の高齢者にも適用可能な同種造血幹細胞移植法も検討されています。

2022/08/22

🇰🇾赤芽球癆

再生不良性貧血の中の特殊なタイプで、赤血球だけが減るために起こる貧血

赤芽球癆(せきがきゅうろう)とは、強い貧血を起こす疾患。極めて珍しい疾患です。

この赤芽球癆は、再生不良性貧血に分類され、その中で特殊なタイプとされています。再生不良性貧血は、骨髄にある血液細胞の源に当たる造血幹細胞が何らかの原因によって減るために、赤血球だけでなく、白血球や血小板も減るのが特徴です。赤芽球癆では赤血球だけが減り、白血球と血小板は正常範囲にあるという違いがあるにもかかわらず、再生不良性貧血に分類されているのは、造血幹細胞の異常によって引き起こされるためです。

赤血球、白血球、血小板などの血液細胞は骨髄で作られますが、赤血球は造血幹細胞から赤血球系幹細胞、前赤芽球、赤芽球、網赤血球という段階を経て、成熟した赤血球になります。赤芽球癆では骨髄において、赤血球の元になる赤芽球や、若い赤血球である網赤血球が傷付けられて極端に減り、赤血球だけが作られなくなります。赤血球は全身に酸素を運ぶ働きがあり、赤血球が減るほど息切れなどの症状が強く出ます。

赤芽球癆は、急性赤芽球癆と慢性赤芽球癆に大きく分類されます。急性赤芽球癆は、パルボウイルスB19などのウイルス感染や、チアンフェニコール 、ジフェニルヒダントインなどの薬剤の服用によって、赤血球系前駆細胞が障害されて発症します。幼児に一過性発疹(ほっしん)のリンゴ病を引き起こすパルボウイルスB19の感染によって発症する赤芽球癆では、赤血球寿命の短い溶血性貧血の場合に強い貧血を呈します。

慢性赤芽球癆のほうは、ダイアモンドブラックファン貧血とも呼ばれる先天性赤芽球癆と、後天性赤芽球癆に分類されます。

慢性赤芽球癆のうち、ダイヤモンドブラックファン貧血は重要な造血器である骨髄に先天的な障害があるために、血液中の赤血球が減少して起こります。常染色体劣性遺伝をする、まれな疾患で、強い貧血を起こします。赤血球が減るほど、息切れ、動悸(どうき)、めまい、ふらつきなどの症状が強く出ます。母指または他の指の骨の異常、および低身長を伴うこともあります。通常は乳児期に発症しますが、成人期に発症することもあります。

慢性赤芽球癆のうち、後天性赤芽球癆は免疫機構をつかさどる胸腺(きょうせん)に腫瘍(しゅよう)を併発することが多いことから、自分のリンパ球が赤血球系幹細胞を攻撃する自己免疫疾患の一種と考えられています。胸腺に腫瘍を併発する例では、重症筋無力症を併発することもあり、脱力や眼瞼(がんけん)下垂などの症状がみられます。

医師による赤芽球癆の診断では、針を刺す骨髄穿刺(せんし)によって骨髄液を採取して、赤芽球が極端に少なくなっていることを確認します。胸部X線、胸部CT検査で、胸腺腫を認めることもあります。

貧血が重篤な場合は、症状を改善するために輸血が必要になることがあります。これは応急処置でしかなく、治療としては再生不良性貧血の中等症や重症の場合と同様に、免疫抑制療法が行われます。

最も多く使われる薬は免疫を抑制するシクロスポリンで、これを服用することで70~90%パーセントの人は改善されます。また、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)などを組み合わせて使うこともあります。

ウイルス感染以外では、薬をやめるとしばしば再発しますので、血液内科の専門医のもとで、副作用にも気を配りながら根気よく治療を続けます。一方、薬剤性赤芽球癆の場合は、原因と見なされるすべての薬剤の服用を中止します。中止が困難な薬剤の場合は、ほかの作用機序の異なる薬剤へ変更を試みます。

感染性や薬剤性の場合は通常、免疫抑制療法を行うことで1~3週間以内に改善傾向が認められます。

胸腺腫を伴う赤芽球癆の発症者は胸腺摘出後に改善するので、胸部CT検査を用いて病変の存在を検索し、外科的治療が検討されます。

ダイアモンドブラックファン貧血とも呼ばれる先天性赤芽球癆の治療では、骨髄移植が有効で、骨髄移植した子供の90パーセント以上が成功しています。そのほか、薬物療法として、蛋白(たんぱく)同化ホルモン剤や、ステロイド剤が併用されます。ステロイド剤のメチルプレドニゾロンの大量使用や、免疫抑制療法も行われています。その際には、薬の副作用や感染症、合併症に十分注意します。

🇧🇹赤血球増加症

貧血とは逆に、赤血球が増加する疾患

赤血球増加症とは、貧血とは逆に、血液中の赤血球が正常範囲を超えて増加する疾患。多血症とも呼びます。

下痢、嘔吐(おうと)、発汗、熱傷などで体液中の水分が失われて脱水症になった場合、血液が濃縮して見掛け上、赤血球が増加しますが、これも広義の赤血球増加症に含め、相対的赤血球増加症、相対的多血症と呼ぶことがあります。また、脱水症状もなく、はっきりとした原因がないストレス性赤血球増加症も、相対的赤血球増加症に含めます。ストレス性赤血球増加症は、肥満があるヘビースモーカーの男性によくみられ、短期間で改善します。

狭義の赤血球増加症、すなわち、全身の血管内を流れる赤血球の総数である循環赤血球量が増加する異常は、絶対的赤血球増加症と呼ばれます。これには、真性赤血球増加症と二次性(続発性)赤血球増加症があります。

真性赤血球増加症の原因は不明で、骨髄の慢性増殖性疾患、すなわち本態は腫瘍(しゅよう)と考えられています。

二次性赤血球増加症は、何らかの理由で、腎臓(じんぞう)で産生される造血ホルモンのエリスロポエチンが過剰に分泌され、刺激を受けた骨髄が赤血球を大量に作るために生じます。気圧が低い高地に暮らす人にみられ、また、ある種の先天性心臓病で、動脈血に静脈血が混じる場合や、肺気腫などのため肺からの酸素摂取がうまくいかない場合などに、全身の組織が酸素欠乏状態に陥り、エリスロポエチンの産生が高まります。

その結果、赤血球が大量に作られて赤血球増加症になれば、単位容積血液当たりの酸素運搬量が増えます。この一連の現象は、酸素欠乏を解消しようとするための、目的のある反応と解釈できます。一方、腎臓の疾患とか、ある種のがんでは、酸素欠乏がなくても、エリスロポエチンの過剰産生を来すことがあり、二次性赤血球増加症を生じます。

赤血球増加症の症状としては、血液中の赤血球が増加すると血液の粘度が増加し、血流障害を起こすことから、顔面紅潮と結膜充血のほか、疲れやすい、頭痛、めまい、耳鳴りなどの不定愁訴があります。時には、全く自覚症状がなく、たまたま検査をして赤血球増加症を発見されるケースもあります。

真性赤血球増加症では、しばしば高血圧と、脾臓(ひぞう)が大きくはれる脾腫を認めます。二次性赤血球増加症では、基礎になる疾患いかんにより、それぞれの症状が加わることになります。

赤血球増加症の検査と診断と治療

真性赤血球増加症では、赤血球ばかりでなく、血小板と白血球も増えます。真性多血症は、特徴的な症状と検査所見がそろえば積極的に診断できますが、実際には除外診断によらねばならないことが少なくありません。つまり、まず循環赤血球量を測定して、相対的赤血球増加症と鑑別し、次いで二次性赤血球増加症の原因となる基礎的な疾患の有無を詳しく調べて、どれにも該当しなければ真性赤血球増加症の診断をすることになります。

検査上、 赤血球数なら600万/μl以上、ヘモグロビン濃度なら18.0g/dl以上、ヘマトクリットなら55%以上が、赤血球増加症に相当します。ヘマトクリットとは、血液中の赤血球の割合のことです。

治療においては、赤血球増加症のための自覚症状が強く、心臓血管系の疾患を合併する可能性がある時は、発症者の静脈から一定量の血液を体外に出す瀉血(しゃけつ)をします。瀉血をすれば症状は改善しますが、すぐに赤血球が増えて元に戻るため、ブスルファン、ヒドロキシウレアなどの化学療法薬を使い、骨髄造血を抑制する措置を講じます。

これは真性赤血球増加症の場合にのみ適用され、二次性赤血球増加症では、まず原因の除去に努めます。

真性赤血球増加症は10〜20年と、慢性の経過をたどります。その間、医師の指示通りの療養に努めることが大切となります。治療を怠ると、すぐに赤血球数と血小板数が増加し、脳卒中や心筋梗塞(こうそく)、胃腸出血、肺塞栓(そくせん)症を招いて、死に至ることも多くみられます。

>予防のためには、脱水症状にならないように水分はきちんと補給し、喫煙、飲酒は控えます。ストレスをためないように過労は避け、適度な運動とバランスのよい食事を心掛け、肥満、高血圧、高脂血にならないように気を付けます。

2022/08/21

🇧🇳穿通枝梗塞

脳深部の細い動脈にできる直径15ミリ未満の小さな梗塞

穿通枝梗塞(せんつうしこうそく)とは、脳の深部を走っている極めて細い血管に起きた動脈硬化が原因となって、発症する小さな脳梗塞。ラクナ梗塞とも呼ばれます。

穿通枝梗塞は通常、脳の深部にある0・4ミリ以下の非常に細い血管である穿通枝(穿通枝動脈)が狭くなり、この部位に血の固まりである血栓が形成されて、最終的に血管が閉塞して生じるとされています。極めて細い血管の閉塞により生じる脳梗塞なので、病変の大きさは直径15ミリ以下です。直径15ミリを超える梗塞は、穿通枝梗塞とはいいません。

血管の閉塞のほかに、不整脈や心臓の疾患で心臓内で血栓が形成され、この血栓が流れて飛んで、脳の深部の極めて細い血管を閉塞させることもあります。血管の閉塞により、脳の組織の一部が壊死して脱落し空洞を残します。

