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2022/08/12

👂外耳道真珠腫

外耳道に耳垢をためた真珠腫という袋ができ、耳の器官や骨を破壊する疾患

外耳道真珠腫(がいじどうしんじゅしゅ)とは、耳の穴の入り口から鼓膜までの空洞である管腔(かんくう)、つまり外耳道に、上皮の脱落物である耳垢(みみあか)を異常にためた真珠腫という袋ができ、耳の器官や骨を破壊する疾患。

40歳以上の人の片側の耳に起こることが多い疾患ですが、両側の耳に起こることも、比較的若い人に起こることもあります。

外傷、耳垢からの刺激、炎症からの刺激などによって、外耳道の上皮の一部が深部の組織である間質のほうへ袋のような形で陥没し入り口が狭くなると、陥没した上皮が常に出す耳垢は出てゆくことができずに袋の中にたまり続け、耳垢をためた袋はどんどん大きくなっていきます。

このようにして、内部に耳垢をためた袋が外耳道にできたものを真珠腫と呼んでいます。感染を伴わない真珠腫は真珠のような白いきれいな色をしており、真珠腫が大きくなる様子も真珠が大きくなるのに似ているため、外耳道真珠腫という疾患名が付けられました。

真珠腫の増殖が止まらないと、外耳道の表面に露出を始めて管腔を狭くしてゆき、外耳道の下と後ろの壁にびらん(ただれ)を起こします。また、真珠腫は骨を溶かす性質が強いため、肥大化した真珠腫が間質のさらに奥の骨を破壊しながら増殖を続ける場合があります。

症状としては、慢性の鈍い耳の痛み、耳垂れ(耳漏)が起こります。鼓膜は正常なことが多く、真珠腫による外耳道の栓塞(せんそく)や難聴が起こることはありません。

しかし、骨の破壊が進行する方向によって中耳へ進展すると、難聴、めまい、開口障害、顔面神経まひなどを起こすこともあります。

外耳道真珠腫を放置しても、すぐに命にはかかわるようなことはありませんが、難聴やめまい、進行すると顔面神経まひの原因となることもあるので、早めに耳鼻咽喉(いんこう)科を受診して、真珠腫の除去を行ってもらうことが勧められます。

外耳道真珠腫の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、処置用顕微鏡による観察で外耳道深部の拡大と白い真珠腫を認めれば、比較的容易に判断できます。外耳道深部の拡大が明らかで、処置用顕微鏡で死角が生じる部位の観察には、中耳内視鏡が有用です。真珠腫の進展範囲、骨破壊の有無は、CT(コンピュータ断層撮影)検査で評価します。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、処置用顕微鏡やファイバースコープを用いて、増殖する真珠腫を定期的に除去し、抗生剤の点耳や内服を行います。

患部が広がっている場合や、骨が壊死(えし)を起こし骨破壊が進行している場合、手術によって真珠腫の摘出と病的骨組織の除去を行います。皮膚欠損部は上皮化を促進するために、側頭骨筋膜や人工皮膚を用いてカバーします。

外耳道真珠腫では自浄作用が落ちているため、真珠腫が増殖しやすいので数カ月ごとの定期的な除去が必要です。放置すると外耳道の骨の破壊が進行するため、必ず指示された受診頻度を守るようにしてもらいます。

🦻外耳道閉鎖症

耳の穴、つまり外耳道が骨や結合組織で閉じてしまう疾患

外耳道(がいじどう)閉鎖症とは、耳の穴の入り口から鼓膜までの空洞である管腔(かんくう)、つまり外耳道が閉じてしまう疾患。内耳には異常がありません。

外耳道が骨で閉ざされる場合と、結合組織で閉ざされる場合とがあり、頻度は骨で閉ざされる場合のほうが高く、骨性閉鎖とも呼ばれます。また、両側の耳の外耳道が閉ざされる場合と、片側の耳の外耳道だけが閉ざされる場合とがあります。

さらに、先天性の外耳道閉鎖症と、後天性に起こる外耳道閉鎖症とがあります。

先天性のものは、胎生6カ月ごろまでに完成する第1鰓溝(さいこう)という外耳道の元になる組織が管腔化する際の障害によって、外耳道の閉鎖が起こるといわれています。耳介奇形、小耳(しょうじ)症などの奇形を合併することが多く、耳の近くの顔面や中耳にもさまざまな形態異常を伴うことがあります。

そして、ほとんどは外耳道が骨で閉ざされていて耳の穴がないため、耳の鼓膜と内耳との間にある中耳へ音が伝わらず、その側の耳に中等度以上の伝音(でんおん)難聴があります。

生後に起こる後天性のものは、外傷、やけど、外部からの慢性的な刺激、外耳や中耳の慢性の炎症、中耳手術後の感染などのために、肉芽(にくげ)という新しい結合組織になる増殖物が盛り上がり、外耳道をふさぐために起こります。

外耳道の骨の増殖が原因で起こることもあり、例えば、長期間にわたってサーフィンをする人は冷たい波を頻繁に耳に受けることにより、外耳道の骨が増殖して外耳道が徐々に狭くなり、ひどくなると外耳道閉塞症に至ることがあります。古くから潜水夫や、水泳愛好者に多いことが知られていましたが、特に最近はサーファーに好発することからサーファーズイヤーとも呼ばれるまでになりました。

後天性の外耳道閉鎖症の症状としては、外耳道が結合組織や骨で閉ざされるため、音が中耳へ伝わらず、伝音難聴になり、聴力レベルが60デシベル程度となります。

外耳道閉鎖症の検査と診断と治療

耳鼻咽喉(いんこう)科、ないし形成外科の医師による診断では、視診のほか、単純X線検査、断層X線検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行い、外耳道の状態、中耳の耳小骨の状態や形態異常の有無、鼻咽腔の炎症の有無などを調べます。また、聴力検査または聴性脳幹反応(ABR)の検査を行います。

耳鼻咽喉科、ないし形成外科の医師による治療では、両側の耳の外耳道が閉ざされている場合と、片側の耳の外耳道だけが閉ざされている場合とでは、方針が大きく変わります。

閉鎖が片側の耳の外耳道だけで、もう一方の耳の聴力が正常であれば、当面は手術の必要がありません。先天性であっても、言語の発達に全く問題は起こりませんし、閉鎖しているほうの耳に補聴器を使う必要もありません。高校生ぐらいまで待って手術を行ってもいいとされますが、早く治したいのであれば、急性中耳炎が起こりにくくなる8~9歳くらいで手術することも可能です。

先天性で、しかも両側の耳の外耳道が閉鎖している場合は、言語の発達する時期に十分な聴力を確保するために、できるだけ早くから骨導補聴器を使用し始めるとともに、鼓室外耳道形成術という手術をできるだけ早い時期に実施します。

手術は、ふつう全身麻酔をして行います。手術の方法には、骨を削って外耳道を作成する外耳道形成術と、音を伝えるための鼓膜や耳小骨を作り聴力を回復させる鼓室形成術があります。4〜5歳くらいで、片側ずつ外耳道形成術を行い、鼓室形成術も行える場合は聴力も改善できます。

先天性の場合、顔面神経が耳の側頭骨の中で異常な走行の仕方をしていることがあり、この時は難しい手術になるので、熟練した耳鼻咽喉科医に手術をしてもらうことが望まれます。

耳介の形態異常である小耳症を伴っている時は、耳鼻咽喉科と形成外科の医師が緊密な連絡を取り、手術の時期や回数、方法などについて慎重に検討し、8~9歳になってから、主に形成外科の医師が耳介形成術を行ってから外耳道形成術を行います。

これらの手術を行っても、長い時をへると再び外耳道が狭くなったり、聴力が悪化したりすることもあり、再手術が必要になることもあります。

後天性の外耳道閉鎖症の場合は、傷などが治ってからふさがった部分を広げる手術をします。

🇺🇿外傷後ストレス障害(PTSD)

衝撃的な体験によって生じる精神障害

外傷後ストレス障害とは、衝撃的な出来事を体験することによって心の傷が生じ、さまざまなストレス障害を引き起こす疾患。心的外傷後ストレス障害、PTSD(Post-traumatic stress disorder)とも呼ばれます。

その出来事をありありと思い出すフラッシュバックや、苦痛を伴う悪夢が、特徴的です。心の傷は、心的外傷またはトラウマと呼ばれます。トラウマは本来、単に外傷を意味しますが、日本では心的外傷として使用される場合がほとんどです。

心的外傷を生じ得る出来事としては、地震、津波、洪水、火山の噴火といった大きな自然災害、原発事故、航空機事故、列車事故、自動車事故、火災、戦争といった人工災害、殺人事件、テロ、監禁、虐待、強姦〈ごうかん〉といった犯罪が挙げられます。

通常は衝撃的な出来事を体験しても、時間の経過とともに心身の反応は落ち着き、記憶は薄れていきます。しかし、あまりにもショックが大きすぎる時、個人のストレスに対する過敏性が強い時、小児のように自我が未発達な段階では、大きな障害を残すことがあるのです。とりわけ、幼少期などの成長過程で心的外傷が起きると、脳の発育にダメージを受け、海馬の不発達や委縮などを起こすこともあります。

外傷後ストレス障害(PTSD)の主要症状は、再体験、回避、過覚醒(かかくせい)の3つです。

1)再体験

原因となった外傷的な体験の記憶が、再体験されることをいいます。その形式として、次のいずれかをとります。

*誘因なく思い出される。

*悪夢にみる。

*フラッシュバック、体験に関する錯覚や幻覚。

*外傷に関連した刺激による主観的な苦痛。

*外傷に関連した刺激による自律神経症状を示す。

2)回避

苦痛な体験を思い出すような状況や場面を、意識的あるいは無意識的に避け続けるという症状、および感情や感覚などの反応性の麻痺(まひ)という症状を指しています。次のような症状があります。

*慢性的な無力感、無価値感が生じ、周りの人間とは違う世界に住んでいると感じる。

*感情や関心が狭くなり、人を愛したり喜ぶことができない。

*外傷記憶の部分的な健忘。

*外傷に関連した刺激を避けようとする。

3)過覚醒

常に危険が続いているかのような張り詰めた状態をいいます。交感神経系が緊張し、ささいな物音などにも反応し、パニックとなりやすくなります。次のような症状があります。

*入眠困難。

*いらだち。

*集中力の低下。

*張り詰めた警戒心。

*ささいなことでの過剰な驚愕(きょうがく)。

医学的には、上記の症状の6項目以上が外傷的な体験の後、1カ月以上持続し、自覚的な苦悩か社会的機能の低下が明らかな場合に、外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されます。大半のケースでは、心的外傷を受けてから6カ月以内に発症しますが、6カ月以上遅れて発症する遅延型も存在します。

なお、症状が1カ月以上持続している場合に外傷後ストレス障害(PTSD)と診断するのに対して、1カ月未満の場合には急性ストレス障害(ASD:Acute Stress Disorder)と診断します。

衝撃的な出来事に遭遇した直後の1カ月以内に、重症の反応を生じるのが急性ストレス障害(ASD)で、外傷後ストレス障害(PTSD)にみられる再体験、回避、過覚醒の3大症状だけでなく、解離性症状と呼ばれる健忘や現実感の喪失、感覚や感情の麻痺などが強く現れます。

