2022/08/14

🇻🇪真性女性化乳房

男性に乳房の発育を認める疾患

真性女性化乳房とは、男性の乳房が女性のような乳房に膨らむ疾患。乳がんと間違われやすい疾患です。

本来、男性の乳房は女性の乳房のように発育しませんが、乳房に膨らみや、しこりが現れたり、自発痛や圧痛を感じることがあります。肥満により脂肪のボリュームが増えたことによる乳房の肥大は、偽性女性化乳房であり、真性女性化乳房とは区別されています。

真性女性化乳房は、両側もしくは片側の乳腺(にゅうせん)が一時的に増殖して、乳頭部や乳輪の下に腫瘍(しゅよう)のようなものが現れ、時に痛みを生じる症状をいいます。

このような男性の真性女性化乳房には、思春期や更年期の生理的なホルモンバランスの乱れによる一過性のもの、肝臓の機能障害による女性ホルモン(エストロゲン)の増加によるもの、内分泌疾患によるもの、薬剤の副作用によるもの、先天性もしくは遺伝性によるものがあります。また、原因がわからないものも多くあります。

思春期や更年期の生理的なホルモンバランスの乱れによる一過性の真性女性化乳房は、思春期の13~14歳、更年期から老年期の50~80歳に起こり、男性ホルモンと女性ホルモンのバランスが崩れるのが原因となって、乳腺が異常に増殖して乳房が肥大します。普通は、ほうっておけば自然によくなります。

肝臓の機能障害による女性ホルモンの増加による真性女性化乳房は、重い肝臓障害や肝硬変などを患っている男性に起こることがあります。男性ホルモンは精巣で作られ、血液中に入って全身に運ばれ、筋肉、骨、脂肪、皮膚などにたどり着き、その後一部は女性ホルモンに変わります。この女性ホルモンが骨を強くしたり、抜け毛を防いだりする役割をしています。

役割を終えた女性ホルモンは、その後肝臓に向かい、最終的には肝臓で分解されます。そのため、肝臓の機能に障害があると、女性ホルモンがうまく分解できなくなる結果、男性の乳房に女性ホルモンがたまって乳房が膨らむことがあります。

内分泌疾患による真性女性化乳房は、睾丸(こうがん)、下垂体、副腎(ふくじん)、甲状腺などの疾患に伴って起こることがあります。

薬剤の副作用による真性女性化乳房は、女性ホルモンに似た働きをする薬剤などを摂取したことによる副作用として起こりますが、理由ははっきりわかっていません。薬剤としては、女性ホルモン剤、前立腺(ぜんりつせん)疾患治療剤、男性型脱毛症治療剤、利尿剤、降圧利尿剤、血管拡張剤、降圧剤、強心剤、抗結核剤、抗潰瘍(かいよう)剤、抗アレルギー剤、抗けいれん剤、胃腸運動賦活剤、抗真菌剤、向精神剤などで起こっています。

先天性もしくは遺伝性による真性女性化乳房には、小児期より発症する遺伝性女性化乳房症(アロマターゼ過剰症)というものがあります。女性ホルモンの過剰分泌により、思春期より前ごろから症状が現れ始め、父親または兄弟に同様の症状がある場合には、この遺伝性女性化乳房症が疑われます。大きな症状としては、乳房の肥大を繰り返したり、低身長、性欲の減退などがあります。この疾患は、女性にも発症することがあり、症状は巨大乳房症や不正出血になったりします。

男性の真性女性化乳房の多くは問題のないものですが、原因がはっきりしないものもあり、乳がんなどのほかの疾患と区別するためには、外科、乳腺外科を受診することが勧められます。また、女性のように乳房が大きくなることで、特に思春期で大きな悩み、心の負担になるような場合は、美容外科や美容皮膚科などを受診し、美容的な乳房の外科手術などを受けることも勧められます。