この穿通枝梗塞は、小さな梗塞であるため、脳梗塞の中では最も症状が軽症です。ほかの種類の脳梗塞であるアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓と違い、大きな発作が起こることはありません。

その症状は穿通枝症候群といい、運動まひ、しびれなどの感覚障害が主に起こります。そして、症状は段階的に現れて、少しずつ進行していきます。穿通枝梗塞が発症することが多いのは、安静時で、特に睡眠中です。朝起きた時にも、起こることが多くみられます。

また、穿通枝梗塞では梗塞する部分が極めて小さいので、症状が出ないことがあります。これを無症候性脳梗塞、あるいは隠れ脳梗塞といい、運動障害や感覚障害などの自覚症状を感じないまま、小さな脳梗塞が起こります。高齢者に多くみられ、高血圧、高脂血症、糖尿病などがあると発症する確率が高くなります。

ほとんどが直径15ミリ以下の小さな梗塞ですが、そのまま放置しておくと、梗塞の数が増えたり、梗塞が脳のいろいろなところに発生して、多発性脳梗塞になります。多発性脳梗塞になると、手足や顔面のしびれ、軽いまひ、言語障害、歩行障害、食べ物を飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)障害などの症状がみられます。また、認知症の原因となることもあります。

多発性脳梗塞の一番の危険要因は、高血圧です。高血圧は、血管の内側の壁に強い圧力を加えます。そのために、血管の内側の壁が傷付いて、どんどん硬くもろくなり、動脈硬化が発症します。動脈硬化が起こると、血管の血液が通る部分が狭くなり、血流が途絶えて脳梗塞になる危険が増すのです。

穿通枝梗塞の検査と診断と治療

脳神経外科、脳外科、神経内科の医師による診断では、MRI(磁気共鳴画像)で脳血管の様子を調べるほか、超音波検査で首を通る頸(けい)動脈が動脈硬化を起こして狭くなっていないかどうかを調べます。頸動脈で血栓ができて脳に流れると、脳血管が詰まる恐れがあるためです。

脳神経外科、脳外科、神経内科の医師による治療では、血管が狭くなっていれば、血液を固まりにくくするアスピリン、塩酸チクロピジン、シロスタゾールなどの抗血小板剤を使用します。

脳血管がこれ以上詰まらないようにするには、血圧の管理が大切です。塩分を控え、過カロリー、脂質過多の食生活を見直して、魚や植物性蛋白(たんぱく)質中心の日本食を取り入れるなど食生活に気を配り、50歳代であれば、上は130未満、下は80未満を目標にします。毎日30分程度歩くこともお勧め。水分はしっかり補給し、節酒や禁煙も必要です。

適正な血圧は、年齢や心臓病や糖尿病の有無、コレステロール値などによって変わってきます。掛かり付け医を持ち、指導を受けるといいでしょう。

穿通枝梗塞が進行した多発性脳梗塞で起こりやすい認知症には、根本的な治療はありません。デイケア、デイサービスへの通所や、家族の協力のもとでの散歩や、食事、テレビ、清掃、おやつ、会話など、生活習慣を規則正しく続けることで、脳を活性化させ、症状が改善したり、進行が遅れたりということがあります。

🇧🇩先天性再生不良性貧血

重要な造血器である骨髄に、先天的な障害があるために起こる貧血

先天性再生不良性貧血とは、重要な造血器である骨髄に先天的な障害があるために、血液中の血球が減少して起こる貧血。常染色体劣性遺伝をする、まれな疾患です。

この先天性再生不良性貧血には、血液中の赤血球、白血球、血小板のすべての血球が減少するファンコニー貧血、血液中の赤血球だけが減少するダイヤモンドブラックファン貧血などがあります。

ファンコニー貧血の症状としては、頻繁な感染症、出血を起こしやすい、極度の疲れなどがみられます。しばしば、発症者は小柄な体形になったり、皮膚に褐色の斑点(はんてん)ができたりします。さらに、特定の種類のがんの発生リスクが高くなります。

通常は、2歳から15歳までの乳幼児期から小児期に発症します。その原因遺伝子は相次いで同定され、これまでのところ少なくとも13の原因遺伝子の関与が考えられています。

ダイヤモンドブラックファン貧血は、先天性赤芽球癆(せきがきゅうろう)とも呼ばれ、強い貧血を起こします。赤血球が減るほど、息切れ、動悸(どうき)、めまい、ふらつきなどの症状が強く出ます。母指または他の指の骨の異常、および低身長を伴うこともあります。通常は乳児期に発症しますが、成人期に発症することもあります。

先天性再生不良性貧血は治療の難しい疾患とされていますが、最近では骨髄移植が有効で、骨髄移植した子供の90パーセント以上が成功しています。そのほか、薬物療法として、蛋白(たんぱく)同化ホルモン剤や、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)が併用されます。

ステロイド剤のメチルプレドニゾロンの大量使用や、免疫抑制療法も行われています。その際には、薬の副作用や感染症、合併症に十分注意します。

🇲🇻早期再分極症候群

致死性不整脈へと直接つながる可能性がある不整脈疾患

早期再分極症候群とは、心臓の器質的な病変がない場合でも、心室細動や心室頻拍などの致死性不整脈へと直接つながる可能性がある不整脈疾患。J波症候群、ERS(Early Repolarization Syndrome)とも呼ばれます。

再分極は、心電図の波形において心臓の電気的刺激が収束していく過程のことを指す言葉であり、早期再分極症候群は、心臓の拍動を生み出す電気的刺激の伝達において、通常の場合よりも心筋の電気的刺激が早く収束する不整脈の形態を意味することになります。

これに対して、早期再分極症候群の別名として使われることも多いJ波症候群のJ波は、心室の収縮を表すQRS波と、心室の弛緩(しかん)すなわち再分極を表すT波の間に出現することがある心電図の小さな波のことを指す言葉であり、心電図のQRS波の終わりにJ波が割り込むように出現することによって、心筋の電気的刺激を収束させる本来の波であるT波がくる前に早期に心筋の弛緩が始まることになります。

従って、心電図においJ波が出現すると、心臓の電気的刺激の収束である再分極が通常よりも早期に始まることになるので、心電図にJ波が現れるJ波症候群は、早期再分極症候群へとつながる一連の不整脈の形態としてもとらえられることになります。

早期再分極症候群ないしJ波症候群においては、心筋の電気的刺激の伝達において、本来よりも早く心臓の電気的刺激が収束する再分極が始まることによって、心臓の電気的状態が不安定となり、特発性の心室頻拍や心室細動といったより重篤で命にかかわる不整脈の状態へと移行する可能性がある程度高まる可能性があると考えられます。

しかし、こうした潜在的な危険性の一方で、早期再分極や心電図におけるJ波の出現は、自覚症状がないものや、心電図におけるJ波の所見が極めて軽微であるものも含めると、全人口の5~10%程度の人に見られるほど非常に多く認められる心電図の特徴でもあります。

つまり、早期再分極症候群という不整脈の形態自体は、発症率の極めて高い、極めて一般的な不整脈の形態であり、早期再分極症候群を有する人の多くが、実際には、失神などの危険な兆候はおろか、何の自覚症状も感じずに、心室細動のような致死的な不整脈とは無縁のまま健康な生活を送っているということにもなります。

早期再分極症候群と診断された場合、その不整脈の形態が実際にどの程度命にかかわる危険性が高いかは、心電図に見られるJ波の波形の大きさや、頻脈発作の有無、失神やめまい、立ちくらみといった危険な兆候の有無などから総合的に判断されていくことになります。

特に、ブルガダ症候群やQT延長症候群といったほかの致死性不整脈と合併して、この早期再分極症候群が現れている場合は、心室細動や心室頻拍を引き起こす危険性が高まる要因として重視されることになります。

早期再分極症候群を発症する70〜80%は男性であり、発症年齢は40歳前後。突然死の家族歴を10〜20%に認め、これは早期再分極症候群の発症に遺伝的背景が関与していることを示唆しており、実際に現在までに5種類のイオンチャネル遺伝子が原因遺伝子として報告されています。

心室細動や心室頻拍を引き起こす状況は一様でなく、夜間や睡眠中に発作を来す場合が多いものの、労作時や運動時に発作を来す場合も少なからず存在します。

主に左室下壁誘導ないしは左室側壁誘導の早期再分極が心室細動に関連しますが、右側胸部誘導に早期再分極を認めることもあります。J波の高さはさまざまな状況において変動し、時に消失するものの、徐脈が生じたり,長いポーズ(心停止)が生じた時に増強し、心室細動の発作の直前に通常は最もJ波は高くなります。

早期再分極症候群の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による診断では、失神の既往歴、突然死の家族歴があり、心臓に流れる電流を異なる12方向から記録する12誘導心電図による検査で、左室下壁誘導(心電図検査のⅡ、Ⅲ、aVFと呼ばれる項目)と左室側壁誘導(心電図検査のⅠ、aVL、V4-V6と呼ばれる項目)の中の2誘導以上で1ミリ以上のJ波を認めた場合、早期再分極症候群の可能性を疑います。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による治療では、心室細動が出現した場合は、植え込み型除細動器(ICD)の埋め込み手術を行います。植え込み型除細動器は、致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置。

心室細動が頻回にわたって出現する場合には、発作予防の抗不整脈薬の投与が必要となり、β(ベータ)刺激薬であるイソプロテレノールや心拍を早くするためのベーシングが有効です。再発予防には、キニジンが有効です。

抗不整脈薬の効果がない場合は、心室細動の引き金になる心室性期外収縮を発生させている左室下壁あるいは左室側壁の異常興奮部位を探し出し、足の付け根などからカテーテルと呼ばれる電極を心臓内に挿入し、高周波電流で焼灼(しょうしゃく)するカテーテルアブレーション(カテーテル焼灼法)という手術を行うことがあります。

