2022/08/15

🇻🇺中毒性表皮壊死症

重度の薬疹で、表皮の壊死や剥離など重篤な症状を伴う皮膚障害

中毒性表皮壊死(えし)症とは、重度の薬疹(やくしん)で、表皮の壊死や剥離(はくり)など重篤な症状を伴う皮膚障害。中毒性表皮壊死融解症、ライエル症候群、ライエル症候群型薬疹などとも呼ばれます。

この中毒性表皮壊死症は、その多くが医薬品によるものと考えられています。原因と推定される医薬品は、抗生物質、解熱消炎鎮痛薬、抗てんかん薬を始め、痛風治療薬、サルファ剤、消化性潰瘍(かいよう)薬、催眠鎮静薬、抗不安薬、精神神経用薬、緑内障治療薬、筋弛緩(しかん)薬、高血圧治療薬など広範囲に渡り、その他の医薬品によっても発生することが報告されています。また、総合感冒薬(風邪薬)のような市販の医薬品が原因となることもあります。

中毒性表皮壊死症の一部は、単純疱疹(ほうしん)ウイルス、肺炎マイコプラズマ、細菌、真菌などの種々のウイルスや細菌による感染症が原因となって発症します。原因不明な場合も、まれにあります。

38度以上の高熱とともに急激に発症し、全身が広範囲に渡って赤くなり、全身の10パーセント以上にやけどのような水膨れ、皮膚のはがれ、ただれなどが認められます。皮膚や口にできるぶつぶつ、目の充血、のどの痛み、排尿・排便時の痛みなどの症状を伴います。その症状が持続したり、急激に悪くなったりします。肝障害、腎(じん)障害、呼吸器障害、消化器障害などの合併症により、死に至ることもあります。

発生頻度は、人口100万人当たり年間0・4〜1・2人。発症メカニズムについては、医薬品などにより生じた免疫・アレルギー反応によるものと考えられていますが、さまざまな説が唱えられており、いまだ統一された見解は得られていません。

なお、スティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群)と中毒性表皮壊死症は一連の病態と考えられ、中毒性表皮壊死症の症例の多くがステ ィーブンス・ジョンソン症候群の進展型と考えられています。

原因と考えられる医薬品の服用後2週間以内に発症することが多く、数日以内あるいは1カ月以上たってから起こることもあります。

その症状が持続したり、急激に悪くなったりした場合、何らかの医薬品を服用している人は放置せずに、すぐに医師、薬剤師に連絡して下さい。その際には、服用した医薬品の種類、服用からどのくらいたっているのかなどを伝えて下さい。

中毒性表皮壊死症の診断と治療は、皮膚科の入院施設のある病院で行うことが望ましいとされています。入院に至った際は、皮膚科と眼科、呼吸器科などとのチーム医療が行われることになります。

中毒性表皮壊死症の検査と診断と治療

皮膚科の医師による診断では、皮膚生検で確定診断を早急に行い、血液検査、呼吸機能検査なども行います。剥離した皮膚を組織学的に検討すれば、壊死に陥った表皮が認められ、これが確定診断に役立つ特徴となります。また、原因と推定される医薬品や、ウイルスや細菌の感染などを検索します。

医薬品の服用後に高熱を伴う皮膚、粘膜、目の症状を認めたケースでは、原因と推定される医薬品の服用を直ちに中止することが最も重要で、最良の治療法となります。しかし、服用を中止しても重症化する場合があるので、注意が必要です。

一般に、中毒性表皮壊死症を発症した場合、副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤(ステロイド剤)の全身投与、あるいは血漿(けっしょう)交換療法、ビタミン類の投与、さらに二次感染予防の目的で抗生物質の投与が行われます。皮膚の症状に対しては、熱傷と同様の治療を行い、外用抗生物質、外用副腎皮質ホルモン剤が用いられます。粘膜の症状に対しては、うがい、洗眼など開口部の処置が行われます。

🇸🇧肘内障

乳幼児期、特に2〜6歳に起こりやすい肘の亜脱臼

肘内障(ちゅうないしょう)とは、乳幼児期に起こりやすい肘(ひじ)の亜脱臼(あだっきゅう)。橈骨頭(とうこつとう)亜脱臼とも呼ばれます。

7歳ぐらいまでの子供の肘の関節は、構成する橈骨という骨の関節端の形状が不完全な形をしており、橈骨を支えている橈骨輪状靱帯 (じんたい)から逸脱しやすくなっています。

