環境省と国土交通省は29日、健康への悪影響が指摘される有機フッ素化合物「PFAS(ピーファス)」のうち「PFOS(ピーフォス)」「PFOA(ピーフォア)」について、全国の水道事業者が実施した水質検査の結果をとりまとめました。2020年度から2023年度にかけ、全国の14カ所において、PFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)という国の暫定目標値を一時的に上回っていたことがわかりました。
2024年度については9月末時点で、暫定目標値を上回る水道事業者はありませんでした。岩倉市水道事業(愛知県)と新上五島町水道事業(長崎県)、むかわ町穂別簡易水道事業(北海道)では、49〜47ナノグラムと暫定目標値に近い数値が検出されました。
環境省と国交省は2024年5月末から9月末にかけ、全国の水道事業者から水質検査の結果を集めました。回答した3595の事業者のうち、検査実績があったのは6割強でした。給水人口が少ない事業者も対象にした大規模調査は初めてとなります。環境省は回答結果を参考にPFASの規制強化について検討を進めます。
2020年度は東京都や神奈川県座間市など11カ所、2021年度は兵庫県西脇市など5カ所で国の目標値を上回りました。
目標値を超えた水道事業者は2022年度は4カ所、2023年度は3カ所と減少傾向にあるものの、岐阜県各務原市と岡山県吉備中央町では4年連続で目標値を上回っていました。各務原市では活性炭による浄化システムの稼働など、応急工事を実施しました。吉備中央町でも水源の変更や活性炭の入れ替えなど対策を進めました。
厚生労働省は2020年、PFOSとPFOAについて水道水1リットル当たり計50ナノグラムとする暫定目標値を設定しました。体重50キロの人が生涯毎日2リットルの水を飲んだとしても、健康に悪影響が生じないと考えられる水準とされます。
環境省は暫定目標値の位置付けや数値を見直す検討をしています。現在は水道法上で検査の義務が課されない「水質管理目標設定項目」で、目標値を超えることがないよう事業者に管理を依頼する形にとどまっています。
検査義務などが課される「水質基準」とするかや、目標値を個別に設定するかなどが焦点となります。今回の調査で検査実績がないと回答した事業者は4割程度に上りました。測定義務がないことを理由としているところもありました。
PFASは炭素とフッ素などが結合した有機化合物の総称で、1万種類以上あるとされます。ほとんど分解されることなく自然界に蓄積される特徴があり、「永遠の化学物質」と呼ばれます。
代表例がPFOSとPFOAで、発がん性が指摘されています。2023年12月、国際がん研究機関はPFOAを4段階のうち最も高い「発がん性がある」に分類しました。たばこやアスベストと同じ扱いになります。PFOSは下から2番目の「発がん性がある可能性がある」としました。
国内ではPFOSは2010年、PFOAは2021年に製造・輸入が原則禁じられました。土壌などの環境中に残っていて、現在も検出されます。
その他のPFASは熱に強く水や油をはじく性質があるため、生活の身近なところで広く利用されています。フライパンや食品包装のコーティング剤や、カーペットなどのはっ水加工のほか、産業用途ではリチウムイオン電池や太陽光パネルの部材、半導体の製造工程に使われています。
欧米を中心に規制が進みます。アメリカではPFOSとPFOAをそれぞれ1リットル当たり4ナノグラムとする規制値を4月に公表しました。基準を超過した場合は、5年以内に削減の措置を設けます。世界保健機関(WHO)は2022年、暫定ガイドライン値としてPFOSとPFOAをそれぞれ1リットル当たり100ナノグラムとの値を示しました。
2024年11月30日(土)