🇮🇳早朝高血圧

早朝高血圧とは、早朝に血圧が高くなる病態を意味します。医療機関の診察室で医師が測ると正常血圧なのに、ふだんは高血圧である仮面高血圧の中でも、よくみられるタイプで、就寝時は正常なのに、起床してから急激に血圧が上昇します。

このタイプの人は、もともと高血圧体質である上に、自律神経の働きが重なって、危険なほど異常に血圧が上がってしまうのです。

朝、急いで電車やバスに飛び乗る人や、急激な気温の変化に体をさらす人も、血圧が激しく上昇する可能性があります。その結果、急性心筋梗塞(こうそく)や、脳梗塞の発作の原因になることが知られています。

急性心筋梗塞は、朝の6時から10時の間に起こることが多く、早朝高血圧とのかかわりは無視できないとされています。

🇦🇫大血管転位症

大動脈が右心室から、肺動脈が左心室から出ている疾患

大血管転位症とは、正常の人とは反対に、右心室から大動脈、左心室から肺動脈が出ているもの。生まれ付き大血管の位置関係が反対、すなわち転位になっている先天性心臓病です。

この疾患には、完全大血管転位症と修正大血管転位症の2種類があります。右心房と右心室がつながり、左心房と左心室がつながっているのが完全大血管転位症、右心房と左心室がつながり、左心房と右心室がつながっているのが修正大血管転位症です。

完全大血管転位症は、新生児期にチアノ-ゼを来す先天性心臓病の中では最も多いものです。極めて重症の心臓病であり、心室中隔欠損や心房中隔欠損がなければ、あるいは動脈管が開いていなければ、全身に酸素を含んだ血液を送ることが不可能で生きていられないため、1950年代までは助ける手段がありませんでした。動脈管を開存させるプロスタグランディンという薬の登場と、心臓外科の進歩により、治療成績は飛躍的に向上し、今日では90パーセントを超える救命率に達しています。

合併している心臓病の有無により、症状、経過は異なります。心室中隔欠損を合併していないものでは、生まれた直後からチアノ-ゼを認め、以後進行します。心室中隔欠損を合併しているものでは、チアノ-ゼは軽度ながら、泣いた時などに顕著に現れます。生後3週間から6週間で、多呼吸、頻脈、多汗などの心不全症状が明らかとなります。心室中隔欠損と肺動脈狭窄(きょうさく)を合併しているものでは、症状と経過はファロ-四徴症に類似し、肺動脈狭窄の強いものはチアノ-ゼもより高度になります。手術治療を受けなければ、生後1年以内に90パーセントは死亡します。

一方、修正大血管転位症は比較的まれな疾患であり、左右の心房と心室の関係が入れ替わり、さらに心室と出口の大血管の関係が入れ替わっているために、血液の流れが大静脈→右心房→左心室→肺動脈→肺静脈→左心房→右心室→大動脈→大静脈となっています。体から戻ってきた静脈血が肺へ送られ、肺から戻ってきた動脈血が全身に送られて、血液の流れは修正されているため、修正大血管転位症と呼ばれるのです。

血流からは大きな異常がなく、正常に過ごすことも可能ですが、この修正大血管転位症でも、多くの例で心室中隔や心房中隔の欠損症や不整脈を伴い、それにより重症度に差があります。生後1カ月以内に心不全症状を来すものから、80歳まで天寿を全うするものまで、症状、経過は個々の症例によりさまざまです。

心室中隔欠損を合併し、肺動脈狭窄がないものは、症状出現が早く、乳児期早期に心不全症状を起こします。右心室の入り口の弁である三尖(さんせん)弁閉鎖不全を来すものは、幼児期以降に運動時の息切れを起こします。心室中隔欠損と肺動脈狭窄を合併するものは、チアノ-ゼを起こします。心室中隔欠損や肺動脈狭窄の合併のないものでは、成人期まで症状もなく経過し、健康診断での心電図異常で判明したり、房室ブロックなどで不整脈から息切れや意識消失発作を来たして見付かる場合もあります。

大血管転位症の検査と診断と治療

完全大血管転位症では、心臓超音波検査で診断が確定します。さらに、心臓カテーテル検査を行い、心臓を養う血管である冠動脈の走行、心室中隔欠損の有無や位置などを確認し、治療方針、手術方法が検討されます。また、心臓カテーテル検査に際しては、心房中隔欠損を通じる血流交通が十分かどうかも調べ、場合によっては、風船カテーテルを用いて左右の心房間の交通を広げる、バス(BAS:Balloon Atrial Septostomy )治療を行って、チアノ-ゼの改善を図ります。

修正大血管転位症では、健康診断で通常行われる診断聴診所見、胸部X線検査、心電図といった検査で疑われた場合、循環器を専門にしている医療機関で心臓超音波検査を受ければ確定診断がつきます。いろいろな不整脈を合併していることが多いため、24時間心電図や負荷心電図なども必要。手術治療が考慮される場合には、心臓カテーテル検査でさらに詳しく冠動脈、三尖弁、肺動脈弁の形態や他の合併疾患を調べることがあります。

完全大血管転位症の治療では、まず動脈管の開存を維持するプロスタグランディンの点滴投与を行って、肺への血流を維持します。上記のように、心臓カテーテル検査に際してバス治療を行って、チアノ-ゼの改善を図る場合もあります。

外科治療では、肺動脈狭窄がない場合、入れ替わっている大血管を元に戻す手術である大動脈スイッチ手術(ジャテネ手術、ジャテーン手術)が第一選択になります。この手術に際しては、単に出口の血管を入れ替えるだけでなく、大動脈の根元近くから出ている冠動脈を移植する必要があります。乳児期以降には、心房内血流転換手術(マスタード手術、セニング手術)を行う場合もまれにあります。

肺動脈狭窄を伴っていて、大動脈スイッチ手術が適さない場合には、体肺動脈短絡術などを行って肺への血流を増やした後に、3~5歳で肺動脈の再建を伴うラステリ手術が行われます。ラステリ手術は、動脈血を心室内導管を通して大動脈に、静脈血を心外導管を通して肺動脈に流すものです。

手術直後は、人工心肺の影響などから、強心剤や利尿剤を投与します。一時的に肺高血圧の悪化を生じる場合もあり、注意が必要です。長期的には、多くの場合は正常児に近い発育が見込まれますが、手術後に肺動脈狭窄、大動脈弁逆流、不整脈などを起こすことがあり、定期的なフォローアップが必要です。

修正大血管転位症の治療においても、合併する心臓病によって手術が必要な場合があります。特に、小児期にチアノ-ゼ、心不全を生じる場合は手術により、その後の発育、生活の質の改善が見込まれます。症例によっては、大動脈スイッチ手術と心房内血流転換手術を組み合わせたダブルスイッチ手術を行うことで、より長期に良好な心機能が期待できる場合もあります。

成人期の心不全症状に対しては内科的治療が第一となりますが、三尖弁逆流が進行してきた場合は外科治療も考慮されます。また、完全房室ブロックで徐脈による運動時の息切れ、意識消失発作などの既往があれば、ペースメーカー治療が考慮されます。動悸(どうき)発作など脈が速くなる頻脈性不整脈には、抗不整脈薬やカテーテル治療が考慮されます。

🇯🇴大動脈炎症候群

大動脈とその主要な分枝に狭窄を生じる特異な血管炎

大動脈炎症候群とは、大動脈とその主要な分枝に狭窄(きょうさく)を生じる特異な血管炎。手首の動脈の脈が触れないことがよくあるために脈なし病とも、最初の報告者の名前をとって高安(たかやす)病とも呼ばれています。

この大動脈炎症候群は若い女性に多く、特に日本ではかつてから頻度が高かったために、明治の末期から学者の間で注目され、1908年に高安病として欧米に報告されたものです。現在でも、日本が世界で最も発症者が多いといわれていますが、インド、中国などのアジア諸国でもみられるほかに、メキシコ、南アフリカなどでも少なくないようです。日本での発症者の約9割は女性で、発症年齢は20歳代が最も多く、次いで30歳代、40歳代の順。

原因は不明ながら、自己免疫機序が関与しているという説が有力です。炎症のために、動脈にひきつれができて壁が厚くなり、内腔(ないくう)が狭くなったり、詰まったりするために起こります。

炎症が起きる場所については、主に脳や腕に血液を送る動脈に起きると、かつては考えられていました。動脈造影法といった検査技術の進歩した最近では、炎症は大動脈全体と、そこから枝分かれしている腹部の内臓や腎(じん)臓の動脈、さらには肺動脈にも及ぶことがわかっています。時には、動脈が拡張して動脈瘤(りゅう)を作ることもあります。

最初の急性期は、発熱、全身倦怠(けんたい)感、食欲不振、体重減少などの症状から始まることもあります。発症が潜在性で気付かないことも多く、健康診断で「脈なし」を指摘されて、初めて診断されることがしばしばあります。その後、慢性の経過をたどるようになると、動脈の炎症がどの血管に起こったかによって、さまざまな症状が現れてきます。

脳へいく血管である頸(けい)動脈が狭くなったケースでは、視力が低下したり、めまい、立ちくらみ、頭痛などが起こります。また、頸動脈を圧迫したり、上を向く姿勢をとったりすると、めまいや気が遠くなるような感じの発作が生じます。まれに、脳梗塞(こうそく)や失明などが起こることもあります。鎖骨下動脈が狭くなったケースでは、上肢のしびれ感、脱力感、冷感、重い物を持つと疲れやすいなどの症状が起こります。

腹部の大動脈が狭くなったケースでは、上下半身で血圧の著しい差がみられ、上半身は血圧が高いのに下半身では血圧が低くなります。この状態では、足の動脈に脈が触れなくなって、少し歩くとふくらはぎが張って重くなったり、痛んだりする間欠性跛行(はこう)の症状が出ることもあります。腎臓へいく動脈が詰まったケースでは、血圧を高くする物質が血液中に増えるために、高血圧になります。

