ジョギングや速歩などの運動で脳に適度な衝撃が伝わると高血圧が改善することを、国立障害者リハビリテーションセンターや国立循環器病研究センター、東京大、群馬大などの研究チームが発見しました。論文が7日、イギリスの科学誌に掲載されました。成人を対象とした臨床試験でも効果が確かめられ、さまざまな疾患の原因となって健康寿命を縮める高血圧の新たな治療法につながると期待されます。
軽いジョギングのような運動では、足が着地する時に頭部に衝撃が伝わり、脳内の細胞の隙間を埋める間質液が動きます。この動きで血圧の調整にかかわる細胞が物理的に刺激され、血圧を上げる作用があるタンパク質の量が減り、血圧が低下することがわかりました。適度な運動が高血圧改善に効果があることは統計的に知られていたものの、そのメカニズムが明らかになりました。
軽いジョギングで頭部に加わる衝撃は約1G。高血圧のラットを使った実験で、麻酔をかけた上で、1Gの衝撃がリズミカルに加わるように頭部を上下させる受動的な運動を1日30分、2~3週間続けたところ、血圧が低下しました。ラットが自ら走行した場合と効果は同じでした。
人間での臨床試験は、高血圧の約30人を対象に、座面が上下に動いて頭部に1Gの衝撃が加わるようにした椅子に週に3回、1回当たり30分座る実験を1カ月間続けたところ、最高血圧の平均は141・9から132・9に低下しました。さらに、実験終了から約1カ月にわたって効果が持続しました。
受動的な運動で改善効果が認められたことから、自ら運動できない寝たきりの高齢者や障害者にとって、新たな治療法の開発につながる可能性があります。
また、糖尿病や肝機能障害など適度な運動による改善効果が知られている病気でも、同様のメカニズムが働いている可能性があり、研究チームは今後の研究で解明したいとしている。
このほか、重度の身体障害がある子供向けに、上下に動く椅子を使って自律神経障害を改善する臨床試験も進めています。自律神経の乱れは睡眠や排泄(はいせつ)などに問題を起こし、本人や世話をする家族にとって負担が大きくなっています。
国立障害者リハビリテーションセンター病院の澤田泰宏・臨床研究開発部長(細胞生物学)は、「高血圧や糖尿病には薬があるが、こちらには有効なアプローチがない。負担を軽減できるよう研究を続けたい」と話しました。上下動する椅子は医療機器としての承認を目指します。
2023年7月8日(土)