2022/08/01

💅オニコレクシス

爪の甲の表面に縦の割れ目が入り、中央で裂ける状態

オニコレクシスとは、爪(つめ)の甲の表面に縦の割れ目が入り、中央で裂ける状態。スプリットネイル、爪甲(そうこう)縦裂症とも呼ばれます。

爪の甲に縦線が入るのは老化現象として一般的にみられるものですが、オニコレクシスでは縦の割れ目が入るまでに至り、しかも、その割れ目は深く、爪が2つに分かれていることがはっきり確認できるほどになります。

1本の爪に縦の割れ目が1~3本同時にみられる場合のほか、数本の爪に縦の割れ目が1~3本同時にみられる場合、すべての爪に縦の割れ目が1~3本同時にみられる場合もあります。炎症や痛みを伴う場合もあります。

オニコレクシスの原因は、爪母の損傷、栄養素不足、マニキュアや薬剤、水仕事、爪根部の末梢(まっしょう)循環障害、皮膚疾患、全身性疾患などいくつかあります。

爪の付け根の皮下にあり、爪を作り出している爪母を強打したり、傷付けたりして、爪母が損傷した場合は、新しく生えてくる爪にはすでに縦の割れ目が入っていたり、中央で裂けていたりします。この縦の割れ目は爪母に損傷が加わってできるものですから、現れるのは損傷が加わってから数週間後です。

食事での栄養バランスの偏りやダイエットなどで、爪に必要な蛋白(たんぱく)質、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、ビタミンBなどの栄養素不足になった場合も、爪がもろくなっているために、圧迫などによって簡単に縦の割れ目が入ることがあります。偏った食生活や過度なダイエットによって鉄欠乏性貧血になり、これが原因でオニコレクシスになることもあります。

手の爪に施すマニキュア、足の爪に施すペディキュア、マニキュアなどを落とす除光液(エナメルリムーバー)を使用する機会の多い女性や、仕事で有機溶剤や殺菌・消毒用のアルコールの一つであるエタノール(エチルアルコール)を使用している人の場合、揮発性の高い溶剤が爪から水分と脂分を奪い、爪表面を乾燥させるために、縦の割れ目が入りやすくなります。マニキュアなどを落とす除光液に含まれるアセトンなどが外的刺激になって、オニコレクシスを誘発することになります。

水仕事の多い人や、湿気の多い環境にいる人も、水分過多によって爪がもろくなったり、お湯の使用によって爪の脂分が奪われるために、縦の割れ目が入りやすくなることもあります。蛋白質を分解する成分が入っている洗剤などが、蛋白質の一種のケラチンを主成分とする爪への外的刺激になって、オニコレクシスを誘発することもあります。

自律神経失調症や糖尿病などが原因で末梢循環不全という疾患を発症し、手足などの末梢まで血液循環が行き届かず爪に必要な栄養素不足になった場合も、爪に縦の割れ目が入ったり、爪が伸びなかったりすることがあります。

乾癬(かんせん)、湿疹(しっしん)、皮膚炎、化膿(かのう)性爪囲炎(ひょうそう)、カンジタ菌による爪囲炎などの皮膚疾患がある場合も、爪がもろくなって爪の甲の先端や中央部に縦の割れ目が入ることがあります。

卵巣機能障害、甲状腺(こうじょうせん)機能低下症、慢性肝障害、貧血、低体温、糖尿病、高尿酸血症、神経疾患などの全身性疾患がある場合も、それが原因でオニコレクシスを合併発症することもあります。

爪に縦の割れ目が入るのは、体に異常が出ているシグナルかもしれません。爪に何カ所も割れ目が入る、炎症や痛みがあるなどの場合は、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診することが勧められます。

オニコレクシスの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、爪の甲に縦の割れ目を起こし得る外的物質や薬剤、あるいは皮膚疾患や全身疾患を検査して、原因がわかるようであれば、それを除去ないし治療します。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療は、原因に応じて行います。一般的には、爪の角質に浸透しやすい保湿剤やステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)をこまめに塗ったり、ビタミンEの飲み薬を使用する場合があります。

爪を作り出している爪母の損傷が原因でオニコレクシスを来している場合は、現在の医療では手当できないとされています。

栄養素不足が原因の場合は、まずは蛋白質、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、ビタミンB、さらにコラーゲン、野菜や海藻類に多く含まれるミネラル類など、爪に必要な栄養をしっかり摂取します。