一般的なケアと専門的な治療

外傷後ストレス障害(PTSD)の症状自体は、衝撃的な出来事に対する正常な反応です。多くの人はショックな出来事を経験しても、時間の経過とともに心身の安定を取り戻していきますが、大きな心身の障害を残す場合には治療が必要となります。

対応としては、一般的なケアと専門的な治療に分けられます。一般的なケアとしては、安全、安心、安眠の確保に努め、二次的な心的外傷(トラウマ)を未然に防ぎ、自然の回復を促進します。疾患ついての心理的な教育も有効です。

症状が重い急性期には、あれこれと聞き出すことはよくありません。一時期、このような対応がデブリーフィングという名前で行われていましたが、現在では否定されています。心理的な配慮を持たない事情聴取や現場検証が、ストレスとなることに注意します。

専門的な治療としては、薬物療法と精神療法が有効です。不安、過敏症状、睡眠障害には抗不安薬、抑うつ症状には抗うつ薬が用いられ、最近ではSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が第1選択薬として用いられています。

精神療法としては、支持的なカウンセリングが中心ですが、恐怖体験の言語化と不安反応のコントロールを目指した認知行動療法、最近の新しい治療法であるEMDR(眼球運動による脱感作と再処理)があります。EMDRは、問題の記憶場面を思い浮かべながらリズミカルに目を動かすという方法で、外傷的記憶を処理するという効果があります。

また、発症者は外傷的記憶を思い出したくないために、あまり口に出さず、ただ我慢しているケースが多く、周囲からなかなか理解を得られないことがありますので、相談ができて心理的に支えてもらえる態勢を作るソーシャル・サポートの意義が重要です。特に、自我が未発達な幼小児には、早期から対応する必要があります。

🇰🇿外傷性鼓膜裂傷

何らかの外力により鼓膜が破れたり、穴が開く症状

外傷性鼓膜裂傷とは、何らかの外的な力が加わって、耳の奥にある薄い膜である鼓膜が破れたり、穴が開く状態。鼓膜裂傷、外傷性鼓膜穿孔(せんこう)とも呼ばれます。

鼓膜は、耳に入ってくる音を振動に変換し、耳小骨経由で内耳に伝える働きのほか、外耳と中耳を境界する役目をしている器官です。その構造は、直径約9ミリ、厚さ0・1ミリの薄い膜状で、耳の入り口から約3センチのところに位置しており、外耳道のほうに向かって開いたパラボラアンテナのような形態をしています。

体の中には、いくつかの膜状構造物がありますが、鼓膜は常に外界に交通しているため、外力に弱い器官といえるでしょう。外傷性鼓膜裂傷が発生するのは、鼓膜に対する外からの力の伝わり方によって、直達性外力によるものと介達性外力によるものとに分類されます。

直達性外力による外傷性鼓膜裂傷は、鼓膜に直接力が加わった場合、例えば耳かき、マッチ棒、異物などを誤って奥に入れてしまったりすると起こります。この直達性の鼓膜裂傷は鼓膜を破ってしまうだけでなく、耳小骨、顔面神経管、骨迷路に達してしまう危険があり、内耳性難聴、顔面神経まひを合併することがあります。

介達性外力による外傷性鼓膜裂傷は、耳に何かがぶつかることによって外耳道の急激な圧上昇が起こり、鼓膜がその圧変化に耐えられなくなり穴が開きます。具体的には、耳介部の平手打ちや、スポーツ中にボールが耳に当たったりすると起こります。また、爆発、爆風などによる外耳道の急激な圧上昇などの間接的な外力でも起こります。

頭部外傷によっても介達性の鼓膜裂傷を起こしますが、内耳振盪(しんとう)症、耳小骨連鎖障害、髄液漏が合併することが多く、一般に重症になります。

外傷性鼓膜裂傷の症状としては、直達性にせよ介達性にせよ、最初耳に痛みがあり、少し出血しますが、徐々に治まります。しかし、難聴、耳鳴り、耳閉感が残ります。

外傷性鼓膜裂傷の検査と診断と治療

耳鼻咽喉(いんこう)科の医師による診断では、鼓膜の視診と聴力検査を行います。鼓膜の視診では、耳鏡を使って裂傷の程度などを観察します。聴力検査では、音を聴神経へ伝える外耳・中耳・鼓膜に障害が生じたために起こる伝音性難聴か、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけて障害が生じたために起こる感音性難聴かを調べて、症状の進行状況を把握します。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、外耳道に付着した血液や耳垢(みみあか)を取り除いてきれいにし、抗生物質や消炎薬を服用します。鼓膜に開いている穴が小さい場合は、通常、数日で鼓膜の穴はふさがります。

鼓膜は外耳道側から上皮層、固有層、粘膜層からなる3層構造をしており、いったん鼓膜が破れると、生体の修復機構が働き、まず上皮層の増殖が開始されます。次に固有層と粘膜層の修復が開始されていきます。この際に、上皮層が内側に入り込んでしまい、固有層、粘膜層の再生のじゃまをしてしまうことがあります。こうなると鼓膜に開いた穴はふさがらなくなってしまいます。

上皮層が内側に入り込んでいる状態が、耳鏡での観察で確認された場合は、穴の縁を薬や針を使って取り除きます。さらに、滅菌された薄い紙、被覆保護材料のキチン膜、植皮手術の時に使用する皮膚被覆用のシリコン付きコラーゲン膜などで、鼓膜表面を被い、鼓膜の再生を促進します。

自然治癒傾向が強く、ほとんどが2カ月以内に治癒しますが、鼓膜の穴が完全にふさがるかどうかは、2次的に起こった細菌感染の期間と穴の大きさに左右されます。

2カ月以上経過しても穴がふさがらない場合、鼓膜形成術が必要になります。フィブリン糊(のり)を使用した鼓膜形成術であれば、日帰り手術が可能な場合もあります。

外傷性鼓膜裂傷になった場合、鼓膜に穴が開いている状態なので、鼻を強くかまないように注意し、風呂(ふろ)に入る際は耳に水が入らないように注意しなければなりません。防水耳栓もあります。

🇺🇿外傷性視神経症

視神経管への打撃によって、視機能がさまざまに障害される疾患

外傷性視神経症とは、視神経管への打撃による視神経の損傷や、視神経管の骨折による視神経症。外傷の原因としては、前額部の強打、オートバイや自転車、自動車などによる交通事故、墜落事故などが挙げられます。

外傷性視神経症を起こすと、視神経線維そのものに対する一次障害と、組織への循環障害や浮腫(ふしゅ)、血腫による二次障害とが複合し、多彩な視機能障害が生じます。視神経は視覚情報を伝える100万本以上の神経線維を含んでいて、網膜に映った物の形や色、光などの情報を脳神経細胞に伝達するという役割を担っていますので、視神経線維が障害を受けると、物を見る働きも部分的にまたは完全に損なわれてしまうわけです。

大多数は、眉毛(まゆげ)部外側への打撃が視神経管部に到達した際の、浮腫や循環障害が原因となります。 視神経管は視束管ともいい、視神経が眼底から頭蓋(とうがい)内に入っていく際に通るトンネルのような細い骨の穴です。まれに、視神経管内の血腫による圧迫や、視神経管の骨折による視神経線維の直接損傷が原因になります。視神経管のほか、眼窩(がんか)内や、視神経が眼底より出る乳頭部位での傷害例もあります。

外傷性視神経症の視機能障害は、数分から数時間で急速に進むこともあれば、2~7日かけて徐々に進行することもあります。多くは中心視力が低下しますが、視野狭窄(きょうさく)のみで視力は低下しないこともあります。視野異常も中心が見えにくくなる中心暗点から、耳側もしくは鼻側半分が見えにくくなる半盲性障害までさまざまです。視機能障害が片目に生じるか両目に生じるかは、原因によって異なります。鼻出血を伴うこともあります。

ただし、受傷直後でまぶたがはれて目がふさがっていたり、意識障害のために、症状を自覚できない場合もあります。重症の場合では、明暗を識別する光覚を失うこともあるため、緊急に眼科専門医による検査、診断および治療が必要になります。

外傷性視神経症の検査と診断と治療

眉毛部に強い打撃を受けた際は、まず見え方の左右差を比較することが大切です。視力、視野に異常を感じたら、早急に眼科専門医の診察を受けます。まぶたがはれて目が開かない、または意識がない際でも、眼科医による瞳孔(どうこう)検査は最低限受けておきます。

外傷性視神経症の検査としては、ベッドサイドや救急外来でも可能な瞳孔反応検査が有用です。両目の瞳孔に交互に光を当てて対光反応の左右差をみるもので、左右差が明らかな場合は視神経障害の可能性が高くなります。この検査は、意識障害がある場合でも行うことができます。

瞳孔反応検査で陽性の場合は、視力、視野、眼底などの眼科的検査が行われます。画像診断として、視神経管(視束管)撮影、眼窩部CT検査が行われ、骨折や血腫の有無が確認されます。

画像診断で明らかな骨折が認められた場合は、脳外科医による視神経管開放手術が行われます。手術後は、薬物療法も併用されます。なお、薬物治療に反応していったん回復した視機能が再び悪化する場合は、血腫の存在が疑われるため、視神経管減圧手術が行われることがあります。

画像診断で明らかな骨折が認められなかった場合は、全身状態に問題がなければ、視神経管内の視神経線維の浮腫を軽減させる目的で、高張浸透圧薬の点滴と、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の点滴が行われます。同時に、視神経保護作用のあるビタミンB12製剤や循環改善薬の内服が行われます。

ただし、受傷直後から明暗を識別する光覚の消失が持続するような重症の場合は、いずれの治療法においても視力予後は不良です。

🇫🇮疥癬(かいせん)

ヒゼンダニによって起こる皮膚疾患

疥癬(かいせん)とは、0.2〜0.4ミリ程度の体長のヒゼンダニ(疥癬虫)というダニの一種が寄生して、皮膚に起こる感染症。俗に、ひぜんと呼ばれています。

通常、疥癬は密な人間同士の接触により人肌を介して移るため、性行為に伴う感染が多く、性行為感染症(準性病)に含められています。しかし、衣類、タオルやシーツなどのリネン類、布団やベッドなどの大型寝具から感染することも少なくなく、家族内感染や、老人ホーム、病院、宿舎といった施設内感染もあります。近年は、寝たきりの高齢者などの介護行為を介して感染し、流行することで、問題になっています。

逆上れば、栄養摂取や衛生状態の悪かった第二次世界大戦後非常に流行しましたが、その後、疥癬は全く消滅しました。しかし、海外旅行が急激に増えた1970年代になって再び流行が始まり、なお続いています。ヒゼンダニに特効的な殺虫剤であるDDTやBHCが、人に対する毒性も強いために1971年に失効となって以降、それらに代わるものがまだないことにもよります。

ヒゼンダニに寄生されると、約1カ月の潜伏期間を経て、手指の間、陰部、腹部、わきの周囲など、顔と頭を除いた全身にかゆく、赤いブツブツした発疹(ほっしん)が現れます。特徴的なのは、疥癬トンネルと呼ばれる、細くて灰白色で長さ5ミリ~1センチくらいの発疹が手首や手指の間にできることです。疥癬トンネの中では、雌のヒゼンダニが産卵します。近年流行している疥癬では、この疥癬トンネルが認められるものが少なくなっています。

