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2022/08/19

⛅日光過敏症(光線過敏症)

普通量の日光に当たっただけで皮膚に異常が起こる反応

日光過敏症とは、普通の人では何でもない程度の日光の紫外線が当たっただけで、皮膚に異常が引き起こされる免疫システムの反応。光線過敏症とも、日光アレルギーとも呼ばれています。

外部から起こる外因性のものと、体の内部から起こる内因性ものがあります。

外因性の日光過敏症は、日光に当たると敏感になるような化学物質が皮膚に接触して起こります。ある種の薬や化学物質を内服したり、ある種の薬や化粧品などを皮膚に塗った後、日光に当たった場合にのみ現れます。日光過敏を助長させる可能性がある内服剤には、経口糖尿病食、降圧利尿剤、精神安定剤、ある種の抗生物質などがあり、光エネルギーにより活性化される物質(光感作物質)が何らかの経路で皮膚に達し、光エネルギーを吸収して皮膚に異常を起こします。

内因性の日光過敏症は、小児期では色素性乾皮症、ポルフィリン症などで起こります。大人では、ペラグラ(ニコチン酸欠乏症)や、肝臓の疾患からくるポルフィリン症などで起こります。

色素性乾皮症というのは、遺伝性の疾患で、日光が当たった部分が日焼けを繰り返し、皮膚が乾燥してくる疾患です。ポルフィリン症は、ポルフィリンという物質の先天性の代謝異常で、皮膚、歯、骨などにこの物質が沈着し、日光に敏感になる疾患です。ペラグラは、ビタミンBの一つであるニコチン酸が欠乏することにより、皮膚炎、下痢、精神錯乱などを起こす疾患です。

また、全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、単純性疱疹(ほうしん)のように、日光によって誘発されたり、悪化するものもあります。

症状としては、日焼けのひどい状態から、湿疹(しっしん)、皮膚炎のようなものまでさまざまですが、顔、うなじ、手の甲のように、露出部分に起こるのが特徴です。普通は、強い日光に当たってから数時間で症状が現れます。中には、数日たってから出てくることもあり、日光照射との関係に気が付かない場合もあります。

日光過敏症の検査と診断と治療

日光過敏症を診断するための特別な検査はありませんが、それを取り除く必要があるいろいろな原因があるので、各種の検査や診断によって見付けます。

皮膚が露出した部分だけに発疹が出た場合は、日光過敏症を疑います。その他の疾患、服用した薬、皮膚に塗った薬や化粧品などを詳しく調べると、日光過敏症を起こした原因を特定するのに役立ちます。全身性エリテマトーデスなど一部の発症者で、この反応の感受性を高める疾患を除外するための検査を行うこともあります。

全身性エリテマトーデスによる日光過敏の発症者などでは、ヒドロキシクロロキンやステロイドを内服すると効果があることがあります。日光過敏のタイプによっては、皮膚を紫外線に対し敏感にする薬剤であるソラレンを併用して、紫外線を当てる光線療法を行うことがあります。この治療法はPUVA療法といいます。しかし、全身性エリテマトーデスの発症者は、この治療に耐えられません。

原因が何であれ、日光に過敏な人は、紫外線を防止できる衣類を着用し、日光を極力避け、日焼け止めを使います。日光過敏を引き起こす薬や化学物質などは、可能ならば中止します。

🌤日光口唇炎

日光照射が原因で生じる日光角化症が口唇に生じたもの

日光口唇炎とは、長い年月にわたって日光に当たったことが原因で生じる口唇炎の一種。光線性口唇炎、慢性日光口唇炎とも呼ばれます。
 太陽の光線である日光に含まれる紫外線を受けやすい顔面、耳、前腕、手の甲、頭部の皮膚に好発する日光角化症(光線角化症)が口唇に生じたもので、炎症性疾患ではなく腫瘍(しゅよう)性病変で、前がん性の皮膚変化と考えられています。
 日光角化症が有棘(ゆうきょく)細胞がんにまで発展するケースは1%と見なされているのに対して、日光口唇炎は有棘細胞がんにまで発展するケースが11%の可能性があるとの報告もあり、発症した場合には、高リスク型の前がん性の皮膚変化と認識した上で、適切に管理することが不可欠となります。
 日光角化症は、長年にわたって慢性的に日光に含まれる紫外線、特に中波長紫外線を受けることにより、皮膚の表皮細胞のDNAに傷ができるのが、その原因と考えられています。
 日光に含まれる紫外線は肉眼では見えませんが、皮膚に最も大きな影響を与えます。体がビタミンDを作り出すのを助ける働きがあるので、少量ならば紫外線は有益なものの、大量に浴びると遺伝物質であるDNAが損傷を受け、皮膚細胞が作り出す化学物質の量と種類が変わってしまうのです。
 とりわけ口唇は人のみにみられる特殊な皮膚とされ、組織学的にも汗腺(かんせん)や毛包などの皮膚付属器を欠如しています。また、メラニンという皮膚の色を濃くする色素を作り出すメラノサイトは少なく、皮膚の最も表面にあってケラチンからなる角質層(角層)は薄いといった組織的特徴があります。
 これらの組織的な理由に加え、人は直立するため、最も紫外線を多く有する真昼の直射日光を口唇、特に下唇は垂直に浴びることになり、下唇は紫外線の影響を強く受けると考えられます。
 ゆえに、日光口唇炎にかかると、表皮基底細胞層での異常増殖が生じるため、主に下唇が赤くはれ、膨張したり、水疱(すいほう)となったりします。膨張や水疱とならなかった場合には、下唇が全体にわたってひび割れを起こしたり、かさかさと乾燥したり、かさぶたができたり、出血したりする症状もみられます。
 水疱や乾燥によるかゆみの誘発や、水疱が破れた時の痛みも症状の1つです。ヒリヒリとした痛みが続くこともあり、苦痛を感じます。
口唇の表層の角質層がダメージを受けるため、バリア機能が正常に作用せず、唾液(だえき)や飲み物などの刺激によって強い痛みを感じることも少なくありません。また、口唇周囲の皮膚にまで症状が波及することもあります。
 発症者は中高年層がほとんどで、男性のほうが女性より多い傾向があります。女性に少ない理由は、戸外の労働が男性よりも少ないため紫外線の蓄積照射量が少ないこと、口紅の使用によって紫外線が防御されることが挙げられています。

日光口唇炎の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、目視での口唇の視診と患者への問診が主な方法になります。問診では、症状が出始めた時期、アレルギーの有無、過去の病歴などをカウンセリング方式で質問していきます。
 口唇の回りの部位にも何らかの症状が出ていないか視診し、場合によっては口腔(こうくう)内も検査対象になります。
 日光口唇炎自体は生命に問題はないものの、有棘細胞がんに発展すれば、その予後は不良であるため、診断は有棘細胞がんの発生の予防につながるという意味で重要です。
 皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、通常、局所麻酔は行わず、液体窒素を浸した綿棒などを腫瘍性病変に押し付けて凍結、壊死させて除去する凍結療法を施します。簡便な処置法ですが、凍結時にかなり強い痛みを伴います。また、多くの場合、数回の処置が必要となります。
 高齢者では、液体窒素による凍結療法やCO2レーザー(炭酸ガスレーザー)照射なども行います。
 有棘細胞がんに発展している可能性がある場合は、局所麻酔を行い、腫瘍性病変をメスで切除する外科切除を施します。下唇全体を筋層上で切除した場合は、後面の口唇粘膜を1センチほど剥離(はくり)して、引き上げるように下唇の皮膚と単純縫合します。
 薬物療法として、抗がん剤の1種であるフルオロウラシル入りのローションやクリーム、または、皮膚の免疫系を活性化し、強い炎症を起こすことでがん細胞を除去する効果があるイミキモド(ベセルナクリーム)を腫瘍性病変に塗ることもあります。
 フルオロウラシル入りのローションやクリームは、1日2回単純に塗布するか、1日1回塗布後にラップ類で密封します。イミキモドは、1日1回、週3回、患部に直接塗布します。
薬物療法は、塗り薬の副作用で皮膚が荒れて、びらん、痛みが出ることがありますが、治療に伴うものであるため頻度を調節して継続すると、多くは症状が軽快します。
 治療後は、再発の予防のため、口唇への長時間の直射日光照射を避けることも重要で、サンスクリーン剤(日焼け止め化粧品)の使用が勧められます。

🇰🇼Ⅱb型高リポ蛋白血症

体質の遺伝により、思春期以降に高リポ蛋白血症が出現しやすい疾患

Ⅱb型高リポ蛋白(たんぱく)血症とは、血液中の総コレステロールと中性脂肪(トリグリセライド)の両方がかなり高値となる疾患。家族性複合型高脂血症、家族性複合型脂質異常症とも呼ばれます。

体質の遺伝による高リポ蛋白血症(高脂血症)で、いわゆる生まれ付きのものです。常染色体優性遺伝の形式を示すとされているものの、疾患を起こす遺伝子は特定されておらず、リポ蛋白リパーゼ(LPL)やアポ蛋白など複数の遺伝子異常がかかわっていると見なされています。

その頻度は高く、人口1000人に10人の割合で、つまり人口の約1パーセントにみられます。血液中の脂質を増やす遺伝性疾患の中では、最も多くみられる疾患に相当します。

若年で心筋梗塞(こうそく)を発症することがあり、65歳以下の心筋梗塞患者の基礎疾患として約30パーセントを占めるとされます。

思春期以降に高リポ蛋白血症が出現することが多く、過栄養、運動不足などの後天的要因によっても、高リポ蛋白血症が誘発されます。LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の上昇は、同じ遺伝性疾患であるⅡa型高リポ蛋白血症(家族性高コレステロール血症)に比べると、比較的軽度。

VLDL(超低比重リポ蛋白)コレステロールとLDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の値が上昇するⅡb型高リポ蛋白血症を基盤としますが、LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の値が上昇するⅡa型高リポ蛋白血症や、VLDL(超低比重リポ蛋白)コレステロールの値が上昇するⅠⅤ型高リポ蛋白血症を示す時があります。

同一家系内に高コレステロール血症、高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)および両者合併型の高リポ蛋白血症が混在し、さらに同一者が高コレステロール血症を示したり、高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)を示したりするという特徴があります。

通常、小児期には症状はありません。LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の上昇が、Ⅱa型高リポ蛋白血症に比べると、比較的軽度のためです。

高リポ蛋白血症はそれ自身自覚症状はありませんが、将来、心筋梗塞などの動脈硬化症を引き起こす疾患であることを十分認識し、もし検診などで指摘されたら、放置せずに内科、内分泌・代謝科を受診し、適切な治療を受けることが勧められます。

Ⅱb型高リポ蛋白血症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、まず身体診察を行い、家族歴について質問します。次に血液検査を行ない、LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)、またHDL(高比重リポ蛋白)コレステロール(善玉コレステロール)の値を測定するとともに、中性脂肪(トリグリセライド)、小型LDLコレステロール(超悪玉コレステロール)、アポ蛋白Bの測定を行ないます。食後9時間から12時間の空腹時に採血します。

大抵の場合、LDL(低比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)と中性脂肪(トリグリセライド)の値が上昇しており、HDL(高比重リポ蛋白)コレステロール(善玉コレステロール)の値は平均値よりも低下しています。また、小型LDLコレステロール(超悪玉コレステロール)の存在により、アポ蛋白Bの値が上昇しています。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌(しょくじ)療法、運動療法、薬物療法を行ないます。Ⅱb型高リポ蛋白血症(家族性複合型高脂血症)は遺伝子異常を背景とし、代謝異常が生涯持続するため、治療の目的は疾患を完治させることではなく、心臓疾患のリスクを軽減させることです。

食餌療法では、欧米風の高カロリー食品やコレステロール値の高い食品、脂分の多いファーストフードの過剰な摂取を制限します。そして、野菜や果物、魚といった低カロリー食や低脂肪食、低炭水化物食を中心とした食生活に切り替えます。

運動療法では、積極的にウォーキングや水中歩行などの適度な有酸素運動を行ないます。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

また、喫煙、ストレス、過労、飲酒、睡眠不足など生活習慣全般の見直しも、改善法として効果的です。

薬物療法では、一般にスタチン系薬剤と呼ばれているHMG‐CoA還元酵素阻害薬を使います。この種類の薬は、コレステロールの合成を抑制するもので、LDL(高比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の値を低下させます。

症状に応じて、フィブラート系薬剤のベザフィブラートやフェノフィブラートを使います。この種類の薬は、中性脂肪の合成を阻害するものです。オメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)製剤やドコサヘキサンエン酸(DHA)製剤を使うこともあります。

そのほか、ニコチン酸、胆汁酸陰イオン交換樹脂を使うこともあります。胆汁酸陰イオン交換樹脂は、特に食事療法と併用した場合に、LDL(高比重リポ蛋白)コレステロール(悪玉コレステロール)の値を効果的に低下させます。