マニキュア、除光液、有機溶剤、あるいは水仕事などが原因であれば、極力それらの使用や機会を中止したり、減らします。爪への負担が減るため、多くのケースでは自然に治ります。仕事などでどうしても薬剤、水、洗剤などを使わなくてはいけない場合は、手を保護するものを着用したり、使った後にハンドクリームなど油分の高いもので保湿ケアを行います。

爪の末梢循環不全が原因であれば、ステロイド剤を配合した塗り薬をこまめに塗ったり、末梢血管の収縮を防ぐビタミンEの飲み薬を内服します。医師による治療と並行して、血液循環をよくするために日ごろから、手足のマッサージ、爪もみを心掛けます。

一部の爪にオニコレクシスがみられる皮膚疾患があれば、その治療を行います。カンジダ菌の感染の可能性の強い時には、抗真菌剤の外用を行います。すべての爪にオニコレクシスがみられる全身性疾患があれば、その治療を行います。

🇳🇴音響外傷

極めて大きな音により急性に引き起こされる音響性聴力障害

 音響外傷とは、極めて大きな音を急に聞くことで引き起こされる聴力障害。急性音響性難聴と呼ばれることもあります。
 音量の大きな音楽を演奏するロックバンドのライブコンサートやショー、イベントなどの数時間の観覧、ヘッドホンやイヤホンを介した大音量での長時間の音楽鑑賞が原因となって、若い人に症状が起こることもあり、ロック難聴やヘッドホン難聴と呼ばれることもあります。
 また、祝賀用の爆竹の破裂音、花火の破裂音、ピストルの発砲音を繰り返し聞く、大音量の爆発音を何度も聞く、工場の機械の瞬間的に生じた大きな作動音を聞くことでも、音響外傷の症状が起こります。 
 音は空気の振動によって、外耳道から鼓膜を介して中耳へと伝わります。中耳にある骨が振動すると内耳へと情報が伝わり、内耳の中の蝸牛(かぎゅう)にあるリンパ液が振動を受けます。この振動を有毛細胞と呼ばれる感覚細胞が感知することで、脳へと音の情報が伝わります。
 音響外傷は、一定レベルを超える大音量にさらされることにより、音を感知する有毛細胞が障害を受けることで発症します。
 症状は、音が聞こえにくくなる難聴、耳鳴り、耳が詰まったり、こもったりする感じが生じる耳閉感、耳の痛みです。めまいや吐き気を伴うこともあります。
 音が聞こえにくくなる難聴の場合、音全般が聞こえにくくなったり、低音だけ聞こえが悪くなったりなど症状はさまざまです。
 症状は一時的に起こり、自然に回復する場合もあります。また、音の発生源に近いほうの耳だけに、症状が起こることもあります。
 軽度のものであれば音から離れることで症状が改善しますが、重篤な場合には難聴や耳鳴りが永続化してしまうこともあります。
 大音量にさらされた後、難聴、耳鳴りなどの症状が続く場合は、早めに耳鼻咽喉(いんこう)科を受診してください。

音響外傷の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、大きな音にさらされたという情報が有益になります。

 検査としては、まずは耳の中をのぞくことができる耳鏡を使って、鼓膜に穴が開く鼓膜穿孔(せんこう)がないかを確かめます。次に、耳の聞こえが低下していることを確認するために、純音聴力検査を行います。さまざまな振動数の音がどれくらい聞こえているかを調べる検査で、左右それぞれの耳で行います。状況によっては、めまいに関する検査をすることもあります。
 耳鼻咽喉科の医師による治療では、耳の神経の修復を助けるホルモン剤、ビタミン剤、循環改善剤などを用いることがあります。状況によっては、ステロイド剤を使うこともあります。
 難聴が軽く、早期に治療を始めた場合には、回復する可能性があります。
 難聴の症状が固定すると、症状を完全に回復させることが難しい場合もあるため、音を聞く際には適度に休憩をとるなど予防策を講じることが大切です。
 イヤホンで音楽を聞く際には、音量を大きくしすぎず、長時間にわたって聞かないようにします。また、ライブコンサートなどの観覧に際しては、会場の音が強いと感じるようであればその場から離れたり、耳栓を使用したりするなど耳を保護する対策を講じることが重要です。
耳の神経は疲れやストレスの影響を受けるため、心身の安静を保つことも必要です。規則正しい生活を送り、ストレスをため込まないことが大切。