とてもかゆいのが症状の特徴で、入浴の後や運動の後など血行のよい時は、耐えられないほどのかゆみを伴うことがあります。一般的には、かゆみは夜間に最も強くなり、布団に入って体が温まると、激しいかゆみを覚えて不眠を来すこともあります。1度治って、2回目、3回目の再感染の場合には、比較的短期間で、かゆみを自覚することもあります。

まれに、基礎疾患があったりして全身状態のよくない場合には、ヒゼンダニが極めて多数増殖し、全身が赤くなったり、手足などの角質層に厚いガサガサした肌荒れのような発疹がみられます。これをノルウェー疥癬、ないし重症型疥癬と呼び、感染力が極めて強くなります。角質層の中には多数の虫体と虫卵(ちゅうらん)が含まれていて、ひどい時には100万~200万匹のヒゼンダニが寄生することになります。

そのヒゼンダニは、数千年も前からいる虫で、メソポタミア南部に栄えた古代バビロニアの時代から知られています。ナポレオン時代の戦争で疥癬の流行がフランス軍の戦意を失わせたのは有名な話で、現在もヒゼンダニは世界各国に散らばっています。

大変小さな虫のため、肉眼ではほとんど確認できません。ヒゼンダニの雌は、皮膚に取り付くと10~40分で角質層内に潜り込み、疥癬トンネルを作って1日2~3個の卵を産み続け、4~6週間で寿命を終えます。卵は3〜4日で孵化(ふか)して幼虫、若虫を経て約2週間で成虫になります。成虫の雄は、雌を探し求めて雌よりも活発に動き回ります。皮膚内で交尾後、雄は間もなく死にますが、雌はなお卵を産み続けるわけです。

成虫が人肌を離れた場合、25℃・湿度90%で3日間、25℃・湿度30%で2日間、12℃・高湿度で14日間生存可能ですが、50℃では湿度に関係なく約10分間程度で死にます。

疥癬の検査と診断と治療

皮膚症状から疥癬が疑われた場合、市販薬などで自己治療せず、皮膚科を受診して治療を受けてください。市販のかゆみ止めでは治りません。また、生活を共にしている家族や同僚などに、同じかゆみ、発疹、発赤の症状が出ていないかどうか確認し、感染の拡大を防ぐことが重要です。

医師が診断する方法は、皮膚に出ている症状です。疥癬トンネルなどを見付けて、疥癬だと診断します。また、皮膚の一部をメスやピンセットで削り顕微鏡で調べることで、ヒゼンダニの虫体、虫卵が見付かれば診断確定です。

標準的治療では、硫黄製剤の軟膏(なんこう)を1日1回、あるいはオイラックス軟膏を1日2回、全身に塗る方法が主に行われます。軟膏を首から下の全身に満遍なく、塗り残しなく、発疹部だけでなく全体に塗ることが、大事です。1回の薬剤使用料は、20グラムを限度とされます。

硫黄の入浴剤を併用する方法もあります。角質軟化作用のある10~20パーセント尿素軟膏の併用も効果的です。ただし、湿疹様変化を生じても、虫体や虫卵が生存している内はステロイド入り軟膏は使用しません。長期間ステロイド軟膏による治療を続けた場合、重症型のノルウェー疥癬となり得るからです。かゆみが激しい時は、抗ヒスタミン剤を内服します。

近年、疥癬に対する特効的な内服薬として欧米で使用されていたイベルメクチン(商品名:ストロメクトール)が、日本でも使用可能となりました。1回内服、経過により1週間後に再度内服することにより、ヒゼンダニは死滅するといわれています。

ノルウェー疥癬の重症例では、発症者は隔離入院しなければならず、家族は面会を自粛するように求められます。重症例では、安息香酸(あんそくこうさん)ベンジルやγ–BHC(ガンマ–ベンゼンヘキサクロリド)を全身に塗ることがあります。

普通の疥癬の多くは1カ月ほどで症状が軽快しますが、できればその後さらに1カ月程度治療を継続したほうがよいでしょう。皮膚をかくことや、硫黄製剤などによる皮膚への刺激のため、2次的に湿疹を伴ってくることもありますので、その治療も適宜必要になってきます。

硫黄製剤の使用のため皮膚があまりにガサガサして、かゆい時は、一時使用を中断し、白色ワセリンなどで皮膚を休ませます。ただし、硫黄製剤を使う以上は、ある程度のガサガサは覚悟しなければなりません。角質がはがれ落ちて、ヒゼンダニが早く落ちることも、治癒を早くするための一法です。

この他、日常生活で体を清潔にし、こまめな洗濯や熱湯消毒をすることなども、医師から指示されることになります。体は風呂に入って、石けんで良く洗い、洗髪もします。硫黄の入浴剤が効果を表しますが、効果を期待しすぎて濃度が過ぎると硫黄かぶれを起こすために、かゆみが出ることもありますので、注意が必要です。風呂の後、ヒゼンダニを殺虫できる軟膏を全身に塗ります。

疥癬は夫婦、親子間などで移りますので、念のため、シーツ、下着、洋服は毎日、取り替えます。ヒゼンダニは熱に弱いので、50℃のお湯に10分間つけてから、洗濯することが望まれます。熱風乾燥機も効き目がありますので、10分以上かけます。部屋については、こたつ、カーペットに特に注意し、毎日ていねいに電気掃除機をかけます。掃除機のパックは毎日、取り換えるようにします。

🇰🇷回旋筋腱板損傷

スポーツ障害や老化で、肩関節の回旋筋腱板に損傷が起こった状態

回旋筋腱板(けんばん)損傷とは、肩関節で上腕を保持している回旋筋腱板という筋肉と腱の複合体に、スポーツ障害や老化が原因で損傷が起こった状態。回旋筋腱板の略が腱板で、肩腱板損傷とも呼ばれます。

回旋筋腱板損傷には、挫傷(ざしょう)、炎症、一部分が切れる不全断裂(部分断裂)、全部が切れる完全断裂などがあります。

水泳肩、テニス肩、野球肩の原因に回旋筋腱板損傷が多くを占め、肩インピンジメント症候群などとも呼ばれています。肩峰下滑液包炎も回旋筋腱板に隣接する部位の炎症で、原因については同様と考えられます。

肩関節は一般的に、肩甲上腕関節(第一肩関節)のことを指します。この肩関節は肩甲骨と上腕骨との間の関節で、受け皿である肩甲骨の浅い関節窩(か)の上に、大きなボールである上腕骨頭が乗っているような構造をしており、人間の体の中で最も関節可動域が広く、ある程度の緩みがあるため、スポーツなどによって強い外力が加わると簡単に脱臼(だっきゅう)するのが特徴です。

肩関節の中には、上腕骨頭が肩関節の中でブラブラしないように肩甲骨に押し付ける役割の4つの小さな筋肉、すなわち前方から肩甲下筋、棘上(きょくじょう)筋、棘下筋、小円筋があります。これらの筋肉が上腕骨頭に付く部分の腱は、それぞれ境目がわからないように板状に付着しているために回旋筋腱板と呼ばれます。

回旋筋腱板は肩関節のさまざまな運動により圧迫、牽引(けんいん)、摩擦、回旋などの刺激を受けており、加齢とともに変性し、40歳ごろから強度の低下による損傷の危険性が高まります。重い物を持ったり、転倒による肩の打撲など軽微な外力が加わって損傷する場合もありますし、若年者ではスポーツ障害としてみられることもあります。

特に、肩峰および上腕骨頭に挟まれた棘上筋の腱は、肩関節の挙上時には肩峰と烏口(うこう)肩峰靭帯(じんたい)によって圧迫を受けています。これらの要因により退行変性を起こしやすく、回旋筋腱板の中では最も損傷を起こしやすいところです。

スポーツ障害としての回旋筋腱板損傷は、野球の投球、ウエートリフティング、ラケットでボールをサーブするテニス、自由形、バタフライ、背泳ぎといった水泳など、腕を頭よりも高く上げる動作を繰り返し行うスポーツが原因で起こります。腕を頭より高く上げる動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩の関節や腱の一部と擦れ合うため、腱の線維に微小な断裂を生じます。痛みがあってもその動作を続ければ、腱が断裂してしまったり、腱の付着部位の骨がはがれてしまうことがあります。

腕を頭より高く上げる動作や背中から回す動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩関節の反対側の骨である肩甲骨と擦れ合い、炎症を起こします。スポーツ選手では、激しい動きの際に肩を安定化させるインナーマッスルの機能が低下していると、回旋筋腱板損傷が発生します。

加齢により肩甲骨の動きが悪くなることも一因で、明らかな外傷によるものは半数で、残りははっきりとした原因がなく、日常生活動作の中で損傷が起きます。40歳以上の男性の右肩に多いことから、回旋筋腱板の老化と肩の使いすぎが原因となっていることが推測されます。

回旋筋腱板損傷の症状としては、肩が痛む、肩が上がらない、肩を上げる際に力が入らない、肩を上げる際に肩の前上面でジョリジョリという軋轢(あつれき)音がする、ある角度で痛みがあるなど、自然軽快しにくい特徴があります。肩の痛みは当初、腕を頭よりも高く上げたり、そこから前へ強く振り出す動作の際にだけ生じます。後になると、握手のため腕を前へ動かしただけでも痛むようになります。

通常は、物を前方へ押す動作をすると痛みますが、物を体の方に引き寄せる動作では痛みはありません。炎症を起こした肩は、特に夜間などに痛むことがあり、眠りが妨げられます。また、腕を肩よりも高く上げた状態で肩峰を抑えると、痛みます。

手が後ろに回らなくなる、いわゆる四十肩、五十肩と診断され、長い間治らない人の中に、回旋筋腱板損傷が見逃されていることがあります。

回旋筋腱板損傷の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、MRI(磁気共鳴画像)検査が有用で、上腕骨頭の上方の回旋筋腱板部に断裂の所見がみられたりします。また、いくつかの方向に腕を動かしてみて、特定の動きや、特に腕を肩よりも高く上げる動作で痛みやピリピリ感を伴うことで、回旋筋腱板損傷と確定されます。

スポーツなどによる疲労性のものでは、肩の痛み、特に運動時痛を伴います。広範囲断裂では、布団の上げ下ろしや洗濯物を干す際の挙上障害などがあります。転倒などの急性外傷によるものでは、受傷時に突然肩の挙上が不能となり、同時に肩関節痛を感じます。断裂が小さいと、挙上は除々に可能となる場合もあります。

整形外科の医師による治療では、断裂などの損傷を生じた肩関節の回旋筋腱板を使わずに休め、肩の筋肉を強化します。回旋筋腱板のすべてが断裂することは少ないので、残っている回旋筋腱板の機能を賦活させる肩の筋肉強化は有効です。

安静時や夜間の痛みが強い場合には、内服や外用の消炎鎮痛剤、関節内注射により和らげます。水溶性副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の局所注射も、炎症を抑えるのに用います。物を前方へ押しやる動作や、肘(ひじ)を肩より高く上げる動作を伴う運動はすべて避けます。

