2025/10/19

🟥新感染症のPCR検査を素早く確立 国立衛研が模擬検体を開発

 新たなウイルス感染症が広がり始めた際、感染者の発見に役立つPCR検査を早期に使えるようにするため、国立医薬品食品衛生研究所などが性能評価に使う模擬検体を開発している。病気を起こさない疑似ウイルスと、唾液や鼻の粘膜を模した液体を混ぜたもので、実際の患者の検体が集まるのを待たずに開発を進められる体制を目指す。

 PCR検査は、検体に含まれるウイルスの遺伝子を大量に増やして検出する。新型コロナ禍の初期には感染者や接触者を見付け、感染の連鎖を断ち切るのに活用された。ただ日本では準備に時間がかかった。

 こうした教訓から、同研究所は2023年度に模擬検体の開発を始めた。コロナ禍のように発生国からウイルスの遺伝情報が公開されれば、検査に使う部分の遺伝物質「リボ核酸(RNA)」を人工的に合成して病気を起こさないウイルスの殻に入れ、人の粘液を模した液体と混ぜる。

 疑似ウイルスは作製・保存方法の見通しが立ち、国内の企業が製造と販売を担う予定。粘液を模した液体は献血事業を担う日本赤十字社から提供された血清から作製する。

 2025年10月19日(日)

2025/10/18

🟥無精子症マウスに精子作らせ子供も誕生、大阪大チームが研究に成功 男性不妊治療につながるか

 精子がないマウスに、精子を作らせることに成功したとする研究成果を、大阪大のチームが発表した。男性不妊の治療につながる可能性があるという。論文がアメリカの「科学アカデミー紀要」に掲載された。

 6組に1組のカップルが不妊に悩み、原因の半分は男性側にあるとされる。精巣で精子が正常に作られない「非閉塞(へいそく)性無精子症」の場合は、不妊治療が難しい。

 大阪大の伊川正人教授(生殖生物学)らは、精子の形成に必要な酵素が作れない無精子症のマウスの精巣に、この酵素を作る「メッセンジャーRNA(mRNA)」が入った粒子を投与した。この方法は、新型コロナウイルスワクチンでも注目された技術だ。粒子を投与してから3週間後、精巣内で精子が作られたのを確認した。精子を採取し、体外で受精させる「顕微授精」を実施したところ、子供も生まれた。

 同じ酵素の異常は人でも見付かっているが、伊川教授は「無精子症には他の原因も関係しているとみられ、調べていきたい」と話している。

  石黒啓一郎・千葉大教授は、「画期的な成果で、この方法なら健康被害のリスクも少ない。採取できる精子の量を増やすなど、人の治療に向けた研究を進めてほしい」と話している。

 2025年10月18日(土)

2025/10/17

🟥脳の再生医療薬、出荷制限解除へ 開発企業が品質データ再収集

 厚生労働省の専門部会は16日、事故などによる外傷性脳損傷の患者に細胞を移植して運動まひの改善を促す再生医療等製品「アクーゴ」の出荷制限を解除することを了承した。2024年7月に承認されたものの、品質に関する追加データを集め認められるまで出荷できない異例の条件が付き、開発企業「サンバイオ」が対応した。

 アクーゴは健康な人の骨髄液から採取した細胞を加工したもの。けがをして半年以上が経過した、中程度から重度の慢性期患者が対象で、移植すると損傷した神経細胞の修復を促すとされる。承認は2024年7月から7年間の期限付き。発売後も安全性や有効性の全例調査が必要となる。

 2024年6月の専門部会では、製品の品質が一定かどうか課題が残ると指摘され、異例の出荷制限をした上で承認を了承した。制限解除の条件として、市販用の製品が、臨床試験に使った細胞と同等なことを示すデータを提出するよう求めた。

 サンバイオはその後、製品を3回製造し、十分なデータが得られたとしており、出荷時期を2026年2月以降と見込む。

 2025年10月17日(金)