🇳🇵温熱じんましん

風呂のお湯などの温熱刺激が原因となって生ずるじんましん

温熱じんましんとは、風呂や暖房器具、ドライヤー、温かい飲食物などの温熱刺激によって生じる皮膚病。

症状は通常、温熱刺激が加わってから数分以内に現れ、数時間以内に消失します。

温熱刺激が加わってから通常数分以内に、強いかゆみを伴う皮膚の盛り上がりが生じます。かゆみや皮膚の変化は、数時間以内に治まることが多く認められます。

じんましんは、何らかの刺激によって皮膚の血管周辺にあるマスト細胞(肥満細胞)が刺激されて、細胞内に蓄えられているヒスタミンという化学物質が放出され、皮膚のはれや、かゆみ、湿疹(しっしん)ができる症状です。ヒスタミンには皮膚の血管を拡張させる作用があり、血管が拡張することで血液中の液体成分が血管の外に漏れ出し、これが皮膚を赤く盛り上げてはれとなるのです。ヒスタミンには、神経に作用してかゆみを引き起こす作用もあるため、赤いはれとともにかゆみも生じます。

マスト細胞が刺激される原因はさまざまですが、風呂のお湯に浸(つ)かったり、暖房器具に当たったりして、皮膚が急に激しい温度変化にさらされることも刺激になり、温熱じんましんが発生しやすくなります。

全身が冷え切った状態で、いきなり風呂のお湯に浸かると、皮膚表面の温度が急激に上がり、温熱じんましんが出やすくなります。風呂上がりに体が赤く、強いかゆみが出るという場合は、温熱じんましんが出ている可能性が高いといえます。

また、冬場に寒い屋外から戻って急に暖かい室内に入った時や、夏場にエアコンで冷えた室内から急に暑い屋外に出た時にも、温熱じんましんが出やすくなります。

温熱じんましんは、急に体が温まることが原因で起きるもので、空気が乾燥して皮膚のバリア機能が弱まり刺激を受けやすくなる冬場に、多くみられる疾患です。梅雨の時期から夏にかけて、みられるケースもあります。

寒い冬場は、暖房器具のすぐ近くで暖を取ることも珍しくありません。最近の暖房器具は、温風が出るものが多く、それが肌に当たるとその部分だけ急激に体温が上昇し、じんましんが出やすくなります。
 温風だけでなく、赤外線電気こたつ、電気毛布、ホットカーペット、あんか、懐炉、ヒートパッド、火鉢、湯たんぽなどなど体に密着させて使う暖房器具でも、同じ状況が起きやすくなります。

運動後に、温熱じんましんが出る場合もあります。運動をすると体温が上がり、とりわけ冬場に運動をする前と運動をした後では、皮膚表面の温度が大きく変わり、温熱じんましんが出やすくなります。冬場に運動をすると体がかゆくなるという場合は、温熱じんましんが出ている可能性があります。

そのほかの温熱刺激物質としては、ドライヤー、日光、料理に伴う熱なども挙げられ、敏感な人ではホットコーヒーなど温かい飲食物を摂取した後にも、唇がはれるなど粘膜症状としてじんましんが出ることもあります。

温熱じんましんは誰でも発症する可能性がありますが、アレルギー体質の人や冷え性の人が特に発症しやすいといえます。アレルギー体質の人は、温熱じんましんの原因となるヒスタミンが出やすいためです。また、冷え性の人は、常に皮膚が冷えているので、ほかの人よりも低温でじんましんが出やすくなります。

このほかにも、乾燥肌、敏感肌の人も、温熱じんましんが出やすいといえます。

温熱じんましんはどの年代でも発症する可能性がありますが、乳幼児や高齢者に多い傾向があります。例えば、「赤ちゃんは冷やしてはいけない」とされるため、つい厚着をさせがちですが、体温調節がまだうまくできないので、温度差が激しい場所に行くと体温も変わりやすい結果、かゆみが出て激しくぐずることもあります。

また、高齢者の場合は、加齢から肌の温度調節がうまくいかず乾燥肌になりやすいため、温熱じんましんになりやすい状態です。

温熱じんましんでは、皮膚のはれや、かゆみ、湿疹、粘膜のはれなどが主な症状として現れます。局所的にできるものは、赤みやかゆみが強く、蚊が刺したように皮膚がプクッと膨らむ傾向があります。

かゆいからといって皮膚をかきむしると、それが刺激になってさらにじんましんが広がることもあります。
 そのほかの症状として、全身倦怠(けんたい)感、頭痛、ふらつき、吐き気や嘔吐(おうと)、下痢、腹痛、息苦しさなどが挙げられます。重症の場合には意識を失うこともあり、症状は個人によって大きく異なります。