肩の筋肉強化では、ゴムチューブによるカフ(回旋筋腱板)エクササイズを行い、インナーマッスルを鍛え、肩の回旋筋腱板のバランスを回復させます。カフエクササイズは肩関節の疾患において一般的な訓練となっており、ゴムチューブによる軽い抵抗、もしくは徒手による無抵抗にて、外旋や肩甲骨面上の外転などを行って、回旋筋腱板の筋活動を向上させます。強すぎる抵抗は大胸筋や三角筋に力が入ってしまい、軽い抵抗に反応する回旋筋腱板の働きを阻害してしまうので、十分注意する必要があります。

カフエクササイズでは、腕を体側に付けて、前腕を床と平行にしてゴムバンドを持ちます。肘を支点としてゴムバンドを引きながら、この腕を前方向、後ろ方向、横方向(手が体から離れる向きと、腕を胸の前に引き寄せる向き)に動かします。この運動は、肩の回旋筋腱板のバランスを回復させ、腕を頭よりも高く上げる動きを含む動作中に回旋筋腱板がぶつからないようにする働きがあります。

断裂が特に重度な場合は手術も行われ、回旋筋腱板が完全に断裂していたり、1年たっても完治しない場合が対象となります。手術には、関節鏡視下手術と通常の直視下手術があります。

関節鏡視下手術のほうが体に負担がかからず、手術後の痛みが少ないために普及してきていますが、大きな断裂では、縫合が難しいために直視下手術を選択するほうが無難です。

手術では回旋筋腱板がぶつからずに動かせるように、肩の骨から余分な部分を切除します。同時に、回旋筋腱板の修復も行います。手術後は、約4週間の固定と2~3カ月の機能訓練が必要です。

🇵🇹蟹足腫

皮膚の傷が治る過程で、本来は傷を埋めるための組織が増殖して、しこりになったもの

蟹足腫(かいそくしゅ)とは、傷が治る過程において、本来は傷を埋めるための組織が過剰に増殖し、皮膚が赤く盛り上がってしこりになったもの。ケロイドとも呼ばれます。

蟹足腫の症状は肥厚性瘢痕(はんこん)に似ていますが、組織の過剰増殖が一時的で、傷の範囲内に限られるものを肥厚性瘢痕といい、ゆっくりしながらも持続的、進行性で傷の範囲を超えて周囲に拡大するものが蟹足腫に相当します。

蟹足腫には生まれ付きの体質的な素因も大きく影響するといわれており、本来は体を修復する機能が働いて小さな白い傷で治るはずのものが、その治る途中で組織の過剰な生体反応が起こるために、皮膚の赤く硬い状態が長く続き、徐々に赤みや硬さが強くなっていきます。蟹足腫と呼ばれるように、しばしば皮膚の緊張する方向に蟹(かに)の足のような形状の突起を生じて広がり、大きくなっていきます。

病変部の拡大とともに、中心部はしばしば赤みが少なくなって平らになりますが、元通りの皮膚には戻りません。痛み、かゆみも伴います。

一説には、皮膚の表皮の下にある真皮を作る線維芽細胞が、コラーゲンを過剰に分泌するために蟹足腫を生じると考えられていますが、詳しい原因はよくわかっていません。

帝王切開などの手術の縫合跡や、切り傷、やけどなどの跡のほか、ピアスの穴、にきびの跡、BCG予防接種の跡、本人が気付かないような小さな傷跡から生じます。また、傷跡のないところにもできて大きくなる真性(特発性)の蟹足腫というものもあり、あご、前胸部、肩部、上腕の外側、上背部、恥骨(ちこつ)部など、皮膚が引っ張られる部位によく発生します。同じ人でも、ケロイドを生じやすい部位と生じにくい部位とがあります。

蟹足腫の見た目が気になる場合は、皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科の医師を受診し、病変部の大きさや時期に適した治療を受けることが勧められます。

蟹足腫の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による診断では、通常、見た目だけで確定できます。ほかの疾患、特に悪性腫瘍(しゅよう)などの可能性を捨て切れない際には、組織の一部を採取して検査します。

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による治療では、圧迫療法、薬物治療、外科的治療が主となります。

圧迫療法は、スポンジ、シリコンゲルシート・クッションなどを病変部に当て、サポーター、包帯、粘着テープなどで圧迫する方法です。手術後や外傷では、傷が治ったら早いうちに圧迫療法で傷跡のケアをすると、蟹足腫になる率を低く抑えることができます。

薬物治療としては、ステロイド軟こう(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン軟こう)を病変部に塗ったり、ステロイド剤を病変部に直接注射する方法が効果的です。トラニラストという抗アレルギー剤の内服が行われることもあります。

外科的治療は、蟹足腫の厚みがあり大きい場合に有効です。蟹足腫は引っ張られる力により悪化するため、蟹足腫部分を切除し、皮膚をZ字のようにジグザグに縫い合わせると、引っ張られる力を分散させることができます。

切除後は早期から、再発を防ぐための放射線治療を行う必要があります。コラーゲンが異常に増えて再発するのを抑えるため、数日間に分けて放射線の一種、電子線を当てます。医療機関によっては、切除後早期から、ステロイド剤を病変部に直接注射することもあります。

その後、半年から1年間は傷に力が入らないような生活を心掛け、粘着テープを張るなどして皮膚を圧迫します。この方法で8〜9割は治るとされています。しかし、運動や仕事を切っ掛けに再発する例もあり、しばらく安静な生活を送る必要があります。

🇵🇱外側型野球肘

野球のピッチャーに多く発症し、利き腕の肘の外側に炎症や痛みが起こる関節障害

外側(がいそく)型野球肘(ひじ)とは、投球動作による腕や手首の使い過ぎで慢性的な衝撃がかかることによって、利き腕の肘の外側に炎症や痛みが起こる関節障害。

外側型野球肘の代表的なものは、肘の外側にある上腕骨小頭の骨軟骨が壊死(えし)する肘離断性骨軟骨炎で、上腕骨小頭骨軟骨障害とも呼ばれます。特に、小学校高学年から中学校低学年の野球のピッチャーなどが肘を酷使して発症します。ピッチャーに次いで多く発症するのは、キャッチャー。

成長終了後の野球のピッチャーなどが肘を酷使して発症する外側型野球肘には、橈骨頭(とうこっとう)障害、尺骨(しゃくこつ)神経まひがあります。橈骨頭障害は、肘から手首にかけての長い骨である橈骨と、肩から肘にかけての長い骨である上腕骨がつながっている部分、つまり肘頭周囲に骨の出っ張りが生じ、関節の動きが悪くなったりする障害です。尺骨神経まひは、肘の皮膚の表面近くを通る尺骨神経が損傷して、まひを生じ、手指のしびれや感覚障害、運動障害が起こる障害です。

ここでは、少年野球のピッチャーなどが肘を酷使して発症する肘離断性骨軟骨炎について説明します。

肘離断性骨軟骨炎は繰り返す投球動作における微小な外反ストレスの蓄積により、上腕骨小頭の骨軟骨、すなわち肘関節を形成する上腕骨の遠位端の外側部にある球状の部位に変性、壊死が生じます。症状として、肘関節を伸ばしたり、曲げたりする時に痛みが出たり、動きが悪くなったりします。この初期の段階では、投球動作を中止することのみで、自然治癒が促されることがあります。

>実際は、練習や試合での投球動作の終了後は速やかに痛みが消失するために、単なる使いすぎによる痛みと勘違いされることが多く見受けられます。

放置して投球動作を続けると症状が進行し、壊死を起こした骨軟骨片が肘の関節面から遊離して関節内遊離体となり、関節の中をあちらこちらと移動することになります。

この関節遊離体に最も特有な症状が、嵌頓(かんとん)症状。肘関節の運動の最中に、突然、遊離体が関節の透き間に挟まってしまい、激しい痛みを起こして関節の運動が不能となる状態です。何かの拍子に遊離体が外れれば、急速に痛みは治まりますが、嵌頓症状を繰り返していると、滑膜炎と呼ばれる関節内の炎症や変形性関節症を起こしやすくなります。しかし、遊離体があっても、嵌頓症状が必す起こるわけでもありません。

そのほか、関節遊離体の症状として、関節の痛みや、だるさ、はれを感じたり、肘の曲げ伸ばしができなくなったり、関節に水がたまったりすることもあります。

肘離断性骨軟骨炎が進行してしまうと、投球動作にかかわるスポーツが十分できなくなるどころか、遊離したことで生じた上腕骨小頭の骨軟骨の欠損は成人期以降も肘の変形性関節症を発症し、痛みが出たり、動きが悪くなったりする後遺障害を残しやすくなります。

早期発見、早期治療を行う必要がある典型的な疾患が、肘離断性骨軟骨炎です。野球少年が投球時に肘の痛みを訴える場合は、早めに整形外科を受診することが勧められます。

外側型野球肘の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、問診をしたり、関節の動きを調べ、上腕骨小頭部の圧痛がある場合に、外側型野球肘の代表である肘離断性骨軟骨炎を疑います。

確定診断は、X線(レントゲン)検査により行います。病巣は、初期には骨の陰が薄くなった状態として、進行すると病巣部の骨軟骨片が上腕骨小頭から分離、遊離した状態として撮影されます。しかし、初期には病変を認識することが難しいこともあります。また、正面と側面からの肘関節2方向撮影法、肘関節を45度屈曲した位置で正面像を撮影する撮影法が有用です。そのほか、CT(コンピューター断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像)検査は、骨軟骨がはがれやすい状態であるかどうか確認するなど病態を調べるのに有効です。

整形外科の医師による治療では、初期の場合、局所安静、投球禁止により病巣の修復、治癒が期待できます。しかし、実際には6カ月から1年間、場合によっては1年以上の長期にわたり投球動作を禁止することもあり、投球の再開により再発するケースもあります。

従って、初期の場合であっても長期の投球禁止を望まないケースや、再発例では、手術を行うこともあります。

進行した場合では、再び投球を可能にし、将来的な障害を残さないために、手術を行うことになります。具体的な手術としては、壊死した骨軟骨を切除し関節遊離体を取り除く方法を基本として、遊離しかけた骨軟骨片を再固定し、病巣部に新たな骨ができることを促す方法、遊離した骨軟骨片の再固定が困難な場合に、欠損した肘の関節面に体の他の部位から骨軟骨を移植し、関節面を形成する方法などがあります。

手術後のリハビリテーション、投球再開の時期は病期、手術法により異なりますが、おおむね6カ月程度で全力投球が可能になります。

肘離断性骨軟骨炎の発生の予防には、基本的には肘関節の使いすぎによるところが大きいため、練習日数と時間、投球数の制限が重要です。また、投球フォームにより肘に負担がかかりすぎるケースも多くあり、適切な筋力トレーニングと投球フォームの指導、正しいスケジュール決定も必要です。

2022/08/11

🇺🇿外側大腿皮神経痛

大腿の感覚をつかさどる神経が傷害されて、痛みなどが生じる神経痛の一つ

外側大腿皮(がいそくだいたいひ)神経痛とは、大腿の前面と外側の感覚をつかさどる外側大腿皮神経が傷害されて、痛みなどが生じる神経痛の一つ。大腿外側皮神経痛、知覚異常性大腿痛とも呼ばれます。

