海の生態系への影響が懸念されている「マイクロプラスチック」について、愛媛大学などの研究チームが大分県の別府湾の海底を調べた結果、1960年ごろから20年周期で増えていることがわかり、海洋汚染の実態解明に向けた手掛かりになるとしています。
マイクロプラスチックは、プラスチックごみが波の力や紫外線などの影響でもろくなって砕かれた大きさ5ミリ以下のものを指し、魚などがプランクトンと間違えて食べると、食物連鎖を通じて生態系全体に影響を及ぼすと懸念されています。
愛媛大学の日向博文教授などの研究チームは、別府湾の海底に積もった地層を年単位で分析。その結果、マイクロプラスチックが日本の高度成長期に当たる1958年から1961年の層で最初に確認され、以降、半世紀にわたって堆積量が20年周期で増減を繰り返し、徐々に増えていることがわかりました。
また、多く見付かった地層は、植物プランクトンの発生が多かった時期と重なることもわかり、植物プランクトンがマイクロプラスチックの表面にくっついて海底に沈み、地層にたまった可能性があると分析しています。
今回の成果は、研究チームが人類の繁栄した時代「人新世(じんしんせい)」を象徴する地層として別府湾に着目し、調査する過程で発見しました。地質学的に新たな時代区分の代表地点にふさわしい場所だと裏付ける証拠の1つになるとしています。
日向教授は「プラスチックごみによる海洋汚染の実態解明に向けた手掛かりになるとともに、人類繁栄の時代を色濃く表すデータでもある」と話しています。
「人新世」とは、オゾン層などの研究でノーベル化学賞を受賞したパウル・クルッツェン氏らが提唱した言葉「Anthropocene」を和訳した言葉です。
「ひとしんせい」とも読みますが、地質学者の間では地球史における時代区分の「完新世」や「更新世」と同様に音読みの「じんしんせい」が使われています。
国際的な学術団体「国際地質科学連合」のワーキンググループは人類の繁栄した時代を象徴する地層を地球上で1カ所選び、新たな時代区分にしようと、アメリカ、中国、ポーランドなど世界12カ所の候補地から選定作業を進めています。
日本からは大分県の別府湾が候補地になっていて、愛媛大学や東京大学などの研究グループが海底の地層を取り出してさまざまな観点から分析を進めています。
今年7月には、核実験が繰り返された1950年代に全世界に降ったごく微量のプルトニウムが別府湾海底の地層から検出され、条約などで核実験が制限された後はプルトニウムの濃度が低下していたという論文を発表。
「人新世」を象徴する場所を決める上で重要な指標になる内容で、別府湾が選ばれる好材料と位置付けられています。
2022年10月30日(日)