真性女性化乳房の検査と診断と治療

外科、乳腺外科の医師による診断では、原因がわからないものも多いため、問診を行って、合併症の有無や服薬の有無とその種類について聞きます。

続いて、触診と、乳がんと鑑別するための超音波(エコー)検査、マンモグラフィー(乳房X線検査)を行います。

触診した時の多くは、乳頭部や乳輪を中心とした境目の不明瞭な堅い塊として触れます。片側の乳房だけにしか認められない場合や、比較的境目が明瞭で弾力があって、硬く平らなしこりとして触れる場合もあります。

超音波(エコー)検査では、境界が不明瞭な低エコー像として見られることが多く、マンモグラフィー(乳房X線検査)では、乳頭部の下に広がる乳腺の肥大が腫瘍様の濃厚陰影として見られます。

確定診断のためには、穿刺(せんし)吸引細胞診、あるいは、針生検(せいけん)を可能な限り行います。

穿刺吸引細胞診は、専用の針をしこりに刺して一部の細胞を吸引して取り、顕微鏡で細胞の形などを調べる検査。体への負担が少ないのが利点ですが、しこりとして触れないような小さながんなどは、診断できないことも少なくありません。

針生検は、少し太めのコア針で局所麻酔をして、組織を取り出して調べる検査。体への負担が少ないのが利点ですが、病変が小さい場合は何度も刺す必要があったり、診断が付かないこともあります。

この際、初回の細胞診、組織診で悪性像がない場合でも、中~高年齢者では、一定期間は外来で経過観察を続けます。

外科、乳腺外科の医師による治療では、ホルモン異常などの疾患による真性女性化乳房の場合でも、原則的には経過観察のみで薬物療法などの治療は必要ありません。薬剤の副作用として現れている真性女性化乳房の場合、服用を一度中止したりして原因を調べ、さらには肝硬変などの重篤な肝機能障害などほかの疾患がないか精査します。

痛みがひどい時は、状況によって非ステロイド系の消炎鎮痛剤を使い、痛みを和らげます。遺伝性女性化乳房症(アロマターゼ過剰症)の場合、脂肪組織で女性ホルモン(エストロゲン)を作っている酵素であるアロマターゼの働きを妨げるアロマターゼ阻害剤が有効とされています。

副作用の原因になる薬剤を軽減しても症状が改善されない場合や、女性のように乳房が大きくなることで悩んでいる場合は、外科的手術を行い、肥大した乳腺の組織をほぼ全部、または一部切除します。

手術後、乳腺を切除した部分に空洞ができるため、血液がたまって血腫ができた場合は、ドレーンチューブを留置します。細菌が感染した場合は、抗生物質を投与したり、乳腺を切除した部分を洗浄したりしながら経過をみていきます。乳頭部や乳輪の血流障害や皮膚の壊死が起こった場合は、皮膚がゆっくり覆うのを待つ必要があります。

🇻🇪真性多血症

貧血とは逆に、血液中の赤血球が正常範囲を超えて増加する疾患

真性多血症とは、すべての血液細胞のもとになる造血幹細胞が腫瘍(しゅよう)化して発生し、血液中の赤血球が正常範囲を超えて増加する疾患。真性赤血球増加症とも呼ばれます。

この真性多血症は、慢性骨髄増殖性疾患というグループに属する血液腫瘍疾患の一つで、同じグループには慢性骨髄性白血病、特発性骨髄線維症、本態性血小板血症が属しています。

真性多血症の発症には、JAK2と呼ばれる遺伝子の異常がに深くかかわっていると考えられているものの、いわゆる遺伝性疾患ではなく子孫への影響はありません。慢性骨髄性白血病とは異なって、造血幹細胞を無制限に増殖させるようになるフィラデルフィア染色体の形成は認められません。

症状としては、全身の血管内を流れる赤血球の総数である循環赤血球量が増加すると血液の粘度が増加し、血流障害を起こすことから、顔面紅潮、目の結膜の充血のほか、疲れやすい、頭痛、めまい、耳鳴り、全身の皮膚のかゆみ、高血圧などがあり、皮下出血、寝汗、体重減少が現れる場合もあります。