大動脈炎症候群の検査と診断と治療

腕の動脈に狭窄があると、血圧に左右差が生じます。狭窄による血管雑音は、頸部、鎖骨上窩(じょうか)などで聞かれます。血液検査では、赤沈(血沈)高進、CRP陽性、高ガンマグロブリン血症など通常の炎症反応がみられます。X線検査では、大動脈の拡大や石灰化が認められます。血管造影検査では、動脈の狭窄、閉塞、拡張、動脈瘤などの病変部位や程度がわかり、大動脈炎症候群の診断に最も有用です。心エコーや心臓カテーテル検査では、心臓合併症の有無を調べます。

急性期には、炎症を鎮めるための副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)が用いられます。CRP、赤沈を指標とした炎症反応の強さと臨床症状に対応して、投与量を加減しながら、継続的あるいは間欠的に投与します。慢性期には、血栓予防のため抗血小板薬や抗凝固薬を用います。

内科的治療が困難と考えられる場合で、特定の血管病変に起因することが明らかな症状がある場合には、外科的治療が考慮されます。頸動脈狭窄による脳虚血症状、腎動脈や大動脈の狭窄による高血圧、大動脈弁閉鎖不全、大動脈瘤などが、主な手術対象になります。

大動脈炎症候群はある程度までは進行しますが、その後は極めて慢性の経過をとるのが通常で、多くは長期の生存が可能です。しかし、脳への血流障害や心臓の合併症を生じた場合や、高血圧が合併する場合は、厳重な管理が必要になります。また、血管炎が再発することもあります。

🇯🇴大動脈縮窄症

大動脈の狭窄のために血液の流れが悪化

大動脈縮窄(しゅくさく)症とは、動脈管を中心にした大動脈に狭窄(きょうさく)があるために、血液の流れが悪くなる疾患。ほとんどが先天性のもので、女性よりも男性に多く発生しています。

心臓から全身に血液を送る大動脈は、左心室から頭の先や足側へ循環する時に、弓なりに曲がっています。この部分を大動脈弓と呼び、ここから下行大動脈に移る部分が先天的に、狭窄を起こしている場合があります。また、動脈管(ボタロー管)は胎児期には開いていますが、生後は閉鎖するのが一般的です。この閉鎖に伴って、動脈管の前後で大動脈狭窄が起こることがあります。

前者は乳児型、後者は成人型と呼ばれます。乳児型の場合は、心臓の奇形を合併していることが多く、そのために心不全や肺高血圧症を起こして、生後6カ月以内に死亡する率が高くなっています。成人型では、大動脈のバイパス(副血行路)が発達するので、発育上は支障がなく、予後も比較的良好です。

以上の2つは定型的な縮窄症ですが、異型大動脈縮窄症と呼ばれるものは、大動脈炎症候群と同類で、動脈壁に炎症が起こったためにできた狭窄です。この狭窄は大動脈の至る所にできますが、ほとんどは胸部から腹部にかけての大動脈に起こります。炎症がなぜ起こるかは、わかっていません。

大動脈縮窄症の症状としては、大動脈が狭くなったところで血流が抵抗を受けるために、狭窄部より上の、心臓に近いところでは高血圧になり、末端では低血圧になるという現象が起きます。すなわち、上半身は高血圧、下半身は低血圧になり、足の動脈では、股(また)の付け根の脈拍が触れないこともあります。また、高血圧のために左心室が肥大します。

自覚症状としては、運動をした時の激しい動悸(どうき)、顔面のほてり、頭痛、頭重という高血圧の症状がみられます。足では、血行が悪いために、長く歩くと足が痛い、疲れやすいなどの症状が現れます。乳幼児では、足の発育も悪くなります。

定型的な大動脈縮窄症の場合、ほうっておくと20歳までに75パーセントが死亡するとされています。死因としては、縮窄に合併した心破裂、大動脈瘤(りゅう)破裂、心内膜炎、心不全、脳出血など。

大動脈縮窄症の検査と診断と治療

X線検査、心臓超音波検査、心電図検査を行います。また、手にある橈骨(とうこつ)動脈から造影剤を注入し、大動脈をX線で撮影する逆行性橈骨動脈造影で診断を確定することもあります。

診断がつき、狭窄が強い場合には、血行再建のための手術を行います。定型的な大動脈縮窄症では、狭窄部を切除して上下の大動脈をつなぎます。狭窄の範囲が広ければ、人工血管でつなぎます。手術の時期は、8〜14歳ぐらいが好成績を得られると見なされています。

異型大動脈縮窄症に対しては、病変部の切除が困難なことも多く、この場合は、代用血管でバイパスを作る手術を行います。

手術後、再び狭窄が認められることがあります。近年では、再狭窄に対して、手術以外の方法としてカテーテル治療が行われることもあります。

🇱🇧大動脈瘤

胸部あるいは腹部の大動脈の血管が拡張

大動脈瘤(りゅう)とは、胸部大動脈あるいは腹部大動脈の壁の一部分が弾力性を失って、こぶ状に拡張した状態。この疾患は、女性よりも男性に多く、また、50歳以上の人に多く発生しています。

大動脈瘤は、大動脈壁の弱くなっている部分が血流によって圧力を加えられると、外側に向けてふくらんで発生します。治療しないで放置すると、破裂して内出血を起こす危険性があります。同時に、大動脈瘤の内部では血流が滞りやすくなるため、しばしば血液の塊である血栓が形成され、壁全体に広がることもあります。このような血栓がはがれ落ちて塞栓(そくせん)になって流れ、他の部位で動脈に詰まることもあります。

大動脈瘤の主な原因は、大動脈壁をもろくするアテローム(粥状(じゅくじょう)動脈硬化です。高齢者の大動脈瘤はほとんどがアテローム動脈硬化によるもので、高血圧と喫煙は発症のリスクを増大させます。まれな原因には、外傷、大動脈炎、マルファン症候群のような遺伝性結合組織障害、梅毒などの感染症があります。マルファン症候群による大動脈瘤は、心臓に最も近い上行大動脈に最も多く発生します。

大動脈瘤は大動脈に沿ってどこにでも発生する可能性がありますが、4分の3と最も多いのは腹部を通過する部分である腹部大動脈。残りは胸部を通過する部分である胸部大動脈に起こり、その中では上行大動脈に最も多く発生します。大動脈瘤は丸い嚢状(のうじょう)の場合も、チューブのような紡錘状の場合もあります。紡錘状が多くみられ、嚢状のものは破裂しやすいと見なされています。

多くの大動脈瘤は、こぶ状の拡大が徐々に進行するために、初めはほとんど症状がありません。特に、胸部大動脈は胸の中にあるため胸部大動脈瘤の自覚症状は乏しく、健診での胸部X線写真で異常な影を指摘されて、初めて気付くことがまれではありません。

胸部大動脈瘤が大きくなると周囲の組織を圧迫して、さまざまな症状を引き起こすことがあります。大動脈瘤の発生した場所によって、症状は異なります。典型的な症状は、痛み、せき、喘鳴(ぜんめい)です。痛みは普通、背中の上部に感じます。

まれに、気管支やその付近の気道が圧迫されたり、ただれたりすると、喀血(かっけつ)がみられます。大動脈瘤によって食道が圧迫されると、食べ物を飲み込めなくなります。声帯を支配している神経が圧迫されると、左側の声帯の働きが悪くなって、しわがれ声(嗄声(させい))が出てきます。胸部の特定の神経が圧迫されると、瞳孔(どうこう)が収縮し、まぶたが垂れ下がり、顔の片側に汗をかくなどのホルネル症候群と呼ばれる一群の症状がみられます。時には、胸部に異常な拍動を感じたりします。

こうした症状が出てきた場合は、胸部大動脈瘤がかなり大きくなっていると考えられ、破裂した場合は、背中の上の方に激痛が起こります。この痛みは破裂が進むに従って背中の下の方へ、さらに腹部へと広がります。また、心臓発作の際のように胸や腕に痛みを感じることもあります。すぐに手術ができる病院に搬送することが必要です。

腹部大動脈瘤の場合は、ヘソのあたりにドキドキと拍動するこぶを触れることが典型的な症状ですが、こぶが小さかったり、肥満でおなかに脂肪がたまっていたりする場合は、触ってもわからないことがあります。腹部の超音波検査や、CT検査で初めて発見されることがまれではありません。

また、腹部大動脈瘤では、突き刺すような痛みを体の深部や背中に感じることもあります。大動脈瘤から血液が漏れ出している場合は、ひどい痛みが続きます。

腹部大動脈瘤が破裂した場合は、激烈な腹痛や腰痛が出てきます。腹部大動脈からの出血は、腹部から後方の腰の部分に広がることが多いためです。出血が一時的に止まって、腹痛や腰痛の症状が初めは軽いことがあります。しかし、その後に大出血して意識不明になることも多く、腹部大動脈瘤の破裂が疑われた場合には、ただちに手術が可能な病院に搬送する必要があります。

大動脈瘤が怖いのは、破裂による内出血が重い場合には急速にショック状態に陥り、死に至ることが多いためです。破裂のしやすさは、大動脈瘤の直径の大きさによります。直径が大きければ大きいほど、破裂しやすくなります。正常な胸部大動脈の直径は2・5センチほどなので、拡大して正常の2倍を超えた5〜6センチになると、破裂の危険性が出てきます。胸部大動脈瘤の直径が6センチを超える場合は、破裂防止のために手術治療が考えられます。

一方、腹部大動脈瘤の場合は、正常な腹部大動脈の直径が1・5〜2センチほどなので、その2倍の4センチを超えると破裂の危険性が出てきます。腹部大動脈瘤の場合は、直径が5センチになれば手術が必要です。

大動脈瘤の検査と診断と治療

胸部大動脈瘤あるいは腹部大動脈瘤があることが疑われた場合には、経験のある心臓血管外科専門医と相談することが勧められます。

胸部大動脈瘤の有無は、胸部X線検査で調べることができます。ただし、心臓の影の裏に動脈瘤がある時には見逃されることがあるので、正面と側面から胸部X線写真を撮ることによって、胸部大動脈瘤の拡大の有無をチェックします。しかし、正確な胸部大動脈の直径を知ることは胸部X線写真からでは困難です。胸部大動脈瘤を診断するには胸部のCT検査が最適で、胸部大動脈の正確な直径を知ることができます。手術が必要かどうかも知ることができます。