血液中の脂質レベルが高すぎるため、医療的な治療を施しても心臓発作の可能性を大幅に低めることはできない場合があります。こういった場合、治療を行ってもリスクは高いままです。

🇰🇼二分膝蓋骨

正常では1つの骨である膝蓋骨が、先天的に2つ以上に分かれている状態

二分膝蓋骨(にぶんしつがいこつ)とは、正常では1つの骨である膝蓋骨が先天的に2つ以上に分かれている状態。分裂膝蓋骨とも呼ばれます。

膝(ひざ)の皿に相当する膝蓋骨は、下肢の中央、大腿(だいたい)骨の下端にあり、大腿四頭筋腱(けん)と膝蓋腱(膝蓋靭帯〔じんたい〕)により上下から支えられています。膝の屈伸運動、歩行に重要な働きを担っています。

二分膝蓋骨は、通常1個の骨化核から生じる膝蓋骨の骨形成が先天的に妨げられて、癒合不全を生じ、2つ以上に分裂して生じると考えられています。

出生100人のうち約5人に生じ、9対1で男性に多く、両膝に分裂がある例は約40パーセントです。

分裂のタイプは数種類ありますが、大腿四頭筋の外側広筋が付着している膝蓋骨の外側上方に分裂がある型がほとんどを占めます。

膝蓋骨が2つ以上に分裂しているからといって、必ず痛みがあるわけではなく、ほとんどの場合は、痛みなどの症状を伴うことなく日常生活を送れます。

しかし、激しいスポーツ活動や、事故や転倒などで膝を床や地面に強くぶつけた打撲が切っ掛けで、膝蓋骨の分裂した部分に大きな負担が加わって炎症が発生し、膝蓋骨の上部などに痛みが現れることがあります。

激しいスポーツが切っ掛けとなる場合は、成長期に当たる10~17歳の男性に多くみられるのが特徴です。

痛みが発生しやすいスポーツとしては、野球、サッカー、バレーボール、バスケットボール、短距離走などの陸上競技が挙げられ、これらの急激なダッシュや急停止など、特に太ももの筋肉である大腿四頭筋を酷使する運動では、膝蓋骨に付着している大腿四頭筋によって何度も繰り返し引っ張られて、膝蓋骨の分裂した部分に負荷が蓄積したり、異常可動性が生じたりした結果、痛みが起こります。

現れる症状は、ジャンプやランニング時の膝蓋骨の外側上方もしくは下端の痛みで、押すと痛む圧痛や、骨の隆起などもみられます。痛みや機能障害を伴う二分膝蓋骨を、特に有痛性二分膝蓋骨と呼びます。

スポーツ活動が思うようにできなくなったり、ひどい場合には、歩行時や階段昇降時に痛みを伴ったり、膝に水がたまって日常生活にも支障を来すこともあります。

二分膝蓋骨の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査やCT(コンピュータ断層撮影)検査などの画像検査で、2個または2個以上に分かれた膝蓋骨を確認した場合に、二分膝蓋骨と判断します。

有痛性二分膝蓋骨では、触診で膝蓋骨の分裂部分に骨性の盛り上がりを感知することがあります。癒合不全により骨の位置のずれ(転位)がある場合は、異常可動性を感知することもあります。また、膝蓋骨の分裂部分に一致して、はっきりとした圧痛と叩打(こうだ)痛を認めます。

整形外科の医師による治療では、症状が軽度であれば、痛みが治まるまでスポーツ活動を中止して安静を保つことで、自然と痛みは治まります。

より積極的な治療では、炎症を抑え、膝への負担を軽減するための保存的療法が主となります。炎症を抑える目的では、消炎鎮痛剤入りのシップ薬や塗り薬による薬物療法、患部を温める温熱療法を行います。

痛みが強い場合には、消炎鎮痛剤を内服したり、分裂部周囲にステロイド剤と局所麻酔剤を注射すると、痛みが軽快することがあります。

膝の負担を軽くするには、膝をテーピングやサポーターで固定する装具療法、大腿四頭筋をストレッチングしたり膝周辺の筋肉を鍛える運動療法が効果的です。

これらの治療法でも痛みなどの症状が改善されない時や、何度も再発を繰り返す時は、膝蓋骨の一部を摘出または縫合する手術を行います。

予防法としては、膝への負担を減らすことが第一です。スポーツ活動前後のウォームアップとクールダウンはしっかり行い、膝を急激に動かしたり、ジャンプ動作を繰り返したり、長時間のランニングを行うなど、膝を酷使する無理な運動は避けるようにします。

🇰🇼二分脊椎

先天的に脊椎骨が形成不全となって起きる神経管閉鎖障害

二分脊椎(にぶんせきつい)とは、先天的に脊椎骨(椎骨)が形成不全となって起きる神経管閉鎖障害の一つ。脊椎披裂とも呼ばれます。

日本国内での発症率は、1万人に5人から6人と見なされています。

母胎内で、脳や脊髄などの中枢神経系のもとになる神経管が作られる妊娠の4~5週ごろに、何らかの理由で神経管の下部に閉鎖障害が発生した場合に、脊椎骨が形成不全を起こします。

人間の脊椎は7個の頸椎(けいつい)、12個の胸椎、5個の腰椎、仙骨、尾骨で成り立っています。脊椎を構成している一つひとつの骨である脊椎骨は、椎間板の付いている前方部分の椎体と、椎間関節の付いている後方部分の椎弓の2つからなっています。本来、後方部分の椎弓は発育の途中に左右から癒合しますが、完全に癒合せず左右に開いて分裂しているものが、二分脊椎に相当します。

神経組織である脊髄や脊髄膜が、分裂している椎弓からはみ出し、皮膚が腫瘤(しゅりゅう)、すなわちこぶのように突き出します。これを嚢胞(のうほう)性(開放性)二分脊椎といいます。

逆に、椎弓が分裂している部位がへこんでいることもあります。これを潜在性二分脊椎といいます。

二分脊椎は、仙骨、腰椎に多く発生し、胸椎、頸椎に発生することはまれです。

二分脊椎の発生には、複数の病因の関与が推定されます。環境要因としては、胎生早期におけるビタミンB群の一種である葉酸欠乏、ビタミンA過剰摂取、抗てんかん薬の服用、喫煙、放射線被爆(ひばく)、遺伝要因としては、人種、葉酸を代謝する酵素の遺伝子多型が知られています。

出生した新生児に嚢胞性二分脊椎が発生している場合、二分脊椎の発生部位から下の神経がまひして、両下肢の歩行障害や運動障害、感覚低下が起こるほか、膀胱(ぼうこう)や直腸などを動かす筋肉がまひして排尿・排便障害、性機能障害が起こることもあります。脊椎骨の奇形の程度が強く位置が高いほど、多彩な神経症状を示し、障害が重くなります。

多くは、脳脊髄液による脳の圧迫が脳機能に影響を与える水頭症(すいとうしょう)を合併しているほか、脳の奇形の一種であるキアリ奇形、嚥下(えんげ)障害、脊椎側湾、脊椎後湾、脊髄空洞症を合併することもあります。

出生した新生児に潜在性二分脊椎が発生している場合、無症状のケースと、脊髄神経の異常を伴っていて、幼児期はあまり症状がみられないものの、学童期や思春期になると下肢痛やしびれ感、排尿・排便障害などの症状を示すケースがあります。後者の場合、しばしば脊髄稽留(けいりゅう)症候群、神経腸嚢胞、脂肪腫、皮膚洞、類皮腫、割髄症などの合併がみられます。水頭症、キアリ奇形などの合併は、非常にまれです。

嚢胞性二分脊椎の治療には、脳神経外科、小児外科、小児科、リハビリテーション科、整形外科、泌尿器科を含む包括的診療チームによる生涯にわたる治療が必要ですので、このような体制の整った病院を受診するとよいでしょう。

二分脊椎の検査と診断と治療

脳神経外科、小児外科の医師による診断では、嚢胞性二分脊椎の場合、妊娠4カ月以降の超音波診断や羊水検査でわかることが多く、遅くとも出生時には腰背部の腫瘤により病変は容易に明らかになります。脊椎部と頭部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像検査を行い、嚢胞の中の脊髄神経の有無、水頭症の有無を確認します。

また、自・他動運動検査、肢位、変形、感覚などの検査を行い、どの脊髄レベルまでが正常であるかを調べます。

潜在性二分脊椎の場合は、椎弓が分裂している部位の皮膚のへこみや色素沈着、多毛などの皮膚病変、あるいは皮膚のすぐ下に脂肪組織が蓄積して発生する脂肪腫の存在が発見の切っ掛けになりますが、気付くのが遅れることもよくあります。

脳神経外科、小児外科の医師による治療では、嚢胞性二分脊椎の場合、生後2、3日以内に背中に露出した形になっている脊髄や脊髄膜を感染から守るために、皮膚と脊髄神経を分離し、皮膚を縫合する閉鎖手術を行います。

仙骨、腰椎、胸椎、頸椎などの奇形が発生した部位により、症状には重度から軽度まで個人差はありますが、下肢障害に対しては車いす、補装具などによる装具療法、理学療法、整形外科的手術による対処を行い、排尿・排便障害に対しては導尿、浣腸(かんちょう)、摘便(洗腸)、下剤、機能訓練による対処を行います。重症例では呼吸障害、嚥下障害による栄養障害への対処、知的障害への療育を行います。

潜在性二分脊椎の場合、出生時に症状が出ることはないので、治療の対象にはなりません。時に脊髄神経の異常を伴っていることがあるので、経過だけは観察し、ある程度成長した時点でX線(レントゲン)検査、MRI検査などを行い、脊髄神経の状態を調べます。無処置でよいケースもありますが、脂肪腫の切除、脊髄稽留の解除、皮膚洞の切除などの手術が必要なケースもあります。

🇮🇶二分頭蓋

先天的な発育不全により、頭蓋骨半球、大脳半球が形成不全を起こす奇形症

二分頭蓋(にぶんとうがい)とは、母胎内で、脳や脊髄(せきずい)などの中枢神経系のもとになる神経管が作られる過程で、神経管の上部に閉鎖障害が発生し、頭蓋骨半球、大脳半球が形成不全を起こす奇形症。頭蓋閉鎖不全症とも呼ばれます。

二分頭蓋は、開放性二分頭蓋と潜在性二分頭蓋に分類されます。

開放性二分頭蓋は胎児の頭蓋骨半球、大脳半球の欠如を伴う奇形症

開放性二分頭蓋は、脳の先天的な発育不全により、頭蓋骨半球、大脳半球、小脳の欠如を伴う奇形症。無脳症、無頭蓋症、外脳症とも呼ばれます。

人間の脳は、脊髄の先端が膨らんで発達してきたものです。脊髄の上には、延髄、中脳、間脳があり、その上には両側に大脳半球が存在しています。延髄の後方には小脳があり、後頭部に位置しています。

脊髄や脳は、胎児の神経管から形成されます。開放性二分頭蓋の症状が現れた胎児は、妊娠4週間程度までの超初期の段階で、神経管前部の閉鎖不全などが起こって神経管の発達が阻害されることで、後々の脊髄や脳の成長が妨げられます。妊娠4カ月ころまでは脳のある程度の発育がみられるものの、妊娠5カ月ころから一度は形成されたはずの大脳、小脳のほか、生命の維持に重要な役割を果たす延髄などの脳幹が突然退化したり、発育が止まったります。

原因については、詳しく解明されていません。人種によって発現の頻度に差があるため遺伝的な要因が関係すると考えられているほか、妊娠初期における母体の栄養摂取の不足との因果関係も指摘され、飲酒や喫煙、薬剤、放射能被曝(ひばく)、ダイオキシなどが関与しているとも考えられています。

発現の頻度は、国によって異なり、アメリカでは出産1000人当たり1人程度。日本では1970年代から1980年代前半には出産10000人当たり10人程度であったものが、近年は出産10000人当たり1人程度に減少傾向を示しています。その理由として、胎児の超音波検査などの進歩に伴って出生前に診断される機会が増え、出産に至らないケースが増えてきている可能性が指摘されています。

人工的に出産を誘発する措置が行われない場合、開放性二分頭蓋の症状が現れた胎児が母胎内で死亡して流産となるケースは少なく、出産の時までは生命を維持します。しかし、脳幹も欠損して死産となる確率が約75パーセントで、残る新生児も出生直後に死亡し、ある程度脳が残存している場合は生後数日間生存します。

部分的に大脳皮質が形成されて機能し脳波が測定される場合は、生後1週間~2週間程度生存するものの、まれです。海外では、奇跡的に1年以上生存しているケースもありますが、日本では、そのようなケースはありません。

開放性二分頭蓋の新生児では、頭で帽子をかぶる部分に相当する頭蓋骨や頭頂部が大きく欠如し、大脳半球は通常欠如して全くないか、小さな塊に縮小しているため、頭蓋の基底面が露出するとともに、基底面に付着するように変性し、表面が薄い皮膜で覆われた脳の一部が露出しています。