温熱じんましんのほとんどは、花粉やハウスダストなどがアレルゲンとなって起こるアレルギー性ではなく、単に皮膚が刺激を受けたことによって起こる非アレルギー性であり、お湯に浸かったり、暖房器具に当たったりすれば必ず出るものではありません。ストレスがたまっていたり、抵抗力が弱っていたりすると、発生しやすくなります。

温熱じんましんは、日常のふとした切っ掛けで生じることがあるため、温熱刺激による異変を感じた場合や、風呂のお湯に浸かったり、体温が急激に上がったりするたびに、温熱じんましんが出るような場合は、一度、皮膚科ないし皮膚泌尿器科で詳しく皮膚の状態を診察してもらうことが大切です。

温熱じんましんの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、問診にて具体的な症状やそれまでの経過を確認します。

特に、入浴後やドライヤーの使用後、温かい飲食物の摂取後に症状が生じたなどの情報は重要で、じんましんの発症前の状況や症状の変化を具体的に伝えてもらいます。

温熱じんましんが疑われる場合には、実際に温熱刺激を皮膚に加え、その後の皮膚変化を医師が評価する検査を行うこともあります。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、じんましんが生じる原因となる温熱刺激をできるだけ避けることが重要です。また、かゆみの原因となるヒスタミンを抑えるための治療薬を処方します。抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬が中心ですが、かゆみが強い場合にはステロイド薬を併用することもあります。じんましんの症状が治まっても、薬の服用期間は厳守してもらいます。

主に内服薬を処方しますが、眠気や排尿障害などの副作用が生じることもあります。

温熱じんましんを繰り返す状態が続く場合は、抵抗力や免疫力を高めるために体質改善を視野に入れて、漢方薬を試してみるのもお勧めです。すぐに効果が現れなくても、指示された通りに根気よく治療を続けることによって、完治することもあります。

🇳🇵エイパート症候群

頭の形と顔貌が特徴的で、手足の指の癒合がある先天性疾患

エイパート症候群とは、複数の特定の奇形を持っている先天性の異常疾患。アペール症候群とも、尖頭(せんとう)合指症候群とも呼ばれます。

エイパート症候群の主な症状は、頭蓋(とうがい)骨縫合早期癒合症、合指症、合趾(ごうし)症で、頭の形と顔貌(がんぼう)が特徴的で、手足の指に癒合などの奇形があります。症状が似ているため、クルーゾン病と同一視する場合もあります。

乳児の頭蓋骨は何枚かの骨に分かれており、そのつなぎを頭蓋骨縫合と呼びますが、乳児期には脳が急速に拡大しますので、頭蓋骨もこの縫合部分が広がることで脳の成長に合わせて拡大します。成人になるにつれて縫合部分が癒合し、強固な頭蓋骨が作られるわけです。

頭蓋骨縫合早期癒合症は狭頭症とも呼ばれ、染色体や遺伝子の異常が原因となって、頭蓋骨縫合が通常よりも早い時期に癒合してしまう疾患。その結果、頭蓋骨や顔面骨に形成不全がみられて、頭、顔、あごに変形が生じます。頭蓋骨の変形は、早期癒合が起こった縫合線と関係があり、長頭、三角頭、短頭、斜頭などと呼ばれる変形が生じます。

眼球突出、両目の離間、気道狭窄(きょうさく)、歯列のかみ合わせ異常、高口蓋や口蓋裂など、さまざまな症状もみられます。また、頭蓋骨の変形によって脳が圧迫されるなどの障害が発生し、水頭症の合併、頭蓋内圧の上昇を認めることも少なくありません。

合指症は、隣り合った手の指がくっついている疾患。エイパート症候群における合指症の場合、人差し指から小指までの4本の合指、または親指から小指まで5本全部の合指の2つのパターンに大きく分かれるようです。手の指の間が皮膚によって互いにくっついている場合と、骨によって互いにくっついている場合とがあります。

合趾症は、隣り合った足の指がくっついている疾患。5本全部の指がくっついていることが多いようです。合指症と同じく、足の指の間が皮膚によって互いにくっついている場合と、骨によって互いにくっついている場合とがあります。そのままでも歩行に問題はありません。

水頭症のほか、聴力の障害、精神発達障害を伴うこともありますが、ほとんどは知能の発達に異常はありません。発生頻度は1万6000人に1人とされ、典型的な症状を持つ発症者は常染色体性優性遺伝をすることがわかっています。

乳児の頭蓋骨は、子宮内での圧迫、産道を通る際の圧迫、また寝癖などの外力で容易に変形します。こうした外力による変形は自然に改善することが多いので心配ないものの、エイパート症候群における頭蓋骨縫合早期癒合症との鑑別が大切です。