外側大腿皮神経は第2、第3腰椎(ようつい)から出て前方へ向かい、腰の部位で急激に曲がって鼠径(そけい)部の辺りから皮膚の下に出て、大腿の前面と外側の皮膚に分布します。そのため、腰椎部で神経が圧迫された時にも、大腿の周辺に痛みや異常感が生じることがあるほか、外側大腿皮神経が鼠径靭帯(じんたい)を貫通する骨盤の前上腸骨棘(こっきょく)部で筋肉や靭帯により圧迫された時にも、大腿の周辺に痛みや異常感が生じることがあります。

前上腸骨棘部で外側大腿皮神経が圧迫された時には、股(こ)関節の位置や格好で症状が生じたり、治まったりすることもあります。コルセットの着用、窮屈な下着やズボンの着用、べルトの締めすぎ、自動車のシートベルトの締めすぎなどにより、前上腸骨棘部で外側大腿皮神経が圧迫された時にも、痛みや異常感が生じます。

また、肥満、妊娠により骨盤周囲の筋肉の緊張が強くなることで、外側大腿皮神経が障害されることもあります。妊婦においては胎児が正常な位置にいない場合に、外側大腿皮神経痛としてしびれが出ることもあります。鼠径ヘルニアの手術や股関節の手術の後に、一時的な外側大腿皮神経の圧迫により障害されることもあります。

症状は、大腿の前面から外側にかけて、ヒリヒリと痛んだり、しびれが出たり、感覚が鈍くなったりします。服が皮膚にこすれるのが苦痛になることもあります。しかし、外側大腿皮神経は感覚だけをつかさどる神経で運動をつかさどらないため、足がまひして上がらなくなったり、歩行に支障を来すことはありません。大腿の内側や膝(ひざ)より下にも、症状が出ません。

外側大腿皮神経痛の多くは、姿勢や動作によって症状に変化がみられます。

骨盤の前面を走る前上腸骨棘部で外側大腿皮神経を直接圧迫することによって、痛みが憎します。起立や歩行時は、外側大腿皮神経が牽引(けんいん)気味になり痛みが増します。

股関節の伸展は、外側大腿皮神経を牽引し痛みが増します。反対に、股関節を深く屈曲することでも、外側大腿皮神経自体を圧迫し痛みが増します。うつぶせに寝ている時は、外側大腿皮神経が軽く圧迫され、股関節が伸展されるので痛みが増強する傾向があります。仰向けに寝て軽く膝(ひざ)を曲げている時は、痛みが軽減します。

案外多い病態ですが、正確な診断を受けていないことが多いようです。もし、外側大腿皮神経痛の症状に思い当たることがあれば、整形外科、神経内科の医師を受診することが勧められます。

外側大腿皮神経痛の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断は、特徴的な症状と、前上腸骨棘部の周囲で軽く皮膚の上をたたくと大腿の前面と外側に響くようなしびれと痛みが出るチネルサインで判断します。念のために、腰椎や骨盤のX線写真、MRI検査などで、変形性腰椎症や腰椎椎間板ヘルニアなどの疾患がないかどうかをチェックします。

坐骨(ざこつ)神経痛との鑑別が必要ですが、しびれなどの場所が坐骨神経痛と外側大腿皮神経痛では違いますので、鑑別は簡単です。坐骨神経痛では、尻(しり)から大腿の裏側、下腿などにしびれや痛みが出ます。

整形外科、神経内科の医師による治療は、外側大腿皮神経を圧追する原因を取り除くことが第一です。体重を減らすことや、骨盤部の矯正、窮屈な下着やズボンの着用の禁止などが、効果を発揮します。

また、消炎鎮痛剤の内服、外用を行い、痛みが強い場合は局所麻酔薬を注射して痛みを和らげる神経ブロックを行います。この場合、1 回の注射では一時的に症状が緩和しても、数時間から1日で元の症状に戻ったりしますので、何回か注射を繰り返すこともあります。局所麻酔薬と一緒に、ステロイドホルモン剤という炎症を抑える薬を注射することもあります。

腰椎部で神経が圧迫された時には、脊髄(せきずい)の周囲の硬膜外腔(がいくう)に局所麻酔薬を注射して、神経の痛みを和らげる硬膜外ブロックを行います。

症状が治まらず、日常生活に支障を来す場合は、外側大腿皮神経を剥離(はくり)、または切離する手術を行うこともあります。炎症を起こした神経は周囲の靱帯や筋肉と癒着した状態にありますので、その癒着を手術で解き放つのを剥離、神経そのものを切除して痛みを感じなくするのを切離といいます。

🐞回虫症

回虫が小腸に寄生することで引き起こされる寄生虫病

回虫症とは、線虫類に属する回虫が小腸に寄生することで、引き起こされる寄生虫病。

回虫は世界中どこにでもいる虫で、日本でも年齢や性別、住んでいる場所に関係なく感染することがあります。日本国内での感染率は現在、1パーセント未満と考えられています。昭和30~40年ぐらいまでは、40パーセント程度といわれていました。

感染が成立するケースでは、糞便(ふんべん)に混じって人体から出た虫卵が、次の宿主(しゅくしゅ)への感染能力を育てるための期間を外界で過ごした後、無農薬野菜や不潔な手指を介して再び、口から人体へ入ります。この虫卵は小腸で孵化(ふか)し、出てきた幼虫は腸の粘膜にもぐり込んで、血液やリンパ液の流れに乗って体内に散っていきます。

この後、成長しながら体内を移動し、最終的には肺を通過して気管内に入り、たんに紛れて口へ逆上り、そして飲み込まれて食道を下り小腸に戻ってきて、そこで成熟します。十分に成熟した成虫は、乳白色から淡紅色の糸状で、長さは20〜35センチ程度、太さは0.5センチ程度。メスのほうが大きくなり、産卵を開始します。寿命は1〜2年。

回虫の種類によっては、小腸で孵化して出てきた幼虫が腸の粘膜にもぐり込み、そこで成長して腸内に戻ってくるだけで、体内を移動しないものもあります。

比較的穏健な寄生虫で腸の粘膜に食いついて血液、体液を摂取することはないため、無症状のものも少なくありません。ただし、胆管や膵(すい)管の中に入り込むことが時々あり、この時は腹痛、下痢などの胃腸症状がみられます。無症状だったのに、突然、口から回虫を吐き出したり、肛門(こうもん)から回虫が出てくることもあります。

特異な例として、犬や猫あるいはアライグマなどの回虫が誤って人に取り込まれた時には、不適切な宿主の体内に入った成虫や幼虫の臓器への迷入や移動で、眼症状、神経症状、肺炎、腸閉塞(イレウス)、胆道炎、循環器症状が出現することもあります。

回虫症の検査と診断と治療

回虫症の症状に気付いたら、内科を受診します。同じ食事をしている人は同様に感染している可能性がありますので、同居の家族も内科を受診し、血液や便を検査して感染の有無を確かめることが必要です。

医師による診断では、検便をして便の中に虫卵が検出されれば、容易に診断がつきます。ただし、最近は回虫が1匹だけという例が増えており、検便しても虫卵を検出できないことが多くなっています。虫を口から吐き出したり、肛門から排出した時は、虫の形態で回虫と診断します。胃や腸の中から、乳白色から淡紅色で糸状の大きな虫が出てきた時には、まず回虫と考えて間違いありません。

近年では、胃や十二指腸の内視鏡検査で偶然、回虫を発見することが多くなっています。また、健康診断などの血液検査で偶然、好酸球という白血球が増えていることがわかった時には、抗体と便の検査を行います。

治療では、線虫駆除薬のパモ酸ピランテルの内服が主で、ほかに対症的に輸液、手術なども行われることがあります。

予防は、完全な糞便処理、集団検便と集団駆虫の実施、野菜類や手指などの洗浄、清潔などです。犬や猫の回虫症に気付いた場合には、獣医師を受診し、健康状態に応じて極力早い段階での虫下しが望まれます。

👣開張足

足の前半分の前足部が扇状に広がって足の指同士が広くなり、足の甲の幅が普通より広くなった足

開張足(かいちょうそく)とは、足の前半分の前足部が扇状に広がって足の指同士が広くなり、足の甲の幅が普通より広くなった足。

足の裏にはアーチと呼ばれる緩やかな盛り上りがあり、内側の縦アーチ、外側の縦アーチ、横アーチ(メタタザールアーチ)の3つから構成されています。内側の縦アーチは土踏まずとして知られていますが、3つのアーチのうち、足の親指の付け根から小指の付け根までを結ぶ横アーチの機能が低下したものが、開張足に相当します。

横アーチの機能低下により、横アーチの盛り上がったラインが下がって落ちるため、ラインの中央部に、くぼみがなく、ベタッとした平らな足になります。

この開張足の人は、横アーチのラインの中央部が靴底の圧迫を受け、たこや魚の目ができやすくなります。開張足かどうかは、靴の内底や中敷(インソール)を見てもわかります。足指の第2指と第3指の付け根の当たる部分などが汚れていたり、擦り減っていれば、そこに力が掛かっていることになります。最近、足の幅が広くなって、スリムな靴が履きにくくなったと感じることがあれば、それは開張足かもしれません。

生まれ付き関節や靭帯(じんたい)などの結合組織が弱いために、開張足になりやすいという先天的な原因もあります。後天的な開張足の原因としてよくみられるのは、運動不足と立ち仕事などによる疲労です。運動不足、特に歩くことをあまりしないと、足の甲に5本ある中足骨(ちゅうそくこつ)をつなぐ靱帯が弱ってきます。その状態で立ち仕事などを続けていると、疲労のために靱帯が伸び切った状態になり、横アーチを支える筋肉である横アーチ筋の緊張が衰えることで、開張足を起こします。

体重が重すぎたり、足に合わない靴や高いヒールの靴を履いていたり、急激な運動によって足に高負荷がかかったりした場合は、それが増悪因子となります。

開張足になると、足の甲に5本ある中足骨の間が均等に広がるのではなく、特に第1中足骨と第2中足骨の間と、第4中足骨と第5中足骨の間が広がります。また、横アーチの機能が低下すると、第1中足骨と第5中足骨が持ち上げられ、第2中足骨と第3中足骨の骨頭で体重を支えるようになりますので、足指の第2指と第3指の付け根に、たこや魚の目ができやすくなります。第2中足骨と第3中足骨の骨頭の部分に、痛みが出ることもあります。

さらに、開張足になると、横アーチの機能低下が2つの縦アーチの機能低下を誘発して、扁平足(へんぺいそく)を起こしやすい傾向もあります。外反母趾(がいはんぼし)、内反小趾、ハンマートゥ(槌指〔つちゆび〕)、クロウトゥ(鷲爪指〔わしづめゆび〕)、マレットトゥ(マレット指)などの足指の変形がみられることもあり、これらの変形した足指の先や関節の背面にたこができて、痛みを生じることもあります。

開張足の検査と診断と治療

整形外科、ないし足の外科の医師による診断では、外観上の変形から容易に判断できます。骨の状態を把握して重症度を判定するためには、X線(レントゲン)検査が必要で、通常、立って体重をかけた状態で撮影します。