顔貌(がんぼう)は特徴的で、前から見ると蛙(かえる)状です。そのほか、眼球の突出や欠如、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)を合併していることもあります。

延髄の下半分が存在していれば、嚥下(えんげ)や啼泣(ていきゅう)がみられ、音刺激、痛覚に反応を示します。正常な幼児が特有の刺激に応えて示す原始反射は、存在しており、腱(けん)反射は高進しています。

開放性二分頭蓋の胎児を身ごもった妊婦に関しては、妊娠中期までは母体に自覚症状があることはほとんどありませんが、妊娠後期に入ると羊水過多になる傾向があります。これは開放性二分頭蓋により脳幹にまで障害があり、嚥下運動ができなくなるためといわれています。

羊水は胎児にとって絶対に必要なものですが、多すぎると母体への負担が多くなります。ひどい場合は、腹が異常に膨らみ、呼吸器が圧迫されて呼吸困難にるケースもあります。妊娠後期の羊水過多症は早産の原因にもなるため、母体への負担を考えて、多くの場合で人工的に出産を誘発する措置が行われます。

潜在性二分頭蓋は頭蓋骨の欠損部から頭蓋内容物の一部が飛び出す奇形症

潜在性二分頭蓋は、頭蓋骨と硬膜の欠損があり、そこから頭蓋内容物の一部が脱出する奇形症。脳瘤(のうりゅう)とも呼ばれます。

先天性の脳奇形の一つで、新生児1万人に1人程度発生しています。原因は、胎児における遺伝子異常や、妊婦におけるビタミンB群の一種である葉酸欠乏が考えられています。

母胎内で、脳や脊髄などの中枢神経系のもとになる神経管が妊娠の4~5週ごろに作られ、その神経管が閉鎖した後に、脳組織の周囲にあって、頭蓋骨の一部を作る間葉(かんよう)組織の形成不全によって、頭を形作る骨格である頭蓋骨と、脳を取り巻く髄膜の1つである硬膜に欠損が生じ、頭蓋内容物の一部が頭蓋外へ脱出します。

脱出した頭蓋内容物には、脳組織が含まれている髄膜脳瘤や、脳組織が含まれず髄膜や脳脊髄液のみの髄膜瘤、髄膜と脳脊髄液と脳室が含まれる脳嚢(のうのう)瘤などがあります。小さな髄膜脳瘤などは、頭血腫という分娩(ぶんべん)の際に胎児の頭が強く圧迫されるために、頭蓋骨と髄膜との間に生じる血液の塊に類似しているものの、その基部に頭蓋骨の欠損が認められる点で異なります。

潜在性二分頭蓋の約9割は頭蓋円蓋部に発生し、残り約1割は頭蓋底部に発生します。通常、正中部に発生し、後頭部と鼻腔(びこう)を結ぶ線に沿うあらゆる部位から、頭蓋内容物の一部が脱出しますが、後頭部にできるケースがほとんどです。極めてまれに、前頭部または頭頂部に非対称的にみられることもあります。

頭蓋円蓋部や鼻腔前頭部に発生する潜在性二分頭蓋は外表上で認められやすく、鼻腔や副鼻腔内に発生する潜在性二分頭蓋は外表上では認められません。

まれに、後頭と頸椎(けいつい)の移行部に潜在性二分頭蓋が発生して、頸椎椎弓が欠損し、後頭部と背部が癒合して頸部が背側に過伸展する後頭孔脳脱出や、脳幹や小脳が脱出するキアリ奇形Ⅲ型を示すことがあります。

後頭部に発生する髄膜脳瘤では、小脳虫部欠損(ダンディー・ウォーカー症候群)や、ほかの脳形成異常を合併しやすく、脳組織の一部が頭蓋外へ脱出するため、約3割に頭蓋骨が先天的に小さく変形を伴う小頭症を合併します。脳形成異常、脳組織の大きな脱出、小頭症などは、発達や知能面での予後不良の誘因になります。

後頭孔脳脱出やキアリ奇形Ⅲ型の生命予後は、不良です。頭蓋底部に発生した潜在性二分頭蓋では、閉塞(へいそく)性の呼吸障害、脊髄液漏による反復性の髄膜炎などを示します。

潜在性二分頭蓋の位置、大きさよって、現れる症状はさまざまですが、重篤な奇形を合併していることが多く、過半数が自然流産するか、人工妊娠中絶を受けるかしており、仮に出生しても24時間以内に死亡します。

妊婦の超音波(エコー)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査で、胎児の潜在性二分頭蓋の診断がつくことがあり、髄膜脳瘤や髄膜瘤、脳嚢瘤などの位置、大きさによっては、出産後の手術による修復が可能なこともあります。

しかし、脳神経外科、小児外科、小児科、リハビリテーション科、整形外科、泌尿器科を含む包括的診療チームによる治療が必要ですので、このような体制の整った病院を受診するとよいでしょう。

出生前診断で発見された場合には、産道通過の際に胎児の髄膜脳瘤などが破れるのを予防する目的で、帝王切開を行う場合もあります。

二分頭蓋の検査と診断と治療

開放性二分頭蓋の検査と診断と治療

産科、産婦人科の医師による開放性二分頭蓋の診断は通常、分娩の前に超音波断層法を用いて行われます。胎児の超音波検査により、妊娠4カ月以降であれば、出生前診断が可能となります。また、羊水または母体の血清から血清蛋白(たんぱく)α-フェトプロテインが検出されます。

胎児が開放性二分頭蓋と確定した場合、多くはその時点で妊娠を継続するかどうかを選択することになります。その致死性の高さから、人工中絶を選択する妊婦が多く、出産まで進むケースはごくまれな状況となっています。

産科、産婦人科の医師による治療に関しては、残念ながら開放性二分頭蓋の胎児を母体の中で治療する方法はなく、自然治癒したケースもありません。

予防に関しては、原因に多因性があることと、遺伝子研究がその段階に至っていないことから、確実なものは発見されていません。

日本では、ビタミンB群の一種である葉酸が遺伝子の合成や細胞分裂に不可欠で、その摂取が開放性二分頭蓋や二分脊椎などの神経管閉鎖障害という先天性異常になるリスクを低減するとして、厚生労働省が2000年に、妊娠を希望している女性に対して、1日当たり0・4ミリグラム以上の摂取を推奨しています。ホウレン草などの緑黄色野菜、果物、レバー、卵黄、胚芽(はいが)、牛乳などに多く含まれる葉酸は、水溶性ビタミンで熱に弱く5割が調理でなくなってしまうので、サプリメントなどから摂取するのが効率的です。

潜在性二分頭蓋の検査と診断と治療

産科、産婦人科の医師による潜在性二分頭蓋の診断では、妊婦の超音波(エコー)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査で、診断がつくことがあります。

胎児が潜在性二分頭蓋と確定した場合、多くはその時点で妊娠を継続するかどうかを選択することになります。その致死性の高さから、人工妊娠中絶を選択する妊婦が多く、出産まで進むケースはまれな状況となっています。

脳神経外科、脳外科の医師による潜在性二分頭蓋の治療では、髄膜脳瘤や髄膜瘤、脳嚢瘤などが破れて細菌感染を来したり、脳出血やくも膜下出血を生じるのを防ぐために、手術で修復します。髄膜脳瘤などを脳血管から切り離すか、髄膜脳瘤などの中にコイルを詰めて大きくなるのを抑えます。

🇮🇶二分裂乳頭

乳輪の中にある乳頭が2つに分裂している状態

二分裂乳頭とは、乳房の先にある乳頭が生まれ付き2つに分裂している状態を指す症状。分裂乳頭、分裂乳首とも呼ばれます。

乳輪の内部に、乳頭が2つ並んでおり、2つがほぼ同じくらいの大きさの場合や、大きさがかなり異なる場合、2つともあるいは1つが通常の乳頭より大きすぎる場合、両側の乳房ともに乳頭が2つ並んでいる場合、片側の乳房だけに乳頭が2つ並んでいる場合など、症状はさまざまです。

生まれ付きのものがほとんどで、発生段階での個体差によるものと考えられていますが、二分裂乳頭になる理由はよくわかっていません。

また、一部は神経線維腫症Ⅰ型(レックリングハウゼン病)という特定の疾患に合併して起こることが知られていますが、極めてまれです。

しかし、女性には比較的多くみられる症状なので、特別珍しいということはなく、奇形でもありません。

見た目が気になるという問題と、授乳という機能的な問題が存在します。子供ができて実際に授乳を試みると、その形状や大きさのせいで乳児が乳頭をうまくくわえられないために、母乳育児を断念するということも少なくありません。

乳頭の分裂症状が明らかで目立つために、変形した乳頭を普通くらいの形状、大きさにして、授乳の際の支障を解消したいと望むのであれば、乳腺(にゅうせん)外科、形成外科、あるいは美容整形外科を受診し、手術によって整えることを考えてみてもよいのではないかと思われます。

二分裂乳頭の検査と診断と治療

乳腺外科、形成外科、美容整形外科の医師による診断では、二分裂乳頭は見た目にも明らかになることが多いので、視診、触診で判断します。

乳腺外科、形成外科、美容整形外科の医師による治療では、乳頭の一部を切除して、二分裂した乳頭を1つに縫合して一体化し、通常の乳頭の形状にする手術を行います。左右両側の場合でも、左右どちらかの場合でも問題なく手術でき、左右の乳頭のバランスを見ながらデザインして、乳頭を形成します。

乳管をできるだけ温存し、なおかつ見栄えよく通常の乳頭に近い形状に整えることが理想的ですが、場合によっては乳管を温存できない、または一部分しか温存できないこともあります。また、完全に真ん丸な形の乳頭にすることが難しく、ややいびつさが残ることもあります。

乳管がある程度温存できていて、そこそこ丸みのある乳頭に整えることができれば、授乳が可能です。それらの条件を満たせない場合には、授乳が困難になる可能性があります。

乳頭が二分裂しているだけでなく、大きさが気になっている場合、二分裂乳頭の修正手術と同時に、乳頭の大きさを縮小するデザインで手術することもできます。

乳頭が二分裂しているだけでなく、乳頭や乳輪の黒ずみが気になっている場合、色を薄くするデザインで手術することもできます。黒ずみの原因はメラニン色素の沈着によるものなので、トレチノインやハイドロキノンなどの軟こう薬でメラニン色素を脱色して、色を薄くします。乳頭縮小手術の前に脱色することもできますし、乳頭縮小手術の後に脱色することもできます。

🇯🇵日本紅斑熱

日本紅斑熱リケッチアを保有するマダニに刺されることによって、引き起こされる感染症

日本紅斑熱(こうはんねつ)とは、細菌の一種である日本紅斑熱リケッチア(リケッチア・ジャポニカ)を保有するマダニ類に刺されることによって、引き起こされる感染症。

森林や野山に入り、この日本紅斑熱リケッチアを持ったキチマダニ、フタトゲチマダニ、ヤマアラシチマダニ、ヤマトマダニなどのマダニ類に刺されることによって、日本紅斑熱に感染します。感染時の行動は、農作業や森林作業のほか、山登り、散歩などさまざまで、住居の周りで感染したと考えられるケースもあります。

1984年に徳島県で発見された新興感染症で、高熱と紅斑を伴う疾患が3例続いて発生し、その症状と刺し口などから当初はダニ類のツツガムシが媒介するツツガムシ病が疑われましたが、ワイル・フェリックス反応と呼ばれる患者の血清中に生じる抗体を利用した検査法を用いて鑑別した結果、これまでに知られていない紅斑熱群に分類されるリケッチアによる感染症であることが明らかになり、日本紅斑熱と名付けられました。

1986年に病原体が分離され、日本紅斑熱リケッチアと名付けられました。1999年には、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の制定に伴って、日本紅斑熱は四類感染症に指定されました。2012年の春には、治療薬の保険適用が認められました。

1984年の発見以降、西日本の太平洋沿岸を中心に温暖な地域で発生がみられていたものの、近年では日本海側や東北地方にも発生が広がり、全国32都府県で患者が報告されています。患者の届け出は、1994年までは年間10〜20名程度で推移し、1995年以降は年間40〜60名程度に増加し、2007年には98名、2011年には過去最高の178名を記録したほか、2011年までに5名の死亡例があります。

発生時期をみると、1998年以前は7~9月をピークに4~11月の間に発生がみられ、夏を中心に発生するといわれていました。しかし、1999 年以降は4月~10月に継続して多くの発生がみられ、さらに3月、11月、12月にも発生がみられています。

一般に森林性のマダニ類は、その一生を通じて1〜3回のみ、シカや野ネズミなどの哺乳(ほにゅう)類や鳥類などの温血動物から吸血を行い、その栄養を元にして、幼虫から若虫への脱皮、若虫から成虫への脱皮、交尾と産卵を行います。この吸血の際に、日本紅斑熱リケッチアを保有するダニ類から吸血された動物に伝達されます。その一方で、吸血された動物が日本紅斑熱リケッチアを保有している場合に、保有していないダニ類が吸血すると日本紅斑熱リケッチアに感染し、ダニが有毒化します。加えて、紅斑熱群に分類されるリケッチアは、親ダニから卵への経卵感染(垂直感染)も起こすことが知られており、生まれながらにして有毒なダニも存在しています。