腹部大動脈瘤の有無は、腹部エコーや腹部CT検査によって知ることができます。よく健診で腹部エコー検査を行いますが、胆嚢(たんのう)や肝臓は調べても腹部大動脈を調べないことがあり、腹部大動脈瘤が見逃されることがあります。腹部エコー検査の時には、腹部大動脈も診てもらう必要があります。腹部大動脈瘤の正確な直径は、CT検査によってわかります。手術が必要かどうかもわかります。

大動脈瘤の拡大が軽度であれば手術は行わず、血圧を調べて高血圧があれば、血圧を上げないように薬による治療を行います。しかし、大動脈瘤を治す薬はありません。大動脈瘤が大きくなれば、手術が必要になります。

CT検査で大動脈の直径の拡大が認められ、本来の直径の2倍を超えるよう心臓血管外科専門医との慎重な検討が必要です。手術は、あくまで破裂予防のための手術なので、手術の危険性と破裂の危険性を十分に検討し、納得の上でその後の方針を決めることになります。

一般に、よく準備された腹部大動脈瘤の手術の危険性は低いと考えられています。従って、直径が5センチに及ぶ腹部大動脈瘤では手術が勧められています。胸部大動脈瘤の手術の危険性は、腹部大動脈瘤よりは高いとされています。

大動脈瘤に対する手術の基本は、人工血管による大動脈の置換術。大動脈瘤が大きい場合は、全身麻酔による胸部の開胸術、あるいは腹部の開腹術が必要になります。最近では、膨張性のワイヤーでできたステントに人工血管を縫着したステントグラフトを、開胸したり、開腹したりせずに、太ももの動脈などから挿入して、大動脈瘤の部位に留置、固定する手術も行われてきています。

🇮🇱Ⅱa型高リポ蛋白血症

遺伝によって高リポ蛋白血症を発症する疾患

Ⅱa型高リポ蛋白(たんぱく)血症とは、遺伝によって、血液の中を流れる脂質成分であるLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が異常に増え、高リポ蛋白血症(高脂血症)を発症する疾患。家族性高コレステロール血症とも呼ばれます。

本来、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)は、肝臓の細胞表面にあるLDL受容体と呼ばれる蛋白によって細胞の中に取り込まれ、壊されます。しかし、Ⅱa型高リポ蛋白血症では、LDL受容体の遺伝子やこれを働かせる遺伝子に異常があるため、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が細胞の中に取り込まれないで、血液の中にたまります。

人間の遺伝子は、父親由来と母親由来の2つが一組となってできています。LDL受容体やこれを働かせる遺伝子の両方に異常がある場合をホモ接合体と呼び、いずれか一方のみに異常が認められる場合をヘテロ接合体と呼びます。ホモ接合体のみならずヘテロ接合体も、Ⅱa型高リポ蛋白血症を示します。

Ⅱa型高リポ蛋白血症ヘテロ接合体の発症者は500人に1人以上、Ⅱa型高リポ蛋白血症ホモ接合体の発症者は100万人に1人以上の頻度で認められ、Ⅱa型高リポ蛋白血症の発症者総数は25万人以上と推定されています。さまざまな遺伝性代謝疾患の中でも、最も頻度が高い疾患といえます。

Ⅱa型高リポ蛋白血症ホモ接合体の発症者は、血清総コレステロール値が生まれつき非常に高く、平均で713mg/dl程度とされています。Ⅱa型高リポ蛋白血症ヘテロ接合体の発症者は、平均で338mg/dl程度とされています。健常人は、120~220mg/dlです。

このため、Ⅱa型高リポ蛋白血症ホモ接合体の発症者は、10歳までに、肘(ひじ)や膝(ひざ)などの皮膚に黄色腫(おうしょくしゅ)と呼ばれる黄色いいぼ状の塊が見られます。成長とともに、結節状に盛り上がった黄色腫が肘や膝、手首、尻(しり)、アキレス腱(けん)、手の甲などに多く認められます。

また、幼い時から動脈硬化が進行して、大動脈弁や冠動脈に動脈硬化が進行すると、階段を上がると胸が痛い、苦しいという症状が出ることがあります。小児期に狭心症、心筋梗塞(こうそく)などの命にかかわる疾患を発症することもあります。

Ⅱa型高リポ蛋白血症ヘテロ接合体の発症者では、重症例で皮膚の黄色腫が見られることがありますが、多くは10歳以後に起きます。

Ⅱa型高リポ蛋白血症は、常染色体優性遺伝性の形で遺伝する可能性があります。父親と母親がともにⅡa型高リポ蛋白血症ヘテロ接合体の場合、4分の1確率でホモ接合体の子供が生まれます。両親のいずれか片方がヘテロ接合体である場合、2分の1の確率でヘテロ接合体の子供が生まれます。

Ⅱa型高リポ蛋白血症は、小児期に皮膚の黄色腫で気付かれ、血液検査で明らかな高リポ蛋白血症が判明することで診断されます。動脈硬化性疾患の予防を目的としたLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を低下させるための治療が必要となります。

Ⅱa型高リポ蛋白血症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌(しょくじ)療法、運動療法に加えて、薬物療法を行ないます。

食餌療法では、脂肪やコレステロールの少ない食事を摂取します。運動療法では、軽い有酸素運動を行ないます。

薬物療法では、スタチンを始めとする脂質低下剤を使用します。薬剤の効果が十分でない場合が多く、効果が足りなければエゼチミブなどのコレステロール吸収阻害剤、プロブコールなどのコレステロール異化促進剤を使用します。

それでも効果が足りない場合に、LDLアフェレシスという体外循環を用いてLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を取り除くことができる治療法を行ないます。これは、機械装置を使って血液からLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を直接除去する方法で、動脈硬化の進行を遅くすることができます。1~2週間に1回の頻度で、一生、続ける必要があります。

Ⅱa型高リポ蛋白血症ホモ接合体の発症者に対して、LDLアフェレシスの導入が遅れると心筋梗塞で死亡する場合もあり、ベッド上で治療の時間中、安静にできるようになる4歳~6歳には治療を始めることが望まれます。治療法の一つとして、 生体肝移植が選択される場合もあります。

適切な治療を行なわない場合、予後は極めて不良です。

🇸🇦二次性高血圧

何らかの特定される疾患があって、その症状の1つとして起こる高血圧

二次性高血圧とは、何らかの特定される疾患があって、その症状の1つとして起こる高血圧。続発性高血圧ともいいます。

原因となる疾患にもよりますが、治せる高血圧ということもできます。症状は無症状のものから、その原因となる疾患に起因した特徴的なものまでさまざまです。疾患が治れば、その症状である高血圧も解消するのが原則ですが、疾患が治っても高血圧だけが残ってしまうことがあります。この場合は、高血圧の治療が必要になります。

二次性高血圧の頻度は低く、高血圧全体の10パーセント未満で、原因となる疾患のない本態性高血圧が90パーセント以上を占めています。しかし、35歳以下の若い人に発症する若年性高血圧は、この二次性高血圧のことが多く、詳細な検査が必要になることが多いものです。また、治療でなかなか血圧が下がらない場合や、高齢者で急激に高血圧を発症した場合などに、この二次性高血圧が疑われます。

二次性高血圧は、疾患の部位などに応じて、腎性(じんせい)高血圧、内分泌性高血圧、心血管性高血圧、神経性高血圧、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)などに分類されています。

腎性高血圧は、腎臓の疾患が原因で引き起こされる高血圧。最も頻度が高く、二次性高血圧の4分の3を占めます。高血圧を起こすのは、急性腎炎、慢性腎炎、糖尿病性腎症、痛風腎、腎盂(じんう)腎炎、腎梗塞(こうそく)、腎動脈狭窄(きょうさく)症、レニン産生腫瘍(しゅよう)、ウィルムス腫瘍、腎周囲膿瘍(のうよう)などが主なものです。

これらの疾患が起こった場合、腎臓の中を流れる血液の量が減少します。すると腎臓は、レニン・アンギオテンシン、アルドステロンという血圧を上昇させる物質の分泌量を増やします。血圧を上昇させ、腎臓へより多くの量の血液が流れるように仕向けるのです。

内分泌性高血圧は、ホルモンの分泌が異常になる疾患で引き起こされる高血圧。腎性高血圧に次いで頻度が高くなっています。バセドウ病などの甲状腺(せん)機能高進症で引き起こされることが多いのですが、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、クッシング症候群などの副腎の疾患が原因のこともあります。

心血管性高血圧は、心臓から出てすぐの太い血管である心血管の疾患で引き起こされる高血圧。大動脈縮窄症、大動脈炎症候群(高安病、脈なし病)などが代表的な疾患です。

神経性高血圧は、脳・神経の疾患で引き起こされる高血圧。脳の中の圧が高くなると、高血圧が起こってきます。原因となる疾患は、髄膜炎や脳腫瘍が代表的ですが、頭に外傷を受けた時や、ポリオ(小児まひ)などによる神経病の後、血圧の上がることがあります。

妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)は、妊娠に伴って起こる疾患です。高血圧、むくみ(浮腫〔ふしゅ〕)、たんぱく尿が3大症状ですが、高血圧だけしか現れないこともあります。

二次性高血圧は本態性高血圧に比べ、軽いうちから自覚症状が現れやすいものですが、 放置すると心疾患や脳血管疾患といった生命にかかわる疾患を引き起こしますので、早期発見、早期治療に努めるべきです。

二次性高血圧の検査と診断と治療

内科、あるいは循環器科の医師に診断では、まず血圧の値がどの程度変動するか、どの程度のレベルを示すかという血圧値の吟味をします。高血圧であることがわかれば、それが原因となる疾患のある二次性高血圧か、通常多くみられる本態性高血圧なのかという原因診断と、高血圧によって脳、心臓、腎臓、眼底などの重要臓器に、どの程度障害があるかという重症度診断の二つを行います。