場合によっては、一過性脳虚血発作、脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞、深部静脈血栓症などの血栓症を合併することもあります。脾臓(ひぞう)が大きくはれる脾腫(ひしゅ)があると、腹部の圧迫感、膨満感を生じます。消化性潰瘍(かいよう)を合併することが多いのも、特徴的です。

時には、全く自覚症状がなく、健康診断や病院を受診した際の血液検査の結果、発見されるケースもあります。

真性多血症の検査と診断と治療

内科、血液内科の医師による診断では、血液検査を行うと赤血球が著しく増加しているのが特徴的ですが、白血球および血小板も多くの場合で増加しています。血液中のビタミンB12の量は増加し、腎臓(じんぞう)で産生される造血ホルモンのエリスロポエチンの濃度は低下します。また、脾臓のはれをしばしば認めます。

特徴的な症状と検査所見がそろえば積極的に診断を確定できますが、実際には除外診断によらねばならないことが少なくありません。つまり、まず循環赤血球量を測定して、脱水症になった場合に血液が濃縮して見掛け上、赤血球が増加する相対的多血症と鑑別し、次いで、エリスロポエチンが過剰に分泌されて赤血球が増加する二次性多血症の原因となる基礎的な疾患の有無を詳しく調べて、どれにも該当しなければ真性多血症の診断をすることになります。

内科、血液内科の医師による治療では、真性多血症のための自覚症状が強く、心臓血管系の疾患を合併する可能性がある時は、発症者の静脈から一定量の血液を体外に出す瀉血(しゃけつ)をします。瀉血をすれば症状は改善しますが、すぐに赤血球が増えて元に戻るため、ブスルファン(マブリン)、ハイドロキシウレア(ハイドレア)などの経口抗がん剤を使い、骨髄造血を抑制する措置を講じます。

これらの治療は検査値を見ながら行いますので、必ずしも長期間続けるわけではなく、断続的に繰り返すことがよくあります。

一部の真性多血症では、骨髄が硬くなる骨髄線維化へと変化することがあり、貧血や血小板の減少がみられますので、輸血療法を行うことがあります。

真性多血症は10〜20年と、慢性の経過をたどります。その間、医師の指示通りの療養に努めることが大切となります。治療を怠ると、すぐに赤血球数と血小板数が増加し、脳卒中や心筋梗塞、胃腸出血などを招いて、死に至ることも多くみられます。

日常生活上での注意としては、食事、運動、旅行などについての制限はほとんどありませんが、定期的に血液検査を受けることが必要です。ハイドロキシウレア(ハイドレア)を服用している時には、足の皮膚潰瘍などの副作用に注意します。

🇵🇦真性半陰陽

男性の精巣と女性の卵巣の両方を有する先天異常

真性半陰陽(はんいんよう)とは、男性の性腺(せいせん)である精巣(睾丸〔こうがん〕)と女性の性腺である卵巣の両方を有する先天異常。半陰陽の一種に相当します。

その半陰陽は、外性器の形態からでは男性か女性かが判断できない状態、あるいは外性器の形態と染色体によって決められる性とが異なっている状態。半陰半陽、インターセックス、両性具有などとも呼ばれます。また、この状態を有する人を半陰陽者、インターセクシュアル、両性具有者、あるいは、ふたなりと呼ぶこともあります。

胎児期の性の分化発達の過程で生じた単体奇形の一種で、その過程で細胞分裂がうまくいかなかったり、性を決定する遺伝子に異常が起こったりすると半陰陽が起こると考えられています。

半陰陽には、真性半陰陽のほか、仮性半陰陽などがあります。仮性半陰陽は、性腺は男女いずれか一方のみしかないものの、外性器の形が染色体による性別と逆になっている状態。染色体による性は男性なのに女性のような外性器を有する男性仮性半陰陽と、逆に染色体による性は女性なのに男性のような外性器を有する女性仮性半陰陽とがあります。