日本紅斑熱リケッチアを保有するマダニ類が吸血のため人を刺すと、体内にリケッチアが侵入して感染します。人から人には感染しません。

2~8日の潜伏期間を経て、頭痛、全身倦怠(けんたい)感、39~40度以上の高熱、悪寒、関節痛、筋肉痛などを伴って発症します。高熱の後にやや遅れてて、米粒大から小豆大の紅斑が四肢や手のひら、顔面に現れ全身に広がります。この紅斑に、痛みやかゆみはありません。リンパ節腫脹(しゅちょう)はあまりみられません。

注意深く全身を探すと、腹部か背部、外陰部、大腿(だいたい)部など隠れた部分の皮膚に、ダニ類の刺し口が見付かり、通常は1〜2週間ほどの期間見られます。しかし、刺し口が小さい場合には、数日で消えたり、頭部など体毛で覆われた部分を刺された場合には、刺し口が見付けづらいこともあります。

重症例で治療が遅れると、全身の血管内で血液が固まってしまう播種(はしゅ)性血管内凝固症候群(DIC)や、多臓器不全が引き起こされ、死亡することもあります。

なお、日本紅斑熱は日本特有の疾患ですが、同様の紅斑熱群リケッチア症は広く世界に分布しており、輸入感染症としても重要です。代表的な紅斑熱群リケッチア症は、北米大陸にみられるロッキー山紅斑熱、ユーラシア大陸にみられるシベリアマダニチフスやボタン熱、地中海沿岸にみられる地中海紅斑熱、オーストラリアにみられるクインズランドダニチフスなど。

野外での作業、レジャーなどから帰って数日から8日前後で、発熱、発疹などが認められた場合には、できるだけ早い時期に内科、感染症内科、皮膚科を受診して、日本紅斑熱あるいはツツガムシ病に感染した可能性があることを告げ、検査、治療を受けて下さい。

日本紅斑熱の検査と診断と治療

内科、感染症内科、皮膚科の医師による診断では、一般検査で、細菌などに感染すると血液中で一気に増えるCRP(C反応性タンパク)強陽性、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)およびALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)などの肝酵素の上昇、白血球や血小板の減少がほとんどの例にみられます。

確定診断は、主に間接蛍光抗体法または間接免疫ペルオキシダーゼ法という方法によって、日本紅斑熱リケッチアに対する血清抗体価の4倍以上の上昇、またはIgM(免疫グロブリンM)抗体の有意の上昇を測定することで行われます。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法などによって、日本紅斑熱リケッチアの遺伝子の検出も行うこともあります。

検査所見はツツガムシ病のものと類似するため、鑑別が必要となります。ツツガムシ病との鑑別は難しいものの、一般にツツガムシ病ではリンパ節腫脹がしばしば見られることや、ツツガムシ病では発疹が四肢よりも体幹部に多く見られること、ツツガムシ病のほうが刺し口の中心部の黒色痂皮(かひ)部(かさぶた)がしばしば1センチメートル以上と大きい傾向があることなどの点で、違いが現れることがあります。

内科、感染症内科、皮膚科の医師による治療では、症状から日本紅斑熱が疑われたら、早期にテトラサイクリン系の抗菌薬(抗生物質)を点滴静脈内注射か内服で投与することが最も有効です。テトラサイクリン系とニューキノロン系の2種類の抗菌薬の併用投与も行われています。

細胞壁がペプチドグリカンを持たないというリケッチアの生物学的特性のため、ペニシリンを始めとするβ—ラクタム系抗菌薬は無効です。

日本紅斑熱の予防ワクチンはないため、キチマダニ、フタトゲチマダニなどのダニ類に刺されないことが、唯一の感染予防法です。

そのポイントは、森林作業や農作業、レジャーなどで、草むらややぶなどダニ類が多く生息する場所に入る時は、肌をできるだけ出さないように、長袖(ながそで)、長ズボン、手袋、足を完全に覆う靴などを着用することです。また、肌が出る部分には、人用の防虫スプレーを噴霧し、地面に直接寝転んだり、腰を下ろしたりしないように、敷物を敷きます。森林や野山などから帰宅後は衣類を家の外で脱ぎ、すぐに入浴し体をよく洗って、新しい服に着替えます。

万が一マダニ類に刺され、吸着された時は、つぶしたり無理に引き抜こうとせず、入浴して体をよく洗って注意深く取り除くか、医療機関で処理してもらうことです。

🇯🇵日本住血吸虫症

日本住血吸虫が感染して引き起こされる寄生虫病

日本住血吸虫症とは、吸盤を持った日本住血吸虫が門脈という血管の中に生息することによって、引き起こされる寄生虫病。

この日本住血吸虫という名前は、日本での研究が盛んだっことに由来していて、世界で唯一住血吸虫を撲滅した国でもあります。かつては甲府盆地、利根川流域、広島県片山地方、九州の筑後川流域などが流行地として知られていましたが、1978年以来新しい発症者は出ておらず、すでに絶滅したと考えられています。しかし、中国やフィリピン、インドネシアなどの東南アジアでは、いまだ多くの発症者が出ています。

また、日本住血吸虫症を含む住血吸虫症になると、世界中で2億人が発症していると推定され、マラリアやフィラリアとともに世界の3大寄生虫病の1つとされています。

日本住血吸虫の成虫は、オスが1.2〜2.0センチ、メスが 1.5〜3.0センチの体長で、細長く、人間などの寄生する動物、すなわち宿主(しゅくしゅ)の小腸から肝臓へつながる静脈血管である門脈の中に生息して、 宿主の赤血球を食べています。 成虫の寿命は通常3~5年ですが、まれには30年の長きに渡ることもあります。

日本住血吸虫は一生のうち、何度も姿を変えます。成虫が寄生している門脈で産み落とされた虫卵は、糞便(ふんべん)とともに水中に流出すると、虫卵の中でミラシジウムが活発に動き、卵のからを破って水中に泳ぎ出します。ミラシジウムは中間宿主で、湖沼や低湿地に生息する巻貝の一種、ミヤイリガイの皮膚から侵入し、その体内で成長します。中間宿主とは普通、寄生虫の幼虫を宿す宿主で、この体内で寄生虫は無性生殖を行います。中間宿主がないと、寄生虫は生きていくことができません。

長さ5ミリほどのミヤイリガイに侵入したミラシジウムは、スポロシストという姿になり、貝の中で2世代を過ごします。2世代目のスポロシストは、セルカリアという姿に成熟します。セルカリアは2つに枝分かれした尾を持ち、貝から水中に出て泳ぎ回り、終宿主である人間などの動物が水中に入ってくると、蛋白(たんぱく)質を溶かす酵素を使って皮膚を溶かしながら体内に侵入します。終宿主とは普通、寄生虫の成虫を宿す宿主で、この体内で寄生虫は有性生殖を行います。

皮膚から侵入する時に尾を切り捨て、セルカリアは血液に乗って体内を移動します。心臓から肺に行き、それから再び心臓に戻り、大循環によって門脈に達した後、そこで成虫になるまで過ごします。セルカリアが人に侵入してから成虫になるまで、およそ40日ほどかかります。

成虫は門脈系の細い血管に行き、そこで産卵を行います。産卵された虫卵は、体内のさまざまな部位に運ばれます。腸管内に運ばれたものは、糞便と一緒に体外に排出されます。また、肝臓や脳に運ばれるものもあります。

日本住血吸虫症の症状としては、まずセルカリアが皮膚より侵入した時に、かゆみのある皮膚炎を起こします。侵入から5~10週の間、セルカリアが体内を移行することによって、せき、発熱、ぜんそく様発作、リンパ腺(せん)炎などが起こり、時に肝臓や脾(ひ)臓がはれることもあります。

侵入後10~12週で、虫体が成熟して産卵が始まると、発熱、腹痛、下痢などの症状が現れます。虫卵が肝臓に流入した場合には、虫卵が血管を詰まらせて炎症を起こし、最終的に肝硬変になることもあります。肝硬変になると、腹水がたまり、腹部がはれてきます。多くの虫卵が血管を通って脳に流入した場合には、てんかん様発作、頭痛、運動まひ、視力障害などのさまざまな症状が現れます。

日本住血吸虫症で一番恐ろしいのは、肝臓や脳に対する症状で、悪化すると死に至ることも少なくありません。

日本住血吸虫症の検査と診断と治療

医師による確定診断は、肝生検あるいは直腸粘膜の生検によって、組織中に虫卵を確認することによってなされます。現在の日本の発症者の多くは、過去に感染していてもすでに炎症は消退し、古くなった虫卵は石灰化しています。超音波検査やCTでは、肝臓の表面は特徴的な亀甲(きっこう)状あるいは網目状の肝硬変像を示し、石灰化した虫卵と線維化がみられます。

治療においては、駆虫剤のプラジカンテルの内服が有効ですが、副作用があるので注意します。過去に感染している場合には、肝硬変や肝細胞がんの合併があり得るので、画像診断による経過観察が行われます。

予防法としては、セルカリアのいる水に接触することにより感染が成立するので、汚染された水に直接触れないことに尽きます。しかし、日本住血吸虫が撲滅されていない外国で漁業や農業をする人は、水に直接触れることを避けられないので、予防は大変困難です。

日本住血吸虫症を根本的に撲滅するためには、中間宿主であるミヤイリガイの数を減らす必要があります。日本では、さまざまな殺貝剤をまいたり、水路をコンクリートに変え、ミヤイリガイが繁殖しにくいような環境にすることによって、撲滅に成功しました。汚染地域が比較的限られていた日本と異なり、外国では汚染地域が広大であり、ミヤイリガイの撲滅は簡単ではありません。

なお、甲府盆地などではミヤイリガイがいまだ多数生息しており、これらは中国やフィリピンの日本住血吸虫にも感受性があるため、人間や動物の移動に伴って外国産の日本住血吸虫が侵入した場合、国内で寄生虫病が再興する可能性も否定することはできません。

🇯🇵日本脳炎

蚊に媒介され、日本脳炎ウイルスによって起こる感染症

日本脳炎とは、主にコガタアカイエカによって媒介され、日本脳炎ウイルスによって起こるウイルス感染症。重篤な脳炎、髄膜炎症状を呈します。

日本脳炎ウイルスは、フラビウイルス科に属するウイルスで、1935年に人の感染脳から初めて分離されました。人から人への感染はなく、ブタなどの動物の体内でウイルスが増殖された後、そのブタを刺したコガタアカイエカなどの蚊が人の皮膚を刺すことによって、感染が成立します。

日本脳炎は、東アジアから東南アジア、南アジアにかけて広く発生し、アジア以外のパプアニューギニア、オーストラリアでも発生が報告されています。年間3~4万人が発症していると見なされますが、日本と韓国ではワクチンの定期接種によりすでに流行が阻止されています。

日本では、1966年の2017人をピークに減少し、1992年以降の発症数は毎年10人以下であり、そのほとんどが中高齢者。地域的には、80パーセント近くが九州、沖縄、中国、四国で発生しています。

厚生労働省では毎年夏に、ブタの日本脳炎ウイルス抗体獲得状況から、間接的に日本脳炎ウイルスの流行状況を調べています。それによると、毎夏日本脳炎ウイルスを持った蚊は発生しており、国内でも感染の機会はなくなっていません。

感染しても、日本脳炎を発症するのは100~1000人に1人程度と見なされてきており、大多数は無症状の不顕性感染に終わります。

潜伏期は6 ~16日間とされ、典型的な症例では、数日間の高い発熱、頭痛、悪心、嘔吐(おうと)、めまいなどで発症します。小児では腹痛、下痢を伴うことも多くみられます。これらに引き続いて急激に、首の硬直、光線過敏、種々の段階の意識障害とともに、中枢神経系障害を示す症状、すなわち筋強直、脳神経症状、不随意運動、振戦、まひ、けいれん、病的反射などが現れます。

死亡率は20~40パーセントで、幼小児や高齢者では死亡の危険が大。後遺症は生存者の45~70パーセントに残り、小児では特に重度の障害を残すことが多くなります。パーキンソン病様症状やけいれん、まひ、精神発達遅滞、精神障害などです。

日本脳炎の検査と診断と治療

日本脳炎ワクチン未接種者や不完全接種者で、6月〜10月に発生した脳炎発症者の場合には、日本脳炎を考慮する必要があります。 

医師による診断は、腰椎(ようつい)に針を指して脳脊髄(せきずい)液を採取する髄液検査や、血液検査などにより、ウイルスや、ウイルス遺伝子、ウイルスに対する抗体の検出で確定されます。しかし、検出される日本脳炎ウイルスは一過性であり、極めて少量なため、髄液や血液からのウイルスの検出は非常に難しく、臨床診断に頼らざるを得ない面があります。