二次性高血圧は、既往歴、家族歴、現在の検査データや経過などから、これをどの程度疑わなければならないかがかなり判明します。しかも、二次性高血圧は手術などで高血圧も根治できることがある点からも、その診断は重要で、入院しての精密検査を含めて、いろいろな検査が必要なことがあります。特に腎性高血圧が疑われる時は、静脈性腎盂撮影やCT検査が行われます。

逆に、二次性高血圧の頻度は高血圧全体からみれば10パーセント未満なので、無駄な検査はせずに必要最小限ですむよう、疑わしい時は最初から専門施設に紹介されることもあります。

二次性高血圧の治療では、原因となる疾患の治療を進めながら、必要に応じて降圧剤の投与や高血圧の食事療法と運動療法を同時に進めていきます。そして、原因となる疾患が治療されれば、自然と二次性高血圧も改善されていきます。

ただし、高血圧が長く続くと腎臓を痛めてしまうので、原因となる疾患を治しても高血圧の状態が続いてしまう慢性高血圧になってしまうこともあります。

2022/08/19

🇾🇪二次性脂質異常症

生活習慣、疾患、薬剤の副作用などが原因で起こる脂質異常症

二次性脂質異常症とは、体質の遺伝以外の原因で起こる脂質異常症(高脂血症)。続発性脂質異常症、二次性高脂血症とも呼ばれます。

脂質異常症では、血液の中を流れる脂質成分である総コレステロール、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、中性脂肪(トリグリセライド)が高く、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い状態が継続します。

動脈硬化症などの危険因子の一つで、脂質異常症になると、血液の粘度が高まり、スムーズに流れにくくなります。

通常、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が140mg/dl以上、中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dl以上、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が40mg/dl以下を異常とします。

血液の中には、コレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)のほか、リン脂質、遊離脂肪酸といった脂質成分が流れています。コレステロールは細胞膜やホルモンの材料となり、中性脂肪はエネルギーの貯蔵庫などとなり、体の機能を保持するために大切な働きを持っています。これらの脂質は肝臓で作られたり、食事から体に摂取され、血液中の脂質成分の量は保たれ調整されています。

脂質異常症では、このような調整機能が低下したり、食事からの摂取量が多量になっている状態、あるいは、HDLコレステロール(善玉コレステロール)については低い状態が継続します。

この脂質異常症が遺伝的体質以外の原因で起こるのが、二次性脂質異常症であり、食事などの生活習慣や、何らかの疾患、薬剤の副作用が原因になります。

食事では、肉類、脂身の多い魚、バターなどの動物性脂肪(飽和脂肪酸)や鶏卵、うに、イクラ、レバー、もつ類などのコレステロールの多い食品を取りすぎたり、野菜や海草の摂取不足などの食事のアンバランスにより、血液に含まれるコレステロールが増加します。

また、エネルギーの過剰摂取、すなわち食べすぎや清涼飲料水、アルコールの飲みすぎ、脂っこいものや甘いものの過剰摂取により、血液に含まれる中性脂肪(トリグリセライド)が増加します。

食べすぎとともに運動不足は、肥満をもたらし、血液に含まれる中性脂肪(トリグリセライド)を増加させます。喫煙は、血液に含まれるHDLコレステロール(善玉コレステロール)を減少させます。

甲状腺(せん)機能低下症や肝臓病、腎(じん)臓病、糖尿病などの疾患が原因となって、脂質異常症を引き起こすこともあります。女性では閉経後、エストロゲンという女性ホルモンの減退により、血液に含まれるコレステロールが増加します。

さらに、疾患の治療に使ったステロイドホルモン剤という薬剤の副作用により、脂質異常症が起こることがあります。

二次性脂質異常症は放置しておくと、血管の動脈硬化が徐々に進行していくものの、初期の段階では体の自覚症状は全くありません。しかし、最終的には虚血性疾患である心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞などの深刻な疾患を引き起こす要因となります。もし検診などで脂質異常症を指摘されたら、放置せずに内科、ないし内分泌・代謝科を受診し、適切な治療を受けることが勧められます。

二次性脂質異常症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中のコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)の値を測定します。朝食前の空腹時に採血します。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値は、これらから計算することもできますが、直接、測定する方法もあります。

脂質異常症の診断基準では、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が140mg/dl以上を高LDLコレステロール血症、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が120〜139mg/dl以上を境界域高LDLコレステロール血症、中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dl以上を高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症) 、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が40mg/dl以下を低HDLコレステロール血症とします。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、ほかの疾患や薬剤が原因となって起こるタイプの二次性脂質異常症の場合、原因となっている疾患を治療したり、可能ならば薬を変えたりやめたりすることで、脂質異常症を改善することができます。

食事などの生活習慣が原因となって起こるタイプの二次性脂質異常症の場合、欧米風の高カロリー食品やコレステロール値の高い食品、脂分の多いファーストフードの過剰な摂取を制限します。そして、野菜や海草、果物、魚といった低カロリー食や低脂肪食、低炭水化物食を中心とした食生活に切り替えます。

積極的にウォーキングや水中歩行などの適度な有酸素運動を行なうと、適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

また、喫煙、アルコールの飲みすぎ、ストレス、過労、睡眠不足など生活習慣全般の見直しも、改善法として効果的です。

食事などの生活習慣の見直しで血液中の脂質に値が十分に改善しない場合は、脂質を下げる薬を服用することもあります。

高コレステロール血症に対しては、一般にスタチンと呼ばれているHMG‐CoA還元酵素阻害薬を使います。この種類の薬は、コレステロールの合成を抑制するものです。そのほかにも、コレステロールの吸収阻害剤や、レジンと呼ばれる陰イオン交換樹脂やプロブコール、ニコチン酸誘導体を使います。

高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)に対しては、フィブラート系薬物のベザフィブラートや、フェノフィブラートを使います。EPA(エイコサペント酸エチル)を使うと、血管に直接働いて抗動脈硬化作用を示すともいわれています。

🇾🇪二次性赤血球増加症

貧血とは逆に、何らかの原因に反応して血液中の赤血球が増加する疾患

二次性赤血球増加症とは、貧血とは逆に、何らかの原因に反応して血液中の赤血球総数が正常範囲を超えて増加する状態。

血液中の赤血球の増加は、腎臓(じんぞう)で産生される造血ホルモンのエリスロポエチンが過剰に分泌され、刺激を受けた骨髄が赤血球を大量に作るために生じます。

ある種の先天性心臓病で動脈血に静脈血が混じる場合や、肺気腫(はいきしゅ)、慢性気管支炎、肺線維症などの慢性肺疾患のため肺からの酸素摂取がうまくいかない場合、あるいは過度の喫煙で大量の一酸化炭素を肺から血液中に取り込んだ場合などに、全身の組織が酸素欠乏状態に陥り、エリスロポエチンの産生が高まります。その結果、赤血球が大量に作られれば、単位容積血液当たりの酸素運搬量が増えます。この一連の現象は、酸素欠乏を解消しようとするための、目的のある反応と解釈できます。

この点、海抜の高い地域の住民は、常に低酸素状態で生活しているため二次性赤血球増加症になっています。

一方、腎臓の疾患とか、一部の腎がん、肝細胞がん、子宮がん、小脳腫瘍(しゅよう)などの悪性腫瘍によって、酸素欠乏がなくても、エリスロポエチンの過剰産生を来すことがあり、二次性赤血球増加症を生じます。

二次性赤血球増加症の症状としては、血液中の赤血球が増加すると血液の粘度が増加し、血流障害を起こすことから、顔面紅潮と結膜充血のほか、疲れやすい、頭痛、めまい、耳鳴り、高血圧などが生じます。さらに、一過性脳虚血発作、脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞などの血栓症状を呈する場合もあり、基礎になる疾患いかんにより、それぞれの症状が加わることになります。

なお、この二次性赤血球増加症には、赤血球が腫瘍性に増殖する真性赤血球増加症(真性多血症)は含まれません。また、体液中の水分が失われて脱水症になった場合に、血液が濃縮して起こる見掛け上の赤血球増加症(相対的赤血球増加症、相対的多血症)、あるいは、脱水症状もなく、はっきりとした原因がないストレス性赤血球増加症も含まれません。

二次性赤血球増加症の検査と診断と治療

内科の医師による診断では、血液検査で赤血球数の増加が認められます。脱水症が原因となって起こる見掛け上の赤血球増加症、ストレス性赤血球増加症と区別するために、循環赤血球量の測定を行い、血液中の総赤血球数が真に増加していることを確認します。

さらに、心・肺疾患の有無の確認、動脈血酸素飽和度の測定、大量喫煙歴の確認、血中エリスロポエチン量の測定などを順次行います。

真性赤血球増加症(真性多血症)の場合と異なり、白血球および血小板数の増加は伴わず、また脾臓(ひぞう)のはれも認めません。エリスロポエチンを産生する悪性腫瘍が疑われる場合には、腫瘍の検索を併せて行う必要があります。

二次性赤血球増加症の治療では、心・肺疾患、エリスロポエチンを産生する悪性腫瘍など、原因となる疾患の治療が主となります。過度の喫煙が原因の場合には、禁煙が重要になります。

🇴🇲二次性貧血

造血器以外の疾患の症状として、二次性にみられる貧血

二次性貧血とは、造血器疾患以外の他の疾患の症状として、二次性にみられる貧血。続発性貧血、症候性貧血と呼ばれることもあります。

主な原因としては、慢性感染症、膠原(こうげん)病などの慢性炎症、悪性腫瘍(しゅよう)、腎(じん)疾患、肝疾患、内分泌疾患などがあります。特に、慢性感染症、膠原病などの慢性炎症、悪性腫瘍による貧血は病態が共通しているため、慢性疾患による貧血とも呼ばれています。 白血病に随伴する貧血も、通常、この二次性貧血の一種です。

二次性貧血の症状は、他の何らかの疾患に基づいて徐々に進行するため、初期段階では自覚されにくいという特徴があります。進行すると、動悸(どうき)や息切れ、立ちくらみなどの貧血特有の症状が現れます。