そのため、誰(だれ)かに不意に手や腕を引っ張られたり、腕をひねられたりすると、簡単に肘が亜脱臼を起こしてしまいます。また、自ら転倒して手を突いた際に、亜脱臼することもあります。場合によっては、寝返りの動作で腕がねじれた際に、亜脱臼することもあります。

肘の外側には2つの小さな骨の出っ張りがあり、この2つの出っ張りは肘を伸ばした状態で直列しており、間に関節の透き間のへこみがあります。上腕側の出っ張りは、上腕骨の外顆(がいか)という骨の出っ張りです。前腕側の出っ張りが、前腕の骨のうちの1本である橈骨の骨頭になります。

また、肘の関節全体は、関節包という靱帯状の線維で覆われており、さらにその上に内側側副(ないそくそくふく)靱帯、外側側副(がいそくそくふく)靱帯、そして橈骨輪状靱帯などが補強しています。

一般的に完全脱臼は、関節包を突き破り関節包の外へ骨の関節端が逸脱しますが、肘内障では関節包を損傷することなく、その上を補強する橈骨輪状靱帯の支えから、橈骨の関節端が関節包内で少しずれた不完全な脱臼状態、すなわち亜脱臼(不全脱臼)となります。従って、脱臼の中では比較的損傷程度の少ない軽度のものといえます。

肘内障は乳児、幼児、小児にみられ、特に2〜6歳に多く起こり、男女の性差、左右差はありません。

一度、肘内障を起こすと癖になりやすいものの、小学生ぐらいになると橈骨の形状が成人の形に近くなり、橈骨頭が大きくなって関節の透き間のへこみができ上がるので、亜脱臼しにくくなります。

肘内障を起こした腕は、急に肘が抜けたようになって、肘が伸びた状態で下垂し、曲げられなくなります。手のひらは、後ろに向いています。肘を軽く上に曲げようとすると痛みが強くなり、子供は泣き出したり顔をしかめたりします。外見上、関節のはれや変形、熱感、発赤はみられません。

痛みは、肘の外側の橈骨頭を中心に起こり、時には手首や肩などに放散痛を起こすこともあります。このため、肩や手首が外れたなどと見なされることもあります。

肩の脱臼と間違えやすいですが、子供の肩を触っても痛がらなければ肘内障と見なして、すぐに整形外科、小児科を受診することが勧められます。

肘内障の検査と診断と治療

整形外科、小児科の医師による診断では、受傷時の状況と、肘をやや曲げた状態で下げたままにして、痛がって動かそうとしないことから、肘内障を疑います。子供は痛みのために恐怖心を持っているので、痛がらない部分から触れ始め、肘の外側の橈骨頭が痛い部分なのかどうかを調べます。

X線(レントゲン)検査を行っても写真上では変化を認めませんが、骨折や脱臼との鑑別のために行って、骨や関節に異常がないことを確認することもあります。

整形外科、小児科の医師による治療では、骨折や脱臼の可能性がなく肘内障が疑われた時は、徒手整復を行います。

徒手整復の操作は簡単で、子供の肘を真っすぐに伸ばし、片方の手で肘を押さえ、もう一方の手で手のひらを握ります。最初、手のひらは下に向けます。肘を固定したままで、ゆっくり肘を曲げながら、手のひらを上に返します。橈骨頭が橈骨輪状靱帯の支えに戻ると、弾発音(コキッ、コツン、カクンなどの小さな音)を伴って整復され、その瞬間から痛みが消え、肘を曲げて腕を動かせるようになります。

ただし、整復されてから4~5日の間は最も亜脱臼を繰り返しやすいので、手を引っ張るなどの外力を加えないように注意することが必要です。また、習慣性の場合は、4~5日間の包帯もしくはサポーター固定をするのも効果があります。

🇸🇧肘部管症候群

肘の皮膚表面近くを通る尺骨神経が圧迫されて起こる障害

肘部管(ちゅうぶかん)症候群とは、肘(ひじ)の内側の皮膚表面近くを通る尺骨(しゃくこつ)神経が圧迫されて起こる障害。

腕に走る大きな神経の1つである尺骨神経は、肘の内側にある内側上顆(ないそくじょうか)という骨の出っ張りの後ろを通り、その先にある骨と靭帯(じんたい)などで形成された肘部管という狭いトンネルをくぐって、手に伸びていきます。トンネル内は狭くゆとりがないため、慢性的な圧迫や引き延ばしが加わると、容易に尺骨神経まひが発生します。

肘部管症候群の原因は、現在では変形性肘関節症による肘関節の変形がその多くを占めています。変形性肘関節症は肘をよく使う人に発症しやすいことから、肘部管症候群は30歳以上の男性に多くみられます。一般に、利き手側に起こり、両手に同時に発症することはめったにありません。

尺骨神経は肘の皮膚表面近くを通っていて、何度も肘をついたり、長時間に渡って肘を曲げたままでいたりして、簡単に障害されます。野球のピッチャーは、スライダーを投げる際に腕を過剰にひねるため、肘部管症候群になりやすい傾向があります。

そのほか、肘関節部の骨折、肘部管を構成する骨が隆起した骨棘(こつきょく)、靭帯の肥厚、肘部管内外にできたガングリオン(結節腫〔しゅ〕)、外傷などから起こる場合もあります。 小児期の骨折によって生じた外反肘(がいはんちゅう)という、肘を伸展させると過剰に外側に反る変形によって、神経が引き延ばされて起こる場合もあります。

尺骨神経の働きは、手首の屈曲、小指と薬指の屈曲、親指を人差し指の根元にピッタリつける内転、親指以外の4本の指を外に開く外転、4本の指を互いにくっつける内転です。 知覚神経は、小指、薬指の小指側半分、手のひらの小指側半分を支配します。

尺骨神経が圧迫されたり引き伸ばされると、ほとんどの場合、最初は小指と薬指の小指側半分のしびれや痛み、感覚障害が起こってきます。また、尺骨神経は手のひら側と甲側の両方を支配しているので、指全体がしびれるのが特徴です。寝て起きた際にしびれていることが、しばしばあります。肘周辺のだるさ、前腕内側の痛みやしびれが出現することもあります。

尺骨神経の障害が進むと、親指の付け根の母指球筋以外の手内筋が委縮して、やせてきます。特に、手の骨と骨との間の筋肉がやせるので、指を開いたり閉じたりする力が弱くなったり、親指の内転困難によって親指と人指し指で物をつまむ力が弱くなったり、はしが使いづらくなったりなど、細かい動きがうまくできない巧緻(こうち)運動障害が生じます。顔を洗うために手で水をすくったりする動作も、難しくなってきます。

そのほか、手の筋肉が固まって指が曲がったままになる鉤爪(かぎづめ)変形(鷲手〔わして〕変形)と呼ばれる独特の現象が起こることもあります。

小指や薬指にしびれや痛みがあり、肘の内側にある内側上顆の後ろをたたくとしびれや痛みが走ったら、整形外科を受診して下さい。一般に、症状が軽いほど、早い回復が見込めます。手指の筋肉にやせ細りがあれば、急を要します。

肘部管症候群の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、損傷した神経の位置の特定するために、神経伝導試験を行います。親指の付け根の母指球筋以外の手内筋の筋委縮や鉤爪変形、両手の親指と人差し指で紙をつまみ、医師が紙を引く時に親指の第1関節が曲がるフローマンサインがあれば、診断がつきます。

感覚の障害がある時は、皮膚の感覚障害が尺骨神経の支配に一致していて、チネルサインがあれば、傷害部位が確定できます。チネルサインとは、破損した末梢(まっしょう)神経を確かめる検査で、障害部分をたたくと障害部位の支配領域に放散痛が生じます。

確定診断には、筋電図検査、X線(レントゲン)検査、MRI検査、超音波検査など必要に応じて行われます。X線検査では、変形性肘関節症や骨折の経験などがわかりますし、肘を曲げた姿勢でX線検査を行うと、肘部管の狭窄(きょうさく)などもわかります。

首の病気による神経の圧迫や、糖尿病性神経障害などとの鑑別が必要で、問診で首の痛みや肩凝りがあるかなどを聞くこともあります。

整形外科の医師による治療は通常、筋肉の硬直を防ぐために理学療法で治療します。超音波治療、電気治療、ストレッチング、アイスマッサージ、アイシングを主に行い、夜間に肘が過度に曲がるのを避けるために添え木で固定したり、肘の負担を避ける肘用のパッドを着用したりします。

肘の圧迫や長時間の肘の屈曲など、明らかな誘因がある場合には、生活習慣の改善と局所の安静で軽快することが多い傾向にあります。ビタミン剤の内服も有効と考えられます。

筋委縮を起こしている場合や、肘関節部の骨折やガングリオンなどよって肘関節に変形を起こしている場合では、手術が必要になります。手術方法には、ガングリオンの切除、腱弓(けんきゅう、オズボーンバンド)の切開、内側上顆の切除、神経の前方移行術などがあります。

腱弓の切開は、尺骨神経を圧迫している膜状の組織を切る手術です。ほかの手術に比べて簡単ですが、再発する場合があります。手術後は、1週間ほど肘を固定します。

内側上顆の切除は、肘を曲げた時に内側上額で尺骨神経が引っ張られ、圧迫されないように、内側上顆を切除します。再発も少なく、肘部管症候群の手術としては、日本では最もよく行われています。手術後は、1週間程度の肘の固定が必要です。

神経の前方移行術は、尺骨神経を内側上顆の後ろから前側に移す手術です。手術方法には、前側の皮膚の下に神経を移す皮下前方移行術と、指を握る筋肉の下に移す筋層下前方移行術があります。皮下前方移行術では3週間程度、筋層下前方移行術では1カ月程度、それぞれ肘を固定します。

手術後は、神経の回復を促すために、ビタミンB12剤を服用したり、低周波療法などを行うこともあります。回復の早さは、神経の障害の程度によって異なります。

🇸🇧腸炎ビブリオ食中毒

腸炎ビブリオに汚染された魚介類を食べることで発生

腸炎ビブリオ食中毒とは、腸炎ビブリオに汚染された魚介類、あるいはその加工品を食べることが原因となって発生する食中毒。特に夏期に多くみられます。

日本で起きる食中毒の原因菌の中で、腸炎ビブリオは常に上位の地位を占めています。約3パーセントの塩分を好む細菌で、生息しているのは沿岸の海水中。海水温が低い冬場は海底の砂や泥の中にいますが、海水温が15℃を超えると海水中に出てきて増殖します。

その腸炎ビブリオの多くは人に食中毒を起こしませんが、TDH/TRHと呼ばれる病原因子産生能を持つごく一部の菌が魚介類に付いて、調理場まで運ばれてきた場合に、食中毒を起こすことになります。 発育の適温である35~38℃では他の細菌に比べて増殖が速く、食品から調理器具類、調理器具類から食品といった具合に、二次汚染により次々と広がってゆきます。その多くは、刺身など生の魚介類が原因となっています。

原因食を食べてから5〜24時間、平均10時間前後の潜伏期間を経て発症します。初めは上腹部の不快感とともに上腹部の痛みを覚え、次いで吐き気、嘔吐(おうと)、下痢を伴います。下痢は水様便のことが多く、しばしば粘血が混じる場合があります。また、この時期に37〜38度の発熱をみることが少なくありません。

一般には、経過は順調で、症状は24時間後には軽快し、大部分は3日以内に治まります。

ただし、潜伏期間や現れる症状は、摂取した菌の量や発症者の健康状態、年齢によって変化します。幼児ではわずかな菌量でも発症し、場合によっては激しい下痢、強い腹痛、血便などの重い症状を示すこともあります。

下痢、嘔吐などの回数が多くなると、特に幼児や高齢者では、脱水症状が強くなることがしばしばあります。脱水症状とは、体内の水分が不足するために全身のバランスが崩れ、心臓などの循環器、腎臓(じんぞう)、肝臓の働きが悪くなることで、ひどくなったまま放置すればショック状態となり、死に至ることもあります。

腸炎ビブリオ食中毒の検査と診断と治療

腸炎ビブリオ食中毒の症状が生じ、疑わしい食事に心当たりがあったら、医療機関を受診するのが原則です。下痢、嘔吐、発熱はいずれも体の水分を失うことになるので、市販のスポーツ飲料などで水分の補給を心掛け、脱水症に陥るのを防ぎます。体力のない幼児や高齢者では、間違って嘔吐物を気管に吸い込む誤嚥(ごえん)にも注意します。

医師は急性の中毒症状から感染を疑いますが、腸炎ビブリオ食中毒と確定するには、実際に糞便(ふんべん)などから原因となっている菌を分離することが必要です。時には、分離された菌がTDH/TRHの産生能を持っているかどうかを調べます。

感染初期や軽症の場合は、ブドウ糖液やリンゲル液などの電解質液の点滴、吐き気や嘔吐を止める鎮吐剤の投与、あるいは整腸剤の投与による対症療法を行います。重症化した場合は、抗菌剤の投与による治療を行います。抗菌剤は原因菌に有効な種類を使用することが原則ですが、原因菌の分離には24〜48時間かかるので、急を要する場合には症状、原因食、季節、年齢などから推定して治療を始めます。

ほとんどの場合は点滴や抗菌剤などで、数日で快方に向かいますが、まれに幼児や高齢者、あるいは胃切除の手術を受けた人では死亡することもあるので、十分な注意が必要です。

腸炎ビブリオの弱点は熱、真水、低温ですので、食中毒を予防するためには以下のことを心掛けます。

1、60℃15分の加熱で菌は死滅するため、調理の際、加熱を十分に行います。 2、菌は真水に弱いため、魚介類は水道水でよく洗います。 3、菌は5℃以下では増殖しないため、低温で食品を保管して菌の増殖を抑えます。 4、魚介類を調理したまな板などからの二次的な汚染を防ぐため、調理器具類は使用後に十分な洗浄、殺菌を行い、乾燥させます。

🇵🇬腸管癒着症

腸管に癒着が起こり、便通異常などが生じる疾患

腸管癒着症とは、腸管に炎症が起こって外傷や損傷ができ、その傷が治る過程で腸管が癒着し、腸の通過能力に支障が出てしまう疾患。

腸管と腸管において癒着が起こったり、腸管と腹膜などの隣接組織で癒着が起こったりします。癒着の原因となる外傷や損傷の元となるのは、外科手術によるものが最も多く、虫垂炎、胃潰瘍(かいよう)、十二指腸潰瘍、胃がん、胆石などの手術で発生することがあります。虫垂炎を手術せずに治療した場合、いわゆる散らし場合でも虫垂周囲に癒着が起こることもあります。女性では、帝王切開や子宮筋腫(きんしゅ)などの外科手術によっても、癒着が起こることがあります。

腸管癒着症では、便通異常のほか腹痛、腹鳴、腹部膨満感、食欲不振、吐き気、不眠、倦怠(けんたい)感などの症状が現れます。腹痛の程度は激しい腹痛から鈍痛までさまざまで、最も激しいものは腸閉塞(へいそく)によって生じます。腸が完全に詰まらないまでも、癒着した部分で腸が引っ張られたり、腸の内容物の流れが滞ったり、腸の内容物を肛門(こうもん)側へ送る蠕動(ぜんどう)運動がうまく伝達されなかったりして、腹痛が生じます。

自律神経の問題に影響が出る場合は、癒着が原因ではなく、手術による精神的なストレスが元となっています。

外科手術を行った後は、傷の自然治癒力によって症状が軽減されていきます。通常は特に治療を受ける必要はなく、症状を和らげるために、腸に刺激を与えない消化のよい食事を心掛けたり、便秘をしないように気を付けることで対処します。

しかし、症状が突然悪化した場合は、まず腸閉塞が疑われ、癒着がひどい場合は再手術が必要になることもあります。

腸管癒着症の検査と診断と治療

腹痛、便通異常などの症状のある時は、一度は医療機関を受診し、原因が何かを検査します。とりわけ、腹部の外科手術をしたことがない人に腹痛などが現れた場合は、受診して検査するべきです。

医師による診断は、発症者の自覚症状から行います。CTや超音波検査で、腸管癒着の程度や場所がわかることもあるものの、詳細までは判断できません。腸管癒着症と同様に軽い腹痛や腹部の違和感で発症する疾患として、胃がん、大腸がん、肝臓疾患などの重い疾患もあるため、それらと鑑別する検査が必要なこともあります。

特殊な治療はなく、食事内容を工夫したり、便秘に気を付けたり、適度な運動を心掛けるなど生活習慣上の注意が中心になります。便秘時に症状が強い時には、消化剤や下剤、場合によって漢方薬を処方することもあります。

激しい腹痛など症状がひどい時には、早急な開腹手術が必要になることもあります。しかし、特に癒着性の腸閉塞では、何回も開腹するとかえって癒着が強くなり、再発の原因になりかねませんので、診断を確実にして、手術をするかしないかを慎重に決めます。

🇵🇬腸脛靱帯炎

ランニングなどによって膝関節周辺の腸脛靱帯が炎症を起こす状態

腸脛靱帯(ちょうけいじんたい)炎とは、不整地や下り坂でのランニングなどにより、膝(ひざ)関節周辺の腸脛靱帯に炎症が生じる状態。ランナー膝とも呼ばれます。

腸脛靱帯は、股(こ)関節の外側から膝の外側に通って脛骨外側に付着している長い靱帯であり、股関節を外転したり、太腿(ふともも)を持ち上げたり、下腿(かたい)を外旋する働きを持っています。膝の屈伸運動を繰り返すことによって、この腸脛靱帯が大腿骨外顆(がいか)と接触して、摩擦を繰り返すために炎症を起こし、疼痛(とうつう)が発生するのが、ランナー膝です。

特にマラソンなどの長距離ランナーに好発するほかに、バスケットボール、水泳、自転車、スキー、エアロビクス、バレエなどを行う人にも起こります。

一般には、オーバーユース(使いすぎ)が主な原因となって発生するといわれています。そのほか、過剰なランニング時間と距離、ランニング中の急激なスピードの変化、ウォームアップ不足による柔軟性不足、筋力低下、内反膝(O脚)や回内足による腸脛靭帯の緊張、クッションの悪いシューズや擦り減ったシューズの使用、不整地、硬い路面、下り坂でのランニングなど、さまざまな要因が加味されて発生します。

症状としては、膝の外側に緊張、違和感を感じ、その症状が徐々に灼熱(しゃくねつ)感に変わり、大腿骨外顆周辺に限って疼痛が生じます。腸脛靱帯は明らかに緊張が増し、時に靱帯に沿って疼痛が放散します。初期はランニング後に疼痛が発生し、休むと消失します。しかし、ランニングを続けていると次第に疼痛は増強して、簡単に消失しなくなってきます。

ひどくなると歩く際にも疼痛が生じ、特に階段を下りる時に増します。重症な場合、痛み部分の摩擦を軽減するために、膝を伸ばしたままで歩行するようになります。

2週間以内に症状の改善がみられない場合は、整形外科、スポーツ整形外科の医師、またはスポーツトレーナーに相談して下さい。

腸脛靱帯炎の検査と診断と治療

整形外科、スポーツ整形外科の医師による診断では、症状や問診で腸脛靱帯炎(ランナー膝)と確定できます。疼痛が誘発されるグラスピングテストも有用で、膝を90度屈曲して大腿骨外顆部で腸脛靱帯を押さえてから膝を伸展していくと、痛くなります。外側半月板損傷との鑑別が必要となり、MRI検査を行うこともあります。

整形外科、スポーツ整形外科の医師による治療は、手術をしない保存療法が原則です。第1に患部の安静、つまり、ランニングの休止が大切です。次に、患部のアイシング(冷却)を徹底します。さらに、消炎鎮痛剤の内服や、貼付(ちょうふ)剤の使用、超音波・低周波・マイクロ波などの電気刺激療法、針治療、マッサージを行うこともあります。

難治な症例では、手術をすることもありますが、一般的ではありません。

いったん症状が出現すると、簡単には疼痛が消失しないので、初期の適切な安静、休養はとりわけ大切となります。痛みを無理に抑えて練習を続けるよりも、完全に休養して患部の安静を図って炎症の回復を待つほうが、痛みが少なくなる期間が短縮される可能性が高くなります。マラソン本番が近く、どうしても出場したい場合には、患部に局所麻酔剤を注射して痛みを和らげる方法もありますが、決して勧めることができるものではありません。

予防法としては、ランニング前後に股関節外側部を主としたストレッチ、アイシングを念入りにすることが大切です。ストレッチでは、腸脛靱帯の付着部のみではなく、臀部(でんぶ)や太腿、下腿の筋肉までゆっくりと伸ばすことです。

シューズのかかとの減り具合をチェックし、極端に内側や外側が減っている場合には、足底板などのインソールやテーピングも必要です。再発を繰り返す場合や内反膝(O脚)の強い場合は、腸脛靭帯に負担がかからないように、足底板をインソールしてシューズの外側を高くします。シューズは、クッションのよいものを選びます。

ランニングフォームを矯正して、ランニング中の着地時につま先が内側を向かないようにすることも大切です。ランニングコースの検討も必要で、硬い路面の走行をなるべく避け、傾斜のある路面の走りすぎも避けることです。

その点で、側道を決まった方向(側)で走行しないことも必要で、側道は水はけのため道路中央よりも低くなっているため、道路端の腸脛靱帯に負担がかかるためです。また、トラック競技場を決まった方向(側)で走行しないことも必要で、トラック競技場は反時計回りのため、右足外側に遠心力がかかり腸脛靱帯が引っ張られるためです。同一側の膝の負担を軽くする目的で、たまには普段と反対回りのトラック走行なども取り入れて下さい。

スポーツ整形外科の医師に治療を含めたアドバイスを受けたり、スポーツトレーナーにランニングメニュー作成やストレッチなどの相談をしたり、シューズアドバイザーにウオーミングアップ用や本番に使用するシューズ選びを相談したりするのも有用です。

🇵🇬多発性過誤腫症候群

消化管に大量のポリープができるとともに、皮膚病変が伴う遺伝性の疾患

多発性過誤腫(かごしゅ)症候群とは、消化管に過誤腫性ポリポーシスという過剰に発育した良性腫瘍(しゅよう)が多数できるとともに、皮膚の病変が伴う遺伝性の疾患。コーデン病、コーデン症候群、カウデン病、カウデン症候群とも呼ばれます。

2分の1の確率で親から子に常染色体優性遺伝し、PTEN遺伝子と呼ばれている10番染色体にある遺伝子の異常が原因で起こります。しかし、遺伝性が認められずに起こることもあります。

消化管のポリープは、食道から大腸までのすべての消化管に、大きさ数ミリまでのものが多数できます。皮膚の病変には通常、顔面や首の多発性丘疹(きゅうしん)、四肢末端の角化性小丘疹、口腔(こうくう)粘膜の乳頭腫があり、20歳代後半までに出現します。

消化管のポリープ自体が問題になることはあまりないものの、ほかの臓器の乳房、甲状腺(せん)、子宮内膜、腎臓(じんぞう)、前立腺、肺などに良性腫瘍ないし悪性腫瘍を合併します。とりわけ、乳房、甲状腺、子宮内膜には、悪性腫瘍を高率で合併します。

そのほか、小脳にレルミット・デュクロス病(小脳異形成神経節細胞腫)と呼ばれる腫瘍を合併したり、巨頭症、精神発達遅滞を合併することもあります。

多発性過誤腫症候群の検査と診断と治療

消化器科、消化器外科などの医師による診断では、皮膚の病変に、消化管のポリープを伴えば、ほぼ確定します。遺伝子検査を行うこともあります。

消化器科、消化器外科などの医師による治療では、確立した治療法がないため、対症療法を行います。その後は、全身の臓器にわたってがんが高率に合併することを予測して、乳がんの検診や甲状腺の超音波検査など定期的な検査を行っていきます。

🟥「H3」型インフルエンザの新たな変異ウイルス、国内でも確認

 海外で拡大している「H3」型インフルエンザの新たな変異ウイルスが国内でも確認されたことが、国立健康危機管理研究機構の解析でわかった。専門家は「免疫を持っている人が少なく、感染が広がりやすい可能性がある」として注意を呼び掛けている。  季節性インフルエンザとして流行する「H3」...