真性半陰陽は、半陰陽のうちでは最も高度な先天性の形態異常で、まれな疾患です。精巣と卵巣が別々に存在するものと、一つの性腺内に精巣と卵巣の両方の組織が共存するもの(卵精巣)とがあります。外性器は女性的なことも、男性的なこともあり、そのいずれとも決定しにくいこともあります。真性半陰陽の染色体は、46XXの女性型が約60パーセントを占めます。

思春期になると、精巣と卵巣からホルモンが分泌されるため、二次性徴の異常が現れてきます。男児として育てられてきた人では、女性ホルモンが卵巣から分泌されるために、生理が始まったり、乳房が大きくなったりします。女児として育てられてきた人では、精巣から分泌される男性ホルモンの作用で、ひげが生えたり、声変わりしたりします。

真性半陰陽の多くは、出生直後に医師や看護師によって発見されます。すでに外性器の形態を見ても男女の判別ができない場合には、性別の決定に染色体や性染色体の検査が必要となることがあります。

新生児では、染色体上の性と社会生活上の性とを一致させないほうがよい場合、つまり染色体は男性型であっても女性としたほうが自然な社会生活を送れるであろうと考えられる場合もあるので、子供の性の決定に関しては、外性器や内性器の有無を参考に医師と両親がよく話し合って行います。

出生時に発見することが望ましいのですが、思春期や成人後に真性半陰陽が発見されることもあります。幼児期から早くも第二次性徴が起こった早発思春期の場合、あるいは思春期になって女児のはずなのに初経(初潮)がなかったり、陰核の肥大や多毛などの男性化が起こってくる場合、反対に男児のはずなのに乳房の肥大が認められるなどの場合には、できるだけ早く小児科、あるいは内科、内分泌代謝内科などの専門医の診断を受けるようにします。

真性半陰陽の検査と診断と治療

小児科、内科、内分泌代謝内科の医師による真性半陰陽の診断では、染色体検査や、ホルモン測定などの検査を行います。最終的には、試験開腹をし、性腺の生検をして精巣、卵巣の両方があることを確認します。

この真性半陰陽の治療で最も大事なことは、育てていく性を決めることです。一般的には、染色体や精巣、卵巣によって将来の性を決めるより、現在の外性器の状態、将来の生活、本人の希望や心理状態をも考慮して、男性か女性かを決めます。性腺は、選択した性に従って男性は精巣を、女性は卵巣を残します。精巣と卵巣が共存する卵精巣は、性のいかんによらず切除します。

真性半陰陽の子供は陰茎も腟(ちつ)も未熟なことが多いので、男性として生きていく決定をした場合には陰茎形成術を、女性として生きていく決定をした場合には腟形成術を行います。また、選択した性に応じた性ホルモンの補充療法も必要に応じて行います。

🇸🇦水晶体嚢性緑内障

高齢者に多くみられる続発性緑内障の一つ

水晶体嚢性(のうせい)緑内障とは、偽落屑(ぎらくせつ)症候群の目であることが原因となって、眼圧が上昇するタイプの続発性緑内障。眼圧が上昇することによって視神経が侵され、視野が狭くなったり欠けたりします。

偽落屑症候群は70歳以上に約5パーセントみられ、その約半数に水晶体嚢性緑内障がみられます。偽落屑症候群は、片目ないし両目の水晶体の前嚢、虹彩(こうさい)、隅角(ぐうかく)などに、フケのような白い物質である偽落屑が粉状から膜状に沈着している状態で、この偽落屑が線維柱帯という、眼内液である房水(ぼうすい)の排出路に詰まることで、房水が流出しにくくなって眼圧が上昇します。偽落屑の本体は、不明です。

偽落屑症候群の眼球では、瞳孔(どうこう)の縁が白く見え、そうでない眼球よりも緑内障、白内障になりやすい性質があります。また、水晶体を回りから支えているチン小帯という多数の細い線維が弱くなることが多く、白内障手術の際にチン小帯断裂という合併症を起こしやすくなります。