また、高齢者でみられる軽度から中等度の貧血は、大部分が二次性貧血で、陰に消化器系の悪性腫瘍が潜んでいることがあるので注意が必要です。

結核、感染性心内膜炎、肝膿瘍(のうよう)などの慢性的な感染症のほか、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどの膠原病に伴う慢性炎症、悪性腫瘍があると、鉄分を摂取しても治らない貧血が起こることがあります。その原因は、免疫にかかわる組織が活発になり、鉄が組織に取り込まれて鉄欠乏の状態になることにあります。

次に、腎疾患が悪化して腎臓の機能が失われ腎不全に陥ると、造血を促すホルモンであるエリスロポエチン(赤血球生成促進因子)が産生されにくくなるために、二次性貧血が起こります。そのほかにも、腎臓の排出機能の低下によって体内にたまる尿毒症性物質による造血抑制や、溶血の高進、低栄養、透析に伴う失血など、さまざまな原因が関係して起こります。

さらに、肝硬変や慢性肝炎などの肝疾患がある場合にも、肝臓が体内の一大化学工場のような臓器であるため、さまざまな物質の代謝機能が低下し、二次性貧血が起こります。甲状腺(せん)機能低下症、下垂体機能低下症、副腎皮質機能低下症などの内分泌疾患がある場合も、赤血球の産生能力が低下するため、二次性貧血が起こります。

医師による診断では、血液一般検査で貧血の有無がわかります。二次性貧血の治療では、原因となっている疾患を治療すれば貧血も回復しますが、原因がはっきりせず診断に時間が掛かることもあります。

腎疾患による場合は、造血を促すホルモンであるエリスロポエチンが不足するため、静脈内注射ないし皮下注射によるエリスロポエチンの投与や、造血に必要となるビタミンB12、葉酸などのビタミン剤の投与が行われます。ただし、エリスロポエチンの投与で血圧上昇、高血圧性脳症、脳梗塞(こうそく)を来すこともあるので、あまり急速に貧血を改善させないほうが安全です。エリスロポエチンの投与でも貧血が改善しない場合は、ほかの原因を調べる必要があります。

内分泌疾患による場合も、不足したホルモンの補充などが行われます。重度の貧血症の場合には、赤血球を輸血するなどの治療を行うこともあります。

なお、徐々に二次性貧血になると、体がそれに慣れて、かなり重症でも自覚症状があまり出ない場合があるので、定期的に検査を受けることが大切です。

🇰🇼Ⅱb型高リポ蛋白血症

体質の遺伝により、思春期以降に高リポ蛋白血症が出現しやすい疾患

Ⅱb型高リポ蛋白(たんぱく)血症とは、血液中の総コレステロールと中性脂肪(トリグリセライド)の両方がかなり高値となる疾患。家族性複合型高脂血症、家族性複合型脂質異常症とも呼ばれます。

体質の遺伝による高リポ蛋白血症(高脂血症)で、いわゆる生まれ付きのものです。常染色体優性遺伝の形式を示すとされているものの、疾患を起こす遺伝子は特定されておらず、リポ蛋白リパーゼ(LPL)やアポ蛋白など複数の遺伝子異常がかかわっていると見なされています。

その頻度は高く、人口1000人に10人の割合で、つまり人口の約1パーセントにみられます。血液中の脂質を増やす遺伝性疾患の中では、最も多くみられる疾患に相当します。

若年で心筋梗塞(こうそく)を発症することがあり、65歳以下の心筋梗塞患者の基礎疾患として約30パーセントを占めるとされます。

思春期以降に高リポ蛋白血症が出現することが多く、過栄養、運動不足などの後天的要因によっても、高リポ蛋白血症が誘発されます。LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の上昇は、同じ遺伝性疾患であるⅡa型高リポ蛋白血症(家族性高コレステロール血症)に比べると、比較的軽度。

VLDL(超低比重リポ蛋白)コレステロールとLDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の値が上昇するⅡb型高リポ蛋白血症を基盤としますが、LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の値が上昇するⅡa型高リポ蛋白血症や、VLDL(超低比重リポ蛋白)コレステロールの値が上昇するⅠⅤ型高リポ蛋白血症を示す時があります。

同一家系内に高コレステロール血症、高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)および両者合併型の高リポ蛋白血症が混在し、さらに同一者が高コレステロール血症を示したり、高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)を示したりするという特徴があります。

通常、小児期には症状はありません。LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の上昇が、Ⅱa型高リポ蛋白血症に比べると、比較的軽度のためです。

高リポ蛋白血症はそれ自身自覚症状はありませんが、将来、心筋梗塞などの動脈硬化症を引き起こす疾患であることを十分認識し、もし検診などで指摘されたら、放置せずに内科、内分泌・代謝科を受診し、適切な治療を受けることが勧められます。

Ⅱb型高リポ蛋白血症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、まず身体診察を行い、家族歴について質問します。次に血液検査を行ない、LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)、またHDL(高比重リポ蛋白)コレステロール(善玉コレステロール)の値を測定するとともに、中性脂肪(トリグリセライド)、小型LDLコレステロール(超悪玉コレステロール)、アポ蛋白Bの測定を行ないます。食後9時間から12時間の空腹時に採血します。

大抵の場合、LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)と中性脂肪(トリグリセライド)の値が上昇しており、HDL(高比重リポ蛋白)コレステロール(善玉コレステロール)の値は平均値よりも低下しています。また、小型LDLコレステロール(超悪玉コレステロール)の存在により、アポ蛋白Bの値が上昇しています。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌(しょくじ)療法、運動療法、薬物療法を行ないます。Ⅱb型高リポ蛋白血症(家族性複合型高脂血症)は遺伝子異常を背景とし、代謝異常が生涯持続するため、治療の目的は疾患を完治させることではなく、心臓疾患のリスクを軽減させることです。

食餌療法では、欧米風の高カロリー食品やコレステロール値の高い食品、脂分の多いファーストフードの過剰な摂取を制限します。そして、野菜や果物、魚といった低カロリー食や低脂肪食、低炭水化物食を中心とした食生活に切り替えます。

運動療法では、積極的にウォーキングや水中歩行などの適度な有酸素運動を行ないます。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

また、喫煙、ストレス、過労、飲酒、睡眠不足など生活習慣全般の見直しも、改善法として効果的です。

薬物療法では、一般にスタチン系薬剤と呼ばれているHMG‐CoA還元酵素阻害薬を使います。この種類の薬は、コレステロールの合成を抑制するもので、LDL(高比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の値を低下させます。

症状に応じて、フィブラート系薬剤のベザフィブラートやフェノフィブラートを使います。この種類の薬は、中性脂肪の合成を阻害するものです。オメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)製剤やドコサヘキサンエン酸(DHA)製剤を使うこともあります。

そのほか、ニコチン酸、胆汁酸陰イオン交換樹脂を使うこともあります。胆汁酸陰イオン交換樹脂は、特に食事療法と併用した場合に、LDL(高比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の値を効果的に低下させます。

血液中の脂質レベルが高すぎるため、医療的な治療を施しても心臓発作の可能性を大幅に低めることはできない場合があります。こういった場合、治療を行ってもリスクは高いままです。

🇲🇾ファロー四徴症

四つの病変を合併する先天性心臓病

ファロー四徴(しちょう)症とは、四つの病変を合併する先天性心臓病。チアノーゼが出現する心臓の複合異常の代表的なもので、日本では先天性心臓病の約14パーセントを占めると見なされています。

合併する四つの病変とは、(1)心室中隔欠損、(2)肺動脈狭窄(きょうさく)、(3)大動脈騎乗、(4)右心室肥大です。心室中隔欠損は、心臓の4つの部屋のうち右心室と左心室を隔てる心室中隔という筋肉の壁に欠損口が開いている状態。肺動脈狭窄は、右心室から肺動脈へと通じる通路が狭い状態で、肺動脈の弁の下の筋肉の壁が分厚くなって生じており、多くは漏斗部狭窄です。

大動脈騎乗は、通常であれば左心室だけにつながる大動脈が心室中隔欠損の上にまたがる形になり、右心室と左心室の両方の出口となっている状態で、両心室内の血液が主として大動脈へ流れ出します。右心室肥大は、通常であれば壁が薄く、きゃしゃな構造の右心室が出口が狭くて、心臓の収縮期の血圧が高いために、その血圧に対抗して壁が分厚くなっている状態です。

ファロー四徴症においては、全く関連のない四つの病変がたまたま複合して出現したわけではありません。胎生期に心臓が形作られる過程で、心臓の出口の部分の大動脈と肺動脈の間の仕切りと、それを支える右心室と左心室の間の仕切りがねじれ、その間の壁に心室中隔欠損を生じて、四つの病変が派生してくると考えられています。

なお、疾患名は、フランスの医師ファローが1888年、最初に詳細な報告をしたことに由来しています。

症状としては、右心室の静脈血が大動脈に多量に流出するために、酸素の足りない血液が全身に回るチアノーゼが出現し、唇やつめの色が青紫色になります。そのほか、指先が膨らんで太鼓のばちのようになるばち指がみられ、呼吸困難、発育障害がみられます。

ファロ-四徴症の乳幼児のチアノ-ゼは常に同じ程度なのではなく、ふだんは気が付かない程度に軽くても、入浴時や排便時、泣いた時、息んだ時に強く現れます。とりわけ、ほ乳時や泣いた後に、チアノ-ゼと呼吸困難が強くなる無酸素発作を起こすことがあり、注意が必要です。

重症になると、酸素不足のために引き付けを起こしたり、場合によっては命にかかわることがあります。3歳をすぎると無酸素発作の頻度が減るのが普通ですが、運動後などに無意識にしゃがみ込む姿勢が見られるようになります。うずくまって休むと、症状が軽くなるためです。

チアノ-ゼの出方は、肺動脈狭窄や大動脈騎乗の程度によってさまざまで、ほとんどチアノ-ゼの出ない場合もあります。

ごくまれに、成人期に達するまで気付かれずに経過する場合があります。疾患の程度にもよりますが、全く未治療で成人に達するのは10人に1人程度の確率とされています。無酸素発作のほかにもチアノ-ゼ状態によって起こりうるいろいろな合併症を来すため、早期の外科治療が大変重要です。たとえ成人期に達してからでも、手術をすれば症状が改善し、楽になりますcenter。