日本脳炎は4類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出ます。

いったん日本脳炎を発症すると、特効薬は全くありません。症状が現れた時点で、すでにウイルスが脳内に達し脳細胞を破壊しているため、将来ウイルスに効果的な薬剤が開発されたとしても、一度破壊された脳細胞の修復は困難と見なされます。日本脳炎の予後をピーク時と比較しても、死亡例は減少したものの全治例は約3分の1とほとんど変化していないことから、治療の難しさが明らかです。

対症療法が中心となり、高熱とけいれんの管理を行います。脳浮腫(ふしゅ)は重要な因子ですが、大量のステロイド剤の投与は一時的に症状を改善することはあっても、予後、死亡率、後遺症などを改善することはないとされています。

従って、日本脳炎は予防が最も大切な疾患で、その予防の中心はワクチンの予防接種と蚊の対策。日本脳炎の不活化ワクチンが予防に有効なことは、すでに証明されています。実際、近年の日本脳炎の発症者のほとんどは、予防接種を受けていなかったことが判明しています。

子供への日本脳炎の定期予防接種は、従来のワクチンによる急性散在性脳脊髄炎(ADEM)などの重い副作用があり、平成17年から事実上中断していました。しかし、年間数例発症していることから、平成21年2月に承認された新型ワクチンを使用して、平成22年春から再開されます。

従来のワクチンは、日本脳炎ウイルスを感染させたマウスの脳の中でウイルスを増殖させて、高度に精製し、ホルマリン等で不活化、すなわち病原性をなくしたものです。新型ワクチンは乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンといわれ、マウス脳の代わりにVero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞)の中でウイルスを増殖させ、得られたウイルスを採取し、ホルマリンで不活化したものです。

予防接種法に基づく定期予防接種は、生後6カ月以上~7歳半未満(第1期)に3回、9歳以上~13歳未満(第2期)に1回の計4回のスケジュールで行われる予定。接種を一度も受けていない子供が多いとみられる3~7歳については、優先的に接種されます。9歳以上の接種については、有効性、安全性が確立されていないため、現時点では定期接種は困難とされています。

なお、日本脳炎は定期の予防接種の対象疾患となっていますが、その発生状況などを検討して、予防接種を行う必要がないと認められる地域を都道府県知事が指定することができるようになっています。これを踏まえて従前より、北海道のほとんどの地域では、日本脳炎の予防接種は実施されていません。

蚊の対策としては、日本脳炎ウイルスを媒介するコガタアカイエカは日没後に活動が活発になるとされていますので、このような時間帯に戸外へ出掛ける必要がある時には、念のためできる限り長そで、長ズボンを身に着けたり、露出している皮膚に蚊除け剤を使用したりします。

また、コガタアカイエカは水田や沼地など大きな水域で発生するので、住宅の周囲に発生源がある場合は、夜間の外出を控え、蚊が屋内に侵入しないように網戸を使用したり、夜間の窓や戸の開閉を少なくしたり、蚊帳を利用したりします。

💅二枚爪

爪の甲の先端の部分が、薄く層状にはがれたり、割れたりしていく状態

二枚爪(にまいづめ)とは、爪の甲の先端部分が薄く層状にはがれたり、割れたりしていく状態。爪甲(そうこう)層状分裂症とも呼ばれ、爪甲剥離(はくり)症の一種に分類されています。

爪の甲は三枚の層からなっており、表面を覆う第一層のエナメル質や第二層が少しずつはがれたり、割れたりしていく二枚爪は、さほど珍しくはなく、女性によく起こる一般的な爪のトラブルです。

痛みはありませんが、爪の先端がもろくなるため、外見上に問題が出てきます。また、一度治っても、何度も同じ症状が現れることがよくあります。

二枚爪になる原因は、いくつかあります。

まず、爪の乾燥が原因になります。つまり、爪の甲の水分含有量が低下することによって生じるため、日本では空気が乾燥している冬に二枚爪になりやすいといえます。正常な爪の甲の水分含有量は16パーセントほどですが、爪は成長するに従い、先端に向かって伸びていくと水分量は減っていき、爪の甲の先端部分の水分含有量が12パーセント以下になると、二枚爪が起りやすくなります。

また、水仕事の多い主婦、手の爪に施すマニキュアや、足の爪に施すペディキュア、除光液(エナメルリムーバー)を使用する機会の多い女性では、爪の甲の水分保持能力が低下して、二枚爪が起こりやすくなります。洗剤や、マニキュアなどを落とす除光液に含まれるアセトンが外的刺激になって、二枚爪を誘発することになります。

次に、食事での栄養バランスの偏りやダイエットなどで蛋白(たんぱく)質不足になることが、二枚爪の原因になります。爪の主成分は蛋白質の一種のケラチンなので、体調が悪かったり栄養バランスが悪いと、爪の色が変色したり線が入ったり、二枚爪になります。

偏った食生活や過度なダイエットによって鉄欠乏性貧血になり、これが原因で二枚爪になることもあります。血行不良や、甲状腺(こうじょうせん)機能高進症の発症も、二枚爪の原因になります。

爪切り、爪やすりの使いすぎ、間違った使い方の継続が、二枚爪の原因となる場合もあります。爪切りなどを使用したショックで、三枚の層からなっている爪に目に見えないヒビが入り、何か力が加わった時に二枚爪になったりします。

水をよく使ったり、指先の細かい操作を必要とする職業も、二枚爪の原因になります。職業は、料理人、理髪師、美容師、庭師、パソコンのオペレーター、ギタリスト、ピアニストなど。

二枚爪の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、爪の甲の先端部分に層状の剥離を起こし得る外的物質や薬品、あるいは皮膚疾患や全身疾患を検査して、原因がわかるようであれば、それを除去ないし治療します。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、一般的には、爪の角質に浸透しやすい保湿剤やステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)をこまめに塗ったり、ビタミンEの飲み薬を使用する場合があります。

爪の乾燥が原因で二枚爪を発症している場合は、日常生活で爪の乾燥を避けるようにしてもらいます。例えば、水仕事の多い人は、水を使う回数を減らしたり、使い終わったらきちんと水分をふき取り、保湿剤を塗ることです。

蛋白質不足が原因の場合は、まずは爪に必要な栄養をしっかり摂取してもらいます。いくら爪の保湿ケアを行っていても、栄養不足のままでは二枚爪を繰り返すだけなので、蛋白質、コラーゲン、さらに野菜や海藻類に多く含まれるミネラル類をしっかり摂取してもらいます。

鉄欠乏性貧血が原因の場合は、鉄剤を内服してもらったり、食べ物やサプリメントから鉄分を摂取するように心掛けてもらいます。ただし、手の爪が新しくなるまでに3カ月~6カ月かかりますので、すぐに効果を実感することは難しいでしょう。

血行不良や甲状腺機能高進症が原因の場合は、その治療を行えばよくなります。

日常では、保湿剤などを使ったネイルケアにより治療、ないし予防することが、重要となります。爪も皮膚の一部であり、主に蛋白質の一種のケラチンが角質を構成しているのですから、マニキュア、除光液、洗剤などを使いすぎるとダメージを受けるので、その使用を控えます。

爪切り、爪やすりの使いすぎ、間違った使い方で二枚爪になることもあるので、まずは使用をやめます。入浴後や指を温めるなどした後に、紙やすりで丁寧に爪の甲の先端部分を削り、爪にハンドクリームやキューティクルオイルなどの保湿剤を塗って、擦り込むようにマッサージします。

足の爪は爪切りで切っても構いませんが、その後で爪の先を紙やすりで削って形を整え、爪にハンドクリームやキューティクルオイルなどの保湿剤を塗って、擦り込むようにマッサージします。また、足の爪の伸ばしすぎも爪の先に衝撃を与える原因になったりしますので、適度な長さを保ちます。

二枚爪の進行中は、水仕事の際にはゴム手袋の着用を心掛けます。

🇮🇶乳暈炎

乳暈の皮膚が過敏になって炎症を起こし、湿疹、ただれ、かゆみが生じる状態

乳暈(にゅううん)炎とは、女性の乳暈に湿疹(しっしん)や、ただれが生じ、かゆみを伴っている状態。乳輪炎とも呼ばれます。

乳首、すなわち乳頭の周囲を取り囲む輪状の部位で、4センチから5センチが標準的な大きさである乳輪、すなわち乳暈には、多くの皮脂腺(せん)があり、皮脂腺から分泌される皮脂によっていつも保護されているのですが、皮脂の分泌の減少などによって皮膚が乾燥して過敏になると、炎症が起こることがあります。ここに主に黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、時には大腸菌、緑膿(りょくのう)菌などの細菌が入り、感染すると化膿が起こることがあります。

また、母乳をつくる乳腺が発達する思春期の女性では、ホルモンのバランスが不安定になって、乳頭から分泌液が出現し、乳暈炎や乳頭炎になることもあります。

乳暈炎になると、湿疹や、ただれが生じ、かゆみを伴います。はれが認められることもあります。

大体は、両側に症状が現れます。かゆみを伴うため、無意識のうちにかいてしまって悪化したり、治ってもまた再発し、繰り返すこともあります。下着のサイズや形が合っていないために、乳首や乳暈が下着と擦れ合い、炎症を繰り返すこともあります。また、化膿している状態であれば、下着にくっ付き、かさぶたのようになることもあります。

乾燥肌、アトピー性皮膚炎、陥没乳頭の女性が、乳暈炎、乳頭炎になりやすいとされています。

乳暈炎になった場合には、化学繊維でできた下着を着用していたならば、木綿やシルクなどの自然素材でできた下着に替えて、症状が治まるかどうか確かめます。また、患部を軟こうで覆い、下着と擦れ合わないようにガーゼ付きのばんそうこうなどで保護して、経過を観察すればよいでしょう。

それでも症状が改善しない場合には、皮膚科、ないし婦人科、乳腺科を受診することが勧められます。

乳暈炎、乳頭炎とよく似た症状が、乳房パジェット病よって引き起こされることがまれにあります。乳房パジェット病は、乳がんの特殊なタイプであり、乳暈炎、乳頭炎と同じように湿疹、ただれ、かゆみを伴います。そして、乳がん全体の1~2パーセントを占めるという非常にまれな疾患のため、見落とされがちです。発症年齢は乳がんよりやや高く、50歳代の女性に最も多くみられます。

症状としては、ヒリヒリとした痛みを伴う場合もあり、乳頭からの分泌物や出血もみられる場合もあります。通常の乳がんのようにしこりを触れることはないので、急性湿疹やたむしなどの皮膚病と間違えられやすく、乳がんの一種とは思われないこともあり注意が必要です。

進行すると、表皮が破れてただれ、円状に乳頭や乳暈を超えて拡大したり、乳頭が消失してしまうこともあります。

しかし、長期に放置したとしても進行する速度が遅いので、乳腺内のがん細胞が表皮内に浸潤することはまれであるとされています。早期に治療すれば予後は良好ながんで、転移が確認されなければ心配はないといわれています。

乳暈炎の検査と診断と治療

皮膚科、婦人科、乳腺科の医師による診断では、視診、触診で判断し、マンモグラフィー(乳房X線撮影)、超音波(エコー)などで検査することもあります。

乳房パジェット病との鑑別が必要な場合は、顕微鏡で乳頭分泌物やかさぶたなどの細胞を見る細胞診で、パジェット細胞という特徴的な泡沫(ほうまつ)状の細胞が認められるかどうか調べます。

皮膚科、婦人科、乳腺科の医師による治療では、乳暈(乳輪)、乳頭(乳首)を清潔に保ち、塗り薬を使用します。

細菌の感染があれば、抗生物質入りの軟こうを塗り、感染がなければ、ステロイド剤などの軟こうを塗り、落ち着いたら保湿剤を塗ります。

乳房パジェット病の場合は、早期の乳がんと同じ治療法を適応し、病変部だけを切除して乳房を温存するケースと、乳房全体を切除するケースとがあります。検査の段階で病変が乳腺レベルにとどまっている場合は、美容的な観点を考慮して、放射線治療を併用しての乳房温存療法が選択される可能性が高くなりますが、進行程度や広がり具合によっては、乳房全体を切除するケースや乳頭を切除しなければならないケースもあります。

🇮🇷乳管炎

乳管が詰まりかけたり、詰まることによって起こる炎症

乳管炎とは、女性の乳房全体に張り巡らされ、乳腺(せん)で作られた母乳を乳頭へ運ぶ管である乳管が炎症を起こす疾患。授乳中の女性に起きます。

乳首が傷付いて、乳首にある乳管開口部から細菌が感染して炎症が起きる乳口炎から広がって、乳管炎になったり、乳管が直接、詰まりかけたり、詰まることによって炎症を来して乳管炎になったりします。

直接、乳管炎になるのは、乳児に母乳を与える間隔が空きすぎて、たまった古い母乳が絹糸くらいの細さの乳管に詰まるケースや、授乳中の女性が脂質や糖質の多い高カロリーの食事を続けているために、血液中の脂肪分が増えすぎて乳管に詰まるといったケースです。