エイパート症候群の検査と診断と治療

乳幼児の頭の形がおかしい、手足の指が癒着していると心配な場合は、形成外科や小児脳神経外科の専門医を受診します。

エイパート症候群の症状には、軽度なものから重度なものまであり、形成外科や脳神経外科の領域のほか、呼吸、循環、感覚器、心理精神、内分泌、遺伝など多くの領域に渡る全身管理を要します。乳幼児の成長、発達を加味して適切な時期に、適切な方法で治療を行うことが望ましいと考えられ、関連各科が密接な連携をとって 集学的治療が行われます。

頭蓋骨縫合早期癒合症の治療は、放置すると頭の変形が残ってしまうばかりでなく、脳組織の正常な発達が抑制される可能性があるため、外科手術になります。

手術法としては従来から、変形している頭蓋骨を切り出して、骨の変形を矯正することで正常に近い形に組み直す頭蓋形成術が行われています。乳幼児の骨の固定には、できるだけ異物として残らない吸収糸や吸収性のプレートが用いられます。

近年では、この頭蓋形成術に延長器を用いた骨延長術も行われています。具体的には、頭蓋骨に刻みだけ入れて延長器を装着し、術後に徐々に刻みを入れた部分を延長させ、変形を治癒させるという方法。

骨延長術のメリットとして、出血が少なく手術時間の短縮が図れる、骨を外さないため血行が保たれるので委縮や変形が少ない、骨欠損が比較的早期に穴埋めされる、皮膚も同時に延長可能である、術後に望むところまで拡大可能であるなど挙げられます。一方、デメリットとして、頭蓋形成術より治療期間が長く1カ月程度は入院しなければならない、延長器を抜去する手術が必要となるなどが挙げられます。

さらに、内視鏡下で骨切りを行い、ヘルメットで頭の形を矯正するなどの手術方法も開発されています。水頭症予防の手術が必要になる場合もあります。

単純な頭蓋骨縫合早期癒合であれば、適切な時期に適切な手術が行われれば、一度の手術で治療は完結することが期待できることがあります。エイパート症候群性の頭蓋骨縫合早期癒合症では、複数回の手術が必要になることもまれではありません。頭蓋骨の形態は年齢により変化しますので、長期に渡る経過観察が必要です。

頭蓋骨の手術だけでなく、顔面骨を骨切りして気道を拡大し、眼球突出や不正咬合(こうごう)を適切な位置へ移動させる手術も行われます。

手足の指の癒着は、皮膚だけでなく骨まで癒着している場合、機能を損ねないように慎重に分離手術が行われます。歯列矯正を行う時には、エイパート症候群の場合は健康保険が適用されます。

🇳🇿栄養失調

標準体重より体重が20パーセント以上減少している状態

栄養失調とは、一般的に、標準体重より体重が20パーセント以上減少している状態。栄養不良、栄養不足、羸痩(るいそう)とも呼ばれます。

標準体重より少ないからといって、人それぞれで体重がほぼ一定している場合には、すぐ病的だとはいえません。しかし、過去6カ月以内に元来の体重から10パーセント以上減った場合は、医学的に問題となります。

この栄養失調は、栄養過多による肥満の反対、つまり脂肪だけが減っているということではありません。筋肉など、脂肪以外の組織も減少している状態をいいます。

栄養失調を起こす原因には、さまざまなものがあります。大きく分けて、食事で摂取する熱量(カロリー)が体の要求を満たすのに十分でない場合と、摂取する熱量は足りていても十分に吸収・利用がされない場合に、栄養失調の状態になります。

食事で摂取する熱量が体の要求を満たすのに十分でない場合の栄養失調の一般的な形態は、蛋白(たんぱく)・エネルギー栄養失調と、微量栄養素栄養失調に分かれます。

蛋白・エネルギー栄養失調は、体に必要なエネルギーと蛋白質の不十分な吸収と利用を示します。微量栄養失調は、体に少量必要なビタミンや微量元素などの不足が原因で、さまざまな疾患につながり、体の正常な機能を損ないます。

摂取する熱量は足りていても十分に吸収・利用がされない場合は、消化器系の疾患や、がん、糖尿病、甲状腺(こうじょうせん)機能高進症などのいろいろな疾患が原因となっている場合があります。

消化管である胃腸に疾患があると、食欲不振に陥ると同時に、食べた物の消化・吸収も正常に行われなくなるため、栄養失調になります。消化器系の疾患で多いのは、胃潰瘍(かいよう)と十二指腸潰瘍です。また、消化液や酵素を分泌する腺臓器である肝臓、膵臓(すいぞう)に、慢性肝炎、肝硬変、慢性膵炎などの疾患があるケースでも、食欲が減退して、栄養失調になります。