水晶体嚢性緑内障の検査と診断と治療

偽落屑症候群だけでは何の自覚症状もなく視力も視野も正常ですので、他の疾患でたまたま眼科を受診した時や、人間ドックの眼科検診で発見されます。偽落屑症候群といわれても治療の必要はありませんが、眼科医の指示通りに定期検査を受け、水晶体嚢性緑内障の合併を早期に発見することが大切です。

眼科の医師による水晶体嚢性緑内障の検査では、30〜40mmHgの高めの眼圧上昇と、水晶体、虹彩、隅角などにフケ状の偽落屑が沈着しているのを認めます。

治療としては、眼圧を下降させるために薬物療法、レーザー治療、手術療法を適宜行います。薬剤としては、局所に投与する点眼剤(縮瞳剤)や全身に作用する炭素脱水酵素阻害剤やグリセリンを用い、房水圧の抑制によって眼圧を下げます。

主に点眼剤でコントロールできなくなった水晶体嚢性緑内障に対しては、レーザー治療のレーザー線維柱帯形成術が行われ、隅角の先にある線維柱帯にアルゴンレーザーを照射し、熱凝固により房水流出抵抗を減少させ、眼圧下降を図ります。

🇸🇦水腎(すいじん)症

尿が腎杯や腎盂内にたまり、膨らむ疾患

水腎(すいじん)症とは、結石、尿管狭窄(きょうさく)など尿路の通過障害があるために、尿が腎杯や腎盂(じんう)内にたまり、膨らむ疾患。

大きくなると腎臓の実質が圧迫され、腎臓機能が低下します。両側性のものでは尿毒症になります。

軽いものは症状がありませんが、大きくなると腎臓部や腰部が痛み、吐き気、嘔吐(おうと)、食欲不振が起こります。

水腎症の検査と診断と治療

超音波診断装置が普及した今日では、容易に水腎症の診断ができます。治療としては、原因となっている尿路の通過障害を早く除去します。高度のものや感染のあるものは、腎臓を摘出することもあります。

🇸🇦膵臓がん

胃の後ろに位置する膵臓に発生する、予後不良のがん

膵臓(すいぞう)がんとは、胃の後ろに位置する消化腺(せん)である膵臓に発生するがん。

膵臓は十二指腸とくっついていて、横に細長くなって脾臓(ひぞう)に接する臓器で、直径15センチ、重さ100グラムほどとサイズこそ小さいものの、外分泌と内分泌という2つのホルモン分泌を行う機能があります。

外分泌機能は、消化液である膵液を分泌して十二指腸へ送り込み、食物の消化、吸収を助けるもの。膵液には、炭水化物を分解するアミラーゼ、蛋白(たんぱく)質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼといった消化酵素が含まれています。

一方、インシュリン(インスリン)やグルカゴンなどのホルモンを分泌して、血糖値を調節するのが内分泌機能です。インシュリンは血糖値を下げ、グルカゴンは血糖値を高くします。

この膵臓を便宜上、ちょうど3等分して、十二指腸側に接する右側を頭部、中央を体部、脾臓に接する左側を尾部と呼びます。膵臓がんの3分の2以上は、膵頭部に発生します。

また、膵臓がんの90パーセント以上は、十二指腸への膵液の通り道である膵管から発生します。まれには、ホルモンを作るランゲルハンス島(膵島)から発生します。

この膵臓がんは、消化器がんの中で最も予後不良のがんで、近年増加傾向にあります。日本のがんにおける死因としては、平成14年の段階で男性では第5位、女性では第6位。50歳以上の男性に多い傾向にあり、60歳代にピークがあります。

予後不良の原因としては、後腹膜にある臓器であるために早期発見が困難であり、また極めて悪性度が高く、例えば2センチ以下の小さながんであっても、すぐに周囲の血管、胆管、神経への浸潤や、近くのリンパ節への転移、肝臓などへの遠隔転移を伴うことが多いからです。