乳頭に赤いはれができたり、水膨れができます。授乳の際に、乳児に乳首周辺をくわえられると、乳房の深い部分まで響くような強い痛みを感じます。

炎症が乳管を通して深部に広がると、乳房の中にしこりができたり、炎症がひどくなると発熱や全身の筋肉痛などといった状態になってしまう可能性があります。

乳管炎の症状がひどいと、母乳を分泌する乳腺に炎症が起こる乳腺炎に移行することがあります。

一時的に授乳をやめ、乳頭を強い力でしごかない搾乳に切り替えると状態がよくなります。それでも痛みがひどいようなら、婦人科、乳腺科、産婦人科を受診します。

乳管炎の検査と診断と治療

婦人科、乳腺科、産婦人科の医師による診断では、乳管炎は見た目にも明らかになることが多いので、まず視診、触診で確認します。

次に、白血球の増加やCRP(C反応たんぱく)値の上昇をみるための血液検査や、超音波(エコー)検査などを行います。膿(うみ)がたまっていることが確認できれば、そこから膿を採取し培養により起因菌を調べ、抗生剤(抗生物質)の感受性検査を行います。また、症状が似ている炎症性乳がんと区別するために、細胞診断を行います。

婦人科、乳腺科、産婦人科の医師による治療では、抗生剤(抗生物質)を内服したり、状況により鎮痛薬を内服します。

また、乳房を冷却し、刺激を与えずに安静を保ちます。痛みが少し和らいできたところで、母乳の通り道を確保するために軽いマッサージを始め、搾乳も少しずつ始め、定期的に搾乳を続けることで、必要以上に母乳をためこまないようにします。

授乳を再開する場合は、セルフケアを行います。まず、授乳前と授乳後に必ず乳管開通のマッサージを行い、授乳後に搾乳をします。しこりの部分はもみほぐしたりせず、しこり部分を手で軽く押さえるようにして排乳します。

次に、乳児が乳首の根元からしっかりくわえられるような抱き方を探し、例えば、いつも同じ抱き方はせずに、フットボール抱き、横抱き、斜め抱き、縦抱きなどいくつかの抱き方をローテーションで行うと、母乳の詰まりを解消できます。

さらに、間隔を空けすぎると母乳がたまって、乳房が張ってしまい、乳管への負担が大きくなりますので、授乳間隔を空けないようにします。最低でも3時間に1回は授乳をして、乳児の昼寝などで間隔が長く空いてしまいそうなら、力をかけすぎないように搾乳をしておきます。

食生活を見直すのも効果的。母乳が詰まる原因につながる脂質や糖質の多い食事、乳製品は控え、できるだけ薄味の和食に慣れるのがお勧めです。ジュースやスポーツドリンクにも多くの糖分が含まれており、大量に飲むと、母乳の詰まる原因となります。水分量が減るのも母乳が詰まる原因につながるので、授乳期にはカフェインが少なめの麦茶や番茶などをたくさん飲むのがお勧めです。

🇮🇷乳管拡張症

乳汁の通り道となる乳管が病的に拡張する疾患

乳管拡張症とは、乳腺(にゅうせん)から分泌される乳汁(母乳)の通り道となる乳管が異常に拡張する疾患。

比較的まれな疾患で、40歳代から50歳代にかけての更年期の女性に多くみられます。

主な原因は、乳腺の分泌異常によるもので、乳管内に分泌物などがたまり、それによって乳管が拡張します。そのほかの原因には、乳管周辺の炎症や、乳がんや乳管内乳頭腫(しゅ)などの腫瘍(しゅよう)からの出血があります。

ほとんどの場合、症状が出ることはありません。時に、非周期性の乳腺痛、乳頭からの異常分泌液、乳頭の陥没、乳輪下のしこり、皮膚のただれ、へこみ、痛みなどを認めることがあります。

乳管周辺が炎症を起こしたり、乳がんなどの腫瘍が関係している場合、乳頭から茶褐色、あるいは血液や膿(うみ)が混じった分泌液が出たり、しこりができたりします。しこりに触れると硬く、境界が不明瞭で乳がんに類似しており、その横のわきの下に、はれたリンパ節を触れることがあります。

乳管拡張症になっても多くは自覚症状がないため、気付かずにいる人が少なくなく、検診などの超音波検査で発見されるという場合が少なくありません。

大抵の乳管拡張症は良性ですが、乳がんに発展しかねない悪性のものもありますので、乳腺科、乳腺外科、ないし産科、婦人科、産婦人科を受診することが勧められます。

乳管拡張症の検査と診断と治療

乳腺科、乳腺外科、産科、婦人科、産婦人科の医師による診断では、まず問診や視診、触診によって、乳房の状態を調べます。

続いて、乳管拡張が治療を必要とする状態かどうかや、腫瘍の関連の有無を調べるために、マンモグラフィー(乳腺X線検査)や超音波(エコー)、MRI(核磁気共鳴画像)検査、CT(コンピュータ断層撮影法)検査、乳頭異常分泌液の細胞検査、細菌検査などを行うこともあります。

乳腺科、乳腺外科、産科、婦人科、産婦人科の医師による治療では、乳管が拡張しているだけであれば、経過観察を行います。

乳頭からの異常分泌液を認めたり、乳管内にしこりがある場合は、外科手術によって拡張した乳管を切除することがあります。この切除手術は、局所麻酔で行います。

また、悪性腫瘍の関連が認められた場合は、外科手術によって腫瘍などを取り除くとともに、放射線療法、抗がん剤による化学療法などを組み合わせて行います。

🇮🇷乳管内乳頭腫

乳管内にできる、いぼのような良性のしこり

乳管内乳頭腫(にゅうかんないにゅうとうしゅ)とは、女性の乳房全体に張り巡らされ、乳腺(せん)で作られた母乳を乳頭へ運ぶ管である乳管内に、いぼのような乳頭状の構造を持った良性のしこりができる疾患。

乳管内乳頭腫は、乳頭(乳首)近くの比較的太い乳管内に発生することが多いものの、末梢(まっしょう)乳管から発生することもあります。乳管内の血管結合組織を軸とした上皮細胞と筋上皮細胞が増殖してできます。

乳管内乳頭腫ができる明らかな原因は、不明です。しかし、ほとんどの例でホルモン受容体が陽性なので、卵巣ホルモンが何らかの影響を与えているものと思われます。また、乳頭腫は高率に乳腺症に合併するので、年齢的な要因も関係している可能性があります。通常、35歳から55歳の間に発症することが多く、出産経験のない女性に多いとされています。

乳管内乳頭腫そのものががん化するとは考えられていませんが、将来的に乳がんになるリスクが高まるといわれているので、その点は注意が必要になります。

多くの例で、乳頭から分泌物が出るのが自覚症状となります。分泌物の性状は、血性のことが5割、粘り気の少ない漿液(しょうえき)性のことが5割で、水のように透明なこともあります。分泌物の色も、赤色、赤褐色、茶褐色、白色、透明などさまざまです。分泌物の量にも個人差があり、下着に付着する程度から、大量に乳汁のように分泌するものまでさまざまです。

しこりの大きさは、数ミリから1センチ程度で、乳房を触ってもしこりを感じることは少なく、痛みもありません。分泌物が乳腺内にたまると、腫瘤(しゅりゅう)として触れるものもあります。

乳管内乳頭腫は、乳がんとの関連が深い疾患ですから、乳頭の異常分泌に気付いたら、乳腺科、乳腺外科、外科などを受診します。特に閉経期あるいは閉経後では、症状のよく似た乳がんとの区別が重要です。また、最近では乳がん検診の際に、超音波(エコー)検査で腫瘤として発見されることも多くなってきました。

乳管内乳頭腫の検査と診断と治療

乳腺科、乳腺外科、外科の医師による診断では、マンモグラフィー(乳腺X線検査)や乳頭分泌物の細胞診を行います。

確実に診断するには、乳管造影を行います。分泌物が出ている乳管開口部から造影剤を注入し、X線(レントゲン)撮影を行うもので、乳管内乳頭腫があると境界明瞭な造影欠損像や走行異常、乳管の閉塞(へいそく)、拡張、狭窄(きょうさく)、断裂像などが映りますので、小さいものでも発見することができます。

また、乳首から針金くらいのカメラを入れる乳管内視鏡検査を行うこともあります。

乳腺科、乳腺外科、外科の医師による治療では、検査の結果、乳がんの可能性が否定された場合は、経過を観察します。

非浸潤性乳管がんなどとの区別がつきにくい場合や、乳頭腫が大きい場合、出血が多い場合は、乳管内視鏡下の手術で腫瘍(しゅよう)のある乳管を切除するのが一般的です。

再発も多く、将来乳がんを発症するリスクも高いため、治療後も定期的な乳がん検診が欠かせません。予防的な乳房切断は、必要ありません。

🇦🇫乳がん

急増している、女性がかかるがんの第1位

乳がんとは、乳房に張り巡らされている乳腺(にゅうせん)にできる悪性腫瘍(しゅよう)。欧米の女性に多くみられ、従来の日本人女性には少なかったのですが、近年は右肩上がりに増加の一途をたどっています。すでに西暦2000年には、女性のかかるがんの第1位となり、30~60歳の女性の病気による死亡原因の第1位となっています。

2006年では、4万人を超える人が乳がんにかかったと推定され、女性全体の死亡数を見ると、乳がんは大腸、胃、肺に次いで4位ですが、1年間の死亡者数は1万1千人を超え、30~60歳に限ると1位を維持しています。

乳がんは転移しやすく、わきの下のリンパ節に起きたり、リンパ管や血管を通って肺や骨など他の臓器に、がん細胞が遠隔転移を起こしやすいのですが、早期発見すれば治る確率の高いがんでもあります。

代表的な症状は、乳房の硬いしこり。乳がんが5ミリから1センチほどの大きさになった場合、しこりがあることが自分で注意して触るとわかります。普通、表面が凸凹していて硬く、押しても痛みはありません。しこりが現れるのはむしろ、乳腺炎、乳腺症、乳腺嚢胞(のうほう)症など、がんではないケースの方が多いのですが、痛みのないしこりは乳がんの特徴の一つ。

さらに、乳がんが乳房の皮膚近くに達した場合、しこりを指で挟んでみると、皮膚にえくぼのような、くぼみやひきつれができたりします。乳首から、血液の混じった異常な分泌液が出てくることもあります。

病気が進むと、しこりの動きが悪くなり、乳頭やその周辺の皮膚が赤くなったり、ただれてきて汚い膿(うみ)が出てきたりします。

わきの下のリンパ節に転移すると、リンパ節が硬く腫(は)れてきて、触るとぐりぐりします。さらに進んで、肺、骨、肝臓などに転移した場合、強い痛みやせき、黄疸(おうだん)などの症状が現れます。

ただし、乳がんは他の臓器のがんとは異なり、かなり進行しても、疲れやすくなったり、食欲がなくなってやせてきたり、痛みが出るというような全身症状は、ほとんどありません。

乳がんが最も多くできやすい場所は、乳房の外側の上方で、全体の約50パーセントを占めます。次いで、内側の上方、乳頭の下、外側の下方、内側の下方の順となっていて、複数の場所に及んでいるものもあります。乳がんが乳房の外側上方にできやすいのは、がんの発生母体となる乳腺組織が集まっているためです。

乳がんの原因はいろいろあって、特定することはできませんが、日本人女性に増えた原因として、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の過剰な分泌が関係していると見なされます。

そのエストロゲンの分泌を促す要因として挙げられるのは、生活様式が欧米化したこと、とりわけ食生活が欧米化したことです。高蛋白(たんぱく)質、高脂肪、高エネルギーの欧米型の食事により、日本人の体格も向上して女性の初潮が早く始まり、閉経の時期も遅くなって、月経のある期間が延びました。その結果、乳がんの発生や進行に関係するエストロゲンの影響を受ける期間が長くなったことが、乳がんの増加に関連しているようです。

ほかに、欧米型の食事の影響である肥満、生活習慣、ストレス、喫煙や環境ホルモンによる活性酸素の増加なども、エストロゲンの分泌を促す要因として挙げられます。

乳がんにかかりやすい人としては、初潮が早い人、30歳以上で未婚の人、30歳以上で初めてお産をした人、55歳以上で閉経した人、標準体重の20パーセント以上の肥満のある人などが挙げられています。また、母親や姉妹が乳がんになった人や、以前に片方の乳房に乳がんができた人も、注意が必要です。

特殊なタイプの乳がんも、まれに発生しています。乳首に治りにくいただれや湿疹(しつしん)ができるパジェット病と、乳房の皮膚が夏みかんの皮のように厚くなり、赤くなってくる炎症性乳がんと呼ばれる、非常に治りにくい種類です。