体のどの臓器、組織にできたがんでも、初期症状として栄養失調になり、体重が落ち、やせてきます。がん細胞が体の栄養を奪ってしまうために起こり、特に消化器系に発生したがんでは顕著です。末期になると、体がやせ細ってきます。

糖尿病の初期には太り出すことがありますが、放置して進行すると食欲があるのに栄養失調になり、体がやせてきて、のどの渇き、多尿などの症状が現れます。糖尿病は膵臓から出るインシュリンの働きが悪くなり、血糖値が高くなる疾患で、進行すると目、腎臓(じんぞう)、神経などに合併症を来す全身病。親や兄弟に糖尿病の人がいると、発症率が高くなります。

甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患が甲状腺機能高進症で、代謝が活発になって消費カロリーが増えるため食欲が増しますが、それ以上に代謝が激しいので、急激に栄養失調になります。動悸(どうき)がする、汗をかきやすい、手が震えるなどの症状も伴います。男女比で見ると、約1対4で女性に多く、多くは20歳~50歳代で発症します。

そのほか、神経性食欲不振症、過度のダイエットが、栄養失調の原因となっている場合があります。

神経性食欲不振症は若い女性に多く、肥満に対する強い不安などが原因で食欲不振になり、食べても自ら吐いてしまうこともあります。その結果、栄養失調となり、極度のやせ、無月経などを引き起こします。本人には、栄養失調の自覚がないことが多いとされています。

減量を目的とした自己流の過度のダイエットによる食事制限によって、栄養失調、摂取エネルギー不足に陥って、極端にやせるケースもあります。貧血や肝機能障害などの合併症を引き起こす危険性もあります。

そのほか、感染症、外傷、手術なども、栄養失調を起こす原因となります。

栄養失調の一般的な症状は徐々に起こってきますが、自覚症状としては、倦怠(けんたい)感、無気力、脱力感があり、体重は次第に減少し、体温も下がり、脈が少なくなります。やがてむくみ、貧血、下痢が現れ、末期には昏睡(こんすい)状態になって死亡します。

1カ月で2~3キロ以上体重が減ったら、念のため内科を受診しましょう。

栄養失調の検査と診断と治療

内科の医師による診断では、さまざまな疾患を念頭に入れて、食欲や食事摂取の有無を始めとした病状を詳しく聞いた後に、必要な診察や検査を迅速に行います。

内科の医師による治療では、原因となっている疾患がある場合は、その疾患を治療することが先決です。

原因となっている疾患が特に見当たらなければ、十分な熱量と、牛乳、卵、大豆など良質な蛋白質を与えれば、容易に回復します。全体の摂取カロリーに占める糖質、脂肪、蛋白質の割合は、およそ3対1対1になるのがよいとされています。加えて、食事は1日3回、規則正しく取ることが大事です。

重症者では、消化機能も低下し、慢性下痢を伴っているものが多いので、初めは流動食を少量ずつ1日数回に分けて与えます。食べ物は、糖質食品(くず湯やかゆなど)、消化の良い蛋白質、脂肪(バター)の順で増加していきます。むくみが強い場合には、食塩を制限します。

🇳🇿会陰裂傷

主に分娩に際して会陰部の組織に生じる裂傷

会陰(えいん)裂傷とは、主に分娩(ぶんべん)に際して、会陰部が過度に押し広げられて生じる裂傷。会陰破裂とも呼ばれます。

裂傷は膣(ちつ)入口部と肛門(こうもん)の間、長さにして3センチほどの部分に生じ、傷口からの出血や痛みが生じます。分娩時、新生児の頭が膣壁や会陰部の組織を圧迫して引き伸ばし、最終的には約10センチほどもある頭が膣入口部から出てきます。最初は厚ぼったかった会陰部の組織は、新生児の頭が出る直前はぺらぺらの紙のように薄く引き伸ばされ、裂傷が生じやすくなります。

裂傷の程度によって、1度から4度までに分類されます。1度会陰裂傷は会陰部の皮膚および皮下組織、膣粘膜のみの裂傷で、2度会陰裂傷はさらに会陰部や膣壁の深部筋層まで及んだものをいいます。3度会陰裂傷では肛門括約筋、膣と直腸の間にある膣中隔の一部にまで達し、4度会陰裂傷は肛門粘膜や直腸粘膜をも損傷するものをいいます。

