全身の震えや、手足がうまく動かせなくなるなどの症状が出るパーキンソン病について、原因物質が脳内にたまる仕組みの一端を解明したと、大阪大の望月秀樹教授(神経内科学)らの研究チームが3月31日、発表しました。発症を未然に防ぐ治療法につながる可能性があります。
国内のパーキンソン病患者は10万人当たり120~130人で、高齢者ほど多い傾向があります。神経変性疾患では、アルツハイマー病に次いで2番目に多い病気です。
患者の脳内では、元々存在するタンパク質「αシヌクレイン」が異常な構造に変化し、それが複数集まった凝集体が神経細胞を傷めるといわれています。患者の1割では、この凝集体が遺伝的に蓄積しやすいことが知られている一方で、残りの9割ではなぜ異常な構造になるのか不明でした。
そこで、研究チームは「脂質がαシヌクレインの凝集のカギを握る」という過去の研究成果に着目。細胞内に存在する主な脂質約30種について調べたところ、「PIP3」という脂質がαシヌクレインと強く結び付くことが判明しました。
次に、PIP3をαシヌクレインと混ぜたところ、患者の脳内にある異常なタンパク質の凝集体と、形や性質が似た構造のものができました。
一方、培養した神経細胞などを使って調べたところ、αシヌクレインはPIP3に反応して凝集体になることも確認しました。
実際に死亡した患者7人の脳内を調べると、脳内でPIP3が過剰に発生していることがわかり、その場所に異常なαシヌクレインがあることも確かめました。患者の脳内では、PIP3を分解する酵素が何らかの原因で減るため、PIP3が過剰になっていると考えられます。
パーキンソン病の治療を巡っては、神経細胞が傷んで情報伝達が滞るため、情報伝達を担う物質「ドーパミン」を補充する対症療法が主です。望月教授は、「発症の根本的な理由に迫ることができた。PIP3の過剰な発生や、αシヌクレインとの結合を抑える薬剤が開発されれば、発症を防げる可能性がある」と話しています。
成果は、ヨーロッパの医学専門誌に掲載されました。
2023年4月6日(木)