2025/10/16

🟥「危険なほど暑い日」が57日増加 今世紀、パリ協定の削減目標達成でも

 温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に基づき各国が掲げる温室効果ガスの排出削減目標が達成されても、産業革命前と比べて今世紀中に2・6度の気温上昇が見込まれ、熱中症や死亡リスクが増加する「危険なほど暑い日」は世界平均で年間57日増えるとの試算を、アメリカの気候研究機関クライメート・セントラルなどのチームが16日発表した。

 2015年のパリ協定採択から今年で10年。当時は今世紀中に4度の気温上昇が見込まれ、危険なほど暑い日は年間114日増加すると試算した。チームは、パリ協定が一定の効果を発揮しているものの、協定が掲げる1・5度への抑制にはほど遠いとした。

 2025年10月16日(木)

2025/10/15

🟥認知症の前段階「軽度認知障害」、3割が5年後に「正常」に戻る 九州大調査、生活習慣病や筋力と関係か

 認知症の前段階と診断された高齢者の約3割は、5年後に認知機能が正常に戻ったとする研究結果を、九州大のチームがまとめた。生活習慣病がないことや、筋力が保たれていることなどが関係しており、認知症の発症予防につながる可能性があるという。日本老年精神医学会で報告された。

 この研究は、福岡県久山町の65歳以上の住民を対象に1961年から行われている追跡調査の一環。

 調査は2012年と2017年、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)と診断された高齢者計398人を対象に実施。このうち5年後の状況を追跡できた380人を分析した。正常に戻ったのは119人(31%)で、MCIのままだったのは102人(27%)、認知症に移行したのは106人(28%)だった。

 認知機能が回復した人の背景を解析すると、糖尿病がないことや、血圧が低い、年齢が若い、握力が強いなどの要因があった。

 九州大の二宮利治教授(公衆衛生学)は、「認知症になる可能性は誰にでもある。診断を恐れて検査を受けるのを遅らせるよりも、早い段階から認知機能を理解し、対策に役立ててほしい」と話す。

 2025年10月15日(水)

2025/10/14

🟥WHO、薬剤耐性菌の急増に警鐘 「軽傷でも致命的に」

 世界保健機関(WHO)は13日、薬剤耐性菌(AMR)感染症の急増に警鐘を鳴らした。耐性菌の感染では薬の効果が損なわれ、軽傷や一般的な感染症であっても致命的となる可能性がある。

 WHOは、抗菌薬耐性に関する報告書を発表。尿路・消化管感染症、血流感染症、淋病の治療に用いられる22種類の抗生物質について耐性の普及率を調査した。その結果、2023年に世界で確認された細菌感染症のうち、6分の1が抗生物質による治療に耐性を示したことがわかった。

 報告書によると、2023年までの5年間で監視対象の抗生物質の40%以上で耐性が増加し、年間平均で5~15%の増加が見られた。尿路感染症では、一般的に使用される抗生物質に対する耐性率は世界的に30%前後に達していた。

 WHOの抗菌薬耐性部門責任者イバン・j-F・ヒューティン氏は記者団に対し、「非常に憂慮すべき状況だ。抗生物質耐性が増え続ける中で、治療の選択肢が限られ、命が危険にさらされている」と述べた。

  細菌は長い時間をかけて薬剤に対する耐性を獲得しており、多くの薬剤が無効になっている。この現象は、人間や動物、食品への抗生物質の大量使用によって加速されている。

 WHOによると、薬剤耐性菌は毎年100万人以上の直接死因となり、間接的には約500万人の死に関与している。

 WHOのテドロス・アダノム事務局長は声明で、「抗菌薬耐性は現代医療の進歩を上回る速さで広がっており、世界の健康を脅かしている」と警告した。

 利用可能なデータから判断すると、耐性は医療システムが弱く、監視体制が不十分な地域で高い傾向があった。最も耐性が高かったのは東南アジアおよび東地中海地域で、報告された感染症の3分の1が耐性を示した。アフリカ地域では5分の1の感染症が耐性を持っていた。