原因は明らかではありませんが、喫煙、慢性膵炎、糖尿病との関係が報告されています。

食欲不振、体重減少、上腹部痛、腰痛、背部痛などの症状以外に、膵頭部がんでは、目や皮膚が黄色くなる閉塞(へいそく)性黄疸(おうだん)、無胆汁性の灰白色便が特徴のある症状です。

肝臓で作られた胆汁は、胆管を通って十二指腸へ排出されますが、胆管は膵頭部の中を走行するため、膵頭部にがんができると胆管を圧迫したり閉塞したりして、胆汁の通過障害を起こし、閉塞性黄疸が現れます。そこに細菌が感染すると発熱があります。

また、膵管も胆管と同様に閉塞して二次性膵炎を起こし、耐糖能異常すなわち糖尿病の悪化がみられることがあります。さらに進行すると、胃や十二指腸、小腸に浸潤すると、そこから出血して血を吐く吐血、便に血が混じる下血が起こります。胃の出口や、十二指腸が狭くなると食物の通過障害が生じることもあり、食べた物を戻したりします。

一方、膵体部や膵尾部に発生したがんは症状があまり現れず、腹痛が現れるまでにはかなり進行していることが少なくありません。

膵臓がんの検査と診断と治療

早期発見が何よりも大切なので、40歳以上で胃腸や胆道の病変がなく、上腹部のもたれや痛みがある人、体重が減少して腰痛、背部痛のある人、中年以後に糖尿病が現れた人や、糖尿病のコントロールが難しくなった人は、できるだけ早期にスクリーニング(振るい分け)検査を受けます。

従来の血液検査、超音波検査による検診では、有効なスクリーニング検査がなかったため膵蔵がんの検診は不可能でしたが、最新鋭のMDCTと呼ばれるCTを用いて検査をすれば、切除できるくらいの膵蔵がんの診断が可能になっています。

医師による血液検査では、閉塞性黄疸に伴う肝機能異常や、アミラーゼ値の異常、血糖異常が認められることが多くあります。腫瘍マーカーとしては、CA19—9、DUPAN2、SPAN1、CEAなどが高値を示します。しかし、がんがある程度のサイズになるまでは産生量が少ないため、それほど高値にはならず、いずれも早期診断にはあまり役立ちません。

スクリーニング検査としては、腹部超音波(エコー)、CT、内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)、内視鏡的超音波(EUS)、磁気共鳴画像(MRI、MRCP)、ポジトロン放射断層撮影(PET)などがあります。特に、閉塞性黄疸がある場合は、黄疸を減らす治療のために経皮経肝胆管ドレナージ(PTBD)、内視鏡的逆行性胆管ドレナージ(ERBD)をすることにより、診断も可能です。

区別すべき疾患としては、粘液産生膵腫瘍や、肝炎、胆石症、胆管炎、胆管腫瘍、十二指腸乳頭部がん、腫瘤(しゅりゅう)形成性慢性膵炎など黄疸の出現する疾患が挙げられます。

膵臓がんは難治性がんの代表で早期診断が難しく、外科的切除術以外は有効な治療法が確立されていません。膵頭部のがんは、膵頭十二指腸切除術が行われ、膵臓の半分、胃の半分、十二指腸の3分の2、胆嚢(たんのう)、胆管を切除します。膵体部、膵尾部のがんは、膵臓の半分を切除する膵体尾部切除術と脾臓摘出術が行われます。

発見された時に切除可能なのは40パーセント前後で、切除できても再発することが多く5年生存率は数パーセント程度です。

黄疸の治療には、肝臓から胆管にチューブを通して胆汁を体の外に逃がす必要があります。あるいは、内視鏡的に狭くなった胆管にチューブを留置します。十二指腸が狭くなって食べ物が通らなくなった時には、バイパス手術を行うか、内視鏡を用いて金属のチューブを狭くなった部位に入れて拡張します。