ファロー四徴症の検査と診断と治療

心臓超音波検査で、ファロ-四徴症の確定診断がつきます。手術を行う場合には、その前に肺動脈の正確な形態や、心室中隔欠損の位置、心臓を養う血管である冠動脈の走行、まれに合併する肺に流れ込む異常血管の有無などを調べるために、心臓カテーテル検査を行います。

無酸素発作を度々起こすような時は、ベータブロッカーと呼ばれる種類の薬を内服して、発作を予防することもあります。なお、保護者が乳幼児の無酸素発作に気付いた場合は、胸膝(きょうしつ)位といって足のひざを腹に押し付けるようにします。この姿勢をとることにより、体よりも肺に血液が流れやすくなって発作を収められるのです。また、なるべく泣き続けるような状況にしない、便秘にしないなどの注意が必要です。

ファロ-四徴症の治療は、基本的には外科手術となります。第一選択となるのは、心臓を切開して行う開心術により、人工心肺の機械を用いて心臓の中を治す手術で、根治術と呼ばれます。まず、心室中隔の欠損口を閉じて、肺動脈の狭いところを広げます。肺動脈の弁の下の筋肉の張り出しによる狭窄は、筋肉を切除します。肺動脈の弁そのものが狭い場合や、その先の肺動脈の分岐が狭い場合は、狭い部分にパッチを当てて狭窄を解除します。

手術を行う時期は、手術のリスクと、手術を待っている間のチアノ-ゼによる合併症のリスクとのバランスを考慮して、決まります。心臓外科の進歩に伴って、低年齢化する傾向をたどっており、現在はだいたい1歳前後に手術を行う医療施設が多くなっています。

根治術ができない場合には、鎖骨下動脈と肺動脈を人工血管でつないで、肺血流を増加させる待機的手術が行われます。これはブラロックトーシッヒ手術、BTシャント術などと呼ばれ、チアノ-ゼが軽減され、無酸素発作の予防になります。高度の肺動脈狭窄や左心室の低形成を伴う場合、無酸素発作を伴う低体重の乳児の場合、冠動脈の異常を伴う場合などに選択されます。待機的手術後に開心術を安全に行うための条件が整えば、根治術が行われることもあります。

根治術後のファロー四徴症の予後は、良好です。多くの場合、制限のない日常生活が見込まれ、女性であれば妊娠、出産も健常人と同様に可能となります。しかしながら、血液の流れの上ではチアノ-ゼは完全になくなりますが、心臓そのものが全く正常の心臓に変わるわけではないので、根治術後も定期的なフォローアップが必要です。

🇹🇭ファンコニー貧血

骨髄で血液細胞が作られなくなる、まれな遺伝性疾患

ファンコニー貧血とは、重要な造血器である骨髄で血液細胞が作られなくなる、まれな疾患。先天性再生不良性貧血の一種で、常染色体劣性遺伝をします。

先天性再生不良性貧血は、骨髄に先天的な障害があるために血液中の血球が減少して起こる貧血で、このファンコニー貧血や、ダイヤモンドブラックファン貧血などがあります。

ファンコニー貧血では、血液中の赤血球、白血球、血小板のすべての血球が減少し、ダイヤモンドブラックファン貧血では、血液中の赤血球だけが減少します。

ファンコニー貧血は通常、2歳から15歳までの乳幼児期から小児期に発症します。その原因遺伝子は相次いで同定され、これまでのところ少なくとも13の原因遺伝子の関与が考えられています。

症状としては、頻繁な感染症、出血を起こしやすい、極度の疲れなどがみられます。しばしば、発症者は小柄な体形になったり、皮膚に褐色の斑点(はんてん)ができたりします。さらに、特定の種類のがんの発生リスクが高くなります。

ファンコニー貧血、ダイヤモンドブラックファン貧血などの先天性再生不良性貧血は治療の難しい疾患とされていますが、最近では骨髄移植が有効で、骨髄移植した子供の90パーセント以上が成功しています。そのほか、薬物療法として、蛋白(たんぱく)同化ホルモン剤や、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)が併用されます。

ステロイド剤のメチルプレドニゾロンの大量使用や、免疫抑制療法も行われています。その際には、薬の副作用や感染症、合併症に十分注意します。

🇹🇭不安定狭心症

進行性で心筋梗塞に移行する可能性がある狭心症

不安定狭心症とは、狭心症の中でも進行性で、とりわけ急性心筋梗塞(こうそく)、心臓突然死に移行する可能性の高い狭心症。

具体的には、1週間以内に出現した安静時狭心症、1~3週間以内に初めて起こった労作(ろうさ)性狭心症もしくは少なくとも6カ月以上胸痛発作がなかったのに再発した労作性狭心症、安定した労作性狭心症であったものが胸痛発作の頻度や強さや持続時間が増大し、容易に出現しやすくなった増悪型労作性狭心症、異型狭心症、非Q波形成型心筋梗塞、発症24時間以後の梗塞後狭心症が、不安定狭心症に含まれます。

こうした病態は、冠動脈の狭窄(きょうさく)に加え、血栓形成や攣縮(れんしゅく)に血小板凝集など複数の因子が組み合わさって、冠動脈内腔(ないくう)の閉塞が不完全あるいは一過性の場合に、発生するとされます。

症状としては、狭心痛という発作を繰り返す特徴があります。典型的な狭心痛発作は突然、胸の中央部に締め付けられるような痛みが起こり、痛みは左肩、左手に広がります。まれに、下あご、のどに痛みが出ることもあります。

発作の時間は数分から数十分で治まりますが、発作中は顔面蒼白(そうはく)、胸部圧迫感、息苦しさ、冷汗、動悸(どうき)、頻脈、血圧上昇、頭痛、嘔吐(おうと)のみられるものもあります。

初めての狭心痛発作は見過ごしがちですが、症状を放置した場合、一週間以内に心筋梗塞、心室細動などを引き起こす可能性もあります。特に高齢者や、狭心痛発作が頻発に起こる人は、注意が必要となります。

不安定狭心症はいつ急性心筋梗塞に移行してもおかしくない状態ですが、速やかに入院し適切な治療により血流が再開できれば、そのまま安定化することもあります。

急性心筋梗塞の3分の1は前兆もなく突然に発症しますが、残りの3分の2は不安定狭心症の段階をへて発症するといわれています。従って、不安定狭心症のうちに専門病院を救急で受診し、心筋梗塞を未然に防ぐことが望まれます。

不安定狭心症の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科などの医師による診断では、まず問診によって、冠動脈疾患の危険因子の有無と程度から評価してゆきます。家族歴、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙の危険因子のうち、多ければ多いほど冠動脈疾患を引き起こしやすく、危険因子が少なければ少ないほど冠動脈疾患を引き起こしにくくなります。

確定診断は冠動脈カテーテル検査(冠動脈造影検査)で下しますが、まずは冠動脈カテーテル検査が必要であるかどうかを評価してゆきます。心電図検査、胸部レントゲン検査、採血による心筋トロポニン検査やBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)検査、その後必要に応じて、冠動脈CT検査や心臓MRI検査を追加して行きます。

狭心痛発作か動悸かはっきりしない場合は、ホルター心電図検査による症状出現時の心電図記録の情報が重要になります。

冠動脈カテーテル検査では、カテーテルという細長いチューブを手首や肘(ひじ)、足の付け根の血管を通して心臓まで挿入し、造影剤を注射して冠動脈のX線撮影を行います。冠動脈の狭窄の程度、部位、病変数などを詳細に評価でき、狭心症の確定診断、重症度の評価、治療方針の最終決定ができます。

循環器科、循環器内科などの医師による治療では、薬物療法としてはニトログリセリン、硝酸イソソルビドなどの硝酸薬、ベータ遮断薬、Ca拮抗(きっこう)薬、アスピリンなどの抗血小板薬、抗凝固薬を従来よりも強力に投与する必要があります。なお、最近では血小板溶解薬、GPⅡb/Ⅲaインヒビターを投与する方法が効果を上げ、評価されつつあります。

時には経皮的冠動脈形成術やステントの留置を行ない、場合によっては冠動脈バイパス移植術などの外科的治療を行ないます。

経皮的冠動脈形成術は、冠動脈カテーテル検査と同じように、カテーテルを直接冠動脈の入り口まで挿入します。このカテーテルの中を通して細い針金を狭窄部の先まで送り込みます。この針金をガイドにしてバルーン(風船)を狭窄部まで持っていき、バルーンを膨らませて狭窄を押し広げ拡張させます。全体の所要時間は、数十分から数時間です。

狭窄した冠動脈をバルーンで押し広げた後に、コイル状の金属であるステントを留置することもあります。ステントを入れて広げられた狭窄部は内側から支えられ、再び狭窄することを防ぎます。再狭窄をできるだけ防ぐために、薬剤を塗布したステントも最近使用されています。

冠動脈バイパス移植術は、狭心症に対する薬物療法が無効で、 カテーテルによる治療も困難または不可能な場合に行います。冠動脈の狭い部分には手をつけず、体のほかの部分の血管を使って狭窄部分の前と後ろをつなぐ別のバイパス(通路)を作成して、狭窄部を通らずに心筋に血液が流れる道をつくります。バイパスに用いるグラフト(血管)には、足の静脈、胸の中で心臓の近くにある左右内胸動脈、胃のそばにある右胃大網動脈などを使います。

🟩宮城県石巻市の養鶏場で鳥インフルエンザ検出、17万羽を殺処分へ 今季全国で7例目

 宮城県は10日、石巻市の養鶏場の鶏から高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5亜型)が検出されたと発表しました。近くの関連農場も含めて計約17万2000羽の殺処分を始め、13日にも完了する見込み。養鶏場での感染確認は県内で今季初めてで、全国では7例目。  県によると、9日午後3...