なお、乳がんにかかる人はほとんど女性ですが、女性の約100分の1の割合で男性にもみられます。

自己検診による乳房のチェックを

乳がんは、早期発見がとても大切な病気。乳房をチェックする自己検診の方法を覚えて、毎月1回、月経が終了して1週間後の乳腺の張りが引いているころに、実行するとよいでしょう。閉経後の人は、例えば自分の誕生日の日付に合わせるなど、月に一度のチェック日を決めておきます。

こうして、自分の乳房のふだんの状態を知っておくと、異常があった時にすぐにわかるのです。

自己触診は、目で乳房の状態を観察することと、手で触れて乳房や、わきの下のしこりの有無をみるのが基本です。鏡に向かって立ち、両手を下げた状態と上げた状態で、乳房の状態をチェックします。

具体的には、乳首が左右どちらかに引っ張られたり、乳首の陥没や、ただれがないか。乳房に、えくぼのような、くぼみやひきつれがないか。乳輪を絞るようにし、乳頭を軽くつまんで、血液や分泌液が出ないか。

以上の点に注意します。さらに、乳房を手の指の腹で触り、しこりの有無をチェックします。指をそろえて、指の腹全体で乳房全体を円を描くように触ります。乳房の内側と外側をていねいにさすってみましょう。調べる乳房のほうの腕を下げたポーズと腕を上げたポーズで、左右両方の乳房をチェックします。

そして、わきの下にぐりぐりしたリンパ節の腫れがないかどうかもチェックします。

少しでも、しこりや異変に気が付いたら、ためらわずに外科を受診することが大切です。専門家によって、自己触診では見付からないようながんが発見されることもありますから、定期検診も忘れずに受けましょう。

検査はマンモグラフィが中心

乳がんは、乳腺外科、あるいは外科で専門的に扱う場合がほとんどです。検査は、視診と触診、さらにマンモグラフィが中心ですが、超音波検査(エコー)もよく利用されています。

マンモグラフィは、乳房用のレントゲン検査で、早期乳がんの発見率を向上させた立役者といえます。乳房全体をプラスチックの板などで挟み、左右上下方向からレントゲン写真をとります。

乳房のしこりだけではなく、石灰化像といって、しこりとして感じられないような小さながんの変化も捕らえることができます。この段階で発見できれば、乳がんもごく早期であることがほとんどですから、乳房を残したままがんを治療することも可能になります。

現在の日本では、乳がん検診にアメリカほどマンモグラフィが普及していません。検診では、触診や視診だけではなく、マンモグラフィの検査が含まれているかどうかを確認したほうが安心です。

超音波検査は、超音波を発する端子を乳房に当てて、その跳ね返りを画像にするもの。痛みなどはなくて受けやすい検査で、自分ではわからないような小さな乳がんを発見することが可能です。

しこりや石灰化像などの、がんが疑われる兆候が発見された場合には、良性のものか、がんかを判断する検査が行われます。従来、穿刺(せんし)吸引細胞診、針生検(せいけん)や切開生検が中心に行われていましたが、近年はマンモトーム生検という検査法が登場しました。

穿刺吸引細胞診は、専用の針をしこりに刺して一部の細胞を吸引して取り、顕微鏡で細胞の形などを調べる検査。体への負担が少ないのが利点ですが、しこりとして触れないような小さながんなどは、診断できないことも少なくありません。

針生検は、少し太めのコア針で局所麻酔をして、組織を取り出して調べる検査。体への負担が少ないのが利点ですが、病変が小さい場合は何度も刺す必要があったり、診断が付かないこともあります。

切開生検は、メスで乳房に切開を入れ、がんと思われる部位の組織の一部を取ってきて、顕微鏡で調べる検査。穿刺吸引細胞診や針生検で、確定診断ができない場合に行われてきましたが、外科手術になりますので、体への負担が大きいのが欠点です。

マンモトーム生検は、超音波やマンモグラフィで見ながら、疑わしい部分に直径3ミリの針であるマンモトームを刺して、自動的に組織の一部を吸引してきて、顕微鏡で調べる検査。広範囲の組織が取れて、切開生検より傷口が小さいため、テープで止めるだけで糸で縫う必要がないのが利点です。とりわけ、しこりとして触れない小さながんや、石灰化の段階のがんの診断に、威力を発揮します。

乳がんとわかった場合には、がんの広がりの程度、他の部位への転移の有無を調べるために、胸や骨のレントゲン検査、CT、超音波検査、アイソトープ検査などが行われます。その程度や有無によって、治療の方針が決められることになります。

早期がんでは温存も可能

乳がんの治療法は、その進み具合によって、いろいろな方法が選ばれます。一般的には、まず手術により、乳がんの病変部をできるだけ取り除く治療を行います。

従来は、乳房と胸の筋肉とわきの下のリンパ節をひと塊として、完全に取ってしまうハルステッドという手術が、定型的な乳房切除術として長い間、行われていました。この手術によって、乳がんの治療成績は飛躍的に向上しました。しかし、手術後に腕がむくんで動かしにくくなるなどの障害と、肋骨(ろっこつ)が浮き出て見えたりする美容的な問題が、難点でした。

ところが、乳がんも早期発見が多くなったため、このように大きな手術をすることは少なくなりました。現在では、がんが胸の筋肉に深く食い込んでいる場合などごく一部を除いて、ハルステッド法はほとんど行われなくなっています。

代わりに、胸の筋肉は残して、乳房とわきの下のリンパ節を取る胸筋温存乳房切除術という手術が、行われるようになりました。

乳房のすぐ下には大胸筋、その下には小胸筋という筋肉がありますが、この胸筋温存乳房切除術にも、大胸筋だけを残す大胸筋温存乳房切除術と、両方の筋肉を残して乳房を切除する大小胸筋温存乳房切除術があります。

リンパ節転移が多い場合などは、リンパ節を確実に切除するために、小胸筋を切除することがありますが、最近は両方の筋肉を残して乳房を切除するケースが多くなっています。腕を動かす時に主に使われる大胸筋を残すだけでも、ハルステッド法に比べればかなり障害は少なくなります。

さらに、近年では、早期に発見された乳がんに対しては、乳房を全部切り取らずに、しこりの部分だけを取り除いて、残した乳腺に放射線をかける乳房温存療法が、盛んに行われるようになりました。日本では2003年に、乳房温存療法が乳房切除術を数の上で上回るようになり、標準的な手術法となっています。

この乳房温存療法では、乳房を残して、がんの病巣をできるだけ手術によって切除し、残ったがんは放射線の照射で叩くというのが基本的な考え方ですので、放射線治療は必須です。一般的には、わきの下のリンパ節転移があるかどうかにかかわらず、しこりの大きさが3センチ以下で、乳房の中でがんが広範囲に広がっていないことなどが、適応の条件とされています。

また、しこりが3センチ以上でも、手術前に化学療法を行ってしこりが十分に小さくなれば、可能であるとされています。ただし、医療機関によって考え方には多少違いがあり、もっと大きな乳がんにも適応しているところもあります。

わきの下のリンパ節をたくさん取らない方法も、最近では検討されています。手術中に、センチネルリンパ節(見張りのリンパ節)という最初にがんが転移するリンパ節を見付けて、そこに転移がなければリンパ節はそれ以上は取らないという方法です。まだ確立はされた方法ではありませんが、腕の痛みやむくみなどの障害が出ないので、今後急速に普及していくと考えられます。

乳がんはしこりが小さくても、すでにわきの下のリンパ節に転移していたり、血液の中に入って遠くの臓器に広がっていることもあります。転移の疑いがある場合、術後の再発予防のために抗がん薬やホルモン薬による治療を加えると、再発の危険性が30~50パーセント減ることがわかってきました。抗がん薬やホルモン薬においても、副作用が少なく、よく効く薬が開発されてきて、再発後の治療にも効果を上げています。

🇦🇫乳口炎

乳首にある母乳の出口に炎症が起きた状態

乳口(にゅうこう)炎とは、女性の乳首にある乳管開口部である乳口に炎症が起きた状態。授乳中の女性に起きます。

乳口炎が起こる一番の原因は、乳首が傷付くことです。乳児が効率よく母乳を飲むためには乳首周辺を深くくわえる必要があるのですが、体勢がしっくりこない状態や添い寝で授乳をすると、乳児が乳首周辺を浅くくわえてしまい、乳首に余計な負担がかかって乳首の先を傷付けることがあります。乳首が傷付いて、そこから細菌が感染すると炎症が起き、乳口炎を引き起こします。

また、授乳中の女性が脂質や糖質の多い食事を続けていたり、過度なストレスがかかったりすると、母乳が詰まりやすくなり、乳口炎を引き起こすといわれています。

乳首に水疱(すいほう)ができて、次第に白斑(はくはん)と呼ばれる、1〜2ミリくらいの白いニキビのような点ができて、母乳の出口をふさぐのが、乳口炎の始まりです。初期は、乳頭が赤くなったり黄色くなったりすることがあります。

ただ、片方の乳首に15~25個ある乳口のうち一部だけが詰まって、ほかの乳口は開通している状態なので、母乳の出具合にはあまり変化がなく、最初のうちは詰まっていることを自覚しにくい傾向があります。

その後、症状が進行すると授乳中に痛みを覚え、その時に初めて炎症が起きていることを自覚する場合がほとんどです。中には、血胞と呼ばれる血が混じったものが乳首にできることもあります。

乳口炎は、原因を解消しない限り繰り返し発症することが多く、一度なってしまうと授乳中ずっと悩まされるという人も多いようです。

乳口炎の自己対処法

母乳の詰まりを解消しようと、水疱を針で刺してつぶそうとしたり、白斑を無理に取ろうとしたりする人がいますが、雑菌が入って炎症を悪化させる可能性があるため、やめておきましょう。

また、乳口炎になったために授乳をやめてしまう人がいますが、母乳がいっそう詰まって逆効果で、場合によっては乳管が炎症を起こす乳管炎や、乳腺(にゅうせん)が詰まって炎症を起こす乳腺炎を引き起こす危険性があります。

乳口炎の特効薬はありませんが、傷付いた乳口のケアと、母乳が詰まらないようにする適切な対処を行い、授乳を続けましょう。

傷付いた乳口の炎症を抑えるには、乳児の口に入っても大丈夫な口内炎治療薬のデスパコーワなどや、保湿剤のラノリン、スクワランやホホバや馬油(マーユ)などのオイルを毎回の授乳後、乳口に塗ってラップで押さえるのが、お勧めです。

母乳の詰まりを解消するには、乳児に乳首をきちんと吸ってもらうための工夫を行いましょう。

まず、乳児が乳首の根元からしっかりくわえられるような抱き方を探しましょう。また、いつも同じ抱き方はせずに、フットボール抱き、横抱き、斜め抱き、縦抱きなどいくつかの抱き方をローテーションで行うと、詰まっている乳口を吸ってもらえるようになります。

また、授乳間隔を空けないようにしましょう。間隔を空けすぎると母乳がたまって、乳房が張ってしまい、授乳時に乳口への負担が大きくなります。最低でも3時間に1回は授乳をして、乳児の昼寝などで間隔が長く空いてしまいそうなら、力をかけすぎないように搾乳(さくにゅう)をしておきましょう。

食生活を見直すのも効果的。母乳が詰まる原因につながる脂質や糖質の多い食事、乳製品は控え、できるだけ薄味の和食に慣れるのがお勧めです。ジュースやスポーツドリンクにも多くの糖分が含まれており、大量に飲むと、母乳の詰まる原因となります。水分量が減るのも母乳が詰まる原因につながるので、授乳期にはカフェインが少なめの麦茶や番茶などをたくさん飲むのがお勧めです。

乳房を温めるのも効果的。乳房が冷えて硬くなると、分泌される母乳や筋肉が冷えて出具合が悪くなります。ゆっくり風呂に入り、マッサージをして乳房を少し温めてから授乳すると、母乳の詰まりが解消されやすくなります。

ストレス解消も効果的。ストレスや疲れがたまると、体を緊張状態にさせ、乳口を収縮させて母乳の流れを滞らせます。夜の授乳で満足に睡眠が確保できない場合は、日中に乳児と一緒に昼寝をしたり、天気のよい日は散歩に出て気分転換したりするとストレス解消ができます。

乳口炎は、上手に授乳をすることができれば1週間程度で自然治癒するケースが多いのですが、痛いから、触るのが怖いからと放置しておくと、1カ月以上もつらい症状が長引くこともありますので、注意が必要です。

自分で改善できない場合は、母乳外来や助産院に相談してください。

🇦🇫乳児嘔吐下痢症

冬季に乳幼児の間で流行し、白っぽい水様便が続く腸炎

乳児嘔吐(おうと)下痢症とは、冬季に乳幼児の間で流行し、白っぽい水様便が続く腸炎。ロタウイルス腸炎、ロタウイルス下痢症、白色便性下痢症、仮性小児コレラなどとも呼ばれます。