 2025年10月14日(火)

2025/10/13

🟥「無痛分娩」最大10万円の助成スタート、東京都に相談急増 医療機関側に「逼迫」懸念も

 東京都による「無痛分娩(ぶんべん)」の助成が今月始まり、妊婦らの申し込みや問い合わせが急増している。都道府県としては初の試みで、都は少子化の改善につなげたい考えだ。ただ、医療機関側の逼迫(ひっぱく)が心配されるケースもみられ、専門家は対策の必要性を指摘する。

 9月中旬の週末、都内の産科クリニックの待合室で、無痛分娩を検討する妊婦向けの説明会が開かれ、20人以上が参加した。クリニックでは都の制度が公表された今年1月以降、無痛分娩に関する問い合わせが増えているという。院長は「出産の時の痛みで体力を大幅に奪われる人もいる。無痛分娩で体力を温存できるメリットもある」と説明した。

 友人の勧めで無痛分娩に興味を持ったという練馬区の保育士の女性(32)は、11月に第1子の出産を予定する。初産で痛みに耐えられるか不安だったといい、「子育ては何かとお金がかかるので、負担が少しでも減るのは助かる」と話す。

 無痛分娩の費用は10万~20万円ほど。母体の急変に備えて蘇生機器を整えるなど一定の安全基準を満たし、都に届け出た病院・診療所で出産した都内在住者は、最大10万円の助成を受けられる。

 都が3月下旬に設置した問い合わせ窓口でも、「どうすれば申請できるのか」「自分は対象か」といった相談が急増。件数は9月までの半年間で496件だったが、今月は1~9日だけで143件に達した。都に届け出た病院・診療所も、都内で出産できる医療機関の8割に当たる125施設(9月末時点)に上り、制度は妊婦と医療機関の双方から支持を得ているようだ。

 ただ、無痛分娩は麻酔による合併症を引き起こすリスクがある。分娩が長引いて赤ちゃんを吸引しなければならない事態も起こり得る。

 東邦大医学部産科婦人科学講座の中田雅彦主任教授(60)は「デメリットを理解していない妊婦は多い」と明かす。同大大森病院(大田区)では、昨年まで1割ほどだった無痛分娩の取扱件数が6割前後に増えたという。中田主任教授は「希望者がさらに増えた際に対応し切れるのか不安」とも語る。

 都が昨年8~10月、都内の母親約1万1000人を対象に行った調査では、無痛分娩で出産した母親は35・8%にとどまった。だが、次回出産時の希望を聞いたところ、無痛分娩で出産したいと答えた割合は63・3%に上った。助成が始まったことで、希望する妊婦はさらに増えるとみられる。

 無痛分娩に詳しい神奈川県立保健福祉大の田辺けい子准教授(助産学)は「出産時の痛みや苦しみに悩む女性もおり、選択肢を広げることにつながる助成は高く評価できる。無痛分娩の需要は全国的に高まっており、都の制度はモデルケースになる」と評価。一方、「希望者の急増により、安全性を担保できるか懸念している。出産に携わる医師や助産師について、無痛分娩の知識や技術を底上げさせる取り組みも必要だ」と指摘する。

  ◆無痛分娩=局所麻酔で出産の痛みを和らげる方法。国内では背中に入れた管から麻酔薬を入れる硬膜外麻酔が主流。日本産婦人科医会の調査では、2023年の出産全体の中で無痛分娩が占める割合は13・8%で、5年前の倍以上に増えている。

 2025年10月13日(月)

🟥COP30、合意文書採択し閉幕 脱化石燃料の工程表は見送り

 ブラジル北部ベレンで開かれた国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は22日、温室効果ガス排出削減の加速を促す新たな対策などを盛り込んだ合意文書を採択し、閉幕した。争点となっていた「化石燃料からの脱却」の実現に向けたロードマップ(工程表)策定に関する直接的な記述...