整形外科、ないし足の外科の医師による治療は、専ら保存的に行われ、下がって落ちた横アーチをできるだけ正常な状態に近付けるために、横アーチの補正パッドやパッド付き中敷(インソール)を靴に装着したり、横アーチの形をつけるように足底に装具を入れた治療靴を用いたり、足の筋肉の強化などを行います。

なお、開張足は自分である程度は治すことができます。床にフェイスタオルを広げ、その端に裸足の足を乗せます。そして、足指でタオルをたぐり寄せる練習をします。よりハードなものでは、フローリングの床に裸足で立ち、指で床をつかむようにして前進します。どちらも開張足の改善、予防だけでなく、血行をよくして足の疲労回復にもつながります。

🇲🇳回内筋症候群

肘関節周辺で正中神経が圧迫され、肘関節前面の痛みや、手のしびれが生じる疾患

回内筋(かいないきん)症候群とは、手にとって最も重要な神経である正中神経が肘(ひじ)関節周辺で圧迫されることにより、肘関節の前面の筋肉に痛みが生じたり、手のしびれが生じたりする疾患。円回内筋(えんかいないきん)症候群とも呼ばれます。

回内筋は、上腕の骨である上腕骨と尺骨(しゃくこつ)、橈骨(とうこつ)という計3つの骨をつなぎ、肘から前腕の中間までに付いている筋肉で、主に肘を曲げたり、腕を内側に回転したり、ひねったりする際に使われます。正中神経は、肘の辺りの上腕骨内側上顆(じょうか)の下方2・5から4センチを通ってから、上腕骨頭と尺骨頭の間にある回内筋の2つの筋繊維の間を通ります。この部位で、正中神経が圧迫されることがよく起こります。

ちなみに、正中神経は回内筋を横断するように通り過ぎると、浅指屈筋と深指屈筋という指を曲げる筋肉の間を通り、手首の辺りを通過します。その後、手の関節や指まで伸びます。

回内筋症候群の症状は、正中神経が圧迫を受けている部位より手に近い部位に現れ、肘関節の前面の筋肉の痛みが生じ、手のしびれや知覚障害が生じます。この手のしびれや知覚障害は、正中神経が手首周辺で圧迫される手根管症候群と同様、親指、人差し指、中指の3本の指全体と、薬指の親指側半分に認められます。小指には、しびれなどは生じません。

通常、腕に徐々にだるさや倦怠(けんたい)感を覚えて後に、主に親指、人差し指、中指にしびれなどが生じます。そして、筋肉の衰えで指の力が入らなくなったり、指を曲げづらくなったりして、字を書く動作や物をつまむ動作が困難になるケースが多くみられます。手根管症候群と異なり、手のひらにも、はれや知覚異常が生じるのが特徴です。

回内筋症候群を起こしやすい人は、この回内筋を酷使している人で、回内筋に過緊張や炎症が発生すると正中神経を圧迫し、神経障害が発症する場合があります。例えば、大工でドライバーをよく使う人、工場などの作業で繰り返し手や腕を使う人、前腕の筋肉を酷使するテニス、バドミントン、野球、ボーリングなどのスポーツをする人、長時間のパソコン作業をする人、ピアニストなどにみられます。また、腕を伸ばして重たい荷物を押したり、突然重い荷物を持ち上げた際に、発症する人もいます。

回内筋症候群の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断では、症状や電気生理学的検査などにより判断します。神経伝導検査と筋電図検査を行うことで、正中神経の障害の程度や正確な障害部位が評価できます。

整形外科、神経内科の医師による治療では、軽症の場合は誘引となるような動作の中止、肘と手関節の安静、軽いマッサージ、低周波治療器の使用、消炎鎮痛剤の服用、ステロイド注射などを行います。一般に、回内筋症候群は一時的な神経まひで、肘と手関節の安静や消炎鎮痛剤の服用などの保存療法によって、50パーセントから70パーセントのケースでは数カ月以内に治ると見なされています。

症状が続きなかなか治らない場合は、手術により肘の部位で正中神経の圧迫を取り除きます。手術の結果は良好で、診断が間違っていない限り、80パーセント以上のケースで有効と見なされています。

🇰🇵外脳症

胎児の頭蓋骨半球、大脳半球が正常に発達しない奇形症

外脳症(がいのうしょう)とは、脳の先天的な発育不全により、頭蓋骨(とうがいこつ)半球、大脳半球、小脳の欠如を伴う奇形症。無脳症、無頭蓋症とも呼ばれます。

人間の脳は、脊髄(せきずい)の先端が膨らんで発達してきたものです。脊髄の上には、延髄、中脳、間脳があり、その上には両側に大脳半球が存在しています。延髄の後方には小脳があり、後頭部に位置しています。

脊髄や脳は、胎児の神経管から形成されます。外脳症の症状が現れた胎児は、妊娠4週間程度までの超初期の段階で、神経管前部の閉鎖不全などが起こって神経管の発達が阻害されることで、後々の脊髄や脳の成長が妨げられます。妊娠4カ月ころまでは脳のある程度の発育がみられるものの、妊娠5カ月ころから一度は形成されたはずの大脳、小脳のほか、生命の維持に重要な役割を果たす延髄などの脳幹が突然退化したり、発育が止まったります。

原因については、詳しく解明されていません。人種によって発現の頻度に差があるため遺伝的な要因が関係すると考えられているほか、妊娠初期における母体の栄養摂取の不足との因果関係も指摘され、飲酒や喫煙、薬剤、放射能被曝(ひばく)、ダイオキシなどが関与しているとも考えられています。

発現の頻度は、国によって異なり、アメリカでは出産1000人当たり1人程度。日本では1970年代から1980年代前半には出産10000人当たり10人程度であったものが、近年は出産10000人当たり1人程度に減少傾向を示しています。その理由として、胎児の超音波検査などの進歩に伴って出生前に診断される機会が増え、出産に至らないケースが増えてきている可能性が指摘されています。

人工的に出産を誘発する措置が行われない場合、外脳症の症状が現れた胎児が母胎内で死亡して流産となるケースは少なく、出産の時までは生命を維持します。しかし、脳幹も欠損して死産となる確率が約75パーセントで、残る新生児も出生直後に死亡し、ある程度脳が残存している場合は生後数日間生存します。

部分的に大脳皮質が形成されて機能し脳波が測定される場合は、生後1週間~2週間程度生存するものの、まれです。海外では、奇跡的に1年以上生存しているケースもありますが、日本では、そのようなケースはありません。

外脳症の新生児では、頭で帽子をかぶる部分に相当する頭蓋骨や頭頂部が大きく欠如し、大脳半球は通常欠如して全くないか、小さな塊に縮小しているため、頭蓋の基底面が露出するとともに、基底面に付着するように変性し、表面が薄い皮膜で覆われた脳の一部が露出しています。

顔貌(がんぼう)は特徴的で、前から見ると蛙(かえる)状です。そのほか、眼球の突出や欠如、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)を合併していることもあります。

延髄の下半分が存在していれば、嚥下(えんげ)や啼泣(ていきゅう)がみられ、音刺激、痛覚に反応を示します。正常な幼児が特有の刺激に応えて示す原始反射は、存在しており、腱(けん)反射は高進しています。

外脳症の胎児を身ごもった妊婦に関しては、妊娠中期までは母体に自覚症状があることはほとんどありませんが、妊娠後期に入ると羊水過多になる傾向があります。これは外脳症により脳幹にまで障害があり、嚥下運動ができなくなるためといわれています。

羊水は胎児にとって絶対に必要なものですが、多すぎると母体への負担が多くなります。ひどい場合は、腹が異常に膨らみ、呼吸器が圧迫されて呼吸困難にるケースもあります。妊娠後期の羊水過多症は早産の原因にもなるため、母体への負担を考えて、多くの場合で人工的に出産を誘発する措置が行われます。

外脳症の検査と診断と治療

産科、産婦人科の医師による診断は通常、分娩(ぶんべん)の前に超音波断層法を用いて行われます。胎児の超音波検査により、妊娠4カ月以降であれば、出生前診断が可能となります。また、羊水または母体の血清から血清蛋白(たんぱく)α-フェトプロテインが検出されます。

胎児が外脳症と確定した場合、多くはその時点で妊娠を継続するかどうかを選択することになります。その致死性の高さから、人工中絶を選択する妊婦が多く、出産まで進むケースはごくまれな状況となっています。

産科、産婦人科の医師による治療に関しては、残念ながら外脳症の胎児を母体の中で治療する方法はなく、自然治癒したケースもありません。

予防に関しては、原因に多因性があることと、遺伝子研究がその段階に至っていないことから、確実なものは発見されていません。

日本では、ビタミンB群の一種である葉酸が遺伝子の合成や細胞分裂に不可欠で、その摂取が外脳症や二分脊椎(せきつい)症などの神経管閉鎖障害という先天性異常になるリスクを低減するとして、厚生労働省が2000年に、妊娠を希望している女性に対して、1日当たり0・4ミリグラム以上の摂取を推奨しています。ホウレン草などの緑黄色野菜、果物、レバー、卵黄、胚芽(はいが)、牛乳などに多く含まれる葉酸は、水溶性ビタミンで熱に弱く5割が調理でなくなってしまうので、サプリメントなどから摂取するのが効率的です。

👣外反母趾(ぼし)

足の親指の先端が小指側へ曲がり、痛みを伴う

外反母趾(ぼし)とは、足の親指(母趾)の付け根が外側を向き、親指の骨頭が内側に向いた状態。通常、痛みを伴います。

発生の原因としては、先天性あるいは遺伝性の解剖学的要素と、足の指に外から加わる環境因子とが組み合わさって発生したり、関節リウマチなどの疾患で発生します。

解剖学的要素とは、親指が人差指より長いエジプト型前足部であったり、親指の骨頭が巨大であったり、偏平足であったり、親指の骨が内反していたり、腱(けん)、筋(すじ)などの走行に異常があった場合などに出現します。環境因子は、窮屈な履物の常用であり、また路面や床面が硬くなったことが原因として挙げられます。

男女の発生では女性が男性の10倍ぐらい発生し、好発年齢は初経期(13~14歳頃)と閉経期(50歳代)の2つのピークがみられます。また、前者には高頻度の家族内発生がみられます。

足の親指の付け根関節において、親指のそれより先端が外反して小指側へ曲がると、関節の内側が突出して、時にはこの部分に炎症を引き起こし、痛みを生じます。そして、外反変形が進むと親指が人差し指の底側に入り込み、人差し指と中指の付け根関節の底側に痛みを伴うタコを形成します。

発症の初期には、窮屈な履物を履いて行動した時しか親指の基部に痛みは生じませんが、症状が進むと、裸足で立っているだけで疼痛(とうつう)が出るようになります。症例によっては、親指以外の他の足指の骨頭部が痛んだり、痛みのあるタコができます。

外反母趾の検査と診断と治療

外反母趾に特徴的な症状で、ほぼ診断はつきます。そして、荷重時、非荷重時の足部X線撮影を行い、外反母趾角および親指、人差し指角を測定します。外反母趾角は15°以上、親指、人差し指角10°以上を病的と診断し、また親指の付け根関節の変形性変化、脱臼(だっきゅう)、亜脱臼の有無、側面像では偏平足のチェックも行います。