オーストラリアのビショップが1975年に発見したロタウイルスの感染が原因となって、11〜3月ごろまでの乾燥して気温が5℃以下になる寒い時期に、乳幼児が発症します。生後6カ月から2歳までが好発年齢であり、発症すると重症化しやすくなります。

発展途上国では乳児死亡の主な原因の一つに挙げられていて、医療が発達した先進国でも1歳未満の乳児には恐ろしい疾患です。保育所、幼稚園、学校などで集団発生することもありますが、多くは感染経路が明らかではありません。

3カ月未満では母親からの免疫で守られ、3歳以上の年齢層では発症しても一般には軽症です。

症状としては、1日に数回から十数回の下痢が5~7日続き、酸っぱい臭いの、白っぽい水様便が出ることが特徴です。便が白っぽくなるのは、ロタウイルスが感染して胆汁が十分に分泌されなくなるためです。時には、白くならずに黄色っぽい便のままのこともあります。

発症初期には吐き気、嘔吐を伴うのが普通ですが、通常、半日から1日で落ち着きます。軽い発熱と、せきを認めることもあります。

下痢の回数が多いと、脱水症状が現れます。その兆候としては、ぐったりしている、機嫌が悪い、顔色が悪く目がくぼんでいる、皮膚の張りがない、唇が乾燥しているなどが挙げられます。まれですが、けいれん、脳症、上方の腸管が下方の腸管の中に入り込む腸重積(じゅうせき)、腎(じん)不全を伴うことがあります。

脱水症状の兆候が認められたり、けいれんなどほかの症状が認められたら、できるだけ速やかに小児科、ないし内科の医師を受診することが、体力のない乳幼児にとって大切なことです。

乳児嘔吐下痢症の検査と診断と治療

小児科、ないし内科の医師の診断は、症状と便中のロタウイルスの検出により確定します。免疫測定法のイムノクロマト法を利用した迅速診断検査薬で、10分以内にロタウイルスを検出できます。

人に感染するロタウイルスにはA、B、C群があり、A群以外は頻度は少ないものの、一般の検査試薬では検出できません。しかし、B群は以前に中国で流行したものの日本ではみられませんし、C群による腸炎は主に3歳以上の年長児や成人にみられ、A群のような大規模な流行はほとんどなく、流行散発例あるだけです。C群は、最も感度が高い電子顕微鏡検査で検出します。

脱水の状態は、排尿があれば尿中のアセトン体(ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトン)の有無および量で推定します。血液中の電解質を調べることもあります。

乳児嘔吐下痢症には、特効薬はありません。小児科、ないし内科の医師による治療では、嘔吐を伴う時期には絶食、絶飲が行われます。嘔吐に対しては、鎮吐(ちんと)剤を使用することもあります。

嘔吐、吐き気が治まると、下痢による脱水症状を改善するための対症療法が行われます。まず、経口補水液をこまめに与えます。すぐに嘔吐するようであれば、入院して点滴をしなければなりません。また、外来で点滴だけを受けることもできます。

嘔吐がなければ、経口補水液の量を増やしていきます。動物性蛋白(たんぱく)質、脂肪に富むミルクや牛乳をこの時期に与えると、ウイルスの攻撃を受けて弱っている腸に負担がかかって吐きやすい上、下痢が長引く恐れがありますので控えます。母乳の蛋白質、脂肪はミルクや牛乳のそれよりも吸収されやすいため、少しずつなら与えても差し支えありません。

さらに野菜スープを与えることへと進め、経口摂食が可能であれば、少量で回数を多くした食事を与えます。腸にかかる負担が最も少ないのは、重湯、おかゆ、うどん、パンなどのでんぷん類です。年齢的にミルクが主たる栄養源で、離乳が進んでいなくて下痢が著しい時には、ミルクを薄めたり、大豆から作ったミルクや牛乳の蛋白質を加水分解したミルクを勧めることもあります。

止痢(しり)剤は原則として使わず、ラックBやビオフェルミンなどの生菌製剤を用います。ロタウイルスの再感染は多く、免疫は生涯できませんが、多くは重症にならずに済みます。

乳幼児の世話をする人は、便とオムツの取り扱いに注意が必要です。ロタウイルスは感染力が強く、下痢便中に大量に排出されるウイルスなので、便に触った手から口に感染することがほとんどのため、せっけんを使って十分に手洗いをし、漂白剤や70パーセントアルコールの消毒液で、オムツ交換の場所や周辺をふきましょう。オムツ交換の場所に、おねしょパッドやバスタオルを敷いておくと、布団までを汚さずに済みます。

予防のためには、予防接種が最も良い対抗手段となります。日本でも2011年11月よりロタウイルスワクチンが認可されましたので、乳児には接種を受けることが勧められます。予防ワクチンには、ロタリックス、ロタテックの2種類があり、生後6週から接種できますが、ヒブや小児用肺炎球菌など他のワクチンとの同時接種を考えて、生後2カ月からが最適です。

🇸🇬乳汁分泌性無月経

妊娠や授乳期以外に乳汁分泌と無月経が起こる状態

乳汁分泌性無月経とは、妊娠や授乳期以外の時期に、乳頭からの乳汁分泌と無月経がみられる状態。無月経・ 乳汁分泌症候群とも呼ばれます。

主に20~30歳代の性成熟期の女性において、大脳の下部にある小さな分泌腺(せん)である下垂体(脳下垂体)から分泌されるプロラクチンというホルモンが増加して、血液中のプロラクチン値が上昇した状態である高プロラクチン血症が生じると、通常、乳汁分泌と無月経が起こります。

下垂体はプロラクチンや副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、成長ホルモン、黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモンの6つのホルモンを分泌し、プロラクチンは乳腺の発育促進、乳汁産生・分泌促進、排卵や卵胞の成熟抑制にかかわるホルモンです。

下垂体から分泌されるプロラクチンが増加すると、黄体化ホルモンと卵胞刺激ホルモンの分泌が低下するので、プロゲステロン(黄体ホルモン)やエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌が低下し、無排卵、無月経などの月経異常の原因になります。

乳汁分泌性無月経を招く高プロラクチン血症は、種々の原因によって起こります。妊娠女性では、妊娠の進行とともにプロラクチン値が高くなります。

高プロラクチン血症の原因としては、下垂体におけるプロラクチン産生腫瘍(しゅよう、プロラクチノーマ)が最も多くみられます。

ほかには、大脳の下部にある視床下部・下垂体系の腫瘍や炎症のため、プロラクチンの産生を抑制する脳内物質であるドーパミンの下垂体への作用が阻害されると、下垂体からのプロラクチン分泌への抑制という調節がなくなり、血液中のプロラクチン値が増加します。

また、頭蓋咽頭(ずがいいんとう)腫、 胚芽(はいが)腫などの脳腫瘍や、結核を始めとする感染症によく似た病巣を全身のいろいろな臓器に作る疾患であるサルコイドーシスなどでも、高プロラクチン血症が高頻度に出現します。

プロラクチン分泌を促進する甲状腺刺激ホルモンの分泌が過剰になる原発性甲状腺機能低下症や、腎(じん)不全でも、高プロラクチン血症が出現することがあります。胸壁の外傷、手術や帯状疱疹(たいじょうほうしん)などの胸壁疾患でも、プロラクチンの分泌が促進されることがあります。

さらに、薬剤の副作用によることがあります。ある種の抗うつ剤や胃薬は、ドーパミンの作用を阻害することによりプロラクチンを増加させます。降圧薬の一種もプロラクチンを増加させます。低用量ピルなどの経口避妊薬も、視床下部のドーパミン活性を抑制するとともに下垂体に直接作用して、乳汁を産生するプロラクチンの産生や分泌を刺激させます。

高プロラクチン血症であっても、必ずしも症状を伴うものではありません。性成熟期の女性では、乳汁分泌と無月経が主要な兆候となります。下垂体のプロラクチン産生腫瘍が大きい場合には、腫瘍による視神経圧迫のため視野狭窄(きょうさく)、視力低下、頭痛を伴うことがあります。

乳汁分泌性無月経に気付いたら、婦人科 、内科、乳腺科を受診することが勧められます。

乳汁分泌性無月経の検査と診断と治療

婦人科 、内科、乳腺科の医師による診断では、血中プロラクチン値を測定するとともに、出産経験や内服薬の確認を行います。

血中プロラクチンが高値の時は、下垂体のプロラクチン産生腫瘍の可能性が高いため、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査やCT(コンピュータ断層撮影法)検査を行い、下垂体病変を調べます。血中プロラクチン値が軽度から中等度の時には、薬剤服用の有無を重視し、下垂体のプロラクチン産生腫瘍以外の原因について検査を行います。

婦人科 、内科、乳腺科の医師による治療では、乳汁分泌性無月経の原因がはっきりとしたら、その原因に応じた治療を行います。

内服している薬剤が原因と考えられる場合は、その薬剤を中止します。乳汁分泌がみられるだけで、ほかに特別な異常や兆候がなければ、経過観察も可能です。不快ならば、プロラクチンの産生を抑制する脳内物質であるドーパミンの分泌を促すドーパミンアゴニスト製剤(ドーパミン受容体刺激薬)により、プロラクチンの分泌を抑えると症状は消えます。

無月経を伴う場合には、排卵や月経を誘発する処置を行います。

下垂体のプロラクチン産生腫瘍が原因と考えられる場合は、現在、薬物療法が第一選択となります。ドーパミンアゴニスト製剤の内服により、血中プロラクチン値は低下し、腫瘍も縮小します。一方、腫瘍が直径1センチ以上と大きく、視野障害や頭痛などがあり、腫瘍サイズの縮小が急がれる場合は、手術が選択されることもあります。

原発性甲状腺機能低下症が原因と考えられる場合、甲状腺ホルモンの補充により血中プロラクチン値は正常化し、卵巣機能は回復します。

🇸🇬乳汁漏

妊娠や授乳期以外に起こる乳汁などの分泌

乳汁漏とは、妊娠や授乳期以外に乳頭から分泌物がみられる状態。乳汁漏出症、乳頭異常分泌症、異常乳頭分泌とも呼ばれます。

妊娠期間中や授乳期に女性の乳頭から乳汁(母乳)が出るのは普通ですが、乳汁漏ではそれ以外の時期に乳頭から分泌物がみられるわけです。

乳頭の片方からだけ分泌物がみられることもあれば、乳頭の両方から分泌物がみられることもあります。何もしなくても気付くほどの分泌物がみられることもあれば、軽くまたは強く乳頭を圧迫しないと分泌物がみられないものもあります。

分泌物は乳汁のようなさらっとした白色のものもありますが、膿(うみ)が混じって黄色や緑色っぽく、粘り気があることもあります。また、分泌物に血が混じって茶褐色であることもあります。

その原因は、さまざまです。乳汁をつくる乳腺(せん)に何らかの異常がみられる場合と、乳腺以外の部分の異常が原因の場合とがあります。

ほとんどは乳腺に異常がある場合に生じ、女性ホルモンのバランスが崩れることで起こる乳腺症や、卵巣ホルモンが何らかの影響を与えることで起こる乳管内乳頭腫(しゅ)などによって生じます。また、割合として多くはないものの、乳がんによって生じることもあります。

乳腺以外に原因があるものとしては、薬剤の副作用による場合があります。ある種の抗うつ剤や胃薬、降圧剤、経口避妊薬(低用量ピル)などが原因で、乳汁を産生するプロラクチンというホルモンの分泌を刺激することがあり、そのような薬剤を長期服用することで乳汁漏の症状がみられることもあります。

さらには、下垂体の疾患や脳の疾患、甲状腺や卵巣の異常による乳汁漏もあります。

乳汁のような白色もしくは透明の分泌物が出る場合は、大抵の場合、ストレスなどによりホルモンバランスが乱れたりすることが原因で、深刻な問題ではないことがほとんどです。

それ以外の分泌物が出た場合は、早めに婦人科 、内科、乳腺科などを受診することが勧められます。

乳汁漏の検査と診断と治療

婦人科 、内科、乳腺科などの医師による診断では、まずは原因を調べるために、乳房の視診や触診のほか、分泌物の検査、マンモグラフィー(乳腺X線検査)、血液検査、超音波(エコー)検査、乳管造影などを行います。

薬剤が原因のこともありますから、服用中の薬についても問診し、血液中のプロラクチン濃度を測定することもあります。

婦人科、内科、乳腺科などの医師による治療では、原因に応じた処置を行います。

原因が薬剤の服用である場合は、減量もしくは休薬を考えます。乳汁の分泌がみられるだけで、ほかに特別な異常や兆候がなければ、経過観察も可能です。不快ならば、プロラクチンの産生を妨害する脳内物質であるドーパミンの分泌を促す薬により、プロラクチンの分泌を抑えると症状は消えます。

原因が乳管内乳頭腫などの良性の疾患の場合は、大抵は外科手術の必要はありません。痛みなどの症状があまりないケースでは、経過観察だけで、特に治療は行いません。

乳がんなどの場合は、外科手術で腫瘍(しゅよう)を切除し、抗がん剤による化学治療などを行います。

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