沖縄科学技術大学院大学の新竹積教授と石川裕規准教授の研究チームがこのほど、低濃度のエタノール蒸気吸入でA型インフルエンザウイルスを不活性化する実験に成功しました。新型コロナウイルスなど類似のウイルス性感染症にも有効であるとの見方を示しています。実験はマウスを用いており、今後は人体にも同様の効果を発揮できるか検証するとしています。
エタノールは体の表面の殺菌効果が知られている一方で、体内で同様の効果があるかを調べる研究はされてこなかったといいます。
A型インフルエンザウイルスは、エンベロープと呼ばれる脂質性の膜に包まれています。エタノールはこの膜を溶かす作用があり、膜が壊れるとウイルスは感染力を失います。
液体のエタノールを肺や気管に届けることはできないため、研究チームは蒸気にして吸入するアイデアを考案。A型インフルエンザに感染したマウスで実験して効果を確かめました。マウスに1日2回、10分間、エタノールの蒸気を吸入させたところ、感染から14日後に89%が生存し、ただの水蒸気を吸わせたマウスの37%に比べて、生存率が高くなりました。
吸入させたのはエタノール4%の蒸気で、肺や気管の細胞の表面を覆う液体に達すると20%程度に濃縮され、ウイルスを不活化するのに十分な効果を発揮したと考えられるといいます。細胞表面に集まったウイルスのエンベロープをエタノールが破壊し、感染力を失わせて致死的な症状を抑えたとみられます。
新竹教授は「世界的流行の新型コロナウイルスやRSウイルスもエンベロープを持っているため、不変的な効果や治療できる未来があるのではないか」と強調し、鳥インフルエンザなど呼吸器感染症の対策へも期待をみせました。石川准教授も「汎用(はんよう)性が高い治療法となると考えている」と語りました。
今後は人体への効果や安全性への評価などを図るための臨床研究を進めます。人の場合はぜんそくなどの薬液を霧状にして吸入する「ネブライザー」を使う方法が考えられますが、アルコールにアレルギーがある人は吸入できないほか、吸入後は血中アルコール濃度が一時的に上昇するため、車を運転できない可能性があります。
研究成果は27日、アメリカの科学誌「ジャーナル・オブ・インフェクティアス・ディジージス」に掲載されました。
ただ、消毒用エタノールは可燃性で、引火や爆発の危険性があるため、加湿器に入れて室内に噴霧する個人の判断によるエタノール吸入療法は絶対にやめてほしいと、研究チームは呼び掛けています。
2023年4月27日(木)