がんの切除が不能な場合、放射線療法と抗がん剤による化学療法が行われます。放射線療法はがんを小さくして痛みをとる効果がありますが、完全に治ることはありません。肝臓や腹膜への転移がなければ、放射線と抗がん剤との併用療法が効果的なことがあります。

2001年よりジェムザールという新しい抗がん剤が使用できるようになり、1年以上生存する発症者も増えてきています。肝臓に転移があれば、肝臓に直接抗がん剤を注入することもあります。

放射線療法や抗がん剤による化学療法では、副作用に注意しなければなりません。骨髄機能が抑制され、白血球や赤血球、血小板が減少したり、肝機能が悪化したり、下痢、発熱、食欲不振、吐き気などがよくみられる副作用で、治療の前には必ず血液検査や問診で副作用を確認する必要があります。

🇵🇰水痘(水ぼうそう)

全身に水膨れが現れ、かゆみを伴う感染症

水痘(水ぼうそう)とは、ヘルペスウイルスの一種の水痘・帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルスが原因で起こる疾患。全身に次々と小さな水膨れが現れ、かゆみ、発熱を伴います。

一般に冬から春にかけて、子供に流行する疾患で、時折、大流行することもあります。感染経路は、主に空気感染、飛沫(ひまつ)感染で、水疱液の接触感染もあります。ウイルスは強い感染力を持っているため、病院などでは同一フロアにいるだけで軽度の接触と見なします。

従って、水痘にかかった時には、水膨れが完全にかさぶたになるまで、幼稚園や学校、会社などは休まなければなりません。通常は1週間くらいで治り、免疫力が低下している場合には、重症化することがあります。

ほとんどの人が子供の時にかかりますが、最近では、小児期に感染する機会が減ってきていることから、大人になってから初めてかかる例も増えてきています。大人の水痘は、脳炎や肺炎の合併が多くて重症となることが多いので、注意が必要です。また、妊婦が出産直前に感染すると、生まれた新生児は重症水痘になりやすいため、緊急の処置が必要になります。

潜伏期間は11~21日で、発疹(はっしん)の現れる1日前から、軽い発熱、だるさ、食欲低下がみられます。症状の初めは、数個の発疹がみられるだけですが、その後数時間で、全身に円形の赤い発疹が現れ、すぐにエンドウ豆大の水膨れになります。水膨れは数日でかさぶたとなりますが、次々と新しく発疹が現れるので、新旧さまざまな発疹が混在してみられるのが特徴です。

発疹は胸の辺りや顔に多くみられるほか、頭髪部や外陰部、口の中の粘膜など、全身の至る所にみられます。発疹の数が少なく軽症な場合には、熱も38~39℃くらいで3~4日で解熱します。重症の場合には、39℃前後の熱が1週間ほど続くこともあります。

また、かゆみを伴うために引っかいてしまうと、細菌の二次感染を起こす危険性があります。水膨れが乾燥し、かさぶたになってから、2週間くらいでかさぶたはとれます。少し跡が残ることがあります。

一度かかると免疫ができるため、再び水痘にかかることはほとんどありません。しかし、水痘の原因である水痘・帯状疱疹ウイルスは、初感染した水痘が治った後も神経節に潜伏しています。そして、数十年後に、疲れがたまったり、体の抵抗力が落ちたりするなど、何らかのきっかけにより、潜んでいたウイルスが再び暴れ出すと症状が現れます。

この場合、水痘のように全身に水膨れが現れることはなく、神経に沿って帯状に水膨れが現れる帯状疱疹として発症します。

症状に合わせた治療法

水痘(水ぼうそう)は軽いものから重いものまであり、発症者によってさまざまな症状が現れるので、医師の判断の下に症状に合わせた治療を受けるようにしましょう。

水痘の典型例では多くの場合、その皮膚症状から容易に診断できます。非典型例でほかの病気との区別を要する場合や、早期に診断を確定する必要がある場合などには、水疱の底にある細胞を採取し、蛍光抗体法を用いて水痘・帯状疱疹ウイルス抗原を検出します。また、抗体検査を水痘の発症者に行えば、ウイルスの初感染であることが確認できます。