外反母趾があっても、痛みがなければ特に治療はしないことが原則です。治療にも含まれますが、日常生活において窮屈な革靴、例えばハイヒールなどの履物をやめ、窮屈すぎない靴、材質が柔らかく、靴の先端が広くかつ足のアーチ構造が無理なく保持できるアーチ・サポートがあるものを選びます。

そして、体重を増やさないこと、長時間の立位、歩行を避けること、親指の付け根関節の内反、外旋運動、足部の筋肉の強化訓練などを行います。症例により、靴の中に入れる足底挿板、靴型装具を作成する場合もあります。それで、痛みはかなり軽減されるはずです。

治療用装具としてゴム、革、プラスチックなどを材料とした各種装具が開発されていますが、これらの装具を徹底して装着するのは無理なようです。そのためにかえって、鎮痛消炎剤の経口投与、湿布などが必要となったり、また、なるべく気に入った靴などを履きたい要望が多くなります。そのような人には、夜間のみでもよいので装具を付けるよう指導します。また、関節リウマチなどの疾患で発症している場合は、それに対する治療が必要です。

手術療法は、保存療法をいろいろ行っても治療効果のない場合に行われます。手術法にもいろいろありますが、マックブライト法が一般的に行われています。これは軟部組織の手術を主体としたもので、親指の基節骨外側に付いている内転筋を切り離して、親指頸部(けいぶ)外側に移行するもので、比較的軽症の人に行われます。重症例には、親指の骨切り術を主体とするハーモン法、ミッチェル法が行われます。変形性関節症が強い症例では関節固定術が行われる場合がありますが、最終的な手術法と見なされています。

💒開放隅角緑内障

自覚症状に乏しく、徐々に視野が欠損するタイプの緑内障

開放隅角(ぐうかく)緑内障とは、眼球内での房水(ぼうすい)の流れが悪いために眼圧が上昇し、慢性的に視神経が圧迫されて、徐々に進行する緑内障。原発開放隅角緑内障とも呼ばれます。

眼球には、角膜や強膜でできた壁の内側に、眼内液である房水が入っていて、その壁の弾力と房水の充満状態によって、一定の硬さを保っています。この硬さが眼圧であり、正常眼圧は平均15mmHgと外気圧より高いことで、眼球の形を保っています。眼内を満たす房水は主に毛様体で作られて後房に分泌され、前房へ流れて水晶体や角膜に酸素や栄養を与え、前房隅角より出て静脈に戻ります。

ほとんどの緑内障は、前房隅角に問題があり、房水が流出しにくくなって眼圧が上昇します。この開放隅角緑内障では、前房隅角は広く開いているものの、それより先の部分の排水路である線維柱帯が目詰まりしているために、房水が流出しにくくなって眼圧が上昇します。線維柱帯が目詰まりする原因としては、コラーゲンや異常な蛋白(たんぱく)質の蓄積、線維柱帯を構成している細胞の減少などがいわれています。

開放隅角緑内障は、慢性緑内障の典型的な病型といえ、青そこひとも呼ばれる緑内障の約90パーセントを占めます。
 
目が重い、目が疲れやすい、肩が凝るなどの症状が出ることもありますが、多くはかなり進行するまで無症状です。気が付かないうちに徐々に視神経が侵され、中期〜末期になると視野欠損を自覚します。

視野の欠損の初めは、光の感度が落ちる程度で、いきなり黒い物が出現するわけではありません。また、両目で物を見る場合には脳が不具合を補正する両眼視機能が働くために、たとえ片方の目に開放隅角緑内障による視野の欠けがあったとしても、視野の欠けが消失してしまうのです。両眼視機能には視力を向上させる働きもあり、片目だけの時よりも、両目で見ると少し視力が上がるため、片目の視神経の50パーセントを失っても、まだ自覚症状がありません。

初期の視野欠損の段階では、視野の中心部分から欠けていくことは、まずありません。通常、中心の少し上あたりか、鼻側から欠けていき、次に、耳側のほうが欠けていきます。視野の中心部分は、網膜の黄班(おうはん)部や中心窩(か)に映っている映像で、黄斑部や中心窩は視神経の線維が強くできているためです。最終的には、中心部分だけが見えるため、まるで筒からのぞいているような見え方になります。

このまま何もせず開放隅角緑内障の症状を放置すると、失明することになりますが、検診で見付かるケースが多くみられます。

開放隅角緑内障の検査と診断と治療

開放隅角緑内障を予防する方法はないものの、視野が狭くなる、目が重い、目が疲れる、軽い頭痛がする、肩が凝るといった自覚症状があれば、眼科医の診察を受け、早期の治療で進行を食い止めます。

開放隅角緑内障では、眼圧検査で22mmHgを超えることがあること、視神経乳頭の検査で緑内障性の視神経乳頭の障害を認めること、視野検査で視野欠損を認めること、隅角検査で開放隅角であること、原因となるようなそのほかの目や全身の病気がないことが、診断基準になります。

開放隅角緑内障の治療では、まず薬物による眼圧下降が選択されます。点眼治療から開始し、効果が不十分な場合は内服薬、レーザー治療、手術と順次疾患の進行によって選択されます。点眼薬はまず1剤から開始し、眼圧下降の効果をみながら追加していき、次いで、炭素脱水酵素阻害剤を内服するようにします。

薬物、レーザー治療、手術治療を問わず、眼圧を10〜12mmHg程度にコントロールすることが、視野異常の進行を止めるのに効果的だとされています。

開放隅角緑内障は、慢性の進行性の疾患ですので、長期に渡って定期的な眼科受診が必要です。薬による治療はきちんと続ける必要がありますが、必要以上に気にしないことも大切。特に生活上の規制は必要ありません。

🇨🇦開放性二分頭蓋

胎児の頭蓋骨半球、大脳半球が正常に発達しない奇形症

開放性二分頭蓋(にぶんとうがい)とは、脳の先天的な発育不全により、頭蓋骨半球、大脳半球、小脳の欠如を伴う奇形症。無脳症、無頭蓋症、外脳症とも呼ばれます。

人間の脳は、脊髄(せきずい)の先端が膨らんで発達してきたものです。脊髄の上には、延髄、中脳、間脳があり、その上には両側に大脳半球が存在しています。延髄の後方には小脳があり、後頭部に位置しています。

脊髄や脳は、胎児の神経管から形成されます。開放性二分頭蓋の症状が現れた胎児は、妊娠4週間程度までの超初期の段階で、神経管前部の閉鎖不全などが起こって神経管の発達が阻害されることで、後々の脊髄や脳の成長が妨げられます。妊娠4カ月ころまでは脳のある程度の発育がみられるものの、妊娠5カ月ころから一度は形成されたはずの大脳、小脳のほか、生命の維持に重要な役割を果たす延髄などの脳幹が突然退化したり、発育が止まったります。

原因については、詳しく解明されていません。人種によって発現の頻度に差があるため遺伝的な要因が関係すると考えられているほか、妊娠初期における母体の栄養摂取の不足との因果関係も指摘され、飲酒や喫煙、薬剤、放射能被曝(ひばく)、ダイオキシなどが関与しているとも考えられています。

発現の頻度は、国によって異なり、アメリカでは出産1000人当たり1人程度。日本では1970年代から1980年代前半には出産10000人当たり10人程度であったものが、近年は出産10000人当たり1人程度に減少傾向を示しています。その理由として、胎児の超音波検査などの進歩に伴って出生前に診断される機会が増え、出産に至らないケースが増えてきている可能性が指摘されています。

人工的に出産を誘発する措置が行われない場合、開放性二分頭蓋の症状が現れた胎児が母胎内で死亡して流産となるケースは少なく、出産の時までは生命を維持します。しかし、脳幹も欠損して死産となる確率が約75パーセントで、残る新生児も出生直後に死亡し、ある程度脳が残存している場合は生後数日間生存します。

部分的に大脳皮質が形成されて機能し脳波が測定される場合は、生後1週間~2週間程度生存するものの、まれです。海外では、奇跡的に1年以上生存しているケースもありますが、日本では、そのようなケースはありません。

開放性二分頭蓋の新生児では、頭で帽子をかぶる部分に相当する頭蓋骨や頭頂部が大きく欠如し、大脳半球は通常欠如して全くないか、小さな塊に縮小しているため、頭蓋の基底面が露出するとともに、基底面に付着するように変性し、表面が薄い皮膜で覆われた脳の一部が露出しています。

顔貌(がんぼう)は特徴的で、前から見ると蛙(かえる)状です。そのほか、眼球の突出や欠如、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)を合併していることもあります。

延髄の下半分が存在していれば、嚥下(えんげ)や啼泣(ていきゅう)がみられ、音刺激、痛覚に反応を示します。正常な幼児が特有の刺激に応えて示す原始反射は、存在しており、腱(けん)反射は高進しています。

開放性二分頭蓋の胎児を身ごもった妊婦に関しては、妊娠中期までは母体に自覚症状があることはほとんどありませんが、妊娠後期に入ると羊水過多になる傾向があります。これは開放性二分頭蓋により脳幹にまで障害があり、嚥下運動ができなくなるためといわれています。

羊水は胎児にとって絶対に必要なものですが、多すぎると母体への負担が多くなります。ひどい場合は、腹が異常に膨らみ、呼吸器が圧迫されて呼吸困難にるケースもあります。妊娠後期の羊水過多症は早産の原因にもなるため、母体への負担を考えて、多くの場合で人工的に出産を誘発する措置が行われます。

開放性二分頭蓋の検査と診断と治療

産科、産婦人科の医師による診断は通常、分娩(ぶんべん)の前に超音波断層法を用いて行われます。胎児の超音波検査により、妊娠4カ月以降であれば、出生前診断が可能となります。また、羊水または母体の血清から血清蛋白(たんぱく)α-フェトプロテインが検出されます。

胎児が開放性二分頭蓋と確定した場合、多くはその時点で妊娠を継続するかどうかを選択することになります。その致死性の高さから、人工中絶を選択する妊婦が多く、出産まで進むケースはごくまれな状況となっています。

産科、産婦人科の医師による治療に関しては、残念ながら開放性二分頭蓋の胎児を母体の中で治療する方法はなく、自然治癒したケースもありません。

予防に関しては、原因に多因性があることと、遺伝子研究がその段階に至っていないことから、確実なものは発見されていません。

日本では、ビタミンB群の一種である葉酸が遺伝子の合成や細胞分裂に不可欠で、その摂取が開放性二分頭蓋や二分脊椎(せきつい)などの神経管閉鎖障害という先天性異常になるリスクを低減するとして、厚生労働省が2000年に、妊娠を希望している女性に対して、1日当たり0・4ミリグラム以上の摂取を推奨しています。ホウレン草などの緑黄色野菜、果物、レバー、卵黄、胚芽(はいが)、牛乳などに多く含まれる葉酸は、水溶性ビタミンで熱に弱く5割が調理でなくなってしまうので、サプリメントなどから摂取するのが効率的です。