これらの裂傷は、膣や会陰の伸展が十分でない若年、もしくは高年の初産婦や、新生児の体が大きい時に生じやすくなります。経産婦は一度膣壁や会陰部が引き伸ばされた経験があるので、次の出産の際は引き伸ばされやすい傾向があります。

分娩後直ちに縫合すれば通常は後遺症を残しませんが、感染したり血液がたまって血腫(けっしゅ)をつくると、縫合部が離開して治癒に日数を要することがあります。4度会陰裂傷で治癒が不完全な場合は、膣と直腸が通じてしまう直腸膣瘻(ろう)を形成することもあります。

会陰裂傷を予防するために、介助者が新生児の頭の通過をゆっくり進行させて会陰の急速な伸展を防ぐ会陰保護を行うことが、古くから行われてきました。しかし、目に見える会陰裂傷を生じていなくても、皮下組織や深部筋層の断裂、あるいは過度な伸展によって産後の膣壁の弛緩(しかん)を生じ、後に性生活に不満を残すことがあります。

あらかじめ予防的に会陰を切開しておいたほうが治癒が早く、肛門括約筋や直腸粘膜に達するような裂傷を生じにくいことなどから、会陰部がある程度伸展した時点で人為的に切開する会陰切開が行われることも多くなっています。会陰切開は切開部位によって正中切開法と正中側切開法に分けられ、キザギザに裂ける会陰裂傷よりは縫合も簡単で治癒も早いのが特徴です。

会陰裂傷の検査と診断と治療

産婦人科、産科、産科・婦人科の医師による診断は、新生児が生まれ出て胎盤が子宮から出た直後に、赤い色の出血が見られ、膣入り口部と肛門の間の会陰組織、もしくは膣壁が裂けていることが視診で確認されると、会陰裂傷と判断します。

肉眼的に損傷の程度を確認して2度会陰裂傷かと思っても、膣の奥深くで直腸粘膜が裂けて4度会陰裂傷となっている場合もまれにあるので、分娩直後の直腸診も行い、肛門括約筋が正常に機能するか、肛門粘膜や直腸粘膜に損傷がないか確認します。

産婦人科、産科、産科・婦人科の医師による治療は、裂傷部を縫合することになります。合成吸収糸という時間がたつと自然と溶けてしまう細い糸を使用して縫合するため、一般的な裂傷では抜糸は必要ないことが多くなります。

1度会陰裂傷の場合、裂傷が1センチ以上あり出血がある際は、傷が密着して出血が止まる程度の強さで縫合します。2度会陰裂傷の場合、深い部分の傷は合成吸収糸を使う埋没縫合で止血し、表面の傷は1度会陰裂傷と同様に縫合します。2度会陰裂傷までは一般的に起こり得るもので、10分もあれば縫合も終わります。

3度会陰裂傷の場合、まず断裂した肛門括約筋を縫合します。不完全な断裂であっても、肛門括約筋は肛門の周囲を取り囲む輪ゴムのような筋肉で、断裂すると肛門の締まりが緩くなり、排便障害などの後遺症を残すことがあるため、断裂した筋肉を元のように引き寄せて縫合し、残りの傷は2度会陰裂傷と同様に縫合します。分娩後3~4日は便が硬くなりすぎて傷に負担がかからないように、便を柔らかくする緩下剤を使う場合があります。

4度会陰裂傷の場合、裂傷を縫合する前に、肛門から直腸の厳重な消毒を行います。次に破れた直腸粘膜の縫合と肛門括約筋の縫合を行い、後は2度会陰裂傷と同様に縫合します。縫合に1時間以上かかることもあります感染予防のために抗生物質の投与し、さらに3~4日程、便を止める場合もあります。また、直腸の挫滅(ざめつ)がひどく縫合がうまくいかずに直腸と膣がつながってしまう直腸膣瘻を形成することもあります。この際は抗生物質を用いて炎症を抑え、傷がある程度落ち着いてから再度縫合を行うこともあります。

会陰裂傷後に特に気を付けるべきことは、排便などで息む時に縫合部分に負担をなるべくかけないことです。そのため、緩下剤などで便の柔らかさをコントロールする必要があり、水分もこまめに飲むように心掛けます。傷の痛みが強い時には、授乳中も服用できる鎮痛剤を服用します。ほかにも、滅菌コットンなどでのふき取り、洗浄、ワセリンの塗布で、傷口を清潔に保つことが必要です。