治療には対症療法しかありませんが、原因となるウイルスの増殖を抑える治療と、発熱、かゆみなどの症状を和らげる治療があります。

乳幼児期の水痘は軽症である場合が多いので、非ステロイド性解熱鎮痛薬、かゆみ止めの抗ヒスタミン薬やフェノール亜鉛華軟膏(なんこう)などが処方され、安静などによる対症的な治療が行われます。

年長児あるいは成人などでは、比較的に重症化することが多いので、抗ウイルス薬のアシクロビル、バラサイクロビルなどの内服を行います。

悪性腫瘍(しゅよう)やその他の疾患により免疫状態が低下している場合では、致死的になることがあるので、入院した上でアシクロビル、ビダラビンなどの点滴静脈注射が行われる場合があります。

水膨れが壊れたら、抗生剤入りの軟膏で二次感染を防ぎます。また、化膿(かのう)がなければ、ドレッシング材などで覆って湿潤環境を維持することで、皮膚に跡が残りにくくなる場合があります。

予防手段としては、水痘ワクチンが使用されます。水痘ワクチンは弱毒化生ワクチンであり、接種により80~90パーセント程度の発症阻止効果があります。発症した場合も症状は軽くてすみますし、ワクチンによる重い副作用もほとんど発生していません。

日常生活で注意すること

全身症状が軽くても、発疹がすべてかさぶたになって症状が治まるまで、安静にしていることが大切。熱が高い場合には、両脇(わき)を冷やすなどとともに、脱水状態にならないように水分を十分取るようにします。

水痘(水ぼうそう)はかゆみを伴うため、つい引っかいてしまいがちですが、水膨れをつぶすと、化膿したり、跡が残ることもあります。水膨れはつぶさないようにし、手などを清潔にして細菌感染を起こさないようにします。引っかいてしまわないように、爪(つめ)を丸く切ったり、手袋をするのもよいでしょう。

また、水痘・帯状疱疹ウイルスは伝染力が強いので、発疹が現れる1日前からかさぶたになるまでのおよそ1週間くらいは、他人に感染する可能性があります。くしゃみや咳(せき)、会話などによって飛び散ったウイルスが、気道から吸引されて移るため、水痘にかかったことのない人の近くに寄らないようにします。

特に、家族の中に水痘にかかったことのない人がいる場合には、感染する可能性が高く、家族から感染した場合は重症化することが多いので、注意が必要です。

熱がある時や新しい水膨れが増えている間は、入浴は控えます。ほとんどの水膨れがかさぶたになれば、これらを破らないように気を付けながら入浴してもよいでしょう。入浴した後には、皮膚から細菌が入らないように処置が必要なこともあるので、医師に相談して指示を受けましょう。

学校保健法による第2類学校伝染病に指定され、すべての発疹がかさぶたになるまでは、幼稚園や学校を休ませることになっていますので、それまでは子供が元気でも休まなければなりません。すべての発疹がかさぶたになれば、人に移すこともないので、集団の中に入っても大丈夫です。

通常、1週間程度で治りますが、もし4~5日を過ぎても発熱が続いたり、体がだるいなど具合が悪いような場合には、他の病気を合併している可能性がありますので、すぐに医師に相談しましょう。

🟥「H3」型インフルエンザの新たな変異ウイルス、国内でも確認

 海外で拡大している「H3」型インフルエンザの新たな変異ウイルスが国内でも確認されたことが、国立健康危機管理研究機構の解析でわかった。専門家は「免疫を持っている人が少なく、感染が広がりやすい可能性がある」として注意を呼び掛けている。  季節性インフルエンザとして流行する「H3」...