🇵🇷海綿状血管腫

誕生時からみられる皮膚の下の腫瘤で、血管の奇形が原因

海綿状血管腫(しゅ)とは、誕生時からみられる皮膚の下の腫瘤(しゅりゅう)。静脈奇形、海綿状血管奇形とも呼ばれます。

皮膚の表面は正常な皮膚色や、薄い紫紅色、薄い青色を示し、皮膚の下の腫瘤は大きくて軟らかくなっています。皮膚の表面に、数珠状に拡張した静脈が観察されることもあります。これは皮膚の深層で、静脈を中心とした奇形性血管が増殖して、塊となっていることが原因で発生します。

腫瘤は手足を始めとして体のどの部位にでも生じ、形は大小さまざま。皮膚の下に発生していることが多いのですが、筋肉や肝臓、腎(じん)臓、脳など深部にまたがって発生していることもあります。非常に広範な病変である場合は、生命にかかわる重篤な症状を示すこともあります。

しかしながら、皮膚の下に発生する多くの海綿状血管腫は、症状も軽微であり、長期に渡って安定しています。自然に消失することはありませんが、圧痛は認められません。皮膚の表面がうんだり、外傷によって皮膚の下に広がった病変が大量出血を起こした場合は、皮膚科や形成外科を受診する必要が生じます。

腫瘤が筋肉に発生している場合は、小児期よりも少し大きくなってから、痛みなどで気が付くことも多くなります。しかし、痛みがない場合もあり、疾患に全く気が付かないこともあります。

深部の海綿状血管腫では、出血などによって急激な痛みを感じることがありますが、通常、その痛みは数日で自然に軽快します。小児の場合は、脚の長さに差が出ることがあり、多くは腫瘤のある脚のほうが長くなります。広範な病変がある場合では、体全体の血液凝固の異常が起きることもあります。

海綿状血管腫は手足に好発するため、基本的な受診科は皮膚科や皮膚泌尿器科、形成外科となるものの、発生した臓器によって受診科は異なります。耳や鼻、口であれば形成外科でも診療されますが、肝臓であれば消化器外科、腎臓なら泌尿器科、脳なら脳神経外科となります。

海綿状血管腫の検査と診断と治療

皮膚科や形成外科などの医師による診断では、皮膚の色の変化、数珠状に拡張した静脈などでわかることもあります。病変の確認のために、超音波検査、MRI、血管造影検査などの画像検査も行われます。

皮膚の下に発生する多くの海綿状血管腫は、うんだり、出血したり、痛みがあるといった症状がなければ経過観察で問題ありません。深部の海綿状血管腫も、ある程度以上は大きくならないので、放置して経過観察をするのが基本となります。

症状を伴う場合は、放射線治療やレーザー治療に効果が認められないため、外科的に血管を切除する方法がとられます。また、近年では、血管内治療である硬化療法、塞栓(そくせん)硬化療法も多く行われるようになっています。硬化療法は、奇形性血管に硬化剤という薬剤を注入して血管を固める方法です。塞栓硬化療法は、まず塞栓子と呼ばれる物質を用いて奇形性血管へ流入する血管を詰め、その後、奇形性血管に硬化剤を注入して血管を固める方法です。

病変が広範な場合は、手術が不可能なこともあり、現在でも治療は困難です。

🕎潰瘍

潰瘍(かいよう)とは、皮膚や粘膜の上皮組織が何らかの原因で傷付き、深くえぐられた状態のことです。通常、より深層の組織も、症例ごとにさまざまな深さで損傷を起こしています。上皮組織を失ったことで受ける外部刺激、特に感染に対する防御反応や、損傷した組織の修復と再生のために、炎症を伴うのが常です。

潰瘍より軽度の上皮組織の損傷、すなわち肉眼的には上皮が欠損していても、顕微鏡で見ると不連続的に上皮細胞が残っているものは、びらんと呼びます。より深層の組織の傷害も、軽微で限定的です。

代表的な潰瘍で、頻度が高く健康への影響が大きいのは、胃潰瘍と十二指腸潰瘍。いずれも、本来は食物を消化するために分泌されている胃液によって、胃や十二指腸の粘膜そのものまで消化されて傷付いた結果、発生する病気です。総称して消化性潰瘍と呼び、皮膚にできる潰瘍と違って、粘膜が常に強酸にさらされているため、なかなか治りません。ほかに、口の中、大腸などにできる潰瘍もあります。

なお、潰瘍を形成する特徴を持った炎症を潰瘍性炎と呼び、組織の損傷がさらに深層に及んで消化管などの壁を貫くものを穿孔(せんこう)性潰瘍と呼びます。

✡潰瘍性大腸炎

大腸の粘膜に多数の潰瘍ができ、再発しやすい難病

潰瘍(かいよう)性大腸炎とは、大腸の粘膜に多数の浅い潰瘍ができ、出血する疾患。厚生労働省から特定疾患(難病)の一つに指定されています。

最近、日本でもだんだん増えてきた大腸の慢性の炎症で、20歳代、30歳代で発症する人が多く、子供や50歳以上の人でも起こり、男女差はありません。日本では、人口10万人当たり2〜3人くらいで、毎年おおよそ5000人増加していますが、欧米では日本の2〜3倍多いとされています。

原因については、まだよくわかっていません。 細菌やウイルスの感染、ある種の酵素の不足、ストレス、体質が関係しているといわれ、近年では自己免疫異常説がかなり有力です。

私たちの体には、細菌などの有害なものを排除する免疫の仕組みがあります。この免疫の仕組みは腸の中でも働いていて、食べ物が腸を通過する際には、栄養分のように体に必要なものだけを腸の粘膜から吸収し、不要なものや有害なものは吸収せずに、そのまま腸から通過させて便として排出します。 ところが、免疫機構の異常が大腸に生じると、不要なものまで腸の粘膜から吸収されるようになる結果、大腸の粘膜に炎症が起こって潰瘍ができると考えられています。

また、潰瘍性大腸炎が増加している背景には、大腸がんと同じように、食生活の欧米化、特に脂肪の多い食事の取りすぎがあると推測されます。

最初、病変が直腸にできる直腸炎型として起こり、直腸からS状結腸に渡って病変が広がって直腸S状結腸炎型となります。さらに、下行結腸へと広がる左側大腸炎型となり、横行結腸から上行結腸へと進んでいき、全大腸炎型になります。

直腸炎型は最も軽く、全大腸炎型が最も重症です。

潰瘍性大腸炎の主な症状は、腹痛と血便。最初は腹痛と下痢で始まり、次第に下痢便に血液が混じって血性下痢になります。直腸の一部のみに病変が限られている時は、排便の際に少量の出血がみられる程度のため、内痔核(ないじかく)からの出血とはっきり区別が付けにくいこともあります。

直腸やS状結腸に強い病変が起こると、渋り腹という状態になり、排便した後もすっきりせず、何回でもトイレに行きます。

腹痛は、左下腹部に起こることが多く、特に排便の前に強くて、排便後は軽くなって消失します。そのほか、腹部のはれぼったい感じ、食欲不振、吐き気、嘔吐(おうと)などが起こってくることもあります。体温の変化は、最初は特にないものの、炎症が進んでくると、発熱するようになります。

さらに重症になってくると、1日のうち、何回も血性下痢が起こり、食欲不振と体重減少が生じます。

この潰瘍性大腸炎は、大腸の炎症のほかにも、いろいろな合併症を引き起こしやすい疾患で、腸の局所的な合併症と、全身的な合併症とがあります。

局所的な合併症として、痔核、痔瘻(じろう)、肛門(こうもん)周囲膿瘍(のうよう)などの直腸と肛門の疾患や、炎症の結果として、大腸の内腔(ないくう)が狭くなる大腸狭窄(きょうさく)、潰瘍が深くえぐれる大腸穿孔(せんこう)を起こしたりします。

大出血や、大腸が急にまひして拡張する中毒性大腸拡張症などを合併することもあります。そのほか、血液中の蛋白(たんぱく)質が胃腸から漏れ出る蛋白漏出性胃腸症などを起こして、栄養障害の引き金になることもあります。

全身的な合併症としては、出血に伴う貧血、結膜炎や虹彩(こうさい)炎などの目の疾患、口内炎や重い皮膚炎、関節炎などがあります。重症の潰瘍性大腸炎では、肝炎や肝硬変、膵炎(すいえん)といった内臓の疾患を合併することもあります。

症状の経過によって、潰瘍性大腸炎は再発寛解(かんかい)型、慢性持続型、急性電撃型、初回発作型に分けられます。

再発寛解型は、一時的によくなったり、再発したりを繰り返すタイプ。慢性持続型は、病状がずっと慢性的に続くタイプ。急性電撃型は、最も重症で突然に病状が悪化するタイプ。初回発作型は、1回しか起こらず、直腸だけに限局して軽く、進行しないタイプ。

一般に、病変に侵された大腸の範囲が広いほど予後が悪く、合併症も多くなります。

潰瘍性大腸炎の検査と診断と治療

血便や下痢を起こす疾患は、潰瘍性大腸炎のほかにも、急性腸炎やがんなどいろいろあります。自分の判断で安易に下痢止めや止血剤を使うと、かえって症状をひどくする危険があります。消化器科の専門医を受診して、内視鏡検査などをした上で適切な治療を受けるようにします。潰瘍性大腸炎の合併症も早期に発見できれば、長引かせずに治療することが可能になります。

医師による診断のための検査では、大腸のX線検査が重要です。腸管を下剤で完全に空にした状態で、肛門から造影剤と空気を入れてX線撮影するもので、大腸の粘膜の凹凸、びらん、潰瘍などが描写され、病変の範囲や、程度を知ることができます。次いで、大腸内視鏡検査によって、より詳細な所見を捕らえ、診断を確実にします。

潰瘍性大腸炎は原因がはっきりしないため、決定的な治療や予防はまだできないのが現状です。対症療法としては、まず精神的、肉体的な安静を保ち、消化吸収がよく、栄養価の高い食事をとります。豆腐や白身の魚、鶏のささ身などは最適です。

炎症がひどい時には、脂質の多い食品や、繊維質の多い食品は避ける必要があります。脂質の多い食品は胃腸の負担を増大させますし、繊維質が多い食品は便の量が増えて、大腸の粘膜の傷が刺激されやすくなるからです。また、出血を伴う場合は、わさび、からし、こしょうなどの刺激物や、アルコール類のように血管を拡張させるものも控えるようにします。

薬物療法としては、軽症ではサラゾスルファピリジンというサルファ剤を内服薬、または座薬として用います。サルファ剤は、特効的に効果を発揮することがあります。中等症では副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の内服薬、座薬が用いられます。重症では抗生物質、輸液、輸血が必要なこともあります。中等症、重症では、入院治療を要します。

急性電撃型の場合、内科的な治療だけでは無理なため、手術が必要です。全大腸炎型で生命に危険があると判断された場合も、手術が行われます。全身に及ぶ合併症の場合には、消化器科の専門医に加えて、眼科、皮膚科、整形外科などの多くの専門医が協力して、治療に当たることになります。

この潰瘍性大腸炎は、一時的に快方へ向かっても、しばしば悪化します。精神的なストレスや不安感が引き金になることが多く、しばしば試験勉強などで悪化したり、暴飲暴食で悪化することも少なくありません。

従って、十分に睡眠をとることと、食事を規則正しくして、過労を避け、精神の安定に努めます。いずれにしても長い経過をとる疾患なので、療養にもそれだけの時間がかかります。

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