🇳🇨エーラス・ダンロス症候群

皮膚、関節が過伸展し、結合組織がもろくなる遺伝性の疾患

エーラス・ダンロス症候群とは、皮膚や骨、血管、さまざまな臓器などを支持する結合組織が脆弱(ぜいじゃく)になる遺伝性の疾患。

原因や症状、遺伝形式の違いに基づき、複数の病型に分類されています。1998年の世界保健機関(WHO) の国際疾病分類では古典型、関節可動性高進型、血管型、後側湾(こうそくわん)型、多関節弛緩(しかん)型、皮膚脆弱型の6つの病型とその他の病型に分類されていましたが、2017年に改定されて13病型になりました。

従来は非常にまれな疾患と見なされていたものの、最近では、すべての病型を合わせると、世界的にみて5000人に1人程度の有病率であると推定されています。

エーラス・ダンロス症候群は遺伝子の変異によって起こる疾患で、発症に関連する原因遺伝子が複数報告されています。例えば、病型の1つである古典型については、COL5A1やCOL5A2といったⅤ型コラーゲン遺伝子上における異常が認められています。

ほとんどの病型が、コラーゲン生成にかかわる遺伝子の異常、もしくはコラーゲンの成熟に必須の酵素生成にかかわわる遺伝子の異常で起こります。コラーゲンは、体を構成している全蛋白(たんぱく)質の30%を占めている重要な構成成分で、さまざまな結合組織に強度と弾力性を与える働きをしているため、遺伝子に異常が起こることで、コラーゲンや結合組織の強度や構造を保つためのさまざまな成分の生合成が阻害され、その結果、エーラス・ダンロス症候群が引き起こされると考えられます。

ほとんどの病型で共通して認められる症状としては、関節の過伸展性、皮膚の過伸展性、結合組織の脆弱性が挙げられます。関節を支える靭帯(じんたい)などの結合組織がもろくなることから、関節は正常な可動域を超えて動き、脱臼(だっきゅう)しやすくなります。皮膚は健常な人と比べて非常に伸びやすく、感触は柔らかで滑らか、もろくて傷が付きやすい、できた傷も治りにくいといった特徴が認められます。

また、コラーゲンには多くの種類があり、結合組織によりその構成や代謝が異なるために、各病型においては特徴的な症状が現れ、程度には個人差があります。

病型にもよりますが、エーラス・ダンロス症候群で問題となる症状の1つは、血管がもろくなることです。特に血管型では、易(い)出血性であざができやすいほか、動脈解離や動脈破裂、外傷による出血、腸管や子宮などの内臓破裂が起きることがあり、予防や早期の適切な対応が必要になります。

エーラス・ダンロス症候群に気付いた際は、皮膚科、皮膚泌尿器科、小児科、整形外科、形成外科、循環器科、遺伝科を受診します。

エーラス・ダンロス症候群の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、小児科、整形外科、形成外科、循環器科、遺伝科の医師による診断では、特徴的な臨床症状や病歴、家族歴から疾患の可能性を考え、さらにいずれの型に該当するか、将来どんな合併症が起こり得るかを特殊な検査で検討します。

ほとんどの病型で共通して認められる関節症状や皮膚症状に関しては、関節の可動性や皮膚の過伸展性、委縮性瘢痕(はんこん)などの有無を調べます。皮膚組織の一部を採取する皮膚生検、採取した細胞や尿の成分を調べる検査などを行う場合もあります。心血管超音波(エコー)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、骨のX線(レントゲン)検査などの画像検査も検討されます。

また、コラーゲンの生成や成熟に重要な蛋白質や酵素にかかわる遺伝子異常が複数見付かっていることから、一部の病型では遺伝子解析により、遺伝子に異常がないかどうかを調べる場合もあります。

皮膚科、皮膚泌尿器科、小児科、整形外科、形成外科、循環器科、遺伝科の医師による治療では、エーラス・ダンロス症候群自体に対する治療法はまだないため、それぞれの症状に応じた対症療法が中心となります。痛みが強い場合には鎮痛剤、血管がもろくなる場合は血圧を下げる薬の処方が検討されます。

また、関節や皮膚、血管が脆弱であることから、激しい運動を避ける、サポーターを装着するといった予防も重要です。病型によって症状や経過が異なるので、正確な診断と適切な管理が必要となります。

例えば血管型の場合には、動脈解離、動脈瘤(りゅう)、動脈破裂、腸管破裂、妊娠時の子宮破裂といった重篤な合併症を来す恐れもあるため、予防のための生活管理、専門医による定期的なフォローが必要です。体に負担のかかる検査や手術は、なるべく避けます。

予後は、血管型以外は良好です。

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