アメリカのフロリダ州とテキサス州で今年、海外への渡航歴がないのにマラリアに感染した例が相次いで報告され、人々の間に不安が広がっています。アメリカ疾病対策センター(CDC)によれば、7月7日までに、フロリダ州サラソタ郡で6人、テキサス州キャメロン郡で1人が感染しました。アメリカでは、2003年にフロリダ州パームビーチ郡で8人の感染者が出て以来、国内で感染した例は報告されていませんでした。
アメリカでは毎年約2000人のマラリア感染者が出ていると推定されているものの、そのほぼ全員が、サハラ以南のアフリカまたは南アジアからの入国者です。しかし、マラリアを媒介するハマダラカはアメリカにも存在し、マラリア原虫を媒介する可能性があります。
「かつてアメリカには、マラリアや黄熱病など、蚊が媒介する感染症がたくさん発生していました」と話すのは、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で感染症、パンデミック、バイオセキュリティーを研究するアメシュ・アダルジャ氏。「こうした感染症がアメリカで発生するのを防ぐ何らかの障壁があるわけではありません。水たまりをなくすなど、蚊の発生を防ぐための非常に効果的な対策を行ったことが功を奏し、感染症が抑えられたのです」。
そのため、アメリカで20年ぶりに国内感染者が出たことに関して、感染症の専門家はさほど驚いていません。テキサス州ヒューストンにあるベイラー医科大学熱帯医学部長のピーター・ホテズ氏は、「予測していましたし、予測可能でした」と話しています。
「アメリカ南部だけではありません。世界のほかのホットスポットでも感染者数は増えています。貧困、都市化、人の移動、そして気候変動など4つか5つの要因がすべて重なったためです。その結果、マラリアだけでなく、デング熱、ジカ熱、チクングニア熱、ウエストナイル熱、シャーガス病、リケッチア症、寄生虫感染症も増加しています」。
マラリアは、ハマダラカ属の蚊が媒介するマラリア原虫によって引き起こされる感染症。症状は、発熱のほか、震えを伴う悪寒、頭痛、筋肉痛、倦怠(けんたい)感、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢など、インフルエンザの症状によく似ています。赤血球の数が減少して貧血を起こしたり、肌や目が黄色くなる黄疸(おうだん)が見られることもあります。症状は通常、感染してから7〜10日後に現れるものの、1年ほどたってから発症する場合もあります。
世界保健機関(WHO)の推定では、2021年には世界で2億4700万人がマラリアに感染しました。人間に感染するマラリアには5種類あり、大半のケースは、熱帯熱マラリア原虫と三日熱マラリア原虫のどちらかに感染していた。そのうち、熱帯熱マラリア原虫のほうは悪性度が非常に高く、2021年のマラリアによる世界の死者数61万9000人の大多数を占めていました。また、死亡者の大半(96%)がアフリカに集中し、その8割は5歳未満の子供でした。
最近のアメリカでの国内感染は、いずれも三日熱マラリア原虫によるもの。こちらはアフリカ以外の世界各地でみられ、深刻な病気ではあるものの、熱帯熱マラリアほどではなく、致死率は低くなっています。
今年発生したアメリカ国内感染者の中で最近の海外渡航歴がある人はいないものの、同じ地域の別の誰かがマラリアの流行地から最近入国してきた可能性はあると、アダルジャ氏はいいます。最も考えられるシナリオは、国外でマラリアに感染した誰かがその地域にやってきて蚊に刺され、その蚊が原虫を取り込み、近くにいる別の人を刺して感染させてしまったというケースとしています。
2